建設・住宅業界のイノベーション創出を目指す共創プログラムが始動――”へーベル”で知られる建材メーカーが開催する共創プログラムの全貌
1922年創業の歴史ある総合化学メーカー「旭化成」。そのグループ企業として一翼をなすのが「旭化成建材」だ。外壁などに使用されるALC(軽量気泡コンクリート)分野や構造資材分野で高い評価を得ている同社が今年度、初となるオープンイノベーションプログラムを開始する。募集テーマは次の3つ。
■募集テーマ①「ALC素材特性を生かした地球環境対策ビジネスの創出」
■募集テーマ②「デジタル技術を活用した、業界のアナログな業務の改善」
■募集テーマ③「建材の利用シーンや販売ネットワークを活用した新たなサービスの創出」
共創に際しては、同社の主要商材や製造設備、旭化成グループが保有する多様な技術、全国に広がる販売網などが活用できるという。共創内容にもよるが、実証実験費用の支援を受けられる点も参加メリットのひとつだ。
TOMORUBAでは、『旭化成建材オープンイノベーションプログラム2023』を開催することになった背景や目的、プログラムで目指すゴールを執行役員の細田氏に聞くとともに、3つの募集テーマの詳細を本プログラムの運営責任者である稲本氏、そしてプロジェクトメンバーの中から4名(荻原氏・田中氏・野村氏・我妻氏)にインタビュー。プログラムの全貌に迫った。
「外壁」と「柱脚」分野で高い評価を獲得、変化への対応が急務
――御社は旭化成グループのなかで、どのような事業を展開されているのでしょうか。
細田氏: 私たち旭化成建材は社名にある通り、建材の製造・販売を主な事業としています。事業領域は大きくわけて「住建」「基礎」「断熱」の3つ。本プログラムで募集テーマを提示するのは住建事業部で、当社売上の半分以上を占める主要事業となっています。
▲旭化成建材株式会社 執行役員 住建事業部長 細田博幸 氏
――住建事業部では、どのような商材を強みとしているのですか。
細田氏: 主要商材は「ALC」と「構造資材」の2つ。ALCというのは、軽量気泡コンクリートのことで、日本の建築において主な材料として使われています。使用される場所は外壁が中心となりますが、それ以外にも間仕切りや床などにも使え、当社ではヘーベル(HEBEL)というブランド名で販売しています。
▲ヘーベルは軽量性、耐震性、防・耐火性に優れており、超高層ビルから戸建住宅まで幅広い分野で採用されている。
――ヘーベルハウスに用いられている材料ですね。
細田氏: そうです。一方、構造資材についてですが、鉄骨造の柱脚(柱の足元)や、そのほか鉄骨造における構造部材を販売しています。メイン商材はベースパックという柱脚ですが、これは1995年の阪神大震災以降、大きく売上を伸ばしました。その理由が高い耐震性。ベースパックを用いた建物の被害がゼロであったことから、注目を集めるようになったのです。
その後、日本各地で東日本大震災をはじめ大きな地震が何度も発生していますが、それらを含めても被害ゼロを維持しています。こうした実績から、地震の多い日本において今、求められている建材へと成長しています。
▲1986年に発売開始したベースパック。その高い耐震性能から、幾度となく発生してきた大地震においても被害は確認されていないという。(画像出典:旭化成のベースパックについて)
――現在、マーケットからどのような変革が求められているのでしょうか。今、感じている課題について教えてください。
細田氏: ALCに関していうと、すでに世の中に不可欠な材料となっています。ただ、建築の着工に連動するため、全体の着工数が縮小すれば、ALC事業も縮小せざるを得ません。また、建築業界においても変化のスピードが激しくなっています。昨今でいえばカーボンニュートラルへの対応が求められていますし、建物を立てる事業主や施主の価値観も多様化してきています。これらの変化に迅速に対応していけるかどうかが、ALC事業における課題です。
一方で構造資材については、従来の実績から建物の安全確保に貢献してきたという自負はあります。今後の方向性としては、当社の柱脚が使われている建物を利用して、被害ゼロからさらに一歩踏み込んだ、何らかの貢献をしていきたいと思っています。色々な視点があると思うので、今回のプログラムを通じて検討したいです。また柱脚に限らず、それ以外の部材への事業拡大も狙っています。加えてALCと同様、世の中の変化に対応していくことも必要ですね。
――これまで、他社との共創で何らかの事業を形にしたことはありますか。
細田氏: ベースパックは、建築構造部材の開発を得意としている企業と共創し開発した製品で一般建築物の柱脚部材として使用されています。2社で事業を磨きあげ、2社で販売しているという意味では、共創だといえるのではないでしょうか。またALC分野でいえば、他社とコラボレーションで、ヘーベルを活かした壁面緑化や木仕上げなどに取り組んでいます。
――そうしたなか今回、新たに『旭化成建材オープンイノベーションプログラム2023』をスタートされます。どういった背景や目的から、実施する運びになったのですか。
細田氏: 先ほどご紹介したように、部分的に社外の方たちと取り組んではいますが、それをもっと当たり前にしていくことが必要だと思っています。なぜかというと、昨今はニーズが多様化していますし、変化の振れ幅も大きい。この変化に素早く対応していくためには、社外の視点や技術も取り入れながら進めていく必要があると思うからです。
自社内だけだと、どうしても硬直化しますし、社内の視点・技術だけにとらわれます。そうした状況から脱却したいというのが、『旭化成建材オープンイノベーションプログラム2023』をスタートさせた最大の理由です。
――本プログラムの特徴や、共創パートナーから見た参加メリットについてはいかがでしょうか。
細田氏: 長年培ってきた販売網があるので、何らかの製品・サービスが仕上がった際には、当社の販売網を使ってスムーズに展開することができるでしょう。また、旭化成グループが保有するさまざまな技術とも連携できる可能性があります。当社内には断熱の技術がありますし、グループ全体を含めるとさらに多様な技術があります。そうした技術と融合していける点は、大きな魅力になるのではないでしょうか。さらに、ALCの生産設備なども今回のプログラムで活用できますし、内容によっては実証実験の費用サポートも検討していく考えです。
――本プログラムで目指すゴールは?
細田氏: アイデアを出しあって終わりではなく、強みを融合して何らかの事業を形にするところまで進めたいですね。そのなかで留意したい点が規模感です。小さな規模感の事業ではなく、それに取り組むことで業界をリードできる、あるいは世の中に価値をもたらすソリューションを提供できたと実感できる、そんな新規事業の創出を目指しています。
募集テーマ①「ALC素材特性を生かした地球環境対策ビジネスの創出」
本プログラムでは、3つの募集テーマが設定されている。各テーマの設定背景や、共創イメージ、活用できるリソースを起案者たちに聞いた。
――1つ目の募集テーマとして「ALC素材特性を生かした地球環境対策ビジネスの創出」を設定されました。本テーマ設定の背景にある考えからお聞きしたいです。
荻原氏: 私たち旭化成グループは、経営基盤強化に向けてGDP(Green、Digital、People)の3つに重点的に取り組んでいます。この3つのうち本テーマは、「G(Green)」に該当するもので、当社のリソースを用いて地球環境に貢献していきたいとの考えから起案しました。より具体的にイメージしていただけるよう、私たちのほうで3つの共創アイデアを考えました。
1つ目が「CO2吸収や分解技術を活用した新たな価値の創出」です。すでに、地球環境や価値観の変化に対応するためデザインパネルのような新製品を開発・販売していますが、さらに踏み込んだ、これからの時代に合致した外壁を検討していきたいと思っています。
外壁は外から見えるところにありますし、比較的大きな面積を持ちます。こうした特性を活かして、外壁としての十分な性能を確保しつつも何らかの付加価値をつけていきたい。我が社のヘーベルには「アートミュール」や「デュアルウォール」といった製品があるのですが、これは「ALCに何かを塗る」、「ALCに何かを貼る」というニーズに応え得る製品です。こういった特徴を活かして、地球環境に貢献できる壁材を構築するアイデアを募集しています。
▲旭化成建材株式会社 住建事業部 住建事業企画部 課長(一級建築士・一級建築施工管理技士)荻原達也 氏
――地球環境に優しい性能をヘーベルに加えて、商品価値を高めていくようなイメージですね。2つ目の共創アイデアについては、いかがでしょうか。
荻原氏: 2つ目は「廃材コスト削減や再利用を実現する新たな技術との連携」です。建材として使われているヘーベルですが、工事現場でどうしても廃材が発生します。木造住宅の窓の部分などはヘーベルを切るので、四角い残材が出てきてしまうのです。余った廃材は各種部材と混ぜて肥料として使っていたりもしますが、それ以外にも使える用途があるのではないかと思っています。
▲ALCを構成する主原料
ですから、余ったヘーベルを有効に使えるアイデアをお持ちの企業があれば、ぜひご応募いただきたいです。また、四角い廃材は体積があるので、工事現場で粉砕して体積を減らせるような技術も求めています。
▲上画像のように、工事現場では四角い残材が多く出てしまうという。
――ヘーベルの廃材をリサイクル・アップサイクルして、利活用していくアイデアですね。
野村氏: 3つ目が「高温高圧養生窯の新たな活用方法の探索」です。へーベル製造設備のなかで最も特徴的なものが、高温高圧養生窯なんです。180度近い高温の窯に原材料を入れ、へーベルのパネルを製造しています。窯は直径3m、長さは40mもの大きさがあり、家庭で使う圧力鍋の約5倍の圧力をかけることができます。ヘーベル製造時には高圧の蒸気を入れて圧力をかけますが、蒸気を別のものに変更しても面白いのではないでしょうか。
※ALC製造工程はこちら
HEBEL 旭化成のALCパネル | HEBELの生産・物流 (asahikasei-kenzai.com)
この窯の特徴を活かして、何か新しい別のものをつくることができるのではないかと思っています。ですから「こんな風に使いたい」というアイデアをお持ちの方に、ぜひご応募いただきたいです。窯は茨城と岐阜の工場にあるので、まずは現物を見ていただいてから検討いただくことも可能です。
▲旭化成建材株式会社 住建事業部 住建事業企画部 部長 野村勝 氏
――「ヘーベルそのもの」や「廃材」、「養生窯」など魅力的な共創リソースをご提示いただきましたが、これら以外に共創に活用できるものはありますか。
荻原氏: 当社の販売網は北海道から沖縄まで日本全国に広がっています。具体的には工務店や設計事務所、ゼネコンといった企業に日々営業活動を行ってくれている方々です。ですから、何らかの製品・サービスが完成した暁には、その販売網を活用してスピーディーに新しい価値を世の中に届けていくことができると思います。また、私たちはメーカーなので、製造設備や技術知見を持っています。それらにパートナーの知見を融合させることで、新しいものを生み出していきたいですね。
――今回の共創には、どのようなことを期待しますか。
荻原氏: とくに1つ目のアイデアに関していうと、美観だけではなく当社の製品を選ばざるを得ないような付加価値をつけたいと思っています。そういった方向性で何らかのアイデアをお持ちの企業と、ぜひ一緒に取り組みたいです。
募集テーマ②「デジタル技術を活用した、業界のアナログな業務の改善」
――次に募集テーマの2つ目、「デジタル技術を活用した、業界のアナログな業務の改善」を設定された背景をお聞きしたいです。
田中氏: 先ほど、GDP(Green、Digital、People)の3つに注力しているというお話をしましたが、テーマ②は「D(Digital)」に該当します。最先端のデジタル技術を用いて、建築業界のアナログ業務や無駄の発生している業務を改善したいというのが、本テーマ設定の起点にある考えです。
▲旭化成建材株式会社 住建事業部 東京構造資材営業部 第二課 サブマネージャー 田中佑來 氏
――3つの共創アイデアを挙げていただきました。それぞれについて詳しくお聞かせください。
田中氏: 1つ目が「自動読取りやAI技術を活用した耐力判定システムの開発」です。私は構造資材営業部に所属していますが、構造資材には2つの主要事業があります。柱脚事業と梁貫通の補強事業という鉄骨梁にあく孔を補強する材料を販売する事業です。現在、とくに苦戦を強いられているのが後者。というのも、図面の検討に膨大な時間がかかり、それがボトルネックとなって様々な弊害が生じてしまっているのです。
――図面の検討というのは、具体的にどのような業務なのでしょうか。
田中氏: 端的にご説明すると、建物の図面をいただき、当社の製品が当てはまるのかどうかを確認し「〇」「×」をつけ、それが間違っていないかをチェックしてからお戻しするという業務。シンプルな業務フローではあるのですが、人海戦術に頼らざるを得なく、多くの時間を要しています。こうした業務を、デジタル技術を用いて省力化したい。ですから、図面を絡めた業務の効率化ソリューションをお持ちの企業などと一緒に取り組めたらと思っています。
――御社内のアナログなデスクワークを省力化したいということですね。2つ目はいかがですか。
我妻氏: 2つ目は「入出庫データを活用したデリバリー・商品管理業務の改善」です。ヘーベルパネルはオーダーメイドで製造しているため、長さや幅、厚さなどが1枚1枚異なります。現状は製造時に、インクジェットで識別番号をパネルに印字して管理を行っているのですが、もう少しデジタルに管理したいと思っています。
RFIDタグやQRコードでの管理事例も増えているので、そうした技術を用いて、「どこにどのパネルがあるのか」を機械的に把握し、在庫管理を効率化するようなイメージです。そういったアイデアをお持ちの企業を求めています。
また、工場で製造したパネルは建築現場へとトラックで運ぶのですが、取引先のなかには自前のトラックで取りに来てくれるところもあります。繁忙期にはとくに、建設現場や工場の前で長時間待機していただくケースも発生しており、ドライバーの負担になっています。こうした状況を改善できるようなアイデアも募集しています。例を挙げると、待ち時間の長さに応じて優先順位を決める仕組みをデジタルで構築したり、次のトラックに何を積むのかを予め工場内のスタッフに知らせる仕組みを開発したり。そのようなものを想定しています。
▲旭化成建材株式会社 大阪支店 ヘーベル営業課 サブマネージャー 我妻敬太 氏
――物流領域のスタートアップと相性がよさそうですね。
我妻氏: 3つ目の「DX・ロボティクスを活用した自動積算ツールや現場省人化の実現」についてですが、こちらは当社内業務のDXというよりは、取引先である施工販売店の支援という意味合いが強いアイデアです。施工販売店の業務は、大きく営業と工事にわかれます。営業の業務で最も負担が大きいのが積算作業です。
――具体的にどのような業務なのでしょうか。
我妻氏: PDFやCADの図面をもとに、どこに何平米の壁が使われているのかを測ったり、開口部の大きさを測って開口補強を計算したりします。積算をしなければ見積りが出せないのです。内装業界ではCADデータから容易に積算可能なツールが出ていますが、外装業界では目立ったものはありません。ですから、デジタル技術をお持ちの企業とともに、外装領域の積算を効率化できるツールを開発したいのです。
また、工事についても、施工に携わる人材不足が深刻ですから、たとえばパワースーツのような工事現場の業務を少しでも楽にできる製品をお持ちであれば、ぜひ一度お声がけください。
▲施工現場のイメージ。人材不足を補うようなサービス・プロダクトを求めている。
――共創する上で、御社や協力会社の現場をテストフィールドに活用できるとお聞きしています。これも非常に大きなメリットだと感じますが、それ以外に共創に活用できるものはありますか。また、応募企業へのメッセージもあわせてお願いします。
田中氏: 1つ目の共創アイデアに関しては、今まで累計で10万個以上にも及ぶ梁貫通事業を手がけているので、膨大な数の図面の蓄積があります。物流倉庫やビル、事務所といった多様な図面データは、新しいシステムを検討していくうえで活用できるリソースになるのではないでしょうか。建築業界以外で使われているノウハウを、建築業界へと転用することもできるのではないかと思っています。
我妻氏: 2つ目についても、日々莫大な量の製品を取り扱っていますし、販売開始してから半世紀以上の年月を経ているので、入出庫や商品管理、物流に関する高い知見が備わっていると自負しています。そういった当社のノウハウと、パートナーのデジタル技術を組み合わせて、よいものを開発したいと思っています。建築業界のDXはこれからが本番。将来性のある魅力的な市場だと思うので一緒に挑戦しましょう。
募集テーマ③「建材の利用シーンや販売ネットワークを活用した新たなサービスの創出」
――募集テーマの3つ目は、「建材の利用シーンや販売ネットワークを活用した新たなサービスの創出」です。こちらに関しても、御社でお考えいただいた共創アイデアの代表的なものをご紹介ください。
稲本氏: 募集テーマ③についてもいくつか共創アイデアを考えました。まず1つ目が「外壁を活用した新たな広告サービスの開発」です。私は秋葉原から神保町のオフィスまで20分程、徒歩で通っているのですが、歩いているときにふと見上げると、看板だらけなんです。外国人の方々が見ると真新しい風景なのかもしれませんが、私たち日本人には見慣れた光景で、高い広告効果を出しているとは言い難いでしょう。
さらに、看板を規制する動きも出てきています。一定の高さを超える看板を設置する場合、申請が必要となり、景観などによって規制がある自治体もありますよね。であれば一層のこと、外壁一面をシンプルなデザインにして、XRやVRで何らかのコンテンツを映写すればいいのではないかと。集客スポットをつくり、人が集まるようになると、広告などの新しいビジネスを生み出すこともできます。こうした考えから、このアイデアを起案しました。
▲旭化成建材株式会社 住建事業部 東京構造資材営業部 第一課 サブマネージャー 稲本拓也 氏
――すでにある外壁にデジタルアートを映写することも可能だと思いますが、御社のヘーベルパネルを使うからこその利点はあるのでしょうか。
稲本氏: あります。ヘーベルパネルは厚みがあるため、深く掘ることができ、立体的なデザインにすることができます。一般的なコンクリートと異なり、軽量なので掘りやすいのです。この特徴を活かせば、たとえば外壁に恐竜のデザインだけを施しておき、スマホをかざすとARで恐竜が浮き出てくるようなものも制作できます。季節毎に動きや色を変えたりすることで、飽きさせないデザインにすることもできるでしょう。XRやAR・VRの得意な企業とともに、商業施設のオーナーなどに共同提案できればと考えています。
▲自由なデザインが掘られたALCのイメージ。ユーザー様の意向に合わせることができます。
また、同様に深く掘れるヘーベルの特徴を活かせば、外壁に小さな機器を埋め込む形状をつくることも可能です。たとえば、外壁に発電装置などを埋め込めば、壁でワイヤレス給電を行えるようにすることもできます。これが、共創アイデアの3つ目に挙げた「ワイヤレス充電や発電機能などを取り入れた新たな価値の創出」です。
想像はできるけど、まだ実現ができていない。まさに、「昨日まで世界になかったもの」を皆様と一緒に実現したいと考えています。
――壁を使った充電設備は他に例がありませんし、深く掘れるヘーベルだからこそ、実現できる設備になりそうですね。2つ目の共創アイデアについても、詳細をお聞きしたいです。
荻原氏: 2つ目の共創アイデア「センシングなどによる建築物情報の収集・可視化・防災の実現」に関してですが、皆さん地震が発生したとき、建物から逃げようとしますよね。でも、安心安全な建物の建造に携わっている私たちの立場からすると、建物のなかに逃げ込んできてほしいと言えるような建物を作る努力をすることが建築業界に携わる者としての使命だと思っています。しかし当然ながら、街を歩く人たちや建物を利用している人には、その建物がどれほど安全かを理解することは難しい。
一方で建物の骨組みの部材を開発している私たちは、「建物がどういう動きをすると危険なのか」についての知見は持っています。ですが、センシング技術はないので、建物の健全性を可視化することはできないのです。
なので、たとえば骨組みなどにセンサーを搭載し、傾きや熱、振動、音などをセンシングして、大地震やゲリラ豪雨などの災害が発生した際に、建物の安全性が一般の人たちにわかるようなソリューションを開発したい。センシング技術や健全度を可視化できる技術をお持ちの企業と一緒に形にできればと思っています。
――最後に応募企業に向けて一言メッセージをお願いします。
稲本氏: 私たちから挙げたアイデア以外にも、当社の取引先であるゼネコンや工務店、鉄骨業者、設計事務所などに貢献できるアイデアは大歓迎です。応募にあたって、会社の規模等は一切問いません。旭化成建材で成果を出すことが最優先ですが、当社にメリットがなくても旭化成グループにメリットがあれば、他部署へと展開することもできるので、ぜひご応募ください。
野村氏: 当社は長い歴史を持つ企業なので、潤沢にデータを持っています。それらを活用して新たなビジネスを創出できれば、これほど嬉しいことはありません。提供力も十分に持ち合わせていると思っているので、ぜひご期待ください。
▲今回の募集に当たって携わったプロジェクトメンバー
(左列手前から、新家谷 幹彦、荻原 達也、大和田 健史、稲本 拓也)
(右列手前から、田中 佑來、我妻 敬太、小倉 泰介、内田 治郎)
取材後記
インタビューでは、ALCや養生窯の活用、建築業界に残るアナログ業務のデジタルシフトなど、建材メーカーならではの共創アイデアが示された。いずれも挑戦しがいのある面白そうな内容ばかりだが、挙げられた例に限らず広く提案を募集しているそうだ。建築業界において半世紀以上の歴史を持ち、深い知見と豊富なデータを持つ同社となら、業界を驚かせるような価値を生み出せるのではないだろうか。応募締切は次の通り。ぜひ応募を検討してほしい。
■募集テーマ①「ALC素材特性を生かした地球環境対策ビジネスの創出」
■募集テーマ②「デジタル技術を活用した、業界のアナログな業務の改善」
■募集テーマ③「建材の利用シーンや販売ネットワークを活用した新たなサービスの創出」
・前期応募締切:2023/6/2(金)~2023/7/16(日)
・後期応募締切:2023/7/17(月)~2023/8/30(水)
(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:古林洋平)