
【24年度・経産省調査】 京都大学は前年から149社増加――過去最高の伸びを記録した『大学発ベンチャー』の実態とは?
大学発ベンチャー、過去最高の5,074社に
政府は現在、日本のスタートアップを10倍に増やすことを目標に掲げた「スタートアップ育成5か年計画」(2022年策定)に基づき、起業支援や官民連携による成長加速の取り組みを進めている。そのなかで、大学発ベンチャーは日本の科学技術力と人材の集積を活かしたディープテック領域の中核的存在として、重要な役割を担っている。
こうした背景のもと、経済産業省が2025年6月に発表した「令和6年度大学発ベンチャー実態等調査(速報)」では、2024年10月時点の大学発ベンチャー数が5,074社に達し、過去最多を更新。前年度(4,288社)からは786社増加し、設立数・増加数ともに過去最高となった。

なお、本調査では、大学に関連する以下の6類型の企業を『大学発ベンチャー』と定義している。
1.研究成果ベンチャー:大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー。
2.共同研究ベンチャー:創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と共同研究等を行ったベンチャー。(設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)
3.技術移転ベンチャー:既存事業を維持・発展させるため、設立5年以内に大学から技術移転等を受けたベンチャー。(設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)
4.学生ベンチャー:大学と深い関連のある学生ベンチャー。現役の学生が関係する(した)もののみが対象。
5.教職員等ベンチャー:大学と深い関連のある教職員等(教職員・研究職員・ポスドク)ベンチャー。
6.関連ベンチャー(出資などの関係):大学からの出資がある等その他、大学と深い関連のあるベンチャー。
こうしたベンチャーは、革新的な研究成果の社会実装を担う存在として注目されており、今回の調査ではその急拡大が裏付けられた。
トップは東京大学。149社も急増した京都大学の飛躍にも注目
大学別では、東京大学が引き続き最多の468社を記録(前年比+48社)。続いて、京都大学が273社から422社へと急伸し、前年3位から2位へと順位を上げた。3位の慶應義塾大学も大きく伸び、291社から377社となっている。
注目すべきは新設の東京科学大学(旧東京工業大と東京医科歯科大の統合大学)が、187社で初登場8位にランクインした点だ。また、私立大学の東京理科大学(226社)、早稲田大学(166社)、立命館大学(160社)なども着実な伸びを見せている。

成長率トップは関西大学、地方大学も台頭
前年比で最も高い成長率を記録したのは関西大学で、9社から47社へと約5倍超(522.2%)に急拡大。沖縄科学技術大学院大学(288.9%)、神戸大学(205.5%)も続いた。

注目すべきは、これまでベンチャー創出が比較的少なかった地方大学の躍進だ。ベンチャーの新規設立のうち、57%が東京都以外で創業されており、昨年の52%から更に地方比率が拡大。これは、地方における大学の起業支援体制や産学連携の強化が進んでいることを示している。

経営人材はアカデミア出身が多数、博士人材の需要も増加
大学発ベンチャーの経営者層(CEO)の出身背景では、依然として大学や公的研究機関の研究者が多いことが明らかに。技術力を持つ経営人材の確保は依然として課題だが、博士号取得者の在籍率は一般企業よりも高く、特に社会人経験のある博士人材への需要が高まっているという。

エコシステム整備が鍵、今後の政策に期待
調査では、今後さらに大学発ベンチャーを増加させるために重要な施策として「政府のエコシステム整備(助成金・外部資金の拡充)」や「産学連携の推進」が挙げられている。制度的支援と実践的な起業教育・メンタリングの整備が、今後のベンチャー創出において重要な鍵となる。

編集後記
大学発ベンチャーの数が過去最高を記録し、地域・分野ともに広がりを見せている。特に地方大学や私立大学の躍進は、これまで東京圏に集中していた傾向を打ち破る兆しとして注目したい。また、博士号取得者やアカデミア出身の経営人材の活躍から、研究と事業の融合が進んでいることがうかがえる。こうした成果は、国の支援制度や産学連携の成果でもあり、今後はさらに民間資本や人材の循環を促進する仕組みが鍵となるはずだ。日本のイノベーション創出における大学の役割は、ますます重要性を増している。
(TOMORUBA編集部)