スポーツクラブ×食農スタートアップが取り組む余剰米を用いたローカルヘルシーフード『満腹たんぽ』の事業開発に迫る。全国展開を見据えたスポーツ起点の事業共創の今
2009年に設立された秋田ノーザンハピネッツは、秋田県をホームとするプロバスケットボールクラブであり、クラブ運営事業を中心に、子ども食堂の運営をはじめとした地域に根ざす多彩な事業を手がけている。
子ども食堂の現場の声をきっかけに生まれたローカルヘルシーフード事業は、株式会社エーエスピーとの出会いによって、大きく事業を拡大している。本記事では、秋田ノーザンハピネッツの植松氏とエーエスピー代表の林氏に登場いただき、共創に至った背景や現状の進捗、今後の展開について詳しく話を聞いた。
※関連記事:10の共創プロジェクトが実証実験の成果をプレゼン!スポーツと他産業の連携によって生まれた新たな事業とは?――地域版SOIPデモデイレポート<後編>
「米余り」から始まった共創──秋田で活動するスポーツクラブとフードロスに取り組む企業が手を組んだ理由
――まずは、それぞれの事業の特徴を教えてください。
秋田ノーザンハピネッツ・植松氏 : 秋田ノーザンハピネッツは2009年に設立され、プロバスケットボールクラブの運営を中核事業としています。それに加え、地域に根ざした多彩な事業も手がけており、例えば、子ども食堂の運営や、コッペパンの製造・販売、地ビール『秋田あくらビール』の製造・販売などです。さらに、当社の子会社では、道の駅『アキタウミヨコ』の指定管理者として運営を任されています。
▲プロバスケットボール B1リーグに所属する秋田ノーザンハピネッツ(画像出典:プレスリリース)
エーエスピー・林氏 : 当社は、農産物を中心に無駄なく使い切るというコンセプトで、原料化や商品化を行う事業を展開しています。最近のトレンドで言うと、いわゆるフードロスを解決するような活動を行う企業です。
私たちは、食文化の継承も大切にしています。食習慣や食文化の変化によって、これまで親しまれてきた食が選ばれなくなり、農作物の行き先が失われることが増えています。そうなることを防ぎ、持続可能な一次産業につなげるため、今の生活様式に合った商品開発を進め、食文化を受け継いでいきたいと考えています。
▲エーエスピーの事業コンセプト(画像出典:エーエスピーHP)
エーエスピー・林氏 : 当社は、農産物を中心に無駄なく使い切るというコンセプトで、原料化や商品化を行う事業を展開しています。最近のトレンドで言うと、いわゆるフードロスを解決するような活動を行う企業です。
私たちは、食文化の継承も大切にしています。食習慣や食文化の変化によって、これまで親しまれてきた食が選ばれなくなり、農作物の行き先が失われることが増えています。そうなることを防ぎ、持続可能な一次産業につなげるため、今の生活様式に合った商品開発を進め、食文化を受け継いでいきたいと考えています。
――両社が、共創事業に取り組むことになった背景についてもお聞きできますか。
秋田ノーザンハピネッツ・植松氏 : この共創事業を進めるきっかけの一つとなったのが、私たちが運営する子ども食堂の現場の声でした。子ども食堂では、地域の農家さんから提供いただいたお米を使って食事を作っていますが、共創事業を始める前は、寄付でいただくお米の量が多すぎて使い切れない年もあったのです。農家さんに話を聞くと、2022年当時は秋田県内で米の余剰が生じていたことが分かりました。
こうした状況を受け、まずは「農家さんの余ったお米を有効活用しよう」という発想が生まれました。さらに、お米の購入分を農家さんに還元したいという思いもあり、この共創事業が動き出したのです。最近は米の価格が上昇して状況は変化していますが、この取り組みの根底には、地域資源を有効に活用したいという考えがありました。
――「米余り」という地域課題に対する問題意識が、共創事業を進めるきっかけになったのですね。
秋田ノーザンハピネッツ・植松氏 : そうです。私たちは、大きなオーナー企業を持たないクラブです。拠点とする秋田県は人口減少が進み、産業の選択肢も限られ、関連産業が広がりにくいという地域的な課題を抱えています。そうした背景もあり、当社の社長は以前から「秋田で、より多様な産業を生み出していきたい」という考えを持っていました。その延長線上で、スポーツと異業種を掛け合わせる共創事業に取り組むことになったと聞いています。
――エーエスピーの林さんにもお聞きしたいのですが、御社がスポーツクラブとの共創に取り組もうと考えた理由を教えてください。
エーエスピー・林氏 : 理由は大きく二つあります。一つは、大学と連携し、アスリートの食に関する共同研究を進めており、スポーツ庁が主催するSOIP※に関心を持ったことです。もう一つは、秋田ノーザンハピネッツさんがプログラムの中でフードロスの課題解決に取り組もうとされており、私たちの事業との親和性が高いと感じました。
※SOIP:スポーツ界のリソースと他産業等との技術知見を連携させることにより、世の中に新たな財やサービスを創出するプラットフォーム
そもそも、なぜ私たちがアスリート食の研究に取り組んでいたかというと、農作物のフードロスを解決するには、出口となる商品をアップサイクルして提供する必要があります。その出口の選択肢の一つとして、アスリート食は有効な選択肢になり得ると考え、以前から注目していました。
――秋田ノーザンハピネッツさんとの共創事業として、ローカルヘルシーフード『お米プロテインバー』を開発・発表されました。この商品に辿り着いた背景もお伺いしたいです。
エーエスピー・林氏 : アスリート食の共同研究を進めている大学との議論の中で、アスリートは日常的にお米を多く摂取しているという話を聞いていました。加えて、グルテンフリーという観点からも、米や米粉を活用した商品開発は、以前から検討していたテーマでした。先ほど、植松さんのお話にあったように、米離れの影響から秋田では余剰米が生まれている状況でしたから、それらを活用して、お米をベースにしたアスリート向けの食品を作りたいと考えたのです。
それと、フードロスとなっている素材の一つに、ごま油の製造過程で発生する搾りかすがあります。この搾りかすにはタンパク質が多く含まれているため、余剰米と組み合わせることで、アスリートが効率的にプロテインを補える米食品ができるのではないかと考えました。これが、『お米プロテインバー』開発の出発点です。
▲共創により開発が進められた「お米プロテインバー」(画像出典:秋田ノーザンハピネッツHP)
秋田米と伝統食“きりたんぽ”を活かした『満腹たんぽ』、試合会場でのテスト販売をもとに通販で全国展開を目指す
――2023年から事業共創をスタートされた両社ですが、当初はどのようなゴールを描いておられたのでしょうか。新規事業創出の観点と社会課題解決の観点、それぞれについてお聞かせください。
エーエスピー・林氏 : まず新規事業創出の観点からお話しします。秋田ノーザンハピネッツの水野社長が「秋田の地から新しい産業を興したい」という強い思いを持っておられました。その考えを踏まえ、お米をベースにした食品産業を、米どころである秋田で事業として成立させることを、一つのゴールに据えていました。
社会課題解決の観点では、主食であるお米の需要が全国的に減少している現状を踏まえ、新たな需要を掘り起こすことで、米農家の方々の持続的な経営に貢献していきたいとの考えがありました。また、グルテンフリーを求めるニーズが国内外で広がる中、その受け皿としてお米を活用した食品は有効だと捉えており、この問題にも応じられる取り組みにできると思いました。
――『お米プロテインバー』事業はどの段階まで進んでいるのでしょうか。現時点での状況をお聞きしたいです。
秋田ノーザンハピネッツ・植松氏 : 現在は、商品化に向けた検証フェーズにあります。2025年頃から、ノーザンハピネッツの試合会場での対面販売や、バイヤー向けの試食・サンプリング、アンケート調査などを重ねてきました。小売店での販売も進めており、今まさに最終的なパッケージを確定させようとしている段階です。その後、これまで接点のあった小売業者・卸業者さんに完成品としてサンプルを届け、価格を含めた条件を詰めていく予定です。商品名も『満腹たんぽ』に変更しています。
▲秋田名産であるお米を活用した伝統食品「きりたんぽ」をヒントに開発。タンパク質を多く含んでおり、アスリート向けにも適している。
――販売状況や顧客の反応はいかがでしょうか。
秋田ノーザンハピネッツ・植松氏 : 試合会場では、きりたんぽ1本を半分にカットしたものを税込200円で提供し、1回あたり150〜200食ほどを販売しています。お試し価格での提供のため、1回あたりの収益は3万〜3万5,000円程度ですが、こうした試験販売を重ねながら、味やレシピ、価格、販路の調整を進めています。小売店への展開時には、2本をパッケージ化して冷凍販売することを考えており、生産規模や販路を今後拡大していく予定です。
また、卸業者や地元スーパーさんからも「おもしろい商品だね」という評価を多くいただいています。きりたんぽは鍋で食べるのが一般的で、あっても味噌を塗って焼く程度にとどまっています。今回のように、いぶりがっこなど具材を入れて食べるという発想そのものが新しく、その点に新鮮さを感じてもらえたようです。タンパク質を多く含ませるという着眼点についても、高評価を得ています。
▲試合会場での販売も行われている。「ごまきなこ風味」「カレー風味」「いぶりがっこ風味」の3種類のラインナップで展開。すべて無添加であることも特徴だ。
――この商品開発を進めるにあたり、エーエスピーさんが大切にしていたことはなんでしょうか?
エーエスピー・林氏 : 開発当初は、アスリートに食べてもらうプロテインバーを目指していたため、プロテインの含有量をどこまで高められるかを意識していました。ただ、タンパク質の含有量を上げながら、きりたんぽとしてのコンセプトを損なわずに仕上げるのは、技術的に難しい部分も多くありました。
また、タンパク質の含有量を高めること自体は簡単でも、おいしくなければ継続して食べてもらえません。実際に、アスリートの栄養指導に携わる方々にプロテインリッチな商品についてヒアリングすると、「食べてみたけれど、味が合わず続いていません」という声も多かった。
そこで途中からは、含有量だけでなく「継続して食べられる味」であることを重視する方向へと舵を切りました。現在は、おいしさと栄養のバランスを両立させることを意識しながら、さらなる開発を進めています。
オープンイノベーションが拓いた可能性─スポーツと食の企業連携が実現した新しい事業モデル
――本事業の推進が加速したポイントはどのあたりにあったのでしょうか?
秋田ノーザンハピネッツ・植松氏 : 私たちが提供しているアセットの一つが、当社の持つネットワークです。今回の商品の製造は、秋田ノーザンハピネッツのスポンサー企業であるジェイエイ秋田しんせいサービスさんに担っていただいています。同社はもともと、きりたんぽの製造を行っており、そのノウハウや製造設備をお借りすることで、きりたんぽの派生商品として本商品を開発できました。
また、試食・サンプリングについても複数のスポンサー企業に協力いただきましたし、当クラブのユースチームやプロのコーチから「どのような食が望ましいか」といった意見を聞きながら商品設計を進めてきました。対面販売は、秋田ノーザンハピネッツのホームゲームの試合会場で行っており、こうした場も含めて、私たちが持つアセットを本事業に活かせていると考えています。
▲両社のリソースを活用しながら、商品開発が進められている。
エーエスピー・林氏 : この商品は、アスリート食の共同研究を行っている北海道文教大学の先生に確認いただきながら商品開発を進めてきましたし、これまで私たちが培ってきた食品開発のノウハウも活かしています。
また、私たち食品メーカー単独ではなく、スポーツクラブを持つ企業と共同開発することで、ストーリー性のある商品づくりができたことは大きな価値だと感じています。スポーツクラブとの共創ならではの特徴ではないでしょうか。
この他にも、秋田ノーザンハピネッツさんのスポンサー企業であり、今回の商品の製造を担っていただいたJAグループのジェイエイ秋田しんせいサービスさんの協力がなければ、ここまで事業を具体化することは難しかったと思います。
▲2023年度の共創プログラム『SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD』では、本事業で最優秀賞を受賞されている。
――最後に、今後の展望や意気込みをお聞かせください。
エーエスピー・林氏 : 2025年の大阪・関西万博に出展し、本商品を紹介しています。万博では目新しさから多くの質問をいただきましたが、「きりたんぽを食べたことがある」という方は1割にも満たない状況でしたが、商品の説明をすると味のイメージがつくため、「それなら、おいしそう」と関心を持っていただけました。
逆に言えば、説明なしで店頭に並んでいても、手に取ってもらいにくい商品だとも感じたため、全国展開の際には、商品の背景や食べ方を伝えやすい通信販売なども事業展開のひとつとして見据えています。
秋田ノーザンハピネッツ・植松氏 : ファンの皆さんからも、好意的な反応をいただいており、「頑張ってほしい」といった応援の声に加え、販売していないタイミングでも「あのきりたんぽは再販しないのか」といった問い合わせをいただいています。複数回購入してくださっている方もおり、一定の認知と再購入につながる手応えを感じています。
まず地元・秋田での販売基盤をしっかり固め、ホームゲームでの販売や地域のネットワークを活かしながら、商品をより多くの方に届けていきたいです。将来的には、その経験をもとに全国展開も視野に入れて事業拡大に取り組んでいきます。
※本事例は、令和5年度にスポ-ツ庁主催事業内で実施した取組となります。
取材後記
地域に根差すスポーツクラブと、地域課題に共鳴する企業が手を組み、秋田の余剰米を活かした新たな事業が生まれた。試合会場でのテスト販売を経て、高タンパク・無添加でおいしさにもこだわったローカルヘルシーフード『満腹たんぽ』として商品化が進んでいる。スポーツクラブのネットワークと食品企業のノウハウが重なり、販路拡大への挑戦も始まっているようだ。スポーツオープンイノベーションの先進事例として、この秋田発の挑戦がどこまで広がるか、引き続き注目していきたい。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子)