右肩上がりで増え続ける「大学発ベンチャー」。大学別企業数や博士号取得者のデータから見える昨今の傾向とは?
東京の「GTIE」(※1)、大阪の「KSAC」(※2)など、全国に誕生している大学を中心としたコンソーシアム。それだけ、大学発ベンチャーが新しい時代のイノベーション担い手として注目されている証拠と言えます。
22年3月に経団連が公表した「スタートアップ躍進ビジョン」の提言の中でも「大学を核としたスタートアップエコシステム」が盛り込まれており、大学発ベンチャーに大きな波が来ているといえるでしょう。
その実態を探るため経済産業省は5月15日、2023年度に実施した調査結果の速報を発表しました。
この調査は、大学等の研究成果をもとにしたスタートアップの設立状況を観測し、事業環境やニーズを把握し、その成長に寄与する要素を分析することを目的としています。本記事ではその結果から見えてきた現状をまとめます。
参照ページ:令和5年度大学発ベンチャー実態等調査の結果を取りまとめました(速報)
※1)GTIE……東京大学・東京工業大学・早稲田大学を主幹機関とした『世界を変える大学発スタートアップを育てる』プラットフォーム
※2)KSAC……関西の大学・産業界・金融界・自治体等70以上の機関が参画。世界に伍するスタートアップ・エコシステムの構築をめざすプラットフォーム。
大学発ベンチャーの数は前年比13%増で、過去最多に
2023年度調査において存在が確認された大学発ベンチャーは4,288社でした。2022年度に確認された3,782社から506社増加し、企業数及び増加数ともに過去最高を更新しました。
なお、この調査で「大学別ベンチャー」と定義するのは、以下の5つのうち1つ以上に当てはまるベンチャー企業のことを指しています。
①研究成果ベンチャー:大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー。
②共同研究ベンチャー:創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と共同研究等を行ったベンチャー。(設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)
③技術移転ベンチャー:既存事業を維持・発展させるため、設立5年以内に大学から技術移転等を受けたベンチャー。(設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)
④学生ベンチャー:大学と深い関連のある学生ベンチャー。現役の学生が関係する(した)もののみが対象。
⑤関連ベンチャー:大学からの出資がある等その他、大学と深い関連のあるベンチャー。
大学別ベンチャー企業数では慶應義塾大学が京都大学を抜き2位に
大学別の大学発ベンチャー数はこれまで通り東京大学が1位をキープしています。注目すべきは昨年3位だった慶應義塾大学が、昨年2位の京都大学を抜いたこと。学内発のベンチャーを300社創出することをミッションとしている慶應義塾大学は、291社をマークしミッション達成まで残りわずかとなりました。
また大阪大学の増加に加え、東京理科大学、立命館大学などの私立大学の躍進が目立つ結果に。ほか多くの大学でベンチャー創出に力を入れていることがうかがえます。
アカデミア出身者がCEOになるケースが圧倒的最多
大学発ベンチャーのCEOが、CEOになる前の最終経歴は「大学・公的研究機関の教職員・研究者」が最も多く3割ほどを占めています。次いで「博士生」「大学の学部生・高等専門学校の学生」「修士生」と続いており、アカデミア出身者がCEOとなるケースが圧倒的に多いことがわかります。
技術移転ベンチャーや教職員等ベンチャーにおける博士号取得者が多い結果に
大学発ベンチャーの従業員総数に占める博士号取得者の在籍割合は、大学発ベンチャーの定義別に見ると、特に技術移転ベンチャーや教職員等ベンチャーにおいて高くなっています。また、大学発ベンチャー全体においても一般企業研究職に比べて在籍割合が高いことから、大学発ベンチャーでは博士号取得者が積極的に活用されていることがうかがえます。
編集後記
大学発ベンチャーを支援する取り組みが各地で行われており、その成果もあってか順調にその数は増え続けています。今年度もまた、新たなコンソーシアムが発足されておりさらなる増加が見込まれるでしょう。数多く生まれている大学発ベンチャーの中から、世界に誇るユニコーンが生まれるのもそう遠くない未来かもしれません。
(TOMORUBA編集部)