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今年で4期目!愛知県全域をフィールドにした「地域×スタートアップ」の事業共創プログラムが始動――昨年度採択スタートアップ2社に聞く、プログラムの魅力&メリットとは?

今年で4期目!愛知県全域をフィールドにした「地域×スタートアップ」の事業共創プログラムが始動――昨年度採択スタートアップ2社に聞く、プログラムの魅力&メリットとは?

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2018年に「Aichi-Startup戦略」を策定した愛知県は、日本最大級のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」を開業するなど、各地域同士が相互に連携・協力し、県内全域でのスタートアップ・エコシステムの形成を目指している。

こうした取り組みの一環として、地域課題の解決をスタートアップと共に目指す事業共創プログラムの実践の場である『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2025』が開催される。同プログラムでは、愛知県内の自治体やスタートアップ支援機関等が「地域パートナー」として参加。地域課題に関する情報や地域ネットワークを提供し、スタートアップが取り組む仮説検証の支援を実施する。4期目となる今年度は6月13日より企業エントリー受付がスタートする予定だ。

TOMORUBAでは、今年度のプログラム開始に先立ち、昨年度のプログラム採択企業として現在進行形で自治体や県内企業との共創を進めている株式会社ファースト・オートメーションの伊藤氏、株式会社TENTIALの市川氏へのインタビューを実施した。

両社が昨年度の『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』にエントリーした理由、共創事業の現状や今後の見通し、さらには自治体や地域パートナーから受けたサポートの内容など、スタートアップやベンチャーが本プログラムに参加する意義やメリットなどについて詳しくお聞きした。

愛知県内の各市町村・支援機関との共創を目指すプログラムへの参加背景

――最初に伊藤さんにお聞きします。ファースト・オートメーションの事業概要を教えてください。

ファースト・オートメーション 伊藤氏 : 当社は製造業の現場で発生している人に依存した非効率な業務の課題を、生成AIで解決するスタートアップとして活動しています。当社の主力製品である「SPESILL」(スペシル)は、製造現場で使用されるExcel形式の仕様書、作業手順書、リスクアセスメント、FMEAといった文章を、AIで自動生成・自動入力する機能を搭載したAIツールです。

また、生成AIを使って2Dの図面から3DCADを自動生成するAI技術や、動画を分析して手順書を自動生成するAI技術も有しており、製造業特有のナレッジ伝承や業務改善に貢献するプロダクト群を展開しています。

▲株式会社ファースト・オートメーション 代表取締役兼CEO 伊藤雅也氏

自動車部品メーカーの生産管理部から大手ロボットSIerに転職し、技術営業として工場自動化、ロボット化の提案営業に従事。画像解析や自動制御技術など、AIを活用したロボットシステム提案も経験。ITを活用した企業の課題解決を目指し、2020年9月、株式会社ファースト・オートメーションを創業。

――昨年度の『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』に参加された理由について教えてください。

ファースト・オートメーション 伊藤氏 : 一昨年の7月に「SPESILL」のβ版を公開しましたが、思いのほかユーザー数が伸びなかったのです。その理由の一つとしては、「製造現場で生成AIを活用できるのか?」という疑問を持たれている方々がまだまだ多かったことが挙げられますし、実際に生成AIに関するPoCを行おうとする企業も大手企業がほとんどでした。そのため当社は、中小企業の製造現場における生成AI活用の可能性の検証や活用事例の創出を目的として、今回のプログラムにエントリーしました。

――続いて市川さんにお聞きします。TENTIALの事業概要を教えてください。

TENTIAL市川氏 : 当社は「健康に前向きな社会を創り、人類のポテンシャルを引き出す。」というミッションの実現に向けて、コンディショニングブランド「TENTIAL」を通じ、着るだけで疲労回復ができるリカバリーウェア「BAKUNE」シリーズなど日常でコンディショニングを手軽に取り入れられる機能性製品を展開しています。

私たちはコンディショニングを「ライフパフォーマンス向上のために体調に関わるすべての要因を良い状態に整えること」と定義しております。また、コンディショニングの実装に向け製品の展開だけでカバーできない部分を埋めるため、啓発や実証、様々な法人との協業にも挑戦しています。

▲株式会社TENTIAL 公共政策グループ グループマネージャー 市川佑樹氏

陸上自衛隊を経てIT関連企業へ転職し、政策渉外に従事。健康に関わる事業に興味を持ち、2024年5月、株式会社TENTIALに入社。公共政策グループに所属し、業界のルールづくりや地域の健康課題に資する様々な活動の推進を担当。

――昨年度の『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』に参加された理由について教えてください。

TENTIAL市川氏 : 先ほどお話ししたように、当社はコンディショニング製品によって健康課題の解決を推進していますが、単に製品だけではなく様々な体験やプログラムを通じてコンディショニングを実装することを目指しています。

昨年、地域の課題を解決するような取り組みを進めていきたいと考えていた際に今回のプログラムの存在を知りました。会社として新たな領域に挑戦するチャンスであると捉え、「まちづくり・観光」の応募テーマを選んでエントリーさせていただきました。

54社の地元企業とマッチングし、16社とPoCを実施した例も――採択企業が取り組んできたプロジェクトとは?

――昨年度プログラムの採択企業となったファースト・オートメーションは、愛知県内9エリア20団体の協力を得て54社の地元企業とマッチングし、16社とPoCを実施したと伺っています。どのような経緯でこれだけの共創を実現できたのですか?

ファースト・オートメーション 伊藤氏 : エントリーの時点では「SPESILL」のニーズを確かめたいという気持ちがありました。ただ、特定の製品だけでは生成AIの活用イメージが限定されてしまうと考え、プログラムの開始時には、2D図面を3DCADに変換するAI技術と動画をAIで分析する技術という2つの技術をテーマに掲げてニーズの調査を実施しました。

――それらの2つの技術のニーズに関しては、大きな手応えがあったのでしょうか。

ファースト・オートメーション 伊藤氏 : 実はこの2つの技術についても強いニーズは感じられませんでした。いずれも技術的にはユニークなものですが、技術活用に関するハードルがあったのです。それらのハードルを確認できたこと自体も収穫の一つではありましたが、手応えとしては弱かったと言わざるを得ません。

そのため私たちは、さらに大きな方向転換を行いました。各エリアの中小企業を訪問する中で「そもそもAIって何?」「そんなものが使えるの?」というAIに対する懐疑的な意見が多かったため、当社側の製品や技術を一方的に提案するスタンスではなく、「まずは御社の課題を聞かせてください」といった形で、各社の課題に合わせた技術を生み出していくスタンスへと取り組み方を変えていきました。

――企業の課題起点で技術やサービスを提案していくスタンスに方向転換を図ったことで、どのような成果が得られましたか?

ファースト・オートメーション 伊藤氏 : 各社の課題をお聞かせいただくことで「こんなニーズがあるのか」という様々な発見ができたほか、実際のビジネスにもつながるものも出てくるなど、大きな成果が得られました。たとえば刈谷エリアの碧海信用金庫さん主催のセミナーでマッチングした企業様からは、2Dの図面を読み込んでBOMと呼ばれる部品表に移し替えるアプリの発注をいただいています。

また『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』に参加し、視野を広げて様々な企業様のニーズを拾っていく中で、当社内からは「AIに関する教育から始めた方がいいのではないか」という意見も挙がりました。

そこで当社では、参加者が生成AIの前提知識を習得し、自律的にAIを活用した生産効率の向上に取り組めるようにすることを目的とした生成AIの研修事業をスタートしました。すでに刈谷エリアでマッチングした山田製作所様や豊川エリアでマッチングしたトーアス様にて研修を実施するなど、こちらに関しても大きな手応えが得られています。

▲ファースト・オートメーションは、プログラムを通して54社とマッチング。そのうち、16社とのPoCを実施した。

――続いて市川さんにお聞きします。プログラムの採択企業となった後、TENTIALはどのような事業に取り組まれたのでしょうか。

TENTIAL市川氏 : 当社では、「①地域資源を有効活用することによって観光客を誘致する、②参加者や地域のコンディションを良くする(健康増進)」という2つの目標を掲げて「地域×コンディショニングによる観光推進プロジェクト」に取り組みました。

具体的には、地域資源を取り入れた1泊2日のコンディショニングプランを策定し、今年の2月に新城市の湯谷温泉と蒲郡市の三谷温泉にてモニターイベントを実施しました。ちなみに新城市では「森林と温泉」、蒲郡市では「新たな自分に出会うひととき」というテーマ設定を行った上でプランを策定しました。

――テーマやプランの策定については、どのように進められたのですか?

TENTIAL市川氏 : まずは自治体などの地域パートナーの方々に地域の課題や特徴、観光資源についてヒアリングさせていただきつつ、当社が掲げるコンディショニングについて理解してもらおうと努めました。その後はオンラインミーティングや現地訪問を通じての意見交換を行いながら各自治体の皆様から施設やパートナー企業のご提案をいただき、それら情報をもとに私たちの方でも試行錯誤を重ねながらプランを策定していきました。

▲TENTIALは2025年2月に、新城市・蒲郡市において有料のモニターイベントを開催した。

――1泊2日のコンディショニングプランには、どのようなコンテンツを組み込んだのでしょうか。

TENTIAL市川氏 : 新城市と蒲郡市ではそれぞれテーマが違うので、細かな部分の違いはありますが、人間の体内リズムを踏まえた覚醒と睡眠圧のコントロールを意識したプランを策定しました。

「森林と温泉」をテーマにした新城市でのイベントでは、日中に薪割体験や森の中での深呼吸などを実施。その後は地元の食材を使ったバーベキューで食事を取り、入浴をした上で、当社の掛布団を取り入れた良質な環境で睡眠を取っていただきました。朝の起床後は、太陽の光を浴びて体内時計をリセットし、30分ほど目覚めの呼吸法を体験してもらいました。

イベントの最後には、コンディショニングワークショップを実施し、参加者の皆様に今回のプランで体験したことを「どのようにしたら日々の生活に取り入れていけるか」について話し合っていただきました。

――参加者の皆様からは、どのような感想やフィードバックがありましたか?

TENTIAL市川氏 : 参加いただいた多くの皆様から「日々のコンディショニングを意識するきっかけになった」「コンディショニングに関する気づきがあった」といった前向きなフィードバックをいただいています。

また、参加された皆様は市外の方々でしたので、新城市の湯谷温泉や蒲郡市の三谷温泉について「こんな魅力的な温泉があることを初めて知った」「知り合いにも勧めたい」といったお言葉もいただきました。今回のプロジェクトで掲げていた観光と健康増進という二つの目的に関して良好な手応えが得られたので、私たちとしても本当に嬉しかったですね。

企業とのマッチングやイベント運営など、「地域パートナー」から受けた様々なサポート

――今回のプログラムでは、自治体などの地域パートナーからどのようなサポートがありましたか?

ファースト・オートメーション 伊藤氏 : 各エリアや自治体でセミナーを開催し、その上で自治体の方々から地元企業とのマッチングをサポートいただく流れが基本でした。実際に当社も岡崎エリアや刈谷エリアでセミナーを開催し、多くの企業と出会うことができました。

ただ、新城市や豊川市などでは、市役所や商工会の方々から「こういう企業がありますが、会ってみませんか?」と打診をいただき、セミナーを介さず直接企業とつないでいただけるケースもありました。このようなケースでは自治体の方と一緒に企業様を訪問できるため、企業様の方も最初から私たちのことを信用して話を聞いてくださることが多く、その後のマッチングもスムーズに進みました。

TENTIAL市川氏 : 今回のプロジェクトを進めるにあたっては、地元の方々から地域の課題や地域の魅力的な資源について、いろいろなお話を聞かせていただけたことが大きかったと感じています。その上で、様々な地元の企業様・関係者様におつなぎいただいたほか、当日のイベント運営についても手厚くサポートいただきました。また、新城市、蒲郡市の方々には、広報面でも手厚いご支援をいただきました。

――自治体や支援機関など地域パートナーとの共創において、大切になる要素や重要なポイントだと感じたことがあれば教えてください。

ファースト・オートメーション 伊藤氏 : 地元企業の方々の課題や意見に対して可能な限り耳を傾けることが大切になると思います。たとえ自分たちの会社とは全然関係のなさそうな話であっても、そのことに対して親身になってアドバイスや提案をすることによって、別の角度から話がつながっていくことも珍しくありませんでした。当社のマッチング件数やPoCの多さは、そのような柔軟性のある対応を続けてきた結果だと思っています。

TENTIAL市川氏 : 私は今回の取り組みに参加するまで湯谷温泉と三谷温泉を知りませんでしたが、自治体や地元の方々にいろいろと話をお聞きしていくうちに、両温泉ともに非常に魅力的であると感じるようになり、私自身がその土地のことを好きになりました。そして、好きになったからこそ土地の資源を活かした素敵なプランを作りたいという想いも生まれました。

そのような想いは地域の皆様にも必ず伝わると思うので、その地域や土地の課題・魅力について深く知った上で、自分自身がその地域や土地を好きになることも重要なポイントになると思います。

――TENTIALとしては、今回のような共創プログラムに初めて参加されたとのことですが、『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』に参加して感じられたメリットなどがあれば教えてください。

TENTIAL市川氏 : 以前は地域との連携に関して手探り状態で進めていた部分も多かったのですが、今回のプログラムに参加したことにより、どのような形で自治体や地域の皆様と取り組んでいくべきかが明確になったほか、今後の事業推進に関する貴重なノウハウも得られました。

また、キックオフや途中経過の共有、最終成果の共有など、様々なステップが設けられていたため、その都度目標を言語化し、周囲の方々と連携しながら進めることができました。このようなこともプログラムに参加したからこそ得られたメリットだと考えています。

地域課題に耳を傾け、柔軟なスタンスで臨むことで様々なチャンスが得られる

――2社それぞれにお聞きします。『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』を経て、次なるステップや今後の展望について教えてください。

ファースト・オートメーション 伊藤氏 : まずはプロダクトのアップデートです。現在も開発を続けている「SPESILL」に関して、大手企業・中小企業ともにニーズの高いExcel機能にフォーカスした開発を続けながらPMFを進めていくつもりです。

また、先ほどお話しした生成AIの研修事業に関しては、単なる教育だけで終わることなく、私たち自身がコンサルティングに入ることで、生成AIを活用できる人材の育成や、社内アプリの開発支援なども行っていきたいと考えています。

TENTIAL市川氏 : 当社は今回のプログラムを通じて、コンディショニングツーリズムに関するモニターイベントを初めて実施することができました。その後、私たちのモニターイベントに関する取り組みは、テレビ・新聞・webメディアで取り上げられるなど、世の中の人々のコンディショニングに関する高い関心・ニーズについて改めて確認することもできました。

今後は、今回のプログラムで明らかになった課題を一つひとつ検証し、改善を進めていくことで、さらにより良いコンディショニング体験の構築につなげていきたいと考えています。

――最後になりますが、今年度の『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』に参加を検討しているスタートアップやベンチャーの方々へのメッセージをお願いします。

ファースト・オートメーション 伊藤氏 : 過去にも幾つかの共創プログラムに参加したことはありますが、今回の『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』ほど、多くの企業と出会えたプログラムはありませんでした。愛知県全体で取り組んでいる大規模なプログラムは珍しいと思いますし、当社のように柔軟なスタンスで取り組めば様々なエリア・地域でマッチングできるので、より多くの企業と出会いたい方々にとっては、またとないチャンスの場になると思います。

TENTIAL市川氏 : 各企業で様々なソリューションや製品・サービスをお持ちだと思いますが、自治体や地域との共創に際しては、地域の皆様が抱えている課題を知り、地域の方々と一緒になって課題を解決していこうという姿勢が求められます。先ほどの話とも重なりますが、皆さん自身が地域の土地や人々を好きになり、地域の皆さんと一体となって取り組むことができれば、素晴らしい成果が得られると思います。

取材後記

今回で4期目となる『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』は、愛知県や各市町村、さらには多くの支援機関・地域パートナーが参加する事業共創プログラムとして、県内全域に定着しつつある。すでに本プログラムを起点にした様々な新規事業や共創事例が生まれているだけでなく、昨年オープンした県のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」の本格稼働に伴い、これまで以上に多くのチャンスが提供されることも間違いないだろう。

国内製造業の一大拠点であり、多くの有力な地域企業・中小企業が活動している愛知県のポテンシャルに注目するスタートアップやベンチャーは、今回のプログラムへの参加を通じて、新たなパートナーとの出会いや地域に根差したイノベーションの創出にチャレンジしてほしい。

(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己、撮影:齊木恵太)

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  • 木元貴章

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  • 谷口靖弥

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