2024年問題の解決策として期待される「共同配送」が担う役割とは?背景や事例などを紹介
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは物流業界における「共同配送」です。物流業界では2024年4月より、慢性化している長時間労働を解消するために時間外労働の上限が制限される、いわゆる「2024年問題」が課題となっています。
こうした背景から、2024年問題の解消と環境への配慮なども目的として、複数の企業が協力して配送を行う「共同配送」が注目されています。これにより、配送の効率化やコスト削減が可能となり、企業間の協力が物流業界の新たなスタンダードとなりつつあります。本記事では、共同配送の背景や現状、そしてそのメリットと課題について詳しく解説します。
「2024年問題」をはじめ、共同配送が必要となった背景
共同配送の解説をする前に、国内の物流業界で課題となっている重要なポイントを振り返っておきます。
「2024年問題による」人手不足の深刻化
国内の物流業界は深刻な人手不足に直面しています。特にトラックドライバーの不足が顕著で、長時間労働や過酷な労働条件が原因で新規参入者が減少し、既存のドライバーも減少しています。このような状況を解消するために、冒頭で述べたように自動車運転業務の時間外労働の上限を年間960時間に制限する「2024年問題」が発生しています。ドライバーの労働時間が短くなることで人手不足をはじめとした様々な問題が起こっているのです。
参照記事:物流の2024年問題とは?人手不足とECの急成長で物流企業とトラックドライバーが受けるリスクとその対策 - TOMORUBA (トモルバ)
環境問題への対応
環境問題が世界的な課題となっている中、物流業界も二酸化炭素排出量の削減に取り組む必要があります。従来の個別配送では、トラックの空車走行や低い積載効率が問題となっていました。共同配送は、複数の企業が配送ルートを共有することでトラックの稼働効率を高め、全体的な走行距離を削減することが可能です。これにより、二酸化炭素排出量の削減と環境負荷の低減が実現されます。
参照記事:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種 - TOMORUBA (トモルバ)
コスト削減の必要性
物流コストの上昇は、企業の収益性に大きな影響を与えています。燃料費の高騰や2024年問題にともなう人件費の増加が、物流コストの主要な要因となっており、これらを抑制するために共同配送が貢献することが期待されています。複数の企業が配送資源を共有することで、輸送費用の分担が可能となり、全体的なコスト削減が図れます。
消費者ニーズの変化
インターネット通販の普及により、消費者の配送に対する期待が高まっています。翌日配送や時間指定配送などの要求が増える中で、企業は迅速かつ効率的な配送ネットワークを構築する必要があります。共同配送は、これらのニーズに応えるための柔軟な物流体制を提供し、消費者満足度の向上に寄与しています。
都市部での配送課題
都市部では、交通渋滞や道幅の狭い道路、駐車スペースの不足などが配送の効率を低下させる要因となっています。こうした環境での個別配送は非効率であり、配送時間の増加やコストの上昇を招いています。共同配送は、これらの問題を解決するために、複数の企業が配送を統合し、都市部における物流の最適化を図る取り組みとして必要とされています。
物流業界における共同配送の概要
物流業界における「共同配送」とは、複数の企業が協力して一つの配送ルートを共有し、効率的に商品を届ける仕組みを指します。この取り組みは、個別配送に比べてコスト削減、環境負荷の低減、労働力の効率的な利用が期待されるため、特に注目されています。具体的には、複数の荷主企業が同一の地域や配送先に対して、個別に配送するのではなく、共同で配送車両や配送ルートを利用して商品を届ける形態を取ります。
共同配送の利点には、輸送コストの削減が挙げられます。複数企業が協力することで、トラックの積載効率を高め、空車や部分積載を減らすことができるため、全体的な輸送費用が低減します。また、トラックの走行距離や台数を削減できるため、二酸化炭素排出量の削減といった環境への配慮も大きなメリットです。
さらに、物流業界が抱える人手不足の問題にも対応できる点も見逃せません。労働力の効率的な利用が進むことで、ドライバーの負担軽減や配送作業の効率化が図られ、業界全体の持続可能性が向上します。
共同配送で効率アップを実現した事例
共同配送を実施している事業者がどのように共同配送を社会実装しているのか、いくつか事例を紹介します。
日帰りネットワークを形成しトラック稼働率を向上
長距離輸送のドライバーが不足している課題を解決するため、サンネット物流は日帰りネットワークを形成しました。ストックポイント(ドライバーの乗り換えや貨物の一時保管等を行う中継拠点)を各地に設置することで、ドライバーはストックポイントまで荷物を輸送し、ストックポイントから顧客への配送は地場の事業者に引き継ぐことで日帰りで往復できる仕組みを構築しました。これによりドライバーの拘束時間が減り、トラックの稼働率を向上させる成果を出しています。
出典:事例紹介|厚生労働省
ライバル会社と共同配送し積載率を向上
広島市のスーパーでは、ライバル会社と協力して共同配送を拡大しています。広島県大崎上島町では、各社が自社商品のみを配送する際にトラックの荷台が満杯にならず、効率が低下する問題がありました。これを解決するために、複数の会社が1台のトラックに荷物をまとめて配送する仕組みを導入しています。これにより、トラックの数やフェリー代を削減し、労働時間短縮の課題にも対応しています。
参照ページ:物流「2024年問題」に対応 ライバル会社との共同配送広がる 同業他社が異例のタッグ 広島 福岡 | NHK
編集後記
物流業界における共同配送の必要性とその取り組みについて探りました。人手不足や環境問題への対応が急務となっている中、共同配送は物流効率の向上とコスト削減に大きく寄与する手段として注目されています。
企業間の協力によって実現するこのモデルは、単なるコスト削減だけでなく、持続可能な物流システムの構築にも貢献しています。今後も、より多くの企業が共同配送に取り組み、業界全体での労働力の有効活用と環境負荷の軽減を実現していくことが期待されます。物流の未来を切り開くこの動きに、今後も注目していきたいと思います。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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