大学発ベンチャーは企業数、増加数ともに過去最多に。CEOの経歴や博士号取得者の割合などの傾向は?
政府は2022年11月「スタートアップ育成5か年計画」を打ち出し、2027年度にスタートアップへの投資額を10兆円規模にすることや、スタートアップ10万社創出などを掲げて、スタートアップを経済活性化の要に据えています。また、22年3月に経団連が公表した「スタートアップ躍進ビジョン」の提言の中には「大学を核としたスタートアップエコシステム」が盛り込まれており、大学発ベンチャーの重要度が高まっています。
新しい時代のイノベーション担い手として注目される大学発ベンチャー企業。その実態を探るため経済産業省は5月16日、2022年度に実施した調査結果の速報を発表しました。
この調査は、大学等の研究成果をもとにしたスタートアップの設立状況を観測し、事業環境やニーズを把握し、その成長に寄与する要素を分析することを目的としています。本記事ではその結果から見えてきた現状をまとめます。
参照ページ:令和4年度大学発ベンチャー実態等調査の結果を取りまとめました(速報)
大学発ベンチャーの企業数、増加数ともに過去最多を記録
2022年度調査において公開された大学発ベンチャーは3,782社となりました。2021年度に確認された3,305社から477社増加し、企業数、増加数ともに過去最高を記録しました。
なお、この調査で「大学別ベンチャー」と定義するのは、以下の5つのうち1つ以上に当てはまるベンチャー企業のことを指しています。
①研究成果ベンチャー:大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー。
②共同研究ベンチャー:創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と共同研究等を行ったベンチャー。(設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)
③技術移転ベンチャー:既存事業を維持・発展させるため、設立5年以内に大学から技術移転等を受けたベンチャー。(設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)
④学生ベンチャー:大学と深い関連のある学生ベンチャー。現役の学生が関係する(した)もののみが対象。
⑤関連ベンチャー:大学からの出資がある等その他、大学と深い関連のあるベンチャー。
大学別ベンチャー企業数では慶應義塾大学がトップ3入り
大学別の大学発ベンチャー数はこれまで通り東京大学と京都大学が1位と2位をキープしています。3位には前回の5位から順位を2つ上げて慶應義塾大学がランクインし、私立大学では最多となっており、前年比の増加数ではトップとなっています。
慶應義塾大学では学内発のベンチャーを300社創出することをミッションとしており、いち早く大学発ベンチャー・キャピタル『慶応イノベーション・イニシアティブ』を設立するなど、活発な取り組みが功を奏しています。
大学発ベンチャーのCEOの多くはアカデミア出身者
大学発ベンチャーのCEOが、CEOになる前の最終経歴は「大学・公的研究機関の教職員・研究者」が最も多く3割ほどを占めており、次いで「博士生」「大学の学部生・高等専門学校の学生」「修士生」と続いています。このことから、アカデミア出身者がCEOとなるケースが圧倒的に多いことがわかります。
その次に多いのは「大企業の技術者・研究者」「中小企業(同分野)の経営層」「大企業の従業員(経営層、技術者、研究者を除く)」となっており、企業の出身者が大学発ベンチャーのCEOを務めるケースも多くなっています。
大学発ベンチャーでは博士号取得者が活躍
大学発ベンチャーにおける博士号取得者の在籍割合は20%となっており、一般企業の4%と比べて高くなっています。このことから、大学発ベンチャーでは博士号取得者が活躍していることがわかります。
さらに、大学発ベンチャーの定義ごとに見てみると、「研究成果ベンチャー」「共同研究ベンチャー」で博士号取得者の在籍割合が高くなっています。
【編集後記】政策がさらなる追い風となるか
大学発ベンチャーの数は順調に伸びており、近年の力強い増加傾向から、今後も企業数の最多を更新していきそうです。また、大学発ベンチャーはアカデミア出身CEOが多いことや博士号取得者の在籍割合が高いことからも、イノベーションが起きる期待感が持てます。さらに、国の政策として「スタートアップ育成5か年計画」も発足していることから、大学発ベンチャーが成功する追い風となるか、注目が集まります。
(TOMORUBA編集部)