脅威の市場ポテンシャルが期待されるクラウドゲーム。GAFAMやソニー、任天堂が参入するポイントを解説
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回ピックアップするのは「クラウドゲーム」です。近年、ゲーム業界はめざましい成長を遂げているのは周知の事実ですが、クラウドゲームは文字通りクラウドを駆使して既存のゲームとは異なる体験を提供します。GAFAMだけでなくソニーや任天堂も参入しているクラウドゲームとはどのようなものか、解説していきます。
クラウドゲームはゲーム機を使わず、クラウド上でゲームをプレイする
クラウドゲームは既存のコンシューマーゲームと何が異なるのでしょうか。既存のゲーム機は、プレイヤーの手元にあるゲーム機でゲームアプリケーションを稼働させてプレイしますが、クラウドゲームは遠隔のサーバー(クラウド)でゲームを稼働させ、インターネット通信を介してゲームをプレイします。
出典:GeForce NOW
クラウドゲームの最大のメリットはプレイヤーが高価なゲーム機を所有することなく、スマホやタブレット、PCなどのデバイスさえあればゲームをプレイする事ができることです。その代わり、プレイヤーは安定したネット環境が必要となります。
好調のゲーム市場と、年平均成長率64%のクラウドゲーム市場
近年、ゲーム業界は成長を続けています。調査会社のPanorama Data Insightsが2022年3月に発表したレポートによると、世界のゲーム市場は2021年に2106.5億ドル、2030年に9537.7億ドルに達すると予測されており、この間の年平均成長率(CAGR)は18%となっています。
出典:世界のゲーム市場は2030年までに9537.7億米ドルの価値があると予想されています| 年平均成長率(CAGR):18.27%
クラウドゲーム市場の成長速度はさらに急激で、調査会社グローバルインフォメーションのレポートによると2027年には140.1億ドルに達する予測で、2021〜2027年のCAGRは64%になる見込みです。
出典:クラウドゲームの市場規模、2021年~2027年のCAGRは64.1%と急成長が期待
GAFAMやソニー、任天堂がクラウドゲームに参入
クラウドゲームは前述の通り、市場自体はまだ立ち上がったばかりですが、大手企業がこぞって参入している競争の激しい分野になりつつあります。
米国大手テック企業のGAFAMのうちAppleを除くGoogle、Amazon、Meta(旧Facebook)、Microsoftが参入しているほか、ゲーム大手のソニーと任天堂もクラウドゲームに参入しています。
Googleはいち早くプラットフォーム『Stadia』を立ち上げ、コンテンツ制作を専門にしたゲームスタジオStadia Games and Entertainmentも展開していましたが、苦戦の末に2021年にスタジオを閉鎖しています。StadiaはtoC向けからピボットし、パブリッシャー向けに技術を開放しサードパーティ向けプラットフォームとして再起をはかっていましたが、景気の減速を懸念し、コスト削減を強化するなかで撤退を発表しました。
Amazonは2022年3月よりプラットフォーム『Amazon Luna』をリリースしています。プライム会員であればサービスを利用することができる点で差別化をはかっているようです。
Metaはまだサービスをリリースしていませんが、メタバースに注力している同社が開発するヘッドセット『Quest 2』向けにクラウドゲームのサービスを提供することは既定路線であると見られています。
Microsoftはプラットフォーム『Xbox Cloud Gaming』のベータ版を公開中です。Xboxの端末はもちろん、他のプラットフォーム同様にPCやスマートデバイスからも遊べる仕様になっています。
ソニーはプレイステーション向けのプラットフォーム『PlayStaytion Now』がありましたが、2022年6月よりプレステ向けのサブスクリプションサービス『PlayStation Plus』にバンドルされる形に変更されました。PlayStation Plusにはクラウドゲームを遊ばないユーザーも多く含まれるため、クラウドゲーム初心者の入口として参入ハードルが下がることが期待されます。
Nintendo Switchは2022年2月にキングダムハーツSwitch版をクラウドゲームとしてリリースしています。サブスクリプションサービスではなくタイトル単体での購入となっています。
【編集後記】コンシューマー機ユーザーがクラウドゲームに移行するか
本文中でも触れたように、クラウドゲーム市場の成長そのものは疑う余地がなさそうです。ただ、現時点でクラウドゲームが浸透していない原因はいくつかあります。GoogleのStadiaが撤退に追い込まれた要因のひとつに「コンシューマーゲーム機を持っているユーザーがわざわざクラウドゲームに移行する理由がない」という点があるように、ユーザーがクラウドゲームをプレイする必然性さえあれば、急拡大する引き金になるのではないでしょうか。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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