大型資金調達に成功するなど、注目を集める大学発ベンチャー。2021年度の『大学発ベンチャー表彰』で選ばれた6社とは?
2021年5月に経済産業省から発表された2020年度の「大学発ベンチャー実態等調査」。同調査によると、新型コロナウイルスの感染が拡大し、経済にも大きな影を落とす中でも、大学発ベンチャーの企業数及び増加数ともに過去最高を記録。大学発ベンチャーの数は2,901社と、2019年度で確認された2,566社から335社増加していることが分かった。(以下「大学発ベンチャー数の推移」参照/出典:大学発ベンチャー実態等調査)
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また、先日、「人工クモの糸」を生産する慶應大発ベンチャー・スパイバーが344億円を調達。スタートアップの1回の資金調達額としては、国内最大規模となったことも話題になった。一方、各大学もVCなどを設立しながら、大学発ベンチャーを含むスタートアップのエコシステムづくりにも注力している。
このように、大学発ベンチャーの動向に注目が集まる中、2021年8月に「大学発ベンチャー表彰2021」の受賞者が発表された。2014年度にはスパイバーも同表彰を受賞しており、市場にインパクトをもたらすベンチャーが表彰されるケースも少なくない。本記事では、「大学発ベンチャー表彰2021」でどのような企業が受賞したのか、紹介していく。
「大学発ベンチャー表彰2021」の受賞者とは?
JST(科学技術振興機構)とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が運営する「大学発ベンチャー表彰」は2014年度にスタートした制度で、大学などの成果を活用して起業したベンチャーのうち、今後の活躍が期待される優れた大学発ベンチャーを表彰するとともに、特にその成長に寄与した大学や企業なども表彰している。
外部有識者からなる「大学発ベンチャー表彰2021」選考委員会による応募書類の審査および面接審査を経て、大学発ベンチャー6社とその支援大学・支援企業の受賞は以下の通りだ。
医療、水産、ロボット、防災など、多岐にわたる分野で活躍するベンチャーが表彰されている。それでは次に、各賞の受賞理由などについて詳しく見ていきたい。
各賞を受賞した6社の表彰理由
【文部科学大臣賞】
■受賞企業:Heartseed株式会社 https://heartseed.jp/
■支援大学:慶應義塾大学 医学部
■支援企業:味の素株式会社 バイオ・ファイン研究所
■事業内容:心臓移植しか抜本的な治療法が無い重症心不全に対して、心筋再生医療を実用化すべく研究開発を行っている。
■大学による支援:慶應義塾大学医学部信濃町キャンパスにある1室約100平米の研究スペースを3室使用し、多くのアカデミア研究員や他企業と最先端の研究開発を共同で行い、重要知財の共同出願やトップジャーナルへの論文発表など、大きな研究成果を上げる事が出来た。
■企業による支援:味の素社は慶應大と心筋細胞培養に理想的な培養液を10年がかりで完成させた。これらで高純度の心筋細胞を大量に作製することが可能となった。同社はこれらの培養液をHeartseed社に独占提供することで、当社の競争力向上に寄与している。
■受賞理由:iPS細胞を用いた心筋再生医療で心臓病治療に対して新たな扉を開こうとしている企業であり、実用化されれば心不全患者の心機能の長期的な改善に寄与することが期待されている。高い技術力と海外大手企業との積極的な連携関係構築等のグローバル展開を含めた戦略的取り組みは、日本の再生医療ベンチャーにおけるロールモデルとなりうると考えられ、今後大きく成長することが期待される。
▼受賞者インタビュー動画
【経済産業大臣賞】
■受賞企業:リージョナルフィッシュ株式会社 https://regional.fish/
■支援大学:京都大学 農学研究科
■支援企業:株式会社荏原製作所
■事業内容:水産物の品種改良×スマート養殖を組み合わせた次世代養殖システムを構築し、日本の水産業の変革を目指す。
■大学による支援:京都大学木下准教授の持つ技術シーズの提供、その社会実装のための学内グラントの交付、TLOによる技術特許の許諾、起業家教育プログラムの提供により事業化を支援した。また、学内のインキュベーション施設および実験室の提供を通じて事業加速を支援。
■企業による支援:創業前から協業を目指し、他社に先駆けて資本業務提携を締結。次の柱となる新規事業創出のため、社内公募で陸上養殖のチームを立上げ、ゲノム編集魚を効率的に飼養できる循環式陸上養殖システムを構築すべく、流体・熱制御などの技術提供を中心に支援。
■受賞理由:水産物の品種改良×スマート養殖の組み合わせにより、日本の水産業の変革を目指す企業である。これまで大手企業が参入してこなかった領域でもあるが、多くの大学及び事業会社を巻き込んだオープンイノベーション型大学発ベンチャーとして市場を果敢に開拓している。今後新たな市場創造を起こし、大きく成長することが期待される。
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【科学技術振興機構理事長賞】
■受賞企業:オリシロジェノミクス株式会社 https://www.oriciro.com/
■支援大学:立教大学 理学部
■事業内容: 無細胞系による長鎖環状DNAの連結・増幅技術を用いた各種製品・サービスの提供
■大学による支援: 立教大学理学部において末次教授が開発した「精製タンパク質によるゲノム複製サイクルの試験管内完全再構成系」を事業のコア技術としている。本技術はゲノムサイズの長鎖DNAを環状分子として指数増幅可能とする世界でも唯一のDNA増幅法である。
■受賞理由:DNA合成・増幅技術を基盤とした企業で、細胞を使わずに長鎖DNAを増幅するという革新的な技術に基づいた製品・サービスを提供しており今後の成長が期待される。また、日本だけではなく海外での事業展開を目指しグローバルでの企業体制を構築している点も高く評価された。
▼受賞者インタビュー動画
【新エネルギー・産業技術総合開発機構理事長賞】
■受賞企業:Rapyuta Robotics株式会社 https://www.rapyuta-robotics.com/ja/company/
■支援大学:チューリッヒ工科大学 工学科
■支援企業:株式会社モノフル
■事業内容:クラウドロボティクスプラットフォームの開発およびロボティクスソリューションの提供
■大学による支援:チューリッヒ工科大学在学中に、ロボット向けのインターネット開発を目指し、欧州内の有名大学と共同研究(RoboEarth プロジェクト)を行った。大学で研究した成果を活用することで、当社のクラウドロボティクスプラットフォームの構築を成し遂げた。
■企業による支援:日本GLP株式会社グループである株式会社モノフルは、当社の株主であり、プラスオートメーション株式会社(日本GLP株式会社と三井物産株式会社の共同出資)と当社は、物流倉庫向けAMR ロボットのサブスクリプションサービスを日本で初めて商用化した。
■受賞理由:クラウドロボティクスプラットフォームを活用し、物流現場におけるロボティクスの普及を加速させるベンチャー企業である。物流市場における顧客ニーズを的確に把握し最適なソリューション提供をハード及びソフトの両面から確実に行えている点が評価された。
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【日本ベンチャー学会会長賞】
■受賞企業:株式会社マトリクソーム https://matrixome.co.jp/
■支援大学:大阪大学 蛋白質研究所
■支援企業:株式会社ニッピ
■事業内容:細胞外マトリックスタンパク質を用いた細胞培養用基質の研究開発と販売
■大学による支援:関口教授の行ったMOUSE BASEMENT MEMBRANE BODYMAPの研究成果がラミニン511E8断片を利用したiPS細胞用足場材の開発の手掛かりとなった。現在は、ラミニン断片を用いた各種細胞の培養基質の開発を支援している。
■企業による支援:当社設立の準備段階では、関口教授の「断片化ラミニン」を製品化するために、官民イノベーションプログラムの事業化推進型共同研究を実施してきた。設立後は、医薬品製造レベルの管理下で、製品の製造と品質管理を行う事で事業の支援を行っている。
■受賞理由:大学の寄付研究部門で得られた研究成果を元にマトリクソーム社で応用開発研究を行い実用化、その後製品開発と実製造を支援企業であるニッピ社が行い、完成した商品をマトリクソーム社に販売委託する、というアカデミアと企業の研究ネットワークを活用する特色ある経営が評価された。
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【大学発ベンチャー表彰特別賞】
■受賞企業:株式会社RTi-cast https://www.rti-cast.co.jp/
■支援大学:東北大学
■支援企業:国際航業株式会社
■事業内容:地震時に即時的に津波浸水被害予測を行う世界初のシステムによる津波災害情報配信およびシステムの構築・運用
■大学による支援:リアルタイム津波浸水被害推計システムを構成する要素研究の成果を提供している。津波伝播・浸水被害予測シミュレーション技術、建物・人的被害予測式・手法、スーパーコンピュータの災害時緊急利用モードの運用技術、地殻変動観測情報を活用した津波発生予測技術など。
■企業による支援:リアルタイム津波浸水被害予測の地形モデルや被害推計データの作成、津波浸水被害予測システムの津波数値計算の自動化および高速化、被害予測結果の作成及びシステム構築を支援。株式会社RTi-castの運営およびリアルタイム津波システムの事業化の支援。
■受賞理由:津波災害の減災に貢献することをミッションとしており、その社会性・公共性の高さ、産学連携・オープンイノベーション型の事業として評価された。社会性・公共性の高いテーマに挑戦する大学発ベンチャーのロールモデルとなることが期待される。
▼受賞者インタビュー動画
(TOMORUBA編集部)