医療の課題を解決する「バーチャルホスピタル」医師不足、日本特有の課題、フィンランドでの成功事例などを紹介
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーや、それらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは「バーチャルホスピタル」です。バーチャルホスピタルとは、遠隔医療を活用して患者が自宅にいながら、オンライン上で医師の診察や治療を受けられるサービスを指します。
特にパンデミック以降、医療現場におけるデジタル化が加速しており、患者の利便性や医療資源の効率的な活用という面で注目されています。本記事では、バーチャルホスピタルの仕組みやメリット、そして医療業界にもたらす変革について詳しく解説します。
バーチャルホスピタルはオンラインで医療サービスを受けられる仕組み
バーチャルホスピタルとは、インターネットを通じて提供される医療サービスを指します。従来の病院とは異なり、患者は自宅にいながら、オンライン上で医師や専門医の診察や治療、ケアを受けることが可能です。この仕組みによって、ビデオ通話やチャット、遠隔モニタリング技術を駆使して、診療やリハビリ、薬の処方、健康相談など、幅広い医療サービスを提供することができます。
バーチャルホスピタルの特徴は、地理的な制約を超えた医療へのアクセス拡大です。過疎の地域に住んでいる人や移動が難しい患者にとって、オンラインでの医療は通院の負担を軽減し、タイムリーなケアが受けられる大きな利点となります。また、コロナ禍の影響で対面医療が難しくなった状況下でも、バーチャルホスピタルは安全かつ効果的に患者をサポートできる手段として普及が進んでいます。
さらに、医療資源の効率化にも寄与し、病床不足の問題解消や医療費の削減にもつながると期待されています。これにより、医師はより多くの患者に対応でき、患者側も自宅で高度な医療サービスを享受できるなど、医療体制の柔軟性と効率性が向上するメリットがあります。
バーチャルホスピタルが注目される背景には医師不足と地域格差が
バーチャルホスピタルが注目される背景には、日本の医師不足と地域格差が深く関わっています。日本では、人口1,000人あたりの医師数が2.4人となっていて、OECD平均3.5人より少なく、G7のなかでは最下位となっています。
出典:医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2019-
各国によって医師の定義や医療需要は異なるため、単純な比較はできないものの、日本では世界に先んじて少子高齢化が進んでいるという背景もあります。高齢化が進めば医療の需要は高まりますが、少子化の影響で将来医師となる人材も減っていくという悪循環が巻き起こる可能性があるのです。
また、別の問題として「医師の偏在」があります。下図は人口10万人に対する医師数を都道府県別にグラフにしたものですが、地域によって医師数には大きなばらつきがあります。全国平均の人口10万対医師数は262人ですが、都道府県別にみると、徳島県が335人と最も多く、次いで高知県335人、京都府334人となっていますが、対して埼玉県は180人と最も少なく、次いで茨城県202人、千葉県209人となっており、地域ごとの格差が非常に大きいことがわかります。
このような状況下で、遠隔医療を基盤としたバーチャルホスピタルは、地域医療の質を向上させるための有力な解決策として期待されています。
バーチャルホスピタル市場は北米を中心に健全な成長
バーチャルホスピタルはグローバルでも注目を集めている市場です。調査会社のグローバルインフォメーションによると、バーチャルホスピタル市場は、2023年に約1,070万米ドルと評価され、予測期間2024年から2032年にかけて年平均成長率25.24%以上の健全な成長率で成長すると予測しています。
バーチャルホスピタル業界の主要なプレイヤーは、バーチャルホスピタルサービスの効率を高めるために先進技術を導入し、遠隔医療相談、慢性疾患の遠隔モニタリング、メンタルヘルスサービス、セカンドオピニオンなどといった医療サービスを提供して事業を拡大しているとのことです。ただ、初期投資の高さや技術的なハードルなど参入の障壁になる課題も挙げられています。
地域別にみると北米が最大のシェアを占めています。アジア太平洋地域については、ヘルスケア技術への投資が増加し、バーチャル・ヘルスケアの利点に対する認識が高まっていることから、予測期間中に最も高い成長が見込まれると予想しています。
参照:バーチャルホスピタル市場| シェア 市場規模 需要 2022-2032年 【市場調査レポート】
バーチャルホスピタルの先駆的事例「Digital Health Village(デジタルヘルスビレッジ)」
フィンランドの「Digital Health Village(デジタルヘルスビレッジ)」は、バーチャルホスピタルの先駆的な事例として注目されています。このプロジェクトは、ヘルシンキ大学病院を中心に、フィンランドの主要な大学病院と協力して開発されました。
デジタルヘルスビレッジの特徴は、患者が遠隔で自己診断やモニタリングを行い、そのデータを基に医療専門家が診断や治療方針を決定する点です。これにより、患者は自宅から安全かつ効果的に治療を受けることが可能になります。
また、バーチャルホスピタルは、特定の患者グループに限定されず、幅広い医療ニーズに対応できる汎用的なプラットフォームを提供しています。これにより、医療リソースの効率化が進み、フィンランド全土で医療の質とコスト効率が向上しています。
このように、フィンランドのデジタルヘルスビレッジは、バーチャルホスピタルの実用化とその効果的な展開において、世界的に注目されるモデルケースとなっています。
編集後記
今回の記事では、バーチャルホスピタルの概要、注目される背景、そしてフィンランドや日本での導入事例について詳しく解説しました。バーチャルホスピタルは、医療のデジタル化を推進し、患者の利便性を向上させるだけでなく、医師不足や医療リソースの不足に対応するための有力な解決策です。遠隔医療技術を活用することで、地域や時間の制約を超えて質の高い医療を提供できるようになり、医療の効率化と患者満足度の向上が期待されます。
フィンランドのデジタルヘルスビレッジの事例が示すように、バーチャルホスピタルはすでに実用化され、成功を収めています。今後、この技術がどのようにさらに進化し、広がっていくのかに注目が集まります。バーチャルホスピタルを用いた日本の医療機関での成功事例が生まれる日も、そう遠くないかもしれません。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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