中部国際空港島から愛知県全域へ拡大!先端技術の実装を目指す実証実験プログラム『TECH MEETS』、2025年度の成果とは――参加企業セッション&7プロジェクトのピッチをレポート
多様なプレイヤーが交わり、イノベーション創出に本気で挑む愛知県。3月18日、同県主催による合同DEMODAYカンファレンス「AICHI INNOVATION CHALLENGE 2026」が開催された。会場となった中日ホール&カンファレンス(名古屋)には、今年度に県内で繰り広げられた次の6つのプログラムの挑戦者らが集結し、それぞれの成果を披露した。
【6つのプログラム】※()内は愛知県庁の担当部署
●『A-IDEA』(イノベーション企画課)
●『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2025』(スタートアップ推進課)
●『スタまち ~スタートアップと自治体で挑む、未来のまちづくり~』(都市総務課)
●『TECH MEETS あいちデジタルアイランドプロジェクト』(産業振興課)
●『愛知自動車サプライヤー BUSINESS CREATION 2025』(次世代モビリティ産業課)
●『AICHI NEXT UNICORN LEAGUE』(スタートアップ推進課)
本記事では、この中から『TECH MEETS(あいちデジタルアイランドプロジェクト)』の成果発表会をレポートする。セッションとピッチの2部構成で進められた本成果発表会の様子とともに、各社の取り組み内容を追う。
空港島と常滑から始まり愛知県全域へと拡大――ニーズ企業とシーズ企業をつなぎ、技術の実装に挑むプログラム
冒頭、イベント主催者である愛知県の鷹見氏が壇上に立ち、「あいちデジタルアイランドプロジェクト」の全体像を説明した。このプロジェクトは、中部国際空港島と常滑エリアを、オープンイノベーションの実証フィールドと位置づけ、2030年頃の普及が見込まれる先進事業やサービスを、先行して実用化する取り組みである。
その一環で実施する『TECH MEETS』は、2022年度に始まったプログラムだ。開始当初は先端技術の実証実験を主軸に展開してきたが、2024年度からはニーズ企業(課題を持つ県内企業)とシーズ企業(課題解決策を持つ企業)をマッチングする事業へと発展していることが紹介された。
▲愛知県 産業振興課 デジタル産業グループ 課長補佐 鷹見広志 氏
今年度の『TECH MEETS』では、昨年度まで行ってきた「常滑エリアの課題解決コース」に、第20回アジア競技大会を見据えた「大規模イベントの課題解決コース」が加わり、2つのコースでプログラムが実施されているという。
プログラム期間の前半では、ニーズ企業のテーマ設計やプロジェクト計画を進め、後半ではシーズ企業とのマッチングのうえで、各フィールドで実証実験を展開してきた。
【TECH MEETSセッション】 ANA中部空港・中部国際空港・知多半島ケーブルネットワークの3社が語る『プログラムの魅力と連携で広がる可能性』
ピッチに先立ち行われたトークセッションには、『TECH MEETS』に参加経験のある3社の担当者が登壇。それぞれの立場から、実証実験の内容や、そこから得られた変化が語られた。
<登壇者>
▲ANA中部空港株式会社 企画部 DX・イノベーション推進グループ 手塚貴央 氏
▲中部国際空港株式会社 スーパー・スマート推進部 DX戦略・業務改善推進グループ 三好匠 氏
▲知多半島ケーブルネットワーク株式会社 まちづくり事業課 鈴村悠 氏
●『TECH MEETS』での活動内容と参加メリットとは?
知多半島ケーブルネットワークは、地域の観光DXを推進するスタートアップ・Plaruとともに、常滑市内の回遊性向上を目的としたデジタルスタンプラリーを開催した。施策を通じて得られた参加者の回遊データをもとに観光動線を可視化。鈴村氏は、これらのデータを「広報協力先や行政と共有し、次のステップに向けて動いていきたい」と語り、常滑市の観光活性化につなげていく考えを示した。
一方、中部国際空港は、免税店でのAIによる顧客動向分析と、音波やレーザー等を用いたバードストライク対策の2つの共創を推進。AI解析により売り場改善のヒントを得たほか、滑走路周辺の鳥対策の新たな手法を試す機会を得た。三好氏は、技術的成果に加え「社内他部署との連携が密になり、課題解決に向けて共に取り組めた」と語り、オープンイノベーションを推進しやすい組織風土へと変化したことを明かした。
ANA中部空港は、AIカメラによる手荷物仕分けの効率化やロボットによる空港案内、さらには航空機と車両等の接触リスクのリアルタイム検知など、人手に依存してきた業務のデジタル化を推進。手塚氏は参加メリットとして、共創ノウハウが乏しい状態でも手厚い支援により円滑に進行できた点や、予算提供による実証実験のスピード感を挙げた。
●『TECH MEETS』で生まれた連携の可能性とは?
『TECH MEETS』で生まれた連携の可能性について尋ねられた鈴村氏は、「シーズ企業とニーズ企業の連携により、これまでの枠を超えた広いフィールドで新たな仕事を生み出せる可能性を実感した」と語る。また、三好氏は「外部シーズ企業とのマッチングに加え、社内の組織風土も変化し、他部署との連携も進んだ」と話す。今後は、こうした連携を活かして「空港内の幅広い課題の解決に取り組んでいきたい」と前を見据えた。
最後に手塚氏は、2期目の参加となる同社の変化について、「昨年度はシーズ企業との連携だったが、今年度はニーズ企業同士の連携も生まれてきた。さらには、ANA本社や各地の空港とも連携が生まれている。この取り組みで幅広く連携が広がり、さまざまなDX・イノベーションが加速している」と説明。新たな技術パートナーとの共創によって「未来の空港を作っていきたい」と意欲をにじませた。
【TECH MEETSピッチ】 「常滑エリアの周遊促進」「空港隣接ホテルのゴミ処理」「スポーツイベントの体験価値向上」など7つのプロジェクトが成果を発表
トークセッションを経て会場の空気がほぐれたところで、いよいよ今年度の成果を発表するピッチへ。代表して7つの共創チームが登壇し、実証の成果を披露した。
●フォーポイントバイシェラトン名古屋 中部国際空港 × 株式会社JOYCLE
発表タイトル:「ホテル廃棄物の自社処理によるコスト削減」
※常滑エリアの課題解決コース
フォーポイントバイシェラトン名古屋 中部国際空港は、ホテルから出る廃棄物の処理コスト増を課題としていた。2023年のゴミ分別ルール厳格化やインバウンド客へのルール徹底の難しさから、回収業者に分別を依頼した結果、ゴミ処理費用は2019年比で約4倍にまで増加。コストの見直しが急務となっていた。そこで連携したのが、JOYCLEである。
JOYCLEは、廃棄物を現場で処理・再資源化する装置「JOYCLE BOX」と管理ソフト「JOYCLE BOARD」を開発するスタートアップ。同社は、ホテル敷地内に装置を設置し、分別不要で生ゴミを処理することで中間処理工程を省略し、廃棄コスト削減を図るソリューションを提案した。
プログラム期間中、ホテルから出る生ゴミを対象に5日間の処理試験を実施し、処理能力・臭気・騒音・費用対効果を検証。その結果、1日あたり42kgと想定を上回る処理性能を確認し、臭気や騒音もホテル運営に支障のない水準に収まった。一方で、生ゴミ処理だけではコスト削減効果が見込めないことから、今後はホテルの廃棄物全体へと対象を広げていく考えも示した。
●株式会社ブルーチップファーム × ナカチカ株式会社
発表タイトル:「インバウンド個人旅行者向け旅ナカでの常滑周遊体験の創出」
※常滑エリアの課題解決コース
ブルーチップファームは、常滑市に拠点を置き、ワイナリー運営など農業の6次化に取り組む企業である。市内にある中部国際空港にはインバウンド客が多く訪れているものの、常滑市街への観光客流入は伸び悩んでいた。地域には魅力的な観光資源がある一方で、その魅力を伝え、周遊につなげる仕組みが不足していることが課題であったという。
そこで、「Stroly」というデジタルマップサービスを提供するナカチカと連携し、常滑市の「WEB版イラストマップ」を制作。視覚的に分かりやすい観光案内に加え、多言語対応やデータ取得機能を備えている点が特徴である。さらに、利用促進に向けて常滑周遊スタンプラリー企画も盛り込み、観光客への訴求力を高めた。
このデジタルマップを約1か月運用した結果、閲覧ユーザーは1,933人に達し、日本語以外での使用も確認できた。GPSデータをもとにしたヒートマップ分析では、「やきもの散歩道」や観光案内所などに観光客が集中していることも判明。今後はこうした集客スポットにデジタルサイネージなどを設置し、回遊促進につなげていくという。
●名鉄ワールドトランスポート株式会社 × AItoAir株式会社
発表タイトル:「情報の起点を書き換え、物流の不確実性をゼロにする」
※常滑エリアの課題解決コース
国際物流を手がける名鉄ワールドトランスポートでは、業務負荷の増大が課題となっていた。現在、国際物流業界では、越境ECの急増により小口貨物の輸入許可件数がコロナ前の約4倍にまで増えるなど、貨物が増え続けている。
倉庫現場では、荷主から届いた明細リストをもとに、倉庫に届いた実物との一致を目視で確認している。仮に不一致があった場合、現場で修正はできず、荷主に修正依頼を送り再送を求める必要がある。書類と実物の不一致は業務停止や免許剥奪にもつながるため、倉庫作業員の負担は大きく、その解消が求められていた。
この問題を根本的に解決するには、情報の起点である荷主側で不一致を防ぐことが重要である。そこで、画像認識AIに強みを持つAItoAirと連携し、そのための仕組みを開発した。具体的には、荷主側が発送する荷物をスマートフォンで撮影して、サーバーにアップロードする。倉庫側でも到着した荷物を撮影し、両者が一致するか否かをAIで迅速に判定する仕組みだ。
プログラム期間中、実際の物流現場(中部空港オペレーションセンター)で本システムを使って、入庫処理を行った。その結果、従来の目視確認と比較して、作業時間を約60%削減できることを確認できたという。今後は、課題となった判定速度の向上や荷主側の撮影品質の向上などを進め、「物流の新しい標準を作っていきたい」と展望を語った。
●株式会社ジェイアール東海髙島屋 × マーベリックソリューション株式会社
発表タイトル:「日本最大級のバレンタイン催事『アムール・デュ・ショコラ』スマート運営の実現」
※大規模イベントの課題解決コース
ジェイアール東海髙島屋は、年間4900万人もの集客力を誇る百貨店で、10階の催事場では数々のヒット催事を生み出している。特に、バレンタイン催事『アムール・デュ・ショコラ』は、90万人超が来場する大人気イベントだ。ただ、会場の混雑状況の把握がアナログかつ属人的であり、従業員の業務負荷が増大している点が課題となっていた。
そこで、ハードウェアとソフトウェアを一気通貫で開発できるマーベリックソリューションと連携し、AIカメラ解析を活用した人流の可視化に取り組んだ。プログラム期間中は、『アムール・デュ・ショコラ』の催事会場に複数のカメラを設置し、AIによる匿名化解析を実施。人流データをリアルタイムに集約し、滞留エリアや流動経路をフロアマップ上に描画したほか、瞬間的な来場人数も算出してダッシュボードに反映した。
これにより、混雑状況や移動方向の確認、時系列比較などが可能となり、大局的な状況把握が実現できたという。今後は、来場者・従業員双方に貢献するソリューションとして、さらなる高度化を目指していく考えだ。
●株式会社中日新聞社 × 一般社団法人 One Smile Foundation
発表タイトル:「ユニークな観戦体験の創出によるスポーツ興行の裾野拡大」
※大規模イベントの課題解決コース
中日新聞社は、マスメディア事業のほか多数の文化・スポーツ興行やスポーツ分野でのイノベーション推進に取り組んでいる。今回は、ユニークなテクノロジーを活用し、スポーツの無関心層にも響く新たな体験創出と収益拡大を目指して共創に挑んだ。
共創パートナーのOne Smile Foundationは、AIによる顔認識技術で「笑顔」を検知し、その数に応じて寄付を行うサービスを展開している。今回は、この笑顔検知のテクノロジーを活用し、スポーツ興行を盛り上げる取り組みを進めた。
プログラム期間中は、「名古屋フィギュアスケートフェスティバル(自社興行)」と、「豊田合成ブルーファルコン名古屋公式戦(他社興行)」において、このテクノロジーを試験導入。会場およびオンライン配信の双方で笑顔数をカウントした。その結果、目標の一つとしていた来場者数を上回る笑顔の検知数を確認するとともに、技術面での検証も進んだという。今後は、広告表示などによる収益化も視野に入れ、事業展開を進めていく考えだ。
●株式会社名古屋グランパスエイト × VRTalk株式会社
発表タイトル:「大規模スポーツ興行における来場者に“迷わせない”観戦体験の設計」
※大規模イベントの課題解決コース
プロサッカークラブの名古屋グランパスエイトは、年間来場者数約60万人を誇り、昨年のリーグ戦平均入場者数は約3万2,000人にのぼる。一方で、ホームゲームにおける来場者案内は運営スタッフの人力に依存しており、スタジアムの複雑な構造も相まって、座席や売店・ブースへの導線に迷うケースが多いことが課題となっていた。
そこで、パートナーのVRTalkとともに、ARを活用したスタジアム向けナビゲーションシステムを開発。来場者がスマートフォンでチケット情報を読み取ると、画面上にクラブのマスコットキャラクターが表示され、座席まで案内する仕組みだ。あわせて、スポンサー広告の表示にも対応している。
プログラム期間中、実際のホームゲーム(2試合)において50組がナビゲーションアプリを体験。その結果、約90%が自身の座席まで正しく到達でき、約75%が「便利だ」と回答したという。一方で、画面を見ながら移動することへの懸念も一部指摘された。今後は安全性の向上やサービス価値の拡張を進め、スタジアムや他の領域へと広げていきたいと語った。
●株式会社道の駅とよはし × 株式会社はこぶん
発表タイトル:「サイレントカスタマーの『ちょっとした声』を起点にした、来訪者のホンネの声分析・販促への活用」
※大規模イベントの課題解決コース
「道の駅とよはし」は、年間約220万人が訪れる全国屈指の人気施設だが、来訪者の声を十分に収集・分析できていない点を課題としていた。一方、はこぶんは、顧客の“隠れたホンネ”を収集・分析するツール「ホンネPOST」を提供している。従来の形式的なアンケートでは拾えない、埋もれがちな「ちょっとした声」を、デジタル手紙という形式で丁寧に拾い、選ばれる本当の理由を可視化していることが特徴だ。
プログラム期間中は、「道の駅とよはし」内の3施設(コンセプトショップ/インフォメーション/ポップコーン専門店)で、「ホンネPOST」を試験導入。その結果、約2か月半で410件・総文字数3万字超の顧客の声を収集することができた。全体の60%が50文字以上の投稿となっており、分析に十分な回答を得ることができたという。
収集した顧客の声を感情分析AIで分析したところ、「せっかく寄ったからには、何か買いたい」「ここでしか買えないものを、パッと選びたい」というニーズが明らかになった。これを受けて、「道の駅とよはし」の限定感を演出したセット商品を7種類新たに販売。中には売上が前年同月比で約4倍に伸びた商品もあった。今後はSNSと連動した販促施策も進めながら、さらなる改善につなげていく方針だという。
取材後記
多様なプレイヤーの連携が、新たな価値を生み出す手応えを感じさせる成果発表会であった。2026年は、第20回アジア競技大会が開催される愛知県にとって象徴的な年だ。中部国際空港を玄関口に、海外から多くの人が訪れることが見込まれる。本プログラムで生まれた取り組みや知見が活かされる場面も増えていくだろう。実証にとどまらず、実装へとつながる動きがどこまで広がるのか、今後の動向が注目される。なお、『TECH MEETS』は来期も継続が予定されており、さらにバージョンアップして「インバウンド関連」のテーマも加わるという。今後の展開にも注目したい。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)