導入企業が増える「週4日勤務」にはどのようなメリットが?導入事例から見える生産性、ワークライフバランスなどの変化を紹介
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは「週4日勤務」です。近年、週5日勤務から週4日勤務へのシフトが、働き方改革や生産性向上、ワークライフバランスの実現手段として注目されています。ヨーロッパやアメリカを中心に、多くの企業が試験的に導入。その結果、労働者の幸福度や生産性の向上が報告されています。本記事では、週4日勤務のメリットや課題、導入事例などについて詳しく解説していきます。
週4日勤務が注目されている背景
週4日勤務は、従来の週5日勤務体制に比べて労働時間を短縮し、労働者が1週間のうち4日間だけ働く勤務形態です。通常、1日あたりの労働時間は変わらず、週の労働日数を減らすことで、仕事と生活のバランスを改善することを目的としています。企業によっては、労働時間を短縮せずに4日勤務とし、その分労働時間を1日あたり長くするパターンもあります。
この新しい勤務形態は、ヨーロッパやアメリカを中心に導入が進んでおり、生産性や従業員の満足度に与える影響が注目されています。
週4日勤務が注目されている背景には、いくつかの要因があります。
ワークライフバランスの改善
長時間労働や仕事中心の生活が続く中、労働者の幸福度や健康状態の悪化が社会問題化してきました。週4日勤務は、従業員に休息とプライベートの時間をより多く提供することで、仕事と生活のバランスを取り戻す手段として注目されています。
生産性向上への期待
研究や試験導入の結果、週4日勤務により労働者の集中力や効率が向上し、逆に生産性が上がるケースも報告されています。仕事時間を減らすことで、限られた時間内での業務処理が効率化され、パフォーマンスが向上するという考え方です。
柔軟な働き方のニーズ
リモートワークやフレックス勤務など、働き方の多様化が進む中で、労働者はより柔軟で自由度の高い勤務体系を求めるようになりました。週4日勤務は、その一環として、特に若年層やIT業界を中心に高い関心を集めています。
企業イメージの向上
週4日勤務を導入することで、企業は従業員の働きやすさを重視する姿勢を示すことができ、優秀な人材の採用や定着率の向上につながる可能性があります。
このように、週4日勤務は従業員の健康や生産性向上、企業の競争力強化の観点から、世界中で注目を集めています。
週4日勤務に関するレポートや事例
週4日勤務には具体的にどのような効果があるのでしょうか。週4日勤務の効果に関するレポートや、試験的な導入事例、社会実装の事例などを紹介していきます。
週4日勤務には「圧縮労働型」「労働時間・報酬削減型」「労働時間削減・報酬維持型」の3パターンがある
リクルートワークス研究所が週4日勤務制についてまとめたレポートによると、週4日勤務を実装する方法には3つのパターンがあるとしています。
●圧縮労働型:1日当たりの労働時間が長くなるため、 従業員の長時間労働や健康管理に留意する必要がある
●労働日数/時間・報酬削減型:目的にもより異なるが、企業側の業務調整目的の場合、報酬の削減を補填するために 副業を認める企業もある
●労働日数/時間削減・報酬維持型:欧州企業に多く見られ るもので、労働時間は削減するが、労働生産性を上げて業績や品質を維持させる
出典:「週休3日」で働く ― 世界各国に広がる週4日勤務制・トライアル事例
【圧縮労働型】ファーストリテイリングの事例
ファーストリテイリングは、2015年に希望する従業員を対象に「週4日勤務制度」を導入しました。この制度は、ユニクロなどの店舗スタッフを対象として、通常の週5日勤務を4日に短縮し、1日の労働時間を長くする形で実施されました。給与は週5日勤務と同水準を維持し、従業員のワークライフバランスを向上させることを目的としています。
特に、育児や介護、自己啓発など個人の事情に対応しながら働き続けられる環境を整備する狙いがあり、労働の柔軟性を高める試みとして注目されました。この制度は、働きやすさを向上させるとともに、より多様な人材の確保にもつながることが期待されています。
参照ページ:地域正社員の制度|ユニクロ(UNIQLO)地域正社員(フルタイマー) 中途採用
【労働時間・報酬削減型】みずほ銀行の事例
みずほ銀行は、2021年に週4日勤務制度を導入しました。この制度は、希望する従業員を対象に、週の勤務日数を4日または3日に減らし、勤務時間を短縮する一方で、給与もその分減額する形で実施されています。制度の目的は、従業員のワークライフバランスの向上と多様な働き方の提供で、特に育児や介護と仕事を両立したい従業員をサポートするための施策として設けられました。
週4日勤務を選択することで、労働者はプライベートの時間を確保できるため、自己研鑽や家庭の事情に対応しやすくなります。また、柔軟な働き方を推進することにより、従業員の長期的な健康とモチベーション向上が期待され、みずほ銀行はこうした取り組みを通じて、多様なニーズに応える働き方改革を進めています。
参照ページ:ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン|人事 自分らしいキャリアの実現
【労働時間削減・報酬維持型】アイスランドでの事例
週4日勤務が世界中で議論されるきっかけとも言えるのがアイスランドでの事例です。アイスランドでは、2015年から2019年にかけて週4日勤務の実証実験が行われました。この試験には、約2,500人の公務員が参加し、週の労働時間を40時間から35時間程度に短縮しつつ賃金は据え置く形で実施されました。
実験の結果、労働者の生産性は維持または向上し、同時に従業員のストレスが減少し、仕事とプライベートのバランスが改善されたことが報告されました。また、参加者の健康状態や幸福度が向上し、この成功を受けてアイスランド政府は週4日勤務を推奨する方針を打ち出し、より多くの職場で導入が進められています。
参照ページ:Going Public: Iceland's Journey to a Shorter Working Week - The Autonomy Institute
編集後記
今回の記事では、週4日勤務の概要や各企業での実施事例を取り上げました。週4日勤務は、ワークライフバランスの向上や生産性の改善を目指す新しい働き方として注目を集めています。実際に導入を試みた企業では、従業員の幸福度が向上し、効率的な業務運営が可能になるなど、ポジティブな結果が報告されています。
とはいえ、業種や業務内容によっては導入が難しい場合もあり、企業ごとの柔軟な対応が求められるでしょう。今後、さらなる働き方の多様化が進む中で、週4日勤務がより多くの企業で定着するかどうか、引き続き注目していくべきテーマです。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
■連載一覧
第1回:なぜ価格が高騰し話題となったのか?5分でわかる「NFT」
第2回:話題の「ノーコード」はなぜ、スタートアップや新規事業担当者にとって有力な手段となるのか?
第3回:世界的なトレンドとなっている「ESG投資」が、スタートアップにとってチャンスである理由
第4回:課題山積のマイクロプラスチック。成功事例から読みとくスタートアップの勝ち筋は
第5回:電力自由化でいまだに新規参入が増えるのはなぜ?スタートアップにとってのチャンスとは
第6回:「46%削減」修正で話題の脱炭素。46%という目標が生まれた経緯と、潜むビジネスチャンスとは
第7回:小売大手がこぞって舵を切る店舗決済の省人化。「無人レジ」の社会実装はいつ来るか?
第8回:実は歴史の深い「地域通貨」が、挑戦と反省を経て花ひらこうとしているワケ
第9回:音声配信ビジネスが日本でもブレイクする予兆。世界の動向から見える耳の争奪戦
第10回:FIREブームはなぜ始まった?「利回り4%」「生活費の25倍の元本」など、出回るノウハウと実現可能性は
第11回:若年層は先進層と無関心層が二極化!エシカル消費・サステナブル消費のリアルとは
第12回:「ワーケーション」は全ての在宅勤務社員がターゲットに!5年で5倍に成長する急成長市場の実態
第13回:なぜいま「Z世代」が流行語に?Z世代の基礎知識とブレイクしたきっかけを分析
第14回:量子コンピュータの用途は?「スパコン超え報道」の読み解き方はなど基礎知識を解説
第15回:市場規模1兆ドルも射程の『メタバース』で何が起こる?すでに始まっている仮想空間での経済活動とは
第16回:『TikTok売れ』はなぜ起こった?ビジネスパーソンが知っておきたい国内のTikTok事情
第17回:パンデミックが追い風に。マルチハビテーションが新しいライフスタイルと地方の課題解決を実現できる理由
第18回:Web3(Web3.0)とは何なのか?Web1.0とWeb2.0の振り返り&話題が爆発したきっかけを解説
第19回:フェムテックで先行する欧米と追従する日本。市場が活気づいている背景とは?
第20回:withコロナに「リベンジ消費」は訪れるか?消費者の“意向”と実際の“動向”からわかること
第21回:子供が家族の介護をサポートする「ヤングケアラー」の実態と、その問題とは?
第22回:半導体不足はなぜ起きた?米中貿易摩擦、巣ごもり需要、台湾への依存などを解説
第23回:【ビジネストレンドまとめ】注目を集めた5つの事業ドメインとは?
第24回:長引くコロナ禍で顕著になる“K字経済”とは?格差が拡大する「ヒト」と「企業」
第25回:「パーパス」とはなぜ注目されるのか?誰のためのものか?5分でわかる基礎知識
第26回:NFT・メタバース・Web3はどう違う?注目を集める「新しいエコシステム」5選
第27回:サステナブルのさらに先いく「リジェネラティブ」とは?実践企業や背景を解説
第28回:16年で2倍に膨れ上がった『電子ゴミ』は何が問題なのか。唯一の解決策とは?
第29回:サウナビジネスはグローバルで健全な成長も、国内ではサウナユーザーは激減。サウナビジネスの最新事情
第30回:【ビジネストレンドまとめ】話題となった「社会課題」トレンド6選
第31回:Play to Earn(P2E)はなぜ注目を集めているのか?ビジネストレンドとしての基礎知識
第32回:脅威の市場ポテンシャルが期待されるクラウドゲーム。GAFAMやソニー、任天堂が参入するポイントを解説
第33回:FIRE、マルチハビテーションなど注目を集めるライフスタイルに関連するビジネストレンド4選
第34回:「ロボアドバイザー」はミレニアル・Z世代になぜ人気?コロナ禍で加速する新しい資産運用の形
第35回:加速する人への投資。岸田首相「5年で1兆円」の方針表明で注目集めるリスキリングとは?
第36回:画像生成AIはなぜ「世界を変える」のか?ビッグテックが拒む「一般公開」と「オープンソース」がもたらす影響力とは
第37回:クリエイターの6割が収益化!国内で広がる「クリエイターエコノミー」の実態と事例
第38回:ドローン分野でも特に熱い「空飛ぶクルマ」は加速度的な成長見込み!ユースケースやリードする国内企業とは
第39回:『ChatGPT』の何がすごい?Google一強時代をおびやかすポテンシャルとは
第40回:現実と同等の仮想空間を構築する『デジタルツイン』はなぜ製造業に効果的?東京都のデジタルツイン計画とは?
第41回:小売業に革命を起こす「ダークストア」、激化する大手とスタートアップの覇権争い
第42回:物流の2024年問題とは?人手不足とECの急成長で物流企業とトラックドライバーが受けるリスクとその対策
第43回:各社がこぞってトレンド予測する若者世代の「セルフケア」はなぜ今注目を集めているのか?
第44回:大手SNSが問題を抱えるなか台頭する「次世代SNS」の有望株とは
第45回:介護人材は間も無く32万人不足へ。台頭は必須の『介護ロボット』の現状と先行事例を紹介
第46回:存在感を強める「グローバルサウス」なぜ今注目を集めているのか?定義や背景、直面する課題などを解説
第47回:位置情報を活用する「ジオターゲティング」がマーケティングに新風を巻き起こしている理由とは?市場動向や活用事例を紹介
第48回:「GDPR」はEUだけでなく世界中に影響を与える。国内事業者への影響や改正された個人情報保護法との違いを解説
第49回:驚異的な成長が見込まれる『デジタルヒューマン』の有力なユースケースとは?チャットボットとどう違う?
第50回:Googleの研究で注目される「心理的安全性」とは?リーダー、マネジメント、人事担当者ができることを解説
第51回:ヴィーガン市場が拡大中!ヴィーガンの基礎知識から最新の市場動向、ビジネストレンドを解説
第52回:ビジネスにおける『レジリエンス』の重要性。VUCAの時代を生き抜く、組織と個人のレジリエンスのあるべき姿とは
第53回:『ナイトタイムエコノミー』が観光産業の起爆剤になる理由とは?夜間の観光を活性化させるナレッジと国内事例を紹介
第54回:『プライバシーテック』が注目される背景とは?高まる個人情報リスクと、GDPRなど各国の規制を解説
第55回:『モーダルシフト』が担う3つの重責。環境問題、人手不足、コスト削減をどうやって実現するのか?
第56回:性差をイノベーションに繋げる「ジェンダードイノベーション」に集まる期待と、科学・技術分野の構造が抱える問題
第57回:近年の半導体業界の動向は?台湾ファウンドリが一極集中、米中貿易摩擦によるリスク、日本企業の巻き返しなどを解説
第58回:「SDV」の普及で車両はアップデートする時代に。政府が本腰を入れてシェア3割を目指す「モビリティDX戦略」とは
第59回:小売業者が自らメディアとなって収入を得る「リテールメディア」。近い未来にテレビの広告収入を上回ると予想されるポテンシャルとは?
第60回:時間効率にお金を払うタイパ消費。Z世代が課金するグルメ、エンタメ、ECの特徴とは
第61回:フィッシング、マルウェアなどの脅威に立ち向かうサイバーセキュリティ。政府も予算を投じるディープフェイクの近年の状況などを解説
第62回:分岐点をむかえるアルツハイマー治療 これまでの治療とどう違うのか、新薬がなぜ期待されているのかを解説
第63回:伝統と科学が融合する「デトックス消費」 現代社会にあわせたアプローチで成長を続ける新たなデトックスビジネスとは