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リニア開通により転換期を迎える相模原市が共創プログラムを始動!独自性の高い技術を持つ製造業4社をホストに迎えたプログラムの全貌に迫る<後編>

リニア開通により転換期を迎える相模原市が共創プログラムを始動!独自性の高い技術を持つ製造業4社をホストに迎えたプログラムの全貌に迫る<後編>

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神奈川県北部に位置し、県内では横浜市・川崎市に次いで第3位の人口規模(約70万人)を持つ政令指定都市・相模原市。リニア中央新幹線の新駅の開業にともない、新たなまちづくりも計画されている。そんな同市が今年度、初となる伴走型オープンイノベーションプログラム『Sagamihara Innovation Gate』をスタートさせた(応募締切:10/25)。

同プログラムでは、相模原市内に拠点を持つ製造業4社(富士工業/SWCC/カヤバ(KYB)/大和製罐)がホスト企業となり、新規事業の共創テーマを提示し、共創パートナーを募る。選出されたパートナー企業と、2日間のBUSINESS BUILD(11/30〜12/1)で事業アイデアの骨子をブラッシュアップし、その後は実装に向けたインキュベーション・実証実験に進む。2024年3月には成果発表会も開催予定だ。

TOMORUBAでは共創パートナーの募集開始に際し、プログラム主催者である相模原市、およびホスト企業の担当者にインタビューを実施。『Sagamihara Innovation Gate』を通じて実現したいことや、プログラムにかける想いを聞いた。前編に続く後編となる本記事では、自動車部品などのグローバルメーカーである「カヤバ(KYB)」と総合容器メーカーとして高いシェアを誇る「大和製罐」の2社へのインタビュー内容を紹介する。

【カヤバ(KYB)】 油圧技術のトップランナーが描く、より安全で便利な道路環境の実現

――まず、戦前から続く御社の沿革や現在の主要事業についてお伺いしたいです。

カヤバ・髙松氏: 当社は1919年に萱場資郎という発明家が研究所を興したことを起源としています。研究や発明に情熱を注いでいた萱場資郎は、8年後の1927年に航空機用の油圧緩衝脚を開発して事業化。この製品は日本の海軍にも納品され、零戦にも使用されています。航空機は軽量性と着陸時の衝撃緩和能力が求められるため、その両方を兼ね備えた優れた技術として採用に至ったそうです。

戦後、日本は航空機製造が禁止されたため、この油圧技術を他の用途に応用することが模索されました。偶然、大手自動車メーカーとつながりがあったことから、この技術を自動車の緩衝器として活用することになり、自動車用に小型化し事業を発展させてきました。

この過程で、ポンプやバルブの分野にも進出し、より力を出すことに長けた油圧機器の開発にも着手。こうした歴史を経て、ショックアブソーバをはじめとする自動車向けと、シリンダやバルブなどの建設機械向けの油圧機器の製造販売が、2大事業として現在に引き継がれています。

▲カヤバ株式会社 技術本部 基盤技術研究所 情報技術研究室 主幹研究員 髙松伸一 氏

――本プログラムには『より安全で使いやすい、道路環境の実現』を募集テーマに掲げて参画されました。テーマ選定の理由は?

カヤバ・髙松氏: 私たちの研究活動は、既存事業の課題を解決するための研究と、将来的に重要性が高まると考えられる技術や分野を開拓するための研究の2種類があります。本プログラムには、後者の一環で参加しています。

昨今、社会が変化し続けるなかで、従来通りモノを製造・販売するだけでは、会社を持続させることが難しいと認識しています。データビジネスなどが注目されていますし、そうした分野に長けた人材を社内で育成する必要もあるだろうと考え、既存事業で培ってきた技術を活かし、路面状態を診断する「スマート道路モニタリング」サービスを開発しました。

――「スマート道路モニタリング」サービスの開発背景をお聞きしたいです。

カヤバ・髙松氏: 当社では長らく、自動車のショックアブソーバの開発を主軸にしてきましたが、そのなかで車両の動きから得られる情報の分析力を高め、それを乗り心地の向上に活かしてきたという背景があります。もちろん、乗り心地の改善も大事ですが、より多くの人々にとって恩恵のある活用方法を模索したいと考え、路面状況の診断に活かす方向性を検討するようになりました。

ニュースなどを見ていると、道路の老朽化が深刻だと聞きますし、トンネルの天井板落下事故なども発生しています。そうしたニュースに触れ、当社の車両挙動分析技術を路面診断に役立てられるのではないかと考えたことが、本サービスを開発することになったきっかけです。

▲ショックアブソーバは、自動車の余分な揺れを出来るだけ早く抑え、車体を安定させる。(画像出典:カヤバホームページ

――なるほど。本プログラムには、どのような期待から参加することに?

カヤバ・髙松氏: 「スマート道路モニタリング」を普及させるために、営業活動も行っていますが、私たち研究所のメンバーだけでは限界を感じていました。そうした状況のなかで本プログラムを紹介いただき、素晴らしい機会だと思ったのでホスト企業として応募することに。他社との意見交換を通じて、独りよがりになっている部分や、他社の協力を得たほうがよい部分に気づけるのではないかと期待しています。それらを棚卸しして、他社と連携しながら共存共栄する道筋を描きたいと考えています。さらには、こうした文化を社内に根づかせていきたいです。

▲走行車両の挙動データから路面の状態を把握し、その地点をマッピングして道路維持事業に活用する「スマート道路モニタリングシステム」。

――共創イメージとして3つ挙げていただきました。それぞれについて、どのようなことを目指しているか教えてください。

カヤバ・髙松氏: 1つ目の『安全で使いやすい道路が維持される街づくり』からご説明すると、当社は車両挙動分析には長けていますが、それを路面診断につなげるためには「道路はどうあるべきか」を判断する知見が必要で、それらの知見は足りていません。

ですから「この路面状態が理想だ」「傷ついているように見えるが、この路面状態なら問題ない」というように、道路の品質を正しく評価することができる企業と出会いたいと思っています。評価の尺度やデータがあれば、より盤石なサービスを構築できます。そうした意味で、1つ目の共創イメージを提示しました。

――2つ目に関してはいかがですか。

カヤバ・髙松氏: 2つ目の『網羅的な道路状況の収集』についてですが、より広範な路面データを取得したいと考えています。路面データを取得するためには、私たちの開発した装置を車両に搭載して走り回らなければなりません。

装置はノートパソコン程度の小さなもので、助手席の下などに簡単に設置できるものですから、タクシーや輸送車両など広範な道路を走り回ることを通常業務としているような企業と連携し、取得できればと思っています。

――現時点では、どのような場所の路面データが取得済なのですか。また、本サービスはどのような顧客向けに展開していく予定なのでしょうか。

カヤバ・長谷部氏: 相模原周辺と島根県益田市で車両を走らせ、路面のデータを収集しています。ただし、これらのエリアに限定されているため、全国どこでも利用可能なサービスであるかというと、まだ十分ではありません。将来的には本サービスを、地方自治体などに提供していくことを検討しています。ですから、国道などの大きな道路というよりも県道・市道のような小さな道路を主なターゲットに考えています。

▲カヤバ株式会社 技術本部 基盤技術研究所 情報技術研究室 長谷部敦俊 氏

――3つ目に関してはいかがですか。

カヤバ・髙松氏: 『計測分析の自動化による予防保全ビジネス』についてですが、車を走らせて取得したデータを、自動で転送・分析・閲覧できるシステムを構築しています。これらの取得データは、乗り心地や道路だけに限らず他の用途にも展開できるかもしれません。ですから、取得したデータを見ていただき、「こんな用途で活用できるのではないか」というアイデアを頂戴できればと思っています。

――御社から提供できるリソースやアセットについてお聞かせください。

カヤバ・髙松氏: 既に開発された一連のシステムがあり、その要素技術は提供可能です。また、自社の研究所を持っていることに加えて、「思いついたアイデアを、とりあえず試してみよう」というマインドがある会社なので、スピーディにアイデアを形にすることができます。

カヤバ・長谷部氏: 車両の計測や分析技術には長けています。また、岐阜県に山岳路・旋回路・直線路の3種類からなる広大なテストコースを保有するなど、試験を行う環境も豊富にあります。それらを提供することも可能です。開発したものを評価できる設備もある点が、当社の強みだと思います。

――最後に、パートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

カヤバ・長谷部氏: 私たちの保有技術の展開先は、自動車業界に限らず幅広い分野に及ぶと考えているので、ぜひアイデアをご提供いただきたいです。フットワーク軽くベンチャーマインドを持って一緒に新しい試みに挑戦していきましょう。

カヤバ・髙松氏: 当社は開発環境が整っているので、真剣に取り組むうちに凝り過ぎてしまうことも多いです。これは開発者冥利に尽きる部分でもありますが、ある程度の段階で外部に出してフィードバックを受け、開発途中で軌道修正していくことも重要だと思っています。外部との連携を通じて異なる価値観に触れ、化学変化を起こしてよりよい製品開発につなげたいと思っているので、ぜひお気軽にご応募ください。

【大和製罐】 歴史ある総合容器メーカーが、リチウムイオン電池のリユース市場拡大を見据え、劣化診断サービスを開発

――まず、御社の事業概要や注力されている研究分野についてお聞かせください。

大和製罐・有馬氏: 大和製罐は金属缶の製造・販売事業を中心に発展してきた会社ですが、日本の社会構造や人口動態の変化による市場環境の変化に対応するため、早々に新規事業や海外事業にも取り組んできました。

新規事業のひとつとして選んだのがエネルギー分野です。金属缶事業を通じて培った試験技術などを他分野に展開できないかとの考えから、2019年に既存技術を発展させたうえで、リチウムイオン電池の評価試験事業を開始。それをさらに発展させる形で現在、電池の劣化診断に関する技術開発を進めています。

▲大和製罐株式会社 技術管理部 エネルギーソリューション開発室 開発リーダー 有馬理仁 氏(工学博士)

――飲料ボトルなどの金属容器で高いシェアを持つ御社ですが、どのような経緯でリチウムイオン電池の評価を行える体制を整えてこられたのですか。

大和製罐・鬼木氏: 過去に乾電池の外装缶を製造していたこともあり、もともと電池と無縁ではありませんでした。2000年代に再び、電池をテーマに研究に取り組みはじめました。当社の得意分野は金属缶や金属加工ですから、電池をアルミなどでパッケージすることが出発点でしたが、それを進める過程で、電池を安全に使用してもらうための品質評価は、自社内で行う必要があると考え、現在の評価試験体制を整えたという経緯があります。

▲大和製罐株式会社 技術管理部 エネルギーソリューション開発室 室長 鬼木直樹 氏

――本プログラムでは、『リチウムイオン電池の劣化診断技術を活用した新サービスの開発』をテーマに掲げておられます。前提として劣化診断事業の将来性を、どのように見ておられるのですか。

大和製罐・有馬氏: 今後、電気自動車や家庭用蓄電システムの普及に伴い、リチウムイオン電池はより広範に使用されていくことが見込まれています。一方で、リチウム資源は地球上に豊富に存在するものの、採掘コストや技術的な課題から、市場に供給できる量は限られており、需要を満たすことができません。

そうした状況下で注目されているのが、リチウムイオン電池のリユースやリサイクルです。特にリユースは技術的にもコスト的にも可能性が高く、非常に注目をされています。既に劣化した電池をより長く使用するという発想になるわけですが、ここで重要になるのが劣化状態や性能の評価です。どの電池がどの程度の劣化度合で、どの程度の性能を維持しているのかという情報が、価値を持ってくると考えています。

▲大和製罐の蓄電池評価サービス(画像出典:大和製罐ホームページ

――リユース電池市場の発展を見越しているのですね。本プログラムでは、3つの共創イメージを提示いただきました。それぞれ詳細をお伺いしたいです。

大和製罐・有馬氏: 1つ目の『クラウド上でのリチウムイオン電池劣化診断サービス』に関してですが、現在、リチウムイオン電池の評価支援事業を行うにあたり、相模原の工場内に大規模な装置を備えた試験場を開設し、そこにサンプルを持ち込んでいただき、評価を行っています。

しかし今後、劣化診断へと事業を発展させるためには、IoTやデジタル分野の技術がどうしても必要になってきます。遠くにあるサンプルをインターネットでつなぎ、インターネットを経由してデータを送りながら、診断を行う必要があるからです。こういう状況になると、自社内だけのリソースでは時間がかかります。そこで、IoTやクラウド技術に長け、なおかつ電池にある程度の理解があるパートナーとともに共創していきたいと考えています。

――その劣化診断サービスのターゲット顧客は?

大和製罐・有馬氏: 再生可能エネルギー貯蔵用のリチウムイオン電池を運用される企業が対象です。運用方法としては、事業所のなかに複数の電池を設置して、事業所内の電力を賄うような形です。

あるいは、リソースアグリゲーターと呼ばれる企業もターゲットになります。リソースアグリゲーターとは、様々な場所に設置されている、太陽光発電・蓄電池・空調やヒートポンプ給湯器などを分散リソースとしてIoTで束ね、そのなかで電力の需要と供給をバランスさせようとする企業のこと。そこでは再生可能エネルギーの変動を抑えるために蓄電池を充電・放電しながら電力を供給し、対価を得るようなビジネスを展開することになります。ほかにも、電力会社も対象顧客になりえます。

――2つ目、3つ目に関してはいかがですか。

大和製罐・有馬氏: 2つ目の『バッテリー循環社会実現に向けた取り組み』については、リユース電池の普及に貢献していきたいと考えているので、広くリユース電池を活用して新たなビジネスを立ちあげようとしている企業と、パートナーシップを組んで普及を図りたいという意図です。

3つ目の『電池の劣化診断技術を活用した新規ビジネスモデル発見』に関しては、特に具体的な想定ができているわけではありませんが、劣化診断サービスの延長線で、何か可能性があれば模索したいです。たとえば、リチウムイオン電池業界で大きな変化が起きそうなテーマとして、全固体化が挙げられます。液体が固体になることで様々な違いが生じてくるので、それに対して何か新しいビジネスチャンスが生まれそうであれば、広くアイデアを募集したいと思います。

――御社から提供できるリソースやアセットについてお聞かせください。

大和製罐・有馬氏: 設備面では、相模原の事業所内で劣化診断の実証試験を行っており、試験に使用する蓄電システムのプロトタイプを保有しています。こうした設備は、実証フィールドとして利用可能です。

また技術面に関してですが、一般的に劣化診断といえば電池の容量を見ることが多いですが、容量に加えて別のパラメーターも見ることで、エネルギー効率を把握しています。つまり再生可能エネルギーを一度貯めて使った際に、エネルギー効率がどうなるかを診断できるのです。これに関しては、世界的に見ても非常にユニークな技術だと自負しています。

加えて、蓄電システムは電池という直流部分と、直流と交流を変換する変換器の交流部分とで構成されていますが、この蓄電池と変換器の両者がエネルギー効率に関わります。従来の劣化診断では、蓄電池部分だけを見ていたのですが、直近の開発により変換器部分も診断ができるようになりました。ですから、電力系統と直接つながっている変換器部分も含めて、全体としてのエネルギー効率を把握できる状態になっています。こうした技術もご活用いただけます。

――最後に本プログラムにかける期待や、パートナー企業に向けたメッセージをお願いします。

大和製罐・有馬氏: 今の社会状況を見ると、リチウムの需要に対する供給の枯渇、それを踏まえたリユース電池の普及、BaaS(Battery as a Service)という考え方の広まりが、ほぼ目の前に迫っている印象があります。こうした社会の展開に乗り遅れないよう、技術開発と事業化を加速していきたいと思っています。私たちは学術との連携も重視しているので、アカデミアとのつながりも大切にしていただけるパートナーとともに、事業化に向けて取り組んでいきたいです。

大和製罐・鬼木氏: 今後、電池の普及が進むなかで、電池の安全な使用は非常に重要になってくるでしょう。特に電池のリユースにおいては、以前の使われ方によって電池の挙動に想定外な事象が起こる可能性もあります。この劣化診断サービスを通じて、電池が安全に二次利用できる世界をパートナー企業と協力して築いていきたいので、ぜひご応募をお待ちしています。

取材後記

本記事ではホスト企業のうち2社のインタビュー内容を紹介したが、いずれも事業構想が明確にあり、自社の足りないピースも明らかにされている。両社の足りないピースと噛み合うようであれば、ぜひ応募を検討してほしい。相模原市主催のプログラムであることから、市による実証費用の補助をはじめとした、市職員のサポートも期待できる。3者の力を結集すれば、これらの事業構想を最速で具体化できるのではないだろうか。

※『Sagamihara Innovation Gate』の詳細は以下URLよりご覧ください。

https://eiicon.net/about/sagamihara-innovation-gate2023/

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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