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自動車サプライヤーの次の一手は“共創”にあり。異業種連携で見えた新規事業開発のリアル――『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION 2025』セッションレポート

自動車サプライヤーの次の一手は“共創”にあり。異業種連携で見えた新規事業開発のリアル――『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION 2025』セッションレポート

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自動車産業は「100年に一度の大変革期」にあると言われる。こうした構造変化の影響は完成車メーカーだけでなく、その裾野を支えるサプライヤー企業にも及んでおり、従来の事業基盤に依存しない新たな収益の柱づくりが重要な経営課題となっている。

こうした中、2026年3月18日に中日ホール&カンファレンスで開催されたのが、「AICHI INNOVATION CHALLENGE 2026」だ。本イベントは、愛知県が主催する6つのイノベーション推進事業の成果を一堂に集め、成果発表、セッション、展示、マッチングを通じて、次の産業・次の社会を生み出す共創の可能性を発信する場として開催された。

本記事でレポートするのは、そのうちの一つである『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION 2025』のセッションだ。同プログラムは、愛知県内の中堅・中小自動車サプライヤーを対象に、オープンイノベーションの手法を活用しながら、新規事業の創出や新分野進出を支援する取り組みとなっている。2025年度は共同事業開発コースに特化し、事業テーマ設計、共創先の探索、事業共創支援などを通じて、サプライヤー発の新規事業創出を後押ししてきた。

当日のトークセッションには、2025年度の愛知県内の参画企業であるコーエー・テック(愛知県瀬戸市)東海理機(愛知県大府市)マルハチ工業(愛知県一宮市)の3社が登壇。自社技術の再定義から異業種との接点づくり、そして共創による事業化の模索まで、それぞれの実践をもとに「共創から始める新規事業開発のリアルと可能性」が語られた。

自動車サプライヤーが直面する危機と「新規事業」の必要性

トークセッションには、株式会社コーエー・テック 常務取締役の滝沢幸憲氏、株式会社東海理機 営業部課長の宮澤聡氏、マルハチ工業株式会社 専務取締役の田中隆介氏が登壇した。

3社はいずれも愛知県内に拠点を置く自動車サプライヤーであり、それぞれ特殊ボルト、ばね・プレス・樹脂成形、パイプ加工・切削加工と、異なる強みを持ちながらも、既存事業の先行きに対する危機感を出発点に、本プログラムを通じた新規事業開発へ踏み出している。

その危機感を端的に語ったのが、東海理機の宮澤氏だ。宮澤氏は、自動車部品の新規品が減少し、売上も年々落ち込んでいることへの不安があったと説明。その上で、同社売上の約95%を自動車部品が占めている現状に触れつつ、自動車分野以外に事業の柱をつくる必要性を強調した。

▲株式会社東海理機 営業部 課長 宮澤聡氏

同様に、マルハチ工業の田中氏も、既存モデルへの危機感を率直に口にした。田中氏は、自動車そのものは電動化や自動運転で進化している一方で、自社が関わるシート構成部品や足回り部品の加工方法は大きく変わっておらず、「市場として成熟段階にある」と指摘。その上で、普段接点のない業界と関わることにより、自社の強みを見直したいと考え、本プログラムに参加したと語った。

▲マルハチ工業株式会社 専務取締役 田中隆介氏

一方、コーエー・テックの滝沢氏は、より具体的な現場課題から新規事業の必要性を捉えていた。同社では自社の品質保証のために画像検査機を製造してきたが、従来機は実質的に専用機であり、汎用性に欠けるという課題があった。そこで滝沢氏は、AIやDXを活用して「誰でも使える」汎用画像検査機へ発展させたいと考えたものの、社内だけでは必要な知見や接点が足りず、構想が長年止まっていたと振り返る。

▲株式会社コーエー・テック 常務取締役 滝沢幸憲氏

3社の発言から浮かび上がったのは、危機感の質こそ異なれど、いずれも「既存事業の延長線上だけでは先が見えない」という共通認識だ。切実な問題意識が、新規事業を“やれたらよいこと”ではなく、“やらなければならないこと”へと変えていたのである。

「構想はあるが進め方がわからない」──新規事業開発推進にあたって企業が抱える壁

新規事業の必要性を感じていた3社だが、セッションでは同時に、「何を起点に、どう進めればよいのかがわからない」という悩みが共通していたことも明かされた。

この点について、マルハチ工業の田中氏は、自社の中に「製造×福祉」というテーマの種は以前からあったと語る。主力事業であるパイプの切断や面取りは、月に何万本という単位で流れる量産工程であり、作業としては比較的シンプルであること、また従来から福祉との接点も一部あったことから、「ここは親和性が高いのではないか」という直感はあったという。ただし、それを事業としてどう組み立てるのか、どのようなステップで進めていくのかについては「『どうしたら良いのかわからない』という状態だった」と振り返った。

コーエー・テックの滝沢氏もまた、以前から構想自体は持っていた。自社で使ってきた画像検査機を、より汎用性の高いものへ進化させたいという考えは長年あったものの、実現に向けて必要となるAIやデジタル技術について相談できる相手がおらず、具体化できないまま数年が経っていたという。

滝沢氏は、構想はあっても「デジタルとかAIとか、そういったものに詳しい方とお話しする機会がなかなかなかった」と述べ、技術起点のアイデアがあっても、外部との接点がなければ前に進みにくい実情を示した。

一方、東海理機の宮澤氏は、3社の中でも特に“フラットな状態”から出発したことを明かした。何か新しいことをしなければならないという危機感はあったが、最初から明確なテーマが固まっていたわけではない。実際、当初は自動車分野以外でばねを活かせる領域を漠然と探していた段階であり、「何かやらなきゃ」という思いが先行していたという。そこには、多くの中堅・中小企業が抱えがちな、「必要性はわかっているが、具体的なテーマが定まらない」という課題がにじんでいた。

こうした発言から見えてくるのは、新規事業開発において障壁になるのは、必ずしもアイデア不足だけではないということだ。むしろ、ぼんやりした構想や現場感覚としての課題意識は存在していても、それを事業テーマに落とし込み、必要なパートナーや技術を整理し、検証プロセスへ移していく方法論が不足している。新規事業と向き合うことでその“構想と実行のあいだ”に横たわる壁の大きさが顕在化した。

外部との対話が、自社技術の見え方を変えていく

本プログラムを通じて各社に起きた変化として印象的だったのが、外部との対話によって、自社の技術や現場の“当たり前”が新たな価値として捉え直され、その先に具体的な事業仮説が立ち上がっていった点である。単に共創先を探すだけではなく、自社の強みを別の文脈に置き換えて理解し直し、それをもとにテーマを磨き込んでいくプロセスを各社はどう推進したのだろうか。

その変化を象徴していたのが、マルハチ工業の田中氏の発言だ。田中氏は、自社の主力であるパイプ加工の量産工程について、以前は「ある意味誰でもできる」仕事だと捉えていたという。しかし、外部との対話を重ねる中で、その性質は見方を変えれば「属人的でない」「再現性が高い」という強みにもなり得ると気づいた。さらに、福祉との接点や自身の問題意識を言語化していくことで、福祉人材と製造現場をつなぐ構想が、単なる着想から事業テーマとして輪郭を帯びていった。

実際に田中氏は、単純動作をAIでデータ化し可視化できる技術を持つ企業と出会い、作業者がどこを見ているか、何に注目しているかまで解析できることに驚いたと語っている。こうした技術との接続によって、現場に蓄積された暗黙知を可視化し、製造業の人手不足と福祉人材の就労機会という二つの課題を結びつける構想は、より実装に近いものとして具体化していった。

東海理機の宮澤氏もまた、異業種との接点を持つことで、自社技術の活かし方が更新されていったという。同社は当初、ばねの用途としてロボット業界やパワードスーツのような領域を想定していた。

だが、実際にさまざまな企業と面談する中で、業界ごとに求められる仕様やニーズは大きく異なり、自動車業界では当たり前に使われてきた金属ばねも、そのまま横展開できるわけではないことが見えてきたとのこと。その過程を経て、最終的にはウェーブスプリングを活用した車いすクッションの開発へとテーマが収れんしていった。

宮澤氏は、多様な関係者と接点を持てたこと自体が大きな収穫だったと振り返っており、外部との対話が、自社の強みを再認識する機会であると同時に、仮説の方向性を絞り込む場にもなっていたことがわかる。

コーエー・テックの滝沢氏が強調していたのは、共創先を探す前段階にある「整理」の重要性である。滝沢氏は、画像検査機の高度化というテーマ自体は以前から存在していたものの、それを実現するために自社が何を持ち、何を目指し、何が不足しているのかを十分に言語化できていなかったと振り返る。

今回のプログラムでは、その棚卸しを進めた上で、画像処理とAI開発の双方に強みを持つ企業を探索する。大手からスタートアップまで幅広く面談を重ねた結果、単に「AIを使いたい」という曖昧な構想ではなく、自社が本当に求める技術要件がより精緻になっていったという。滝沢氏は、Web上で共創先を探す際に「情報が的確に文字になっていないと伝わらない」とも語っており、外部との接点は、自社テーマを外に伝わる形へ翻訳していく機会でもあった。

共創がもたらしたのは、製品開発以上の変化だった

セッション終盤で浮かび上がったのは、今回の取り組みの成果を、単純に「新製品や新サービスが生まれたかどうか」だけでは測れないという点である。むしろ登壇各社の発言からは、共創を通じて社内外の見え方が変わり、事業を前に進めるための土台そのものが整ってきたことが、より本質的な変化として伝わってきた。

コーエー・テックの滝沢氏は、今回のプログラムで大きかった点として、共創先を探すこと以上に、「自社が何を持っていて、何を実現したくて、何が足りないのか」を整理できたことを挙げた。相手探しの前段にあるこうした棚卸しができたからこそ、外部に伝わる言葉で自社のテーマを提示できるようになったというわけだ。単にマッチングの機会が得られたのではなく、外部と事業の話をするための“共通言語”を手にしたことが、滝沢氏にとっては大きな収穫だったことがうかがえる。

マルハチ工業の田中氏からも、事業テーマそのものと同じくらい、考え方の変化が重要だったことが読み取れる。田中氏は、福祉と製造の接点について以前から問題意識を持っていたが、それを社外に伝わる形で整理し、発信できる状態にまで高められたのは、外部の視点が入ったからだと語っている。

とりわけ、自動車業界の外にいる人々、さらにはAI領域の企業との対話を通じて、自社の仕事の見え方が変わり、多くの刺激を受けたという発言は印象的だった。新規事業の初期段階において、こうした認識の変化や言語化の進展そのものが、重要な前進になっていることを示している。

東海理機の宮澤氏もまた、事業テーマの具体化と並行して、外部との接点そのものに価値を見いだしていた。ロボット業界や介護・福祉領域の関係者と面談を重ねるなかで、同じ「ばね」でも業界によって期待される役割や評価軸が異なることを知り、多様な視点が社内にはない発想をもたらしたという。結果として、テーマはより現実的な方向へと絞り込まれていったが、その過程で得た人脈や知見は、今後の検証や事業化に向けても生きる資産になるはずだ。

つまり今回のプログラムが各社にもたらしたのは、目の前の一案件に関する進展だけではない。自社の技術をどう捉え、どのような相手と組み、何を問いとして立てるのか――その考え方の型が少しずつ形づくられていったのである。新規事業は、いきなり完成形にたどり着くものではない。だからこそ、問いを磨き、言葉を整え、外部との関係性を築くプロセスそのものが、次の挑戦を支える成果だと言えるだろう。

取材後記

自動車産業を取り巻く環境変化が加速する今、サプライヤー企業にとって新規事業は「余力があれば取り組むもの」ではなく、将来に向けて備えるための現実的な選択肢になりつつある。そのとき必要なのは、完成されたアイデアではなく、自社の技術や現場にある違和感を起点に、外部と対話しながら問いを育てていく姿勢なのだろう。今回のセッションは、オープンイノベーションが単なる連携手法ではなく、サプライヤー発の新規事業を動かし始めるための有効な起点であることを示していた。

(編集:眞田幸剛、文:久野太一、撮影:齊木恵太)

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  • 木元貴章

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