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相模原市が2期目のオープンイノベーションプログラムを始動!――東プレ、日本ゼトック、カヤバ、デュプロの市内4社が独自技術でパートナーを募集<前編>

相模原市が2期目のオープンイノベーションプログラムを始動!――東プレ、日本ゼトック、カヤバ、デュプロの市内4社が独自技術でパートナーを募集<前編>

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今年11月20日に市制70周年を迎える相模原市。リニア中央新幹線の新駅建設や製造業の集積、JAXA宇宙科学研究所の立地などで広く知られる神奈川県の政令指定都市だ。そんな相模原市が、昨年度にスタートさせたのが伴走型オープンイノベーションプログラムの『Sagamihara Innovation Gate』である。

これは、相模原市内の企業が、ホスト企業として新規事業の開発テーマを提示し、全国から共創パートナーを募集して、新規事業の創出や拡大に挑戦するプログラムだ。昨年度は、SWCC、カヤバ、大和製罐、富士工業の4社が参加し、大きな盛り上がりを見せた。

本年度実施される『Sagamihara Innovation Gate』は、相模原市内に拠点を構える東プレ、日本ゼトック、カヤバ、デュプロの4社がホスト企業となり、共創パートナーと新たな事業開発に乗り出す。今年3月、橋本駅付近に開設されたイノベーション創出促進拠点『FUN+TECH LABO』も、交流拠点として重要な役割を担う。

TOMORUBAはプログラム開始に際し、主催者である相模原市役所とホスト企業4社に取材。その内容を<前編>・<後編>に分けてお届けする。――<前編>となる本記事では、相模原市役所とホスト企業2社(東プレ、日本ゼトック)のインタビューの模様を紹介していく。

【相模原市役所】 相模原市と市内企業の協力で育む、イノベーションの土壌

――まず、相模原市がオープンイノベーションに取り組み始めた経緯や、初年度の手応えからお聞かせください。

相模原市・諏訪氏: 相模原市は製造業が盛んで、メーカーの研究開発拠点も数多く立地しています。この地域特性に加えて、リニア中央新幹線神奈川県駅(仮称)開業に伴うまちづくりにおいて、「先端技術の拠点の形成」、「イノベーションが生まれる環境の形成を目指す」という方針も示しています。

これらの背景から、昨年度より、相模原市内企業の事業開発・研究開発を活性化することを目的に、オープンイノベーションプログラムをスタートさせました。初年度にもかかわらず、市内企業からの関心は非常に高く、4枠でホスト企業を募集しましたが、それを大幅に上回る応募があり、手応えを感じています。

▲相模原市 環境経済局 創業支援・企業誘致推進課 主任 諏訪靖典 氏

――他の地域でも行政主催の共創プログラムが多数開催されています。相模原市のプログラム、あるいはプログラムに参加される企業の特徴はどこにあるとお考えですか。

相模原市・諏訪氏: こうしたプログラムは、新規事業開発部門や経営企画部門が担当することが多いのではないかと思います。しかし、相模原市の場合は製造業の研究開発拠点が多いことから、研究所や研究開発部門が中心となってプログラムに参加されるケースが多い印象です。技術に立脚したプロジェクトが多いことが、相模原市のプログラムならではの特徴なのではないかと思います。

――昨年度、市内に拠点を構える4社(SWCC、カヤバ、大和製罐、富士工業)がホスト企業として参加されました。どのような場面や様子が印象に残っていますか。

相模原市・佐久間氏: 参加者の皆さんが非常に熱心にプログラムに取り組んでいる姿が印象的でした。伴走支援期間は3カ月と短かったのですが、どのプロジェクトも濃密な活動を展開され、様々な成果を上げられました。

特に記憶に残っているのが、SWCCさんとパワーウェーブさんによる医療現場のワイヤレス化プロジェクトと、大和製罐さんとアプデエナジーさんによるリチウムイオンバッテリーの劣化診断技術を活用した新サービスの開発プロジェクトです(※)。SWCCさんとパワーウェーブさんのプロジェクトでは、成果発表会で試作品をご提示されており、感動しましたね。

大和製罐さんとアプデエナジーさんのプロジェクトでは、プロジェクト担当者の有馬様が、本プログラムの実証成果を国際的な学会で発表されることにもつながったと伺っています。初年度から、本プログラムにおける実証実験の成果が目に見える形で現れたことを嬉しく思っています。この二つのプロジェクトは、本年度も相模原市から継続的な支援を行っており、今後の進展にも注目しています。

※参考記事:医療現場のワイヤレス給電、リチウムイオン電池劣化診断など、高度なテクノロジーを用いた4つの共創チームが成果を発表『Sagamihara Innovation Gate』デモデイをレポート!

▲相模原市 環境経済局 創業支援・企業誘致推進課 主事 佐久間莉花 氏

――いよいよ2期目がスタートします。本年度、プログラムでパワーアップされたポイントや、相模原市内での変化などは何かあるのでしょうか。

相模原市・諏訪氏: 本年度は実証期間を少し延長して、より長期間で事業開発に取り組めるようなプログラムになりました。また、2024年3月25日、リニア中央新幹線の神奈川県駅(仮称)建設地のそばにイノベーション創出促進拠点『FUN+TECH LABO』をJR東海さんが開所されました。この拠点とも連携しながら、2期目のオープンイノベーションプログラムをさらに充実させ、盛り上げていきたいと考えています。

リニア新駅予定地に誕生した『FUN+TECH LABO』が、イノベーションの創出起点に

――この『FUN+TECH LABO(ファンタステックラボ)』は、どのような拠点なのでしょうか。概要をお聞かせください。

相模原市・諏訪氏: 『FUN+TECH LABO』は、相模原市が昨年度より取り組む「イノベーション創出促進拠点運営事業」をきっかけに設置されました。JR東海さんが建設され、『相模原市イノベーション創出促進拠点』の運営事業を委託しています。この拠点では、企業や大学等、様々な方の交流を促すイベント等を実施し、イノベーションの創出を促進するコミュニティ形成やネットワーク構築を推進していく考えです。

建物は2棟から成り、コミュニケーション棟では、イベントやセミナーを開催しており、打合せスペースとしても利用可能です。打合せスペースは当面の間、事前予約すれば誰でも無料で利用できます。隣接するオフィス棟には、JAXA、大成建設、ティアフォー、NEC(日本電気)、ヤマハ発動機さんが入居するほか、神奈川県も「さがみロボット産業特区」の推進拠点として活用されています。

――コミュニケーション棟では様々なイベントを実施されているとのことですが、どのような人たちにお越しいただきたいですか。

相模原市・諏訪氏: 相模原市内、多摩地域や県央地域の企業、研究者や技術者の方はもちろんのこと、橋本駅は横浜や都心へのアクセスが便利な立地なので、東京や横浜方面からもお越し頂けると嬉しいです。リニア開通後は品川や山梨、岐阜、長野からもアクセスしやすくなるので、将来的には中京圏など幅広い地域から人を呼び込みたいと考えています。

また、相模原市ではスタートアップ支援を目的としたアクセラレーションプログラムも展開しています。スタートアップや大学発ベンチャー、学生起業家の皆さんにも積極的にご利用いただきたいです。相模原市、近隣地域には大学がたくさんあり学生も多いエリアなので、そういった方々が利用されることで、活気のある場になると良いなと思っています。

相模原市・佐久間氏: お越しいただいた方たちと対話をしながら、色々な活動を展開していきたいですね。異なるバックグラウンドを持つ人たちが同じ場所に集まることで、新たな出会いやビジネスが生まれるものと思います。気軽にご利用いただき、皆様の事業開発、研究開発やイノベーション創出を後押しできれば良いと思っています。

相模原市・諏訪氏: 最近は、企業や研究者等様々な方と連携して、親子にも楽しんで頂けるイベントを実施する等、イノベーション創出の可能性を広げるべく様々なチャレンジをしています。

これからも、多くの方に『TECH(テクノロジー)』を通じて『FUN』を感じていただけるような取組をJR東海さんと一緒に展開していきますので、是非お越しいただきたいです。

▲本インタビューは、『FUN+TECH LABO』のコミュニケーション棟で実施した。

※FUN+TECH LAB公式HP:https://market.jr-central.co.jp/ftl/

※相模原市アクセラレーションプログラムHP:https://sogyo.city.sagamihara.kanagawa.jp/sagamihara-acceleration-program/

『Sagamihara Innovation Gate』2期目も、高度な技術力を持った4社が集結!

――『Sagamihara Innovation Gate』の話題に戻りますが、本年度も市内のホスト企業4社(東プレ、日本ゼトック、カヤバ、デュプロ)が参加されることになりました。

相模原市・諏訪氏: どの企業さんも高度な技術力をお持ちで、オープンイノベーション活動に対する熱意もあられます。各社の募集内容にぜひご注目ください。

――共創事業を短期間で立ち上げていくために、相模原市役所としてはどのようなサポートをされていますか。昨年度の実績なども含めて、教えていただきたいです。

相模原市・佐久間氏: 実証実験に必要な費用を、1プロジェクトにつき上限112万円まで支給します。実証実験の成果は、相模原市のプレスリリースで広く発信し、広報支援も行っていく予定です。また、内容に応じて、実証フィールドの利用調整にも積極的に協力します。昨年度は、市役所の空きスペースにブースを設置し、共創プロジェクトに関わる製品やサービスのプロモーションにご協力した事例もありました。

相模原市・諏訪氏: ニーズ検証のためのヒアリング先を一緒に探した事例もありましたね。保育園や介護施設向けのサービスを検討していた共創チームからの相談を受け、市役所内の関連部署をご紹介しました。そのチームからは、市役所が間に入ってくれたことで「本音が聞けてよかった」という声をいただきました。

――非常に心強いサポートですね。それでは最後に、2期目にかける想いや全国の応募企業に向けたメッセージをお願いします。

相模原市・佐久間氏: このプログラムを通じて、相模原市の産業が成長することを願っています。このプログラムを通じて新たな事業が生まれ、各社の事業に良い影響があれば嬉しいです

相模原市・諏訪氏: 本プログラムへの参加を通して、事業成長に繋つなげていただければと思いますし、様々な方とのつながりを作る機会として活用いただければ幸いです。全国の企業様からのご参加をお待ちしております。

【東プレ】 高張力鋼板加工の名手が、新たな高性能送風技術の開発に挑む

――はじめに、御社の事業概要や強みをお伺いしたいです。

東プレ・石井氏: 当社は1935年に創業し、金型と自動車部品の製造から事業を開始しました。以来、塑性(プレス)加工技術と金型設計技術を活用し、鉄板を部品に加工する事業を展開しています。特に得意とするのは、高張力鋼板(ハイテン材)の加工です。高張力鋼板とは、薄くて硬い鉄板のことで、この材料を使って自動車の車体部分を製造しています。車体には人命を守る強度と、省エネのための軽さが求められますが、高張力鋼板はそれらの条件を満たす材料なのです。

同じ塑性加工技術を転用して、冷凍車も製造しています。これは約60年前に、食品鮮度保持の需要が高まることを見越して開発されたものです。冷凍板という鉄製の冷却板をトラック内部に装着して作っています。

また、空調機器も重要な事業の柱で、シロッコファンと呼ばれる送風機などを製造しています。これらは全館空調やビル空調にも使用されています。さらに、パソコンのキーボードも生産し、『REALFORCE』というブランドで一般消費者向けに展開しています。

▲東プレ株式会社 開発部 部長 石井宏明 氏

――コア技術である「塑性加工」を活用して、多岐にわたる市場に挑戦してこられたのですね。

東プレ・津田氏: その通りです。当社は創業時より特定の系列に属さず独立した経営を続けています。そのため、複数の日系自動車メーカーや大手家電・住宅メーカーなどと取引があります。自由で柔軟な発想のもと時代のニーズに合ったモノづくりができるのは、独立系だからこそだと思っています。

▲東プレ株式会社 開発部 主席研究員 津田学志 氏

――今回はどのような背景から本プログラムに参加しようと思われたのでしょうか。

東プレ・川浪氏: 私たちの所属する開発部は事業部とは離れた組織で、事業部と共同で取り組むテーマもあれば、事業に直結しないテーマも扱っています。より新しい発想で従来の枠を飛び越えるような開発に取り組むには、どのような手法があるのかと模索する中で、オープンイノベーションに興味を持ちました。外部の力を借りることで、製品開発の精度を高めたり、開発の幅が広がったりすることを期待しています。

▲東プレ株式会社 開発部 主席研究員 川浪隆幸 氏

――募集テーマに「次世代省エネ機器の実現に向けた、新たな高性能送風技術の共同開発」を掲げられました。本テーマを設定した背景をお聞かせください。

東プレ・川浪氏: 現在、AIやソフトウェア技術が急速に進化しており、それらとどうつきあっていくかが、当社の課題だと捉えています。同時に脱炭素化の流れもあるため、私たちの送風技術を効率化することが方向性として良いのではないかと考え、このテーマを設定しました。

――御社の送風機は現在、どのような場所で使用されているのでしょうか。技術の特徴も教えてください。

東プレ・川浪氏: 主に産業向けの送風機を製造しており、ビルや工場など大規模な施設に複数台で使用されています。これらは、一般の人には見えない場所で常に稼働し、オフィスビルなどの快適な空気の流れを維持するのに貢献しています。技術の特徴としては、プレス技術を用いた軽量で高強度なファンを実現していること。それに、羽の形状や羽を囲むケースも追究しており、システム全体を設計するノウハウを長年かけて蓄積しています。

――募集テーマをベースとして、3つの共創イメージを挙げていただきました。それぞれ簡単にご紹介をお願いします。

東プレ・川浪氏: 1つ目の「AI、深層学習等を用いた省エネファンの製品開発」に関しては、AIやソフトウェア技術の進化が予想以上のスピードで進化しているため、これらをどう当社の設計に融合できるのか、パートナー企業と共に検討したいと考えています。

2つ目の「当社送風技術を活用した、空調分野以外の業界展開」に関してですが、送風技術やファンは、すでに様々な使われ方をしています。しかし、他社の見方によっては当社で気づいていない違う用途が発見できるかもしれません。異なる目線を持つ企業との共創により、当社の送風技術の可能性をさらに広げていけるのではないかと期待しています。

3つ目の「その他、生体模写等を活用した次世代技術の共同開発」についてですが、生体模写(バイオミメティクス※)などを専門とする企業や研究機関と連携し、ファンに対して意外な効果を生み出せないか、一緒に可能性を探りたいと思っています。

※バイオミメティクス:動物や植物といった生体の組成や形状を研究し、その優れた機能を工学技術として応用すること。

――パートナー企業が御社と共創するメリットについてもお聞かせください。

東プレ・川浪氏: 今回の共創パートナーは、ソフトウェア関連企業が多いと予想していますが、そのような企業の技術を私たちのハードウェア製品にどのように実装していくかを、一緒に体験していただけることがメリットになるのではないでしょうか。また、2つ目の共創イメージで示したように、空調分野にとどまらず他の分野にも展開できる可能性もありますし、当社は国内だけでなく海外にも拠点を持っています。このような販路の広さも魅力と捉えてもらえると嬉しいです。

東プレ・石井氏: 空調だけでなく、他の分野でも様々な技術を保有しています。それに、自動車、空調、電子分野の各業界大手との取引実績があり、協力メーカーも優れた企業ばかりです。そうしたご縁を、今回のプログラムを通じてつないでいける取り組みにしたいですね。

――最後に、本事業にかける意気込みや応募企業へのメッセージをお願いします。

東プレ・川浪氏: パートナー企業と共に新たな挑戦を形にしていきたいです。当社にとって初めての試みですが、継続的に開発できるシステムを築きたいと考えています。ぜひ一緒にトライをしていきましょう。

東プレ・津田氏: 当社の役割とパートナー企業の役割と、それぞれ異なる役割があると思います。双方の役割を果たしながら、共に新しい製品を世の中に送り出していきたいと思っています。

東プレ・石井氏: 仕事のモチベーションは、お客様から「ありがとう」と言っていただくことだと思っています。市場の中で「ありがとう」に向かって仕事をして、その対価をいただく。一緒に新たな「ありがとう」を生み出す仕事を手がけましょう。

【日本ゼトック】大学発「”あな”空き繊維」を活用し、衣類を通じたWell-beingな未来を実現

――まず、御社の沿革や事業概要についてお聞かせください。

日本ゼトック・佐藤氏: 当社は今年で設立70周年を迎えます。設立当初は「日本ゼオラ株式会社」という社名で、ゼオライトという機能性成分を配合したハミガキ剤の製造からスタートしました。その後、化粧品の製造にも事業を拡大しましたが、主力はハミガキ剤のODM生産です。日本では年間約5億本のペースト状のハミガキ剤が製造されていますが、その4分の1弱にあたる約1億2000万本を当社の相模原事業所で生産しています。

1990年に社名を「日本ゼトック株式会社」に改称して、ロゴを「ZTC」と定めました。「Z」は旧社名の日本ゼオラに因んでおり、私たちにとってはハミガキ剤を含むオーラルケア製品を象徴しています。「T」はトイレタリー(化粧品)を指し、「C」はケミカルを意味しています。この「C」には、化学製品分野に進出しようという考えが示されています。化学製品の事業はまだ立ち上がっていませんが、新規事業として当社の目指す方向性の一つとなっているのです。

▲日本ゼトック株式会社 ビジネスイノベーション推進部 ディレクター 佐藤慎也 氏

――本プログラムに参加しようと考えた背景もお伺いしたいです。

日本ゼトック・佐藤氏: 化学製品の開発に新規事業として取り組んでいくにあたり、自社内での研究開発だけでは限界を感じていました。新製品を市場に出す際、当社にとっては新規事業でも、他社にとっては既存事業であり、先端技術にどうキャッチアップしていくかが課題でした。

そこで、オープンイノベーションという手法に切り替えることにしたのです。本プログラムのことは昨年度から知っており、今年3月に開催された成果発表会も見学しました。その様子を見て、当社も参加したいと考え、本年度のホスト企業に手を挙げたのです。

――今回の募集テーマ「衣類を通じたWell-beingな未来の実現」について詳しく教えていただけますか。

日本ゼトック・佐藤氏: 当社は化粧品やハミガキ剤の製造・販売を主業として行っています。その中で「衣類」というのは唐突なのですが、実は、岐阜大学発ベンチャーであるFiberCraze株式会社(以下、FiberCraze社)とコンタクトを取り続けてきました。彼らが保有するのは、まさに化学素材である化学繊維に関する先端技術なのですが、これを活かす手段として当社の化粧品の技術を掛け合わせて使えるのではないかと考えたのです。

しかし、素材メーカーと化粧品・ハミガキ剤メーカーだけでは、用途開発や企画立案に関するリソースが足りません。そこで、本プログラムを通じてパートナー企業を見つけたいと考えてテーマを設定しました。

――その化学繊維素材には、どんな特徴があるのですか。

日本ゼトック・佐藤氏: ここにFiberCraze社の糸をお持ちしたのですが、糸の中に微小な”あな”が無数に空いているんですね。穴が空いている糸としては中空糸などもありますが、一般的な中空糸は糸の真ん中に端から端まで、ストローのように”あな”があいています。

一方で、FiberCraze社の糸は”あな”の向きが異なります。”あな”が縦に貫通しており、”あな”をランダムではなく規則的なサイズ・間隔で空けることができるのです。これが彼らの技術の特徴です。岐阜大学での武野教授の研究成果を基に代表の長曽我部さんが学生起業され、「日本の繊維業界を新技術で活気づけたい」という強い意志で取り組んでおられます。

▲多孔化技術を活用したFiberCraze社の先端繊維素材「Craze-texTM」

▲後加工で素材に数十ナノメートルの”あな”を空けることで、成分の保持や粒子の透過・制御、水・油の分離などの特徴を持つ。(画像提供:FiberCraze社)

――3つの共創イメージを挙げていただきました。1つ目が「フェムケアに向けた“あな”空き繊維の活用」ですが、これはどのような共創を目指しておられますか。

日本ゼトック・佐藤氏: 私たちは様々な成分をこの化学繊維に入れて製品開発ができると思っているので、幅広いアイデアを募集しています。中でも特に注目しているのはフェムケアの分野です。もともと、この化学繊維を使って社会課題を解決したいと考えてきました。フェムテック・フェムケアの分野にはまだ多くの課題があり、私たちにもできることがあると思っています。

すでに化粧品事業では、フェムケア関連の製品を開発しており、その知見も活かせると思っています。それに、この繊維の“あな”は油を吸って水を吸わないという特性があるので、こうした点もフェムケア製品に活用できると考えています。

――2つ目、3つ目に関してはいかがでしょうか。

日本ゼトック・佐藤氏: 2つ目の「”あな” 空き繊維の自由度を活かすアイデア企画」についてですが、様々な成分を練り込んだ糸が大手製糸メーカーなどでも既に開発されています。しかし、Fiber-

Craze社の糸は既存のものと異なり、最初に”あな”をあけた糸を作って後から成分を入れます。成分を練り込んで作る既存方式では、成分を数%しか含有できないのですが、FiberCraze社の糸では、繊維の強度を維持したまま、最大20%程度まで成分を含ませることができます。また、”あな”の中の成分が揮発してしまっても、成分をもう一度含浸させることができるのです。この技術を用いると、サスティナブルな取り組みが可能になります。このように、非常に自由度の高い素材なので、様々なアイデアを試していきたいと思っています。

3つ目の「”あな”空き繊維を用いた肌ケア以外の価値創造」に関してですが、私たちは化粧品成分を中心に考えがちですが、他にも様々な可能性があると思っています。例えば、既存のインクには加圧で色が変わるものがあります。そうしたインクを、この”あな”に入れると、座ると圧力がかかって色が変わるクッションなども開発できるかもしれません。こうしたセンサー用途などの肌ケア以外のアイデアにも期待しています。衣類に限らず、工業用途など幅広くアイデアをお寄せいただけるとありがたいです。

日本ゼトック・鶴田氏: 私たちが提案している例は、当社内で「こういうものがよいのではないか」と考えたものです。しかし、私たちの想像を超えるようなアイデアにも期待しています。「こんな使い方ができるんだ」と驚くような、ワクワクするアイデアを本プログラムでは実現したいです。

▲日本ゼトック株式会社 経営企画部 事業戦略推進グループ マネージャー 鶴田和子 氏

――共創アイデアの実現に向け、活用できる御社のリソースなどはありますか。

日本ゼトック・鶴田氏: 当社は製造業ですから、製造に関する知見や技術は持っています。また、化粧品のほか口腔ケア分野においても、長年、研究と評価を行ってきています。共創アイデアを実現する際には、これらをご活用いただくことが可能です。

日本ゼトック・佐藤氏: 化粧品事業で培ってきた評価技術を使うと、例えば、特定の成分を入れた製品の肌に与える影響を、自社内で評価することができます。こうした知見も共創に活かせるでしょう。

――最後に、応募企業に向けたメッセージをお願いします。

日本ゼトック・鶴田氏: 当社はミッションに「私たちは、人々の幸せと健やかなる未来を創造し、世界中に笑顔を 届けてまいります」を掲げています。今回のプログラムでも、人々の幸せと健やかな未来につながるような共創を実現したいです。このミッションに共感いただける方は、ぜひ一緒に取り組みましょう。

日本ゼトック・佐藤氏: 社会課題に取り組むにあたっては、自社の技術だけでは解決できない部分も存在するため、外部のアイデアや協力が必要です。このプログラムでは、新しい素材や当社の技術を社会に向けて発信する方法を、一緒に企画して実現していくパートナーを求めています。ご興味があれば、ぜひお気軽にご応募ください。

取材後記

相模原市を舞台に、2期目がスタートした伴走型オープンイノベーションプログラム『Sagamihara Innovation Gate』。リニア新駅開業予定地付近に新たな拠点も誕生し、本年度は一層盛り上がりそうだ。本日公開した<前編>では、相模原市役所と相模原市内ホスト企業2社(東プレ、日本ゼトック)に話を聞いた。明日公開の<後編>では、まだ紹介できていないホスト企業2社(カヤバ、デュプロ)のインタビュー内容をお届けする。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太/古林洋平)

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