「SDV」の普及で車両はアップデートする時代に。政府が本腰を入れてシェア3割を目指す「モビリティDX戦略」とは
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは「SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)」です。自動車業界における次なる大きな革命とも言えるSDVは、ソフトウェアが主導する車両の設計と機能を実現します。この記事では、今年5月に経済産業省にて策定された「モビリティDX戦略」の概要も含め、市場における最新動向、将来の展望に至るまでを深堀りしていきます。
SDVは車両の機能をアップデートで拡張できる
SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)とは、車両の主要機能がソフトウェアによって制御され、カスタマイズやアップデートが可能な自動車のことを指します。この概念は、自動車が単なる移動手段から、アップデート可能なソフトウェアプラットフォームへと進化する過程を表しています。
SDVの起源は、自動車業界が電子技術と情報技術を車両設計に取り入れ始めた1990年代に遡ります。特に、エンジン制御ユニットの導入がその始まりであり、これにより車両の性能調整や燃費効率の向上が可能となりました。しかし、SDVの概念が広く認識されるようになったのは、テスラモーターズが市場に参入し、オーバー・ザ・エア(OTA)技術を使って車両ソフトウェアの遠隔更新を実現した2010年代からです。
参照ページ:OTA|経済ナレッジバンク|
SDVはハードウェアよりもソフトウェアが重視される点が特徴です。車両の機能やサービスは、ソフトウェアによる更新で改善や拡張が可能であり、これにより消費者は新しい車を購入することなく最新の機能を利用できるようになります。例えば、運転支援システムの向上、新しいインフォテインメント機能の追加、さらには完全自動運転への移行など、ソフトウェアの更新だけで実現可能です。
国内のSDVを加速させる「モビリティDX戦略」
国内のSDVを加速させるために、今年5月に経済産業省と国土交通省が共同で策定したのが「モビリティDX戦略」です。SDVを含む自動車技術の進化により、車両の機能をクラウド経由で更新し、新たな価値を提供することを目指しています。
具体的には、自動車の高度化、モビリティサービス、データ活用の3つの領域で官民協力を進め、国際競争力を強化することを計画しています。
ロードマップとして、2030年および2035年にSDVのグローバル販売台数における「日系シェア3割」の実現を目標にしています。
参照ページ:「モビリティDX戦略」を策定しました (METI/経済産業省)
SDVの市場規模
現在のSDV市場は、自動車業界のデジタル化により急速に成長しています。調査会社のグローバルインフォメーションのレポートによると、2030年までには5104億ドルに達すると予測されており、期間中の年平均成長率(CAGR)は10.5%となる見込みです。
この成長は、自動運転技術、コネクテッドカーサービス、EV化の進展によって牽引されており、SDVはこれらの技術を統合し、新しい消費者体験を創出する重要な役割を担っています。
地域別で見ると、2022年にはアジア太平洋地域が最も高い収益シェアを獲得していて、中国でのEVの普及が市場を牽引しています。
国内大手メーカーが連携してシェア獲得を目指す
前述のモビリティDX戦略を受け、政府の主導で国内の大手メーカーが連携する動きも出ています。トヨタとホンダ、日産の3社は、2025年度以降にソフトウェアやシステムを繋ぐ基盤部分の仕様を共通化することを目指しています。
これが実現するとメーカーを横断して部品やソフトウェアを実装できるようになり、開発の効率化が加速します。それだけでなく、自動車の製造から利用、廃棄までのサイクルから取得できるデータの活用も戦略に含まれます。データ利活用によって災害時の状況把握などが効率化し、サプライチェーンの強靭化にも貢献できる期待がかかっています。
編集後記
SDVは車両のハードウェアよりもソフトウェアに注力した新しい車の形です。スマートフォンのようにアップデートすることで新しい機能が使えたり、機能が改善されたりします。この分野ではテスラなどが先行していますが、かつて日本のお家芸と言われた自動車産業はSDVに活路を見出すことはできるのでしょうか。政府もシェア3割を目標にした野心的なモビリティDX戦略を打ち出しているので、グローバルの勢力図がどう変わるのか楽しみです。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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