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医療現場のワイヤレス給電、リチウムイオン電池劣化診断など、高度なテクノロジーを用いた4つの共創チームが成果を発表『Sagamihara Innovation Gate』デモデイをレポート!

医療現場のワイヤレス給電、リチウムイオン電池劣化診断など、高度なテクノロジーを用いた4つの共創チームが成果を発表『Sagamihara Innovation Gate』デモデイをレポート!

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相模原市は今年度、市内企業と市内外のパートナー企業の共創で、新規事業開発を進めていくオープンイノベーションプログラム『Sagamihara Innovation Gate(略称:SIG)』を初開催した。今年度は、市内企業を代表して、製造業4社(SWCC株式会社/カヤバ株式会社/大和製罐株式会社/富士工業株式会社)がホスト企業として参加。この4社が実現したい事業構想を掲げ、パートナー企業を全国から募集した。

パートナー企業とのマッチング後は、対面でのワークショップでビジネスモデルの骨子を練りあげ、数カ月間のインキュベーション期間へと進んだ(※)。インキュベーション期間中、各チームはプロトタイプの作成やニーズ検証、実証実験などに取り組み、去る3月18日、4つの共創チームが相模原市内の多目的ホール「杜のホールはしもと」の壇上に立った。

本記事では、『Sagamihara Innovation Gate』の成果発表会の様子をレポートする。製造業の研究開発拠点が集まる相模原から今、どのような事業が立ち上がろうとしているのか。リニア中央新幹線の新駅誕生を控え、進化が加速する相模原の未来に、ぜひ思いを馳せてほしい。

※参考記事:ワイヤレス給電、道路環境、リチウムイオン電池、空気コントロールをテーマにした相模原市の共創プログラム――市内を代表するホスト企業4社が採択したビジネスプランとは?

「相模原市でイノベーションが生まれる環境を一緒に作っていきたい」――相模原市・諏訪氏

最初に、本プログラムの主催者である相模原市より諏訪氏が登壇。相模原市の現状や本プログラムについて説明した。

諏訪氏によると、相模原市では本オープンイノベーションプログラムに加えて、アクセラレーションプログラム(シード編/アーリー編)やイノベーション創出促進拠点事業なども展開されており、これらの取組はすべて、昨年度や今年度に始まったものばかりであり、「相模原市では今、イノベーションを起こそうとする機運が急速に高まっている」と話す。そのうえで、様々なステークホルダーと共に「相模原市でイノベーションが生まれる環境を一緒に作っていきたい」とした。

これから成果を発表する『Sagamihara Innovation Gate』は、相模原市内企業の新規事業開発を、全国のパートナーとなりうる企業と共にオープンイノベーション型で進めるプログラムだ。仮説検証先の探索や実証フィールドの調整などにおいては、相模原市の職員も積極的に関わり支援を行っているという。今年度事業のインキュベーション期間は約3カ月と短いが、「企業と企業が一緒に組んで事業を進めれば、3カ月でこれだけ進むという点にも注目して聞いてほしい」と会場に呼びかけた。

なお、今回の成果発表会では、2つの共創チームに審査員賞が授与された。ここからは、受賞チームの成果発表から順に紹介する。

<審査員>

・常盤木 龍治 氏(パラレルキャリアエバンジェリスト 株式会社EBILAB 取締役ファウンダー CTO CSO)

・下薗 徹 氏(Two Birds Consulting株式会社 代表取締役)

・村田 宗一郎 氏(株式会社eiicon 執行役員)

・井熊 直人 氏(相模原市 環境経済局 創業支援・企業誘致担当部長)

【審査員賞|SWCC × パワーウェーブ】 ワイヤレス給電システムを用いた安心・安全な医療現場の実現

電線やケーブルの製造・販売を手がけるSWCCは、独自のワイヤレス電力伝送技術を持つパワーウェーブとともに、医療現場の有線コードによる事故リスクを軽減するプロジェクトを開始。フリーポジションのワイヤレス給電装置の開発に挑み、完成した試作品について発表した。

SWCCが本プログラムのなかで着目した課題は、医療機器の高度化と増加にともない配線が乱雑化し、医療現場の事故リスクが高まっていることだ。この課題を解決するため立ち上がったのが、手術室などの医療現場で活用可能なワイヤレス給電装置の開発プロジェクトである。

だが、実現のためには求められる条件は多い。自由な位置で医療機器への給電ができること、既存の床への敷設ができる薄さであること、大電力での給電が可能なことなどだ。多くの条件を満たしていくには、自社の技術だけでは足りないところもあり、今回のプログラムを通じて、パワーウェーブと共同で開発をすることにした。

パワーウェーブは、動いているモビリティ(EVなど)に対して、ワイヤレスで給電する技術を磨いてきたスタートアップだ。電界結合方式という技術をシーズに創業した。すでに電動キックボード用の給電システムを開発し、実証実験も進めている。

今回は、同社の技術・ノウハウを活かして医療現場用のワイヤレス給電装置を試作した。会場では試作品の動画も披露された。目標どおり、約2ミリの薄さや30ワットを実現、さらに位置を変えても給電ができるフリーポジションも実現した。ワイヤレスにも関わらずアースもとれているそうだ。パワーウェーブ代表の阿部氏は、難しい要望だったが「とんでもないことを実現できた」と話す。

技術検証と並行してマーケティング調査やユーザーヒアリングも実施。医療関係者57人にアンケート調査を行ったところ、97%の人たちからポジティブな反応を得ることができたそうだ。また、建築コンサルや設計事務所、機器の販売先となりうる人たちからも興味を持ってもらえているという。

来年度以降、医療の適合化や製品化を進め、現場での実証実験や製造・販売を目指していきたいと話す。SWCCの広長氏は、「当たり前に使われる製品」にすることが最終的な目標だと語り、市場の大きさにも触れてプレゼンを締めくくった。

【審査員賞|大和製罐 × アプデエナジー】 リユースバッテリーによるエネルギー供給のサブスクリプションサービスBaaS

新たに蓄電池劣化診断技術を開発した大和製罐は、バッテリーのリユース事業を展開するアプデエナジーとともに、リユースバッテリーの効率運用を可能にする効率劣化診断のクラウドプロトタイプを構築した。

近年、再生可能エネルギーの急速な増加に伴い、特に太陽光発電の余剰が増加し、発電を強制的に止めることが増えている。発電を制限することで、大きな損失も発生しているという。この状況に対処するために両者が構築しようとしているのが、太陽光発電と蓄電池システムを効率的・経済的・採算的に導入・運用してオフグリッド化・マイクログリッド化を達成するBaaS(Battery as a service)だ。

太陽光発電と蓄電池を導入する際、蓄電池部分のエネルギーロスが分からないため、投資対効果(コストとオフグリッド化のバランス)の計算が難しいという課題がある。そこで、大和製罐が開発したのが蓄電池の劣化診断技術である。

同社の劣化診断技術の優位性は、Ah(アンペアアワー)ではなくWh(ワットアワー)という単位で診断できることだ。蓄電池の評価・計測技術、エネルギーロスの定量化技術、エッジ側の対応までは同社内で実現可能だが、クラウド展開にハードルがあったため、本プログラムを通じてパートナーを募集した。

パートナーのアプデエナジーは、廃車EVから取り出した電池を用いて、新しいEV(コンバートEV)の製造や電力を自給自足できるオフグリッド・蓄電システムを開発している。さらに、IoTの開発力もある。EVの普及により今後、リチウムイオン電池の需要は増えるが、原料のリチウムの供給は近い将来逼迫する可能性が高い。こうした状況に着目し、バッテリーの再利用に取り組んでいるのが同社である。今回はこの2社で、複数の蓄電池をクラウド上で管理できるシステムを開発した。各蓄電池の劣化度もリアルタイムで追えることがポイントだ。

このシステムを使えば何ができるのか。例えば、電力需要データと日照量データを取り込み、効率劣化診断解析を行う。すると、蓄電池と太陽光発電、パワーコンディショニングシステムの効率的運用を実現し、またそれを前提とした最適な導入量を算出できる。これは、より多くの再生可能エネルギー導入、あるいはより良い投資対効果の実現につながる。想定顧客は、工場など電力を大量に消費する企業など。今後、リユースバッテリーを用いた実証実験に取り組むとともに、ニーズ検証や実証提案なども行っていく計画だという。

「市民参加による道路保全効率化」「空気環境の見える化」など、相模原で育まれた事業の芽

●【カヤバ × セトラス】 安心安全な道路環境の実現

油圧緩衝器を製造・販売するカヤバは、ドラレコアプリを開発するセトラスとともに、市民参加型での路面診断ソリューションを開発。相模原市内で実証実験を行い、その成果を発表した。

パワー制御や振動制御技術に長けたカヤバは、路面の凸凹からくる振動を抑制するショックアブソーバを開発・提供している。この振動制御技術を活かし、振動から「路面の荒れ具合」を推定できる技術を開発した。同社製のIoT機器を車両に搭載して道路上を走行すれば、路面がどのように傷んでいるのかを診断できるのだという。すでにこの技術は、「スマート道路モニタリング®」の名称でリリースされている。現在、主に自治体が担っている道路維持管理業務の効率化に役立てることが狙いだ。

一方でセトラスは、防犯の観点からドライブレコーダー映像の取引市場を構築しようとしている企業で、無料のドラレコアプリも開発・提供している。今回のプログラムでは、同社のドラレコアプリのセンサーから取得する「縦方向の映像」を活用してデータを取得し、カヤバに提供することで、「スマート道路モニタリング®」のクオリティを高めていくことを目標に取り組んだ。

具体的には、相模原市内の市民26名にセトラスのドラレコアプリをインストールしてもらい、道路上を走行してもらった。その結果、17日間で合計407キロの道路データを取得できたそうだ。ドラレコアプリから取得したデータが、路面状況の可視化に役立つかどうかは、今後も検証を続ける必要があるが、使えそうな感触は得られたと話す。

また、「スマート道路モニタリング®」のニーズ検証を行うため、自治体職員にも話を聞き、「役立つ」とのコメントを得られたという。今後、市民のか道路使用頻度の高い事業者なども巻き込みながら、サービスの精度を高めていきたい考えだ。

●【富士工業 × グリーンノート】 空間の見える化による本物の快適さの提供

レンジフードで高いシェアを持ち、「空気」を軸に事業拡大を狙う富士工業は、AI・IoT・データ収集・解析システムの設計において強みを持つグリーンノートとともに空気の可視化に挑戦。実証実験の結果を報告した。

1人が1日に吸い込む空気の量は、1万4400L。それほど多くの空気を吸っているにも関わらず、一般の人々は空気の重要性を十分に認識しているとは言えない。空気のプロである富士工業でさえも、日々状況が変化するなかで、換気状況やCO2濃度を正確に把握するのは難しいという。そこで今回、IoTのプロであり空気の流れから様々な情報を取得してきたグリーンノートとともに、センサーを使って空気の流れの可視化に挑んだ。

まず、「空気の流れを計測すれば空気の良し悪しが分かるのか」をテーマに技術検証を実施。1m³の簡易空間を作製し、その中での換気状況を風向・風速とCO2濃度にて確認するラボ実験を行った。その結果、空気の動き(風速計のスカラー量)と換気状況(CO2濃度)には高い相関があることが確認できたという。しかし、医療コンテナ内など、より広い空間で実験を行うと、ラボ内よりも相関関係が弱まることが分かった。

また、空気の可視化ニーズがあるかどうかを確認するため、複数の事業者にヒアリングを実施。当初想定していた高齢者向け施設などでは、空気の可視化ニーズは顕在化していなかったが、限られたスペースで運営している都市型の保育施設では、空気の可視化に価値を感じてもらえそうな手応えを得られたそうだ。引き続き、空気の可視化とニーズの顕在化に取り組み、新たな市場を形成していきたいとした。

「相模原は“天地人”のすべてが揃った日本有数の地域」――メンター・常盤木氏

4チームの発表終了後、本プログラムのメンターを務めた常盤木氏が登壇。『未来を切り開くためのオープンイノベーション~地域力を活かす!相模原の新たな可能性~』をテーマにプレゼンを行った。ここでは、相模原の可能性に触れられたポイントを抜粋して紹介する。

▲パラレルキャリアエバンジェリスト 株式会社EBILAB 取締役ファウンダー CTO CSO 常盤木 龍治 氏

沖縄の挑戦者が集まる街「コザ」の街づくりや、長崎のテーマパーク「ハウステンボス」のDX、三重の飲食店「ゑびや」のDXなどで数々の実績を持つ。沖縄在住。

常盤木氏は、相模原市の人口推移をグラフで示しながら、2015年以降一時的に人口が減少したものの、「また盛り返してきて、今、人が増えている」と話す。相模原市内の主要駅周辺の不動産価格も安定して上昇しているとし、その理由として「相模原の地盤の強さ」を挙げる。「関東で最も耐震性が高い地層」を持つという地政学的な優位性から、大企業の拠点やリニア中央新幹線のルートに選ばれていると述べ、相模原という土地の強さを強調した。

相模原エリアの大学に通っていたという常盤木氏は、相模原の変化にも言及する。相模原といえば、製造業が盛んで堅実なイメージがあったが、今、市主導で今回のようなオープンイノベーションプログラムやアクセラレーションプログラムがスタートしている。「これだけの人たちが、このテーマで相模原に集まる未来なんて誰も想像していなかったと思う」と述べ、相模原の変化を賞賛した。

だが、相模原に課題がないわけではない。「過去20年・30年の蓄積してきた方法で仕事のできるプロは間違いなく、日本でもトップクラスに多い」と話す。一方で、新事業や新産業を立ち上げるには、「人から資金を引っ張ってくることや、新しいマーケットに訴求することが重要で、そうした自分たちと違う気風を、どう呼び込むかが大切だ」とアドバイスした。

新しいマーケットに訴求する方法として、常盤木氏は伊勢の飲食店「ゑびや」に導入した、「TOUCH POINT BI」というデータ分析システムに言及。これは、過去のデータをもとに、365日先までの来客数予測と、5日先までの販売予測が可視化されるシステムだ。常盤木氏はこれに関して、飲食店から見ると「来店客数が見えると何ができるのか。正しいシフトが組めるんです」と強調。良質なプロダクトを開発するだけでは売れず、「解決すべき課題が先にあってテクノロジーが必ず後。これがイノベーションの基本だ」と伝えた。

最後に「相模原の強みを活かして、ここが日本と世界を変えていける場になればと思う」と会場にエールを送り、プレゼンテーションを終えた。

常盤木氏のプレゼン終了後、審査員が講評を行った。相模原市の井熊氏は「4チームいずれも素晴らしいプレゼンだった。今回、2チームに審査員賞を授与したが、選ばれなかったから駄目だということはない。今後もプロジェクトを継続してもらえればと思う」と参加者らを激励した。

▲井熊 直人氏(相模原市 環境経済局 創業支援・企業誘致担当部長)

取材後記

『Sagamihara Innovation Gate DEMODAY』では、この地で培われてきた高度な技術力の一端を垣間見ることができた。様々な製造業が研究開発拠点を構える相模原市には、他にも多くの技術が蓄積されているのだろう。こうした技術が、オープンイノベーションを通じて社会に実装されていく。そんな未来を予感させるプログラムだった。本プログラムは、次年度も継続して開催されるという。また、3月末には橋本駅近辺にイノベーション創出促進拠点『FUN+TECH LABO』も開設された。相模原市のイノベーション創出に向けた活動は、まだ始まったばかり。これからの進化に引き続き注目していきたい。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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