サムスン電子の共創プログラム『Samsung Mobile Advance 2026』が始動――ヘルスケア、AI、映像/オーディオ技術から素材・デザインまで4つの募集テーマと求める共創パートナー像を深掘りする
“Galaxy”のブランド名で知られるスマートフォンやウェアラブル端末、さらにはディスプレイ製品、家電製品などを幅広く展開し、数多くのグローバルシェアナンバーワン製品を世に送り出しているサムスン電子。
世界各地に研究開発拠点を擁し、常に新技術の探索や積極的なオープンイノベーションを推進する同社は、2021年より、モバイルデバイス製品に『新しい価値』を搭載し、ユーザーに『これまでにない体験』を提供することを目的としたプログラム『Samsung Mobile Advance』を継続的に開催してきた。
本年開催する『Samsung Mobile Advance 2026』では、Galaxyエコシステムの実現に向けて、以下の4つのテーマを設け、4月15日より共創パートナーの募集を開始する(※プレエントリー締切:5月29日、最終応募締切:6月30日)。
<募集テーマ>
①Galaxyデバイス×ヘルスケア
②Galaxyデバイス×AI
③Galaxyデバイス×映像/オーディオ技術
④Galaxyデバイス×素材・デザイン
――そこでTOMORUBAではプログラムの開始に先立ち、日本でのプログラム事務局を担当するサムスン日本研究所の多田氏、加納氏、乙部氏、田岡氏へのインタビューを実施。本プログラムで目指すゴール、各テーマで実現したいこと、テーマ別に求めている技術や共創パートナーのイメージなどをお聞きした。
外部の技術を取り込むことで、より良い製品をいち早くユーザーに届けたい
――最初に、サムスン日本研究所の事業領域やミッションについて教えてください。
多田氏 : 1992年に設立されたサムスン日本研究所は、サムスン電子の100%子会社であり、コンシューマ・エレクトロニクス分野を管掌するDX(Device eXperience)部門傘下の海外研究所として機能しています。事業領域としては、スマートフォン、ディスプレイ、生活家電、ロボット、メタバースといった分野をカバー。拠点は横浜と大阪にあり、横浜ではスマートフォン、ディスプレイ、ロボット関連、大阪では生活家電を中心とする研究を行っています。
サムスン電子はR&Dセンターを世界14カ国に、AIセンターを5カ国に構えています。その中でもサムスン日本研究所は先端研究開発拠点に位置付けられており、付加価値向上を実現する新技術の研究開発を推進。また、日本のロケーションを活かした課題に注力しているため、素材やロボット、生活家電分野に大きな強みがあります。
▲株式会社サムスン日本研究所 代表取締役/研究所長 多田充氏
――『Samsung Mobile Advance』(以下:SMA)を継続的に実施している意図や狙いをお聞かせください。
加納氏 : 私たちは2021年からSMAを開催してきましたが、スマートフォンやウェアラブルデバイスの開発競争は依然として熾烈を極めています。当然、サムスングループ内部でも持続的な技術開発を進めていますが、そのような市場環境に対応するためには、外部の技術をできるだけ速く取り込んでいく必要があります。
また、私たちはオープンイノベーションで生まれた技術を活用して、ユーザーの皆様により良い製品をいち早くお届けしたいと考えています。このような思いはSMAをスタートした当初から現在まで変わっておらず、SMAを継続的に実施する理由であり続けています。
▲株式会社サムスン日本研究所 Mechatronics & Image Lab Principal Engineer 加納正隆氏
乙部氏 : 現在、サムスン電子では、AIを活用したGalaxyエコシステムの実現を推進しています。今回のSMAでは、GalaxyとAIを組み合わせることで、ユーザーに新しい体験を届けられるような活用事例が登場することを期待しています。
▲株式会社サムスン日本研究所 Mechatronics & Image Lab Principal Engineer 乙部英一郎氏
――今回のSMAの重要なポイントとなっているGalaxyエコシステムとは、どのようなシステムなのでしょうか。
加納氏 : Galaxyエコシステムとは、スマートフォンやタブレット、PC、イヤホン、ウェアラブルデバイスなど、様々なGalaxyデバイスがシームレスに連携し、ユーザーにサービスを提供する仕組みです。また、単純にデバイス同士が連携するだけではなく、AIを活用することでユーザーのニーズを予想して提案を行うようなアンビエントなシステムの実現を目指しています。
スマートフォンの競争軸はカメラやアプリからAIにシフトしつつある
――今年度のプログラム『Samsung Mobile Advance 2026』に関しては、どのような期待感をお持ちですか?
多田氏 : 私たちは2021年からSMAをスタートしましたが、スマートフォンの競争軸は年を経るごとに変わってきています。SMAの開始当初はカメラの画質や純粋なアプリケーション、メカニカルな機能などが競争軸の中心でしたが、現在ではAIやAIアシスタント的な機能に争点がシフトしています。
当然、そのような変化に合わせてSMAにおける注力分野も変化しています。先ほどから話に上がっているGalaxyエコシステムをベースとするAIの連携や、さまざまなAI技術を活用することで人の健康を支えたり、災害が発生した際にサポートしたりするなど、今まで以上に「人に寄り添うための技術」を開発されている企業様と協業したいと考えています。
また、サムスンでは、日本でのさらなるGalaxyの普及拡大を目指すべく、 Galaxy AIやBixby(AIアシスタント)の日本語機能を強化したほか、サムスン独自のペイメント機能であるSamsung Walletもスタートさせています。このように様々な形で日本人や日本のマーケットを意識した機能追加を進めていることもあり、日本の方々に、より便利に、より快適に利用いただけるような技術・機能に関する提案も期待しています。
田岡氏 : プログラムを運営していて感じるのは、「(SMAは)ウチには関係ないのでは?」と考えられている企業様が多いことです。サムスンのプロダクトとは一見関係なさそうな技術であったとしても、私たちから見れば非常に貴重な技術であるケースも少なくありません。SMAは皆様がお持ちの技術やプロダクトの客観的な価値を知っていただくチャンスにもなるので、自社内だけで早計に判断することなく、ぜひ積極的にご提案いただきたいと考えています。
▲株式会社サムスン日本研究所 Mechatronics & Image Lab Principal Engineer 田岡峰樹氏
――SMAは2021年からスタートしていますが、現在までの手応えや所感について教えてください。
加納氏 : 私はSMAに2025年から携わっていますが、前年も様々なスタートアップや中小企業の皆様からエントリーをいただきました。私たちがとくに強く求めていたAI技術やAI+ヘルスケアの技術に関するご提案も多数いただけたため、商用化に向けてのPoCが進んでいる案件もあります。
田岡が話したように、第一印象の時点では私たちのプロダクトへの搭載が難しそうな技術・機能であっても、角度を変えて検討した際に「これは使える」と判断できるような技術がたくさんあったので、とても良い経験になりました。
乙部氏 : 例年のことですが、サムスングループが取り組んでいる研究の一歩先をいくような提案をしてくださる企業様が数多くいらっしゃるため、サムスン電子本社のSMAに対する期待も高まっており、毎年のように新しいオープンイノベーションが生まれています。また、毎年複数の技術分野に関するテーマを提示してエントリーを募っていますが、こちらが提示したテーマを飛び越えてくるような提案が採択につながっているケースが多いと感じます。
4つのテーマで実現したい機能と求める技術の詳細
――今年度のプログラム『Samsung Mobile Advance 2026』で4つのテーマを設定した意図をお聞かせください。
加納氏 : まず大前提として、私たちが協業したいと考えているのは、どんな企業にも負けない独自のコア技術を有する企業様です。エントリーの際には、そのようなコア技術について存分にアピールいただきたいと考えています。また、コア技術の強みや提案内容が明確であれば、今回設定した4つのテーマに当てはまらない技術分野の提案も歓迎しています。
そのような前提がありつつも、より多くの企業様にエントリーいただきたいと考え、「①Galaxyデバイス×ヘルスケア」、「②Galaxyデバイス×AI」、「③Galaxyデバイス×映像/オーディオ技術」、「④Galaxyデバイス×素材・デザイン」という4分野のテーマを設定しました。
――4つのテーマそれぞれで実現したいことや、共創パートナーとして想定している企業像についてお聞かせください。まずは「①Galaxyデバイス×ヘルスケア」についてお願いします。
加納氏 : このテーマでは、ユーザーの健康に関する様々なサポートを行うスマートフォン、スマートウォッチの機能開発を目的としています。ユーザーに血糖値・血圧などの数値や様々な健康リスクを伝える機能に加え、健康状態の向上や健康リスクの改善に向けてユーザーの行動変容を促すような機能も実現したいと考えています。パートナー像としては、非侵襲バイタル計測とウェアラブル×スマホ連携によるオンデバイスAI診断、マルチモーダルセンシング、行動変容AIコーチングなどの技術をお持ちの企業様を想定しています。
――続いて、「②Galaxyデバイス×AI」について教えてください。
加納氏 : AIはGalaxyデバイス全般に関わる技術なので、必ずしもAI技術そのものに特化した提案である必要はないと考えています。たとえば先ほどお話ししたヘルスケア分野のデータを解析するAIアルゴリズムという切り口でもOKですし、この後お話しする音声に関する解析アルゴリズムにAIを活用する方法もあると思います。私たちはそのような幅広い分野・領域でのAI技術も求めています。
また、AI技術そのものに関しては、AIアルゴリズムを利用した暗号技術、LLMとは異なる小規模な言語モデルで解析を行うAI基盤などに関する提案を歓迎しています。
――「③Galaxyデバイス×映像/オーディオ技術」についてはいかがですか?
加納氏 : スマートフォン、スマートウォッチ、イヤホン、さらには最近リリースしたヘッドセット「Galaxy XR」など、様々なGalaxyデバイスに関連する映像・ディスプレイ・オーディオ技術に関する募集テーマです。
AI技術の搭載・利用によって上がり続けるスマートフォンの消費電力を抑える技術、Galaxy XRの焦点を自動で合わせるレンズ技術、小さな声でのスマートフォン通話でも相手が聞きやすいように音声を復元して伝える技術などを幅広く求めています。
▲2025年10月にアメリカ・韓国で発売されたXRヘッドセット「Galaxy XR」
乙部氏 : このテーマでは、オーディオズームやニューラルビームフォーミングといった技術も求めています。オーディオズームは、音の鳴っている場所に対して画面を自動的にズームしていく技術です。ニューラルビームフォーミングは、AI技術を活用することにより、スマートフォンのような少ないマイク数で特定の相手・場所の音声をキャッチし、雑音を抑制したクリアな音声収集を実現する技術です。
――最後のテーマ「④Galaxyデバイス×素材・デザイン」についても教えてください。
加納氏 : 日本は素材に強みを持つ企業様が多いため、そのような素材技術を活用することでGalaxyを変革していきたいと考えています。Galaxyのスマートフォンは、より薄く、より軽いものへと進化し続けていますが、これ以上薄くて軽いものにしようとするとデバイスの強度が弱まってしまいます。
このテーマでは、そのような課題を解決する軽くて強い素材や、傷がつきにくい素材の技術を求めています。また、スマートフォンの背面に使用しているガラスに関しても、強度の補強とデザイン性を両立できるような素材を探しています。
乙部氏 : このテーマでは、スマートフォンの限られたスペースに搭載できるようなアクティブ放熱システムなど、高効率な放熱技術や放熱対策素材に関する提案やフレキシブル、ストレッチャブルな放熱素子の提案も歓迎しています。
SMAを経て商用化・事業化の目処が立てば、巨額の投資を受けられる可能性も
――SMAに参加する企業が享受できるメリットや、参加企業に提供できるアセット・リソースについて教えてください。
加納氏 : 私たちの強みはGalaxyブランドのプロダクトを世界中に展開していることです。私たちと協業いただいた上で商用化が実現すれば、その技術は世界中の人々に使われることになるため、SMAに参加いただく皆様にとっての大きなメリットになると考えます。
SMAでは、採択となったプロジェクトに最大500万円までの開発・実証助成金を支給しますが、「助成金を出して終わり」ということではありません。PoCを実施する際には、サムスン電子本社やサムスン日本研究所の開発部門や技術者がサポートを行います。また、提案ベースのPoCが成功した場合、次の段階として商用化に向けたPoCがスタートしますが、その際は共同で開発を行うことも可能です。
多田氏 : SMAを経て事業化の目処が立った場合、CVCであるサムスンベンチャー投資から投資を受けられる可能性も出てくるので、ぜひ積極的にチャレンジしてほしいと思います。
――最後に、『Samsung Mobile Advance 2026』に興味を持っている企業や、エントリーを検討している企業へのメッセージをお願いします。
多田氏 : 繰り返しになりますが、自分たちだけで「(SMAに)合わない/関係ない」と判断するのではなく、まずは積極的にご応募いただければと思います。また、「以前応募したものの採択されなかった」という皆様も、技術の進展次第では採択させていただける可能性があるので、ぜひチャレンジしてみてください。もちろん以前に採択させていただいた企業様も、異なるアイデアがあれば何度でもエントリーいただきたいと思っています。
加納氏 : 最高で3回採択させていただいている企業様もいらっしゃいますので、多田の言うように何度でも挑戦してもらえると嬉しいですね。「サムスン」という世界的なメーカー名がエントリーの敷居を高くしている面もあると聞いていますが、そのようなことを気にされる必要は一切ありませんので、ぜひエントリーいただき、皆様の技術を存分にアピールいただければと思います。
田岡氏 : Galaxyといえばスマートフォンやスマートウォッチを連想される方が多いと思いますが、そのような既存製品だけに縛られることなく「まったく新しいものを作ってみよう」という気持ちを持ってエントリーいただきたいですし、私たちとしてもそのような気概を持った方々と一緒になって新しいプロダクトを生み出していきたいと考えています。
乙部氏 : SMAへの応募は、企業規模や業種を問いませんので、アーリーステージのスタートアップの方々はもちろん、大学・研究機関からのご応募も大歓迎です。コンシューマユーザー向けの様々なユニークなアイデアをお持ちの皆様はSMAのPoCを通してアイデアを具現化し、成長を目指して、ぜひ積極的にチャレンジいただければと思います。
取材後記
Galaxyのブランド力やサムスングループのグローバルな販売網に加え、最大500万円の開発・実証助成金、世界レベルの開発部門・技術者からサポートを受けられる体制など、2021年からスタートした『Samsung Mobile Advance』は、現在もなお多くのスタートアップから注目される魅力的なプログラムであり続けている。
昨年に引き続き、本年度に関しても4つの技術分野に関する募集テーマが設けられるなど、多種多様なスタートアップに門戸が開かれている。また、今回のインタビューでも明言されたように、独自性の高い技術であれば、4つのテーマに当てはまらない分野でも十分に採択される可能性がありそうだ。グローバルでの飛躍を目指すスタートアップは、技術分野に関わらず積極的なエントリーを検討してほしい。
※サムスン日本研究所より事前にフィードバックを受けられるプレエントリーの締切:5月29日、最終応募締切:6月30日(プログラムの詳細はこちらをご覧ください)
(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己、撮影:齊木恵太)