「ウェルビーイング」がビジネスを飛躍させる。心身の健康と幸福度が組織を活性化させる理由
最近ビジネスの場でよく耳にするようになった「ウェルビーイング」。「幸福」や「健康」などと訳される言葉で、世界の成長企業が次々と取り入れたことで注目を集めています。国連が毎年発表する「世界幸福度ランキング」において、2019年は58位、2020年は62位という結果になった日本は、まさに幸福の後進国。これからウェルビーイングの考え方を取り入れて、幸せな働き方を実現することは、日本企業が世界における競争力を取り戻す上で大きな意味を持つことになります。
この記事ではウェルビーイングとはいったいなんなのか、どのようにビジネスに影響するのか、ウェルビーイングを向上させるサービスの一例を紹介していきます。幸福度の高まる組織づくりを実現したい方は参考にしてください。
※参考:https://worldhappiness.report/
ウェルビーイングとは
「ウェルビーイング(well-being)」という言葉が注目されたのは、世界保健機関(WHO)憲章の全文において、「健康」の定義について以下のように記載されたことによります。
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)
※参考:https://www.japan-who.or.jp/commodity/kenko.html
身体の健康や精神的な健康といった狭義的な健康だけでなく、社会との関わりも含めて「満たされた状態」のことを指します。もともとは社会福祉の分野で、疾病などをもつ社会的弱者などに対し、最低限の生活保障だけでなく、人としての尊厳を確保できる生活クオリティを保つための概念と用いられていました。最近では、ビジネスの場で働く人々がウェルビーイングな状態で働くことの意義が見いだされ、様々な企業が取り入れるようになったのです。
ビジネスとウェルビーイング
ビジネスでウェルビーイングが注目されるようになった背景には、世界規模で起きている仕事に関する価値観の変化があると考えられています。
日本で言えば、かつては大企業に入って、高い給料をもらうことが成功だという価値観が蔓延していました。しかし、今は経済的な成功以上に、やりがいやライフワーク・バランスを重視する風潮が強まっています。
そのため、昔のように高い給与を出せば人が集まるといった採用活動が通用しなくなってきているのです。企業は採用活動に対して、大きな意識変革を迫られていると言えるでしょう。
企業は今後、優秀な人材を採用し定着させていくために、一人ひとりの社員が「満たされた状態(=ウェルビーイング)」になれる環境を提供していかなければなりません。単に福利厚生の導入に終始するだけでなく、オフィス環境に関するアンケートなどを実施して、従業員が望む社内環境や働き方を把握して実現していくことが重要です。
それぞれの社員が満たされて働けることで、パフォーマンスの上昇や定着率の改善により業績がアップし、より優秀な人材が集める差別化ポイントになっていくでしょう。
グーグルによるウェルビーイングへの取り組み
ウェルビーイングの概念は徐々に理解され始めていますが、実際に取り入れるのは決して簡単ではありません。日本よりもウェルビーイングの考え方が進んでいる海外では、どのような取り組みが行われているのか見ていきましょう。
グーグルは2012年より、社員の生産性を極限まで高めるためにどうすればいいか、莫大な時間とコストをかけて調査しました。その労働改革プロジェクトの名は「プロジェクト・アリストテレス」。同社の「人員分析部(People Analytics Operation)」というチームにより、約4年の歳月と何百万ドルの資金を使って、様々な観点から生産性を上げるための研究が行われたのです。
グーグルには大小合わせて数百ものチームがあるとされており、その中には生産性の高いチームもあれば低いチームもあります。それぞれのチームの共通点を見出して、生産性を高めるためのポイントを5つにまとめました。
その研究結果は自社の情報サイト「re:Work」で「チームを成功へと導く5つの鍵」として発表され、その中で最も重要な要素とされたのが「心理的安全性」です。
心理的安全性とは、チームのメンバーがリスクをとることに安全性を感じて、お互いに対して弱い部分をさらけ出せるか、という要素です。つまり、「こんなことを言ったら上司に叱られたり、同僚にバカにされないだろうか」といった不安を払拭し、安らかな雰囲気をチーム内に育めるかが重要だと語っています。
具体的には、チーム内の一部の人間だけが喋りまくるチームよりも、全員がほぼ同じ時間だけ発言していることが生産性向上に繋がることを述べています。
グーグルは、これらの調査結果を社内のリーダー格の人材に伝え、自らのチーム内に「心理的安全性」を育むための具体策を考えるように促しました。あるチームでは、リーダーが自身の病気について打ち明けたことで、チーム一人ひとりが堰をきったようにプライベートなことを話しはじめ、結果的に心理的安全性を高めたケースもあります。
ちなみに心理的安全性は、先述した5つのポイントの残りの4つを支える土台だとも言われています。心理的安全性を高めることで仕事のパフォーマンスが上がるだけでなく、チームや社会に貢献できている実感を持ち、やりがいを感じながら仕事ができるとのことです。グーグルの調査は、まさにビジネスでのウェルビーイングの有用性を認識させる結果となりました。
ウェルビーイングを向上させるサービス
自分の会社にウェルビーイングを取り入れようと思っても、なかなか自分たちだけで取り入れるのは難しいもの。最近ではウェルビーイング向上のためのサービスも導入されているので、その一部を紹介します。
●株式会社Melon
株式会社Melonは法人向けにマインドフルネスのプログラムを提供しています。同社によれば、メンタルヘルスを原因とする労働日数は年間2億日を超え、従業員の生産性の損失は168億ドルを超えるとされています。
マインドフルネスを導入することにより社員のストレスを減少し、集中力や生産性を向上させることができるのです。リアルな場でのプログラムの他、オンラインプログラムでの提供も行っているため、リモートワークを導入している企業も気軽に取り入れられるでしょう。
●株式会社はぴテック
株式会社はぴテックは、幸福度を可視化するサービスを導入しています。幸福学の第一人者、慶大前野教授とサービスを共同開発しており、72問のアンケートに答えることによって34項目にわたって多面的にウェルビーイングの状態を調べられます。
幸福度が向上することで創造性が増し、職場の離職率が低下するなどの調査も行われており、学術的にビジネス現場でのメリットが実証されています。組織の幸福度を計測した後は、計測結果をもとに研修やワークショップなど、様々なコンテンツを実施することができ、ウェルビーイングの向上に活かせるでしょう。
●株式会社デジタル・デトックス
近年、問題視されているスマホの依存症。スマホの使いすぎにより、日常生活に支障をきたす状態のことを指します。株式会社デジタル・デトックスは、スマホ依存症に対策するためのサービスを提供する企業。
単純にデジタル機器を持たずに週末を過ごすといった一時的なものではなく、「やるべきこと」と「やるべきでないこと」を特定して本質的な問題解決に導きます。ヒアリングから始まる初回の2週間のプログラムは無料で受けられるので、気軽にデジタル・デトックスを体験できるでしょう。
編集後記
ウェルビーイングは今世界中の成長企業が注目している取り組みです。どんなに事業が成功しても、従業員が健康で幸せでなければ成功は長続きしません。永続的に企業が成長するには、ユーザーに価値を届けるだけでなく、そこで働く人達も満たされている必要があるのです。ウェルビーイングに興味を持った方は、まずは今回紹介したサービスから取り組んでみてはいかがでしょうか。
(eiicon編集部 鈴木光平)