加速する人への投資。岸田首相「5年で1兆円」の方針表明で注目集めるリスキリングとは?
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回は最近ニュースを賑わせている「リスキリング」がテーマです。岸田首相が「人への投資」を進めると方針を示し話題になったリスキリングですが、なぜ政府はこのタイミングでリスキリングに注力したのか、その背景などを解説しつつ、リスキリングの本質に迫ります。
リスキリングはリカレント教育とも学び直しとも異なる、仕事のためのスキル獲得
リスキリング(reskilling)とは、新しい職業に就くため、もしくは、今の職場で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること、させることです。
似たような言葉として「リカレント教育」や「学び直し」がありますが、経済産業省の公開している資料には、リスキリングはこれらとは意味が異なると下記のように説明しています。
リスキリングは「リカレント教育」ではない
リカレント教育は「働く→学ぶ→働く」のサイクルを回し続けるありようのこと。新しいことを学ぶために「職を離れる」ことが前提になっている
リスキリングは単なる「学び直し」ではない
昨今の「学び」への注目のなかには、個人が関心に基づいて「さまざまな」ことを学ぶこと全体をよしとする言説が多いが、リスキリングは「これからも職業で価値創出し続けるために」「必要なスキル」を学ぶ、という点が強調される
引用:リスキリングとは
つまり、リスキリングはリカレント教育や学び直しのように広い意味での学習ではなく、仕事のスキルを向上させることに限定したスキル習得のことを指しています。
岸田首相がリスキリング支援「5年で1兆円」と表明し注目を集める
リスキリングが注目を集めたきっかけは、2020年に開催されたダボス会議にて「リスキリング革命」が発表されたことにはじまります。
リスキリング革命は第4次産業革命に伴う技術の変化に対応した新たなスキルを獲得するために、2030年までに10億人により良い教育、スキル、仕事を提供するというイニシアチブです。このイニシアチブに日本を含めたいくつかの国の政府やパートナー企業が参画し、資金や教育プログラムを提供する動きが加速しました。
国内では、2022年10月に招集された臨時国会の所信表明演説で岸田首相が個人のリスキリングの支援に5年で1兆円を投じると表明しています。
具体的には、5年で1兆円の人への投資は3つの柱に分けられており、岸田首相が「日経リスキリングサミット」に参加した際にリスキリングについて以下のように方針を示しました。
①企業間・産業間の労働移動円滑化に重点を置いて非正規雇用を正規雇用に転換する企業や、転職・副業を受け入れる企業への支援を新設・拡充する。
②在職者のキャリアアップのための転職支援に向け、民間専門家に相談してリスキリング・転職までを一気通貫で支援する制度を新設する。
③労働者の訓練などを支援する企業への支援金の補助率引き上げなど、企業による在職者のリスキリング支援を強化する。
引用:岸田首相の「日経リスキリングサミット」での発言要旨
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1257J0S2A011C2000000/
まとめると、①非正規雇用を正規雇用に転換する支援、②リスキリングから転職までを民間専門家に相談できる仕組み作り、③従業員の学び直しに取り組む企業への支援、この3つの政策拡充することでリスキリングを支援し、岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の柱とする戦略です。
【編集後記】リスキリングは教育・人材業界には追い風
岸田首相の政策の方針はいずれもリスキリングに注力する企業への支援を手厚くするというものです。つまり、リスキリングしたい個人にとってのメリットになることはもちろん、教育・人材関連の業界には直接的な追い風となります。
リスキリングは在職中の労働者がスキルアップを目指すケースが多くなるため、対面式の教育事業だけでなくオンライン式のスクールにとってはチャンスとなりそうです。また、スキルアップした人材の流動性を高めるため、転職関連の事業の底上げにもつながることが見込まれます。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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