『ナイトタイムエコノミー』が観光産業の起爆剤になる理由とは?夜間の観光を活性化させるナレッジと国内事例を紹介
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは『ナイトタイムエコノミー』です。政府は観光を地方創生の起爆剤にしようとしており、その中でナイトタイムエコノミーが注目されています。観光といえば昼間に行うのが一般的ですが、ナイトタイムエコノミーを通じて新たに観光客による夜間の消費を促進しようとしています。どういった狙いがあるのか、どのくらいのインパクトが期待できるのか、どのような事例があるのかなどを解説していきます。
コロナ禍を経て、ナイトタイムエコノミーをインバウンド戦略の起爆剤に
ナイトタイムエコノミーとは、夜間に消費を拡大させる観光の政策です。主に訪日外国人をターゲットとして、文化・経済の両面から街を活性化させて経済を盛り上げることが狙いです。観光庁によると定義は「18時から翌日朝6時までの活動」を指します。
これまで訪日観光客の消費が活発になるのは昼間でしたが、夜間も含めて文化の幅を広げることで、滞在時間の増加や消費の拡大を促します。夜間に営業する事業者にとっては、新たに観光客向けの市場が開拓される機会にもなります。
日本では夜12時以降の飲食を伴うダンスやエンターテイメント営業は禁止されていましたが、2016年の風営法改正によって営業許可が新設されて適法化されました。これをきっかけにナイトタイムエコノミーは政策化されて推進されてきたものの、2020年以降はコロナ禍の影響で実質ペンディング状態となっていた背景があります。
2023年以降、徐々に観光が正常に戻りつつある昨今、ナイトタイムエコノミーは再び注目を集めるビジネストレンドとなっています。
ナイトタイムエコノミーのポテンシャル・経済効果
ナイトタイムエコノミーにはどの程度のポテンシャルがあるのでしょうか。官公庁による訪日外国人消費動向調査によると、訪日外国人旅行者は増加しているものの、その旅行消費額は4.5兆円程度であり、ひとり当たりに換算すると15万円程度で推移しており、頭打ちになっているのが現状です。
また、外国人約1万人を対象にWEBアンケート調査を行った結果、訪日旅行の際のナイトタイムコンテンツ体験者の割合は、海外での体験者の割合より低くなっています。
さらに、ナイトタイムコンテンツの満足度においても、国内での体験の方が海外より低い結果となっています。
こうした統計からも、ナイトタイムは訪日外国人にとって消費を促すポテンシャルが高く、拡充の余地があることがわかります。
では、ナイトタイムエコノミーを充実させるとどのくらいの経済効果があるのでしょうか。ナイトタイムエコノミーの取り組みによって影響のある分野は宿泊、飲食、体験消費、交通など幅広い波及効果があります。
すでにナイトタイムエコノミーを推進している海外の都市を参考にしてみると、ロンドンでは経済規模が約3.7兆円、ニューヨークでは約2.1兆円となっており、経済効果だけでなく雇用効果にもナイトタイムエコノミーが大きく寄与していることがわかる調査も出ています。
ナイトタイムエコノミーを推進するための7つのナレッジ
観光庁の公開している資料には、ナイトタイムエコノミーを推進するにあたって、検討すべき要素が7つ記載されています。
1.コンテンツの充実
2.場の整備
3.交通アクセス
4.安全安心の確保
5.プロモーション
6.推進体制
7.労働
この7つに加えて、ナイトタイムエコノミーを推進することで期待できる経済効果を推計できる仕組みが必要です。
また、7つの要素に個別に取り組むのではなく、地域の課題をまず定義して、それを解決できる手段がナイトタイムエコノミーであると結論が出てから計画を作成することがポイントとなっています。
具体的には下図のような段階的なアプローチでナイトタイムエコノミーを推進することが推奨されています。
1.ナイトタイムエコノミー推進チームの組成
2.課題認識とビジョンの策定
3.推進体制の構築
4.アクションプラン策定
5.アクションプラン推進
6.経済効果算出
7.分析
成果の出ているナイトタイムエコノミーの事例
ナイトタイムエコノミーで成果を出している事例をタイプ別に分けると3パターンあります。
1.共通コンテンツ:外国人の母国でも認知されて慣れ親しんでいて、言語の壁が低く気軽に楽しめるコンテンツ(例:パブ、ショー、ナイトクラブなど)
2.固有コンテンツ:地域特有の観光資源を活用したコンテンツ(例:美術館、博物館の夜間営業・夜間活用など)
3.イベント型コンテンツ:官民および事業者同士の連携により、地域のプロモーション効果による活性化を図るコンテンツ(例:プロジェクションマッピングやナイトマーケットなど)
いくつか事例を紹介していきます。
【共通コンテンツ】東京パブクロール(六本木)
東京パブクロールは六本木エリアで老舗のバーや居酒屋などを周遊するツアーです。参加者は訪日外国人が7割以上、1人で参加する人も多いのが特徴で、旅行者同士がバーを巡りながら交流できるコンテンツです。
参照ページ:東京パブクロール
【固有コンテンツ】ロボットレストラン(新宿)
国内の固有コンテンツとして事例の筆頭に挙げられるのが新宿のロボットレストランです。ロボットやダンサーによるショーを見ながら食事をとるレストランですが、派手な内装が話題となり、訪日外国人によるSNSの拡散が人気を後押ししています。
1日4回の公演を実施していますが最終公演は21:45スタートと遅く、新宿という土地柄とも相まって人気のナイトタイムエコノミースポットとなっています。
コロナ禍で観光客が激減したことから臨時休業していましたが、2023年5月よりデイタイム限定で営業を再開しています。
【イベント型コンテンツ】さっぽろ雪まつり
札幌の中心地で実施されている雪像、氷像が展示されるイベントで、周辺では地域の食が楽しめる店舗やステージイベントが開催されています。夜間は23時までライトアップされているのも特徴です。雪深い地域での横展開にも期待が集まっており、プロジェクションマッピングやライトアップを活用することで夜間帯のコンテンツとして拡充が可能です。
参考ページ:さっぽろ雪まつり
編集後記
日本では一昔前までお家芸であったテック系企業や自動車メーカーが国際的に遅れを取りつつあるのが現状です。こうした中、独自の文化と治安の良さを武器にした観光産業でのイノベーションに期待が集まっています。2016年の風営法改正やコロナ禍の収束など、訪日外国人を迎える準備が整いつつある中で、ナイトタイムエコノミーが日本の景気向上への起爆剤になることを期待したいです。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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