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相模原市が2期目のオープンイノベーションプログラムを始動!――東プレ、日本ゼトック、カヤバ、デュプロの市内4社が独自技術でパートナーを募集<後編>

相模原市が2期目のオープンイノベーションプログラムを始動!――東プレ、日本ゼトック、カヤバ、デュプロの市内4社が独自技術でパートナーを募集<後編>

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今年11月20日に市制70周年を迎える相模原市。リニア中央新幹線の新駅建設や製造業の集積、JAXA宇宙科学研究所の立地などで広く知られる神奈川県の政令指定都市だ。そんな相模原市が、昨年度にスタートさせたのが伴走型オープンイノベーションプログラムの『Sagamihara Innovation Gate』である。

これは、相模原市内の有力企業が新規事業の開発テーマを提示し、全国から共創パートナーを募集して、共創で新規事業の創出や拡大に挑戦するプログラムだ。昨年度は、SWCC、カヤバ、大和製罐、富士工業の4社がホスト企業として参加し、大きな盛り上がりを見せた。

本年度実施される『Sagamihara Innovation Gate』は、相模原市内に拠点を構える東プレ、日本ゼトック、カヤバ、デュプロの4社がホスト企業となり、共創パートナーと新たな事業開発に乗り出す。

先日掲載した<前編>の記事では、相模原市役所とホスト企業2社(東プレ、日本ゼトック)の『Sagamihara Innovation Gate』にかける想いを掲載。<後編>となる本記事では、ホスト企業2社(カヤバ、デュプロ)に、事業概要や本プログラムでの募集テーマについて詳しく話を聞いた。

【カヤバ】 独自開発の油状態センシング技術で実現する、工場・インフラ設備の故障予測

▲萱場資郎氏が1919年に創業し、100年以上の歴史を歩んできたカヤバ。

――まず、御社の事業概要や得意分野をお聞かせください。

カヤバ・永井氏: 当社の前身である萱場発明研究所の創業は1919年。古くから油圧技術を得意としており、油圧機器の開発、製造、販売を行ってきました。特徴的な製品は、自動車に使われるショックアブソーバ、建設機械に使われる各種油圧機器、コンクリートミキサ車などです。このように、当社は様々な分野の油圧機器を手掛け、目立たないところで重要な役割を果たしてきました。

▲カヤバ株式会社 技術本部 基盤技術研究所 情報技術研究室 永井勇冴 氏 

――御社は昨年度も本プログラム『Sagamihara Innovation Gate』に参加されました。昨年度の振り返りと、本年度も参加しようと考えた理由をお伺いしたいです。

カヤバ・永井氏: 昨年度は『スマート道路モニタリング(R)』という、車両の挙動を計測・分析し、路面の損傷具合を診断するサービスを共創テーマに掲げて参加しました(※)。

なぜ本プログラムに参加したかというと、当社がモノ売りからコト売りへと転換する手段を模索する中で、外部との共創が有効ではないかと考えたからです。実際に昨年度のプログラムに参加して、外部とのつながりを持つことができ、外部の文化を取り入れることもできました。「この活動を継続したい」という社内からの声もあり、本年度も参加することにしたのです。

※参考記事:医療現場のワイヤレス給電、リチウムイオン電池劣化診断など、高度なテクノロジーを用いた4つの共創チームが成果を発表『Sagamihara Innovation Gate』デモデイをレポート!

――本年度は「油状態センシングによる工場・インフラ設備の故障予測の実現」を募集テーマに掲げられました。本テーマを設定した背景をご教示ください。

カヤバ・永井氏: 当社では現在、油の状態をセンシングする技術の開発を進めています。センサーから得られるデータを活用して、分析や未来予測を実現したいと考えているのです。しかし、社内だけでは解決が困難な課題もあります。この壁をオープンイノベーションで突破したいと考え、このテーマを設定しました。さらにその先に、私たちが気づいていない新たな可能性も発見できることを期待しています。

――油の状態をセンシングする技術について、もう少し詳しく教えていただけますか。

カヤバ・亀田氏: この技術の開発を担当している私からご説明します。現在、事業化に向けて進めている『油状態診断システム』は、次の3つの要素で構成されています。第一に、油の状態をセンサーで検知する機能。第二に、センサーで取得したデータをクラウドで処理する機能。そして第三に、診断結果をユーザーがアプリを使って確認できる機能です。

油が酸化したり異物が混入したりすると、油圧機器の故障につながります。センサーを用いて油の状態をリアルタイムで可視化できれば、故障を予防することができるのです。従来、油圧機器の故障を予防するために定期的な油の分析や油の交換などのメンテナンスを行っていましたが、このセンサーを活用することで、より効率的にメンテナンスができるようになります。

▲カヤバ株式会社 ハイドロリックコンポーネンツ事業本部 技術統轄部 システム技術部 設計室 専任課長 亀田幸則 氏

――『油状態診断システム』は、どのような場所や場面で活用できる可能性がありますか。

カヤバ・亀田氏: 油圧機器は工場や社会インフラ設備など、様々な場所で使用されているため、広範な産業で活用できる可能性があります。

運用シーンの一例を挙げると、現状、工場の保守メンテナンス担当者が人海戦術で油圧機器の点検を行い、油の状態の確認や部品の交換を行っています。しかし、『油状態診断システム』を導入してデジタル化すると、これらの作業負荷を大幅に軽減できると考えています。

▲油圧機器の油状態診断システム(画像出典:ニュースリリース

――3つの共創イメージを挙げていただきました。それぞれ簡単にご紹介をお願いします。

カヤバ・亀田氏: 1つ目の「当社油診断技術に加えた新たな診断アイデア」についてですが、『油状態診断システム』は、当社内でアルゴリズムを開発し、実証評価も行っています。様々なデータを取得することで「こういうことが確認できそうだ」という段階にまで進んでいます。しかし、油に関係ないところで機械が故障することもあるため、油状態だけでは見切れない部分もあるのです。ですから、油状態の確認に加えて、他の手段も組み合わせ、油圧機器全体を総合的に管理するようなアイデアを求めています。

2つ目の「AI等を活用した油圧機器の故障に関する予測システムの構築」に関してですが、現時点における油の状態は、ある程度可視化できるようになりました。一方で、「このまま使用を続けると1年後にどうなるのか」という予測はまだできません。ですから、AIなどの技術に強いパートナー企業と一緒に、将来を予測して機器の残寿命を測れるような機能を盛り込めないかと考えています。

3つ目の「油診断技術の他分野への活用」ですが、このシステムは油に限らず様々な液体に応用できると思います。パートナー企業とともに油以外での活用の可能性を模索していきたいです。

――共創アイデアの実現に向けて活用できる御社のリソース・強みや、パートナー企業が御社と共創するメリットについてもお聞かせください。

カヤバ・永井氏: 当社は総合的な油圧メーカーですから、油に関する技術やノウハウを強みとしています。また、社内には多様なテスト環境や工場設備が整っており、これらの設備を使用して実証実験を行うことができます。それに、冒頭で申し上げたように、当社は発明研究所から始まった企業ですから、「うまくいかないかもしれないけれど、とりあえずやってみよう」という精神が強く根付いています。オープンイノベーションを進めやすい社風だと思いますね。

カヤバ・亀田氏: 私たちの所属する組織は、事業として商品化を目指すチームと基礎研究を行うチームの混成チームになっています。ですから、具体的な成果が得られれば、すぐにでも市場に出すことができますし、逆に短期間での事業化が難しいものであれば、基礎研究の段階から一緒に開発していくことも可能です。幅広い対応ができることも、当社と共創に取り組む魅力のひとつではないでしょうか。

――最後に、本事業にかける意気込みや応募企業へのメッセージをお願いします。

カヤバ・永井氏: 今回の共創では、パートナー企業にもメリットが生じるよう意識して進めていく考えです。お互いの強みを掛け合わせることで、工場やインフラ設備の点検にかかる負荷を軽減したいと思っているので、ぜひ一緒に取り組んでいきましょう。

カヤバ・亀田氏: 私はこの『油状態診断システム』の生みの親ですから、これを世に出したいという気持は人一倍強いです。熱意のある方と一緒に商品化し、保守やメンテナンスの手間を技術で改善していきたいと思っています。この目標を私たちと一緒に目指しませんか。

【デュプロ】 紙加工のエキスパートが、印刷・製本・パッケージ業界の変革に挑戦

――まずは、御社の事業概要や得意領域からお伺いしたいです。 

デュプロ・中村氏: 当社は1952年の創業以来、主に紙を扱う製品を製造してきました。具体的には、紙を切る、綴じる、折るなどの加工を行える機械です。1973年(昭和48年)からは、新聞販売店向けに、折り込み広告の束を簡単に作れる機械や新聞の中に広告の束を入れ込む機械なども製造・販売し、事業を成長させてきた経緯があります。   

10年前頃までは、そうした紙の加工機を主軸に事業を展開してきました。しかしドキュメント類のペーパーレス化が急速に進んだことから、最近では紙を扱うという軸は残しながら、パッケージや加飾印刷などの新領域にも参入を図っています。

▲株式会社デュプロ 取締役 開発本部 開発担当 中村良之 氏

――紙を扱う技術が御社の強みだということですね。

デュプロ・鈴木氏: その通りです。加えて「お客様にできるだけ簡単に使ってもらう」というコンセプトでモノづくりを行っていることも特徴です。人による調整を可能な限り減らし、自動で動くよう工夫を凝らしています。

▲株式会社デュプロ 開発本部 第2開発部 部長 鈴木義久 氏

デュプロ・熊谷氏: 技術者がやりたいことを自由に試せる社風もあるので、様々なアイデアを実践しやすい会社だと思いますね。

▲株式会社デュプロ 開発本部 第1開発部 機械設計グループ グループリーダー 熊谷大史 氏

――本プログラムに参加しようと思われたきっかけは?

デュプロ・中村氏: 相模原市役所の担当者の方から「こんなプログラムがありますが、参加してみませんか」とお声がけいただいたのがきっかけです。話を聞いて、「このプログラムに参加して、何とか新しい事業を実現したい」と考え、参加を決めました。

――今回、募集テーマに「印刷・パッケージ業界の変革に向けたサスティナブル、ロボティクス、高付加価値なサービスへの取り組み」を掲げられました。このテーマを設定した背景にある課題や想いについてお聞かせください。

デュプロ・中村氏: 当社の主なお客様である製本業界は、人材不足に悩んでおられますし、技術の継承にも課題があります。さらには、成果物の利益率も低下していると聞いています。このような状況の中で、当社と製本業界が一体となって生産性を高め、社会に貢献できる取り組みを進めたいと考えています。新しい方法を開拓することで、良い方向に進んでいきたい――こうした想いから、この募集テーマを設定しました。

――3つの共創イメージを挙げていただきました。それぞれについてご紹介ください。

デュプロ・鈴木氏: 1つ目の「再生可能素材を活用した包装、商品パッケージの共同開発」についてですが、昨今、環境やサステナビリティが重要なキーワードとなっています。そのため、例えば、環境に優しい新素材をお持ちの企業と、当社のモノづくり技術を活かして新しい包装やパッケージを開発できないかと思っています。

また、当社の扱う紙自体は環境に悪影響を及ぼすものではありませんが、紙の使用を減らそうという動きはあります。ですから、簡易包装にするアイデア、緩衝材を見直すようなアイデアにも期待しています。

デュプロ・中村氏: 2つ目の「ロボティクス技術を通じた印刷・製本事業の生産性向上」に関してですが、人の行う業務を省力化することで生産性を高めることができるので、省力化するための協働ロボットを開発したいのです。当社にはロボットに関するノウハウがないため、ロボット技術に精通したパートナー企業と連携し、業界の課題解決につなげていきたいと思っています。

――どのような作業が協働ロボットで代替できそうですか。

デュプロ・中村氏: 例えば、冊子の製造工程であれば、成果物がスタッカー(集積装置)に積み上げられていきます。次の工程が、出荷のためにパレットに積み上げたり、箱詰めをしたりする工程です。こうした成果物を次の工程に運搬する作業を、ロボットが代替できる可能性があると考えています。また、冊子を製作する前に、紙の束をセットする必要がありますが、この作業はどうしても人がやらざるをえない状況です。この工程を、例えばアーム式ロボットなどで代替できれば、お客様の生産性に大きく寄与できると思っています。

――3つ目は「加飾技術を活用したブランド価値を高める商品パッケージの共同開発」ですが、御社の加飾技術について具体的に教えていただけますか。

デュプロ・中村氏: この加飾技術は、印刷物に特殊なニスを塗布して盛り上げる独自の技術です。単に盛り上げるだけでなく、金箔を貼りつけて華やかな印象を演出することも可能です。この技術を活用することで、目を引きやすい高級感のあるパッケージやラベルなどを製作できます。例えば、高級化粧品のパッケージや酒類のラベル、トレーディングカードなどに適用できると考えており、そのようなニーズを持つ企業と取り組みたいと思っています。

――パートナー企業との共創に活用できる御社のリソースについてもお聞かせください。

デュプロ・中村氏: 当社の取引先は製本業界をはじめ非常に多いため、取引先に実証実験の協力をお願いすることが可能です。また、社内には開発・評価の体制が整っており、そうしたリソースを共創に活用できると考えています。

デュプロ・鈴木氏: 当社は日本国内だけではなく、欧米をはじめ世界約170カ国に販売チャネルを持っています。共創で誕生した新製品を展開する際には、これらの販売チャネルをご紹介することも可能です。

――最後に、本事業にかける意気込みや応募企業へのメッセージをお願いします。

デュプロ・中村氏: 少なくとも2025年3月までには進む方向性を明確にし、その後、新たな事業開発に向けてスタートさせたいと考えています。たくさんのご応募をお待ちしています。

デュプロ・熊谷氏: どんなことが実現できるかはまだ分かりませんが、社内だけでは視野が狭くなってしまうため、外部の皆さんの新しいアイデアに触れることで、次の方向性を見つけていければと思います。

デュプロ・鈴木氏: 冒頭にお伝えしたように、当社は自由なモノづくりをしている会社なので、パートナー企業の皆さんも自由な発想で取り組んでいただければと思います。ぜひ一緒に新しいものを生み出しましょう。

取材後記

昨年度に始まった『Sagamihara Innovation Gate』が2期目に入り、ホスト企業4社と各社の募集テーマが出揃った。本年度も昨年度と同様に、長い歴史と実績、高度な製造技術とノウハウを持つ企業が集結している。相模原市役所の積極的な協力も得ながら、共創アイデアを事業化していく本プログラムは、参加する価値は大きいだろう。少しでも興味を持たれた企業は、ぜひ応募を検討してほしい。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太/古林洋平)

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