「愛知県企業5社に聞く!プログラムの魅力と期待」過去最多21社が参画した「AICHI MATCHING 2022」
全国のスタートアップと愛知県に拠点を置く企業を結び付け、新たな価値の創出を狙うビジネスマッチングプログラム『AICHI MATCHING2022』。今年度は過去最多の21社の愛知県企業がホストとして参画した。各企業の募集テーマからスタートアップなどへ求める技術・サービス領域として、「IT」「不動産・インフラ」「エネルギー・環境」「モビリティ」「社会福祉・教育」「飲食」の6つを設定。全国のスタートアップなどから多くのエントリーが集まった。
去る10月25・26日にはマッチングDaysがバーチャルオフィス「oVice」上で実施され、共創を目指す者同士の対話は盛り上がりを見せた。
▲「oVice」で開催されたマッチングDaysの様子。ホスト企業21社のブースが設けられ、スタートアップなどとの面談が2日間にわたって行われた。
――そこで今回TOMORUBAでは、ホスト企業の中から5社(FUJI、トヨタ自動車、小島プレス工業、名古屋鉄道、三菱電機)に対してインタビューを行った。具体的にどのようなマッチングが実施され、各社の手応え・感触はどうだったのか?以下に詳細をレポートする。
【FUJI】 有望なスタートアップに会えるという期待を寄せての継続参加
<募集テーマ>「持続可能な社会の実現に“ロボット” x “AI”で貢献」
▲株式会社FUJI イノベーション推進部 第2課 課長 神谷一光 氏
FUJIは電子部品実装ロボットを中心に事業を展開し、創業60年を超える歴史を持つ。AICHI MATCHINGには昨年度に続く参加となった。昨年度はマッチングが実現し、現在も共創を進めているという。そうしたことから、神谷氏は「質の高い複数のスタートアップと出会いを果たせるはず」と大きな期待を寄せている。
同社は実装ロボット市場でトップクラスのシェアを有しており、強みは何といってもロボット技術だ。自社の持つ技術と、スタートアップの新しい技術・サービス・アイデアなどを掛け合わせることで、社会課題の解決を目指したいとの考えから、今回のテーマを設定した。具体的な共創アイデアの例として、コンベア上を流れるがれきに紛れる不要物(木片・布・樹脂・鉄骨等)をAIによって高速で検出・認識する「がれきリサイクルロボットの付加価値向上」、家の中をセンシングし、ライフログ(活動量や生体情報等)を分析することにより、高齢者をはじめすべての人の健康的な生活に必要な特徴の可視化を実現する「介護/健康データの解析と新しい価値の提案」を掲げた。
マッチングDaysの成果を尋ねると、「非常に興味深い話を多く聞くことができた。人的リソースや予算の制約がなければすべてと共創したいくらい」と確かな手応えをつかんだ様子だ。中には、事業会社側の事情を十分に理解した上での提案もあり、共創がスムーズに進むことを予感させた。「当社、スタートアップ、ユーザー、いずれにとっても価値を最大化できる結論を導けるのではないか」と神谷氏は自信をのぞかせる。
神谷氏は今後、事業共創を行うに当たり、「当社はフットワークが軽く、スピード感を持ってスタートアップの要望に応えられる」と意気込んだ。
【トヨタ自動車】 Web3.0の知見が豊富なスタートアップとの共創を期待
<募集テーマ>「Web3.0のデジタル技術を活用し、“デジタル”と“リアル”が融合した「新たなモビリティライフ」の創出」
▲トヨタ自動車株式会社 新事業企画部 グループ長 鬼頭 司 氏
「モビリティカンパニー」となることを目指すトヨタ自動車は、移動にまつわる課題に取り組むことで、人や企業、コミュニティの可能性を広げ、「幸せを量産」することを使命としている。昨年度のAICHI MATCHINGには「サーキュラーエコノミー」をテーマに参画。共創は順調に進み、PoCにも取り組んでいるとのことだ。今年度は「Web3.0」に着目し、テーマを大きく変えての参画となった。
鬼頭氏は「社会課題の解決が難しいのはインセンティブの付与が少ないから」との仮説を立て、共創アイデア例として、「トークンエコノミーの特性を活かして、『X to Earn』と『社会課題解決』を両立したプロダクト・サービスの開発」を掲げた。「Drive to Earn」と「CN貢献」の両立、「Move to Earn」と「健康増進」の両立等を実現できるプロダクト・サービスの開発を目指すという。あわせて、地域・施設の活性化につながるコミュニティの創出とコミュニティに参加するインセンティブの設計を両立させ、各地域・施設への新たな移動シーン・ニーズの創出を試みる「DAOの特性を活かして、『新たなモビリティライフ・コミュニティ』の創出」を提示。鬼頭氏は「自社だけではスピード感に欠ける。スタートアップとWIN-WINの関係を築きながら、課題解決に向けチャレンジしたい」と熱意を見せた。
マッチングDaysの成果を尋ねると、「Web3.0の進歩は速く、付いていくのが大変な側面がある。一方、スタートアップの方たちは経験も知識も豊富で、質の高い協業が期待できる」と期待を語る。NFTを簡単に発行できる技術を持つスタートアップや、高い視座を持つスタートアップとの出会いがあり、次のステップに積極的に進めたいとのことだ。社会課題や健康増進、地域貢献は自動車会社との距離があるようにも感じるが、鬼頭氏は「カーボンニュートラルの実現について、自動車会社として果たすべき責務がある。また、健康になれば外に出る機会が増え、地方を創生することで移動の機会は増える。その意味ですべてモビリティにつながっている」と強調し、事業創出に向け意気込んだ。
【小島プレス工業】 多くのスタートアップとスピード感を持って出会えた
<募集テーマ>「一次産業(農業・林業)の活性化によるカーボンニュートラルの実現」
▲小島プレス工業株式会社 研究開発部 統合イノベーション課 係長 中村 行宏 氏
小島プレス工業はトヨタ自動車の協力メーカーとして自動車の内外装部品を手がけ、2023年で創業85年を迎える。AICHI MATCHINGは今回が初めての参画となる。
小島プレス工業はものづくり企業として1世紀近くの歴史を重ねているものの、「それゆえに内向きの体質があることは否めない」と中村氏は言う。現在は社内でビジネスアイデアコンテストを開くなどしながら、既存事業だけにとどまらず、デジタル分野を含め新しい市場、成長領域への挑戦を試みていた。しかし、自社だけの活動では限界を感じていたのも事実で、中村氏は「外に目を向ける必要があり、全国のスタートアップをはじめ、自治体や大学、研究機関とのつながりを作りたいと考えていた」と話す。そうしていたところにAICHI MATCHINGの存在を知り、参画に至った。
募集テーマは同社の事業領域からすると意外な気もするが、実は従来から農業や林業に関する事業化を思案していた。三重県内にある社有林の活用拡大も考えているそうだ。その上で、「カーボンニュートラルという地球的な課題に対し、何か自動車部品メーカーとしてできることがあるのはないか」と中村氏。林業は危険で収益化が難しいという声もあるが、だからこそ、新しいものを生み出すチャンスも大きいはずと意気込む。
マッチングDaysの成果を尋ねると、「非常に斬新な提案を多く受け、とても有意義な時間を過ごせた。これほど多くのスタートアップとスピード感を持って出会えたのも、今回参加した大きな成果」と強調する。現在、3社と具体的な協業の話が進んでいるとのこと。次のステップとしてリアルでの面談や訪問を計画しているという。
【名古屋鉄道】 スタートアップと最適なスキームを組み、事業創出を実現したい
<募集テーマ>「地域の交通拠点や移動自体の魅力向上を通じた、移動需要の喚起」
▲名古屋鉄道株式会社 経営戦略部 チーフ 堀場 萌美 氏
名古屋鉄道株式会社は中部圏を基盤とし、鉄道をはじめ、不動産、観光、ホテル、流通、情報、介護など多様な事業を展開している。グループのパーパス「地域を創る、社会を支える」を踏まえ、地域を活性化する事業、社会を支える事業の領域拡大を目指して、新規事業の創出や地域連携を積極的に推進していく。
参画の目的の一つとして「できるだけ多くのスタートアップと接点を持ちたかった」と堀場氏。普段からイベントやピッチに積極的に参加しており、全国のスタートアップからエントリーを募集するあいちマッチングは同社の求めることと合致していたと話す。事業創出は自社だけでも行っているが、「協業することでスピードアップを図っていきたい」と熱意を込める。
幅広く事業を展開する同社は、多様な分野のテーマ設定が可能だ。しかし、今回は初めての参画ということもあり、わかりやすさを重視して鉄道という事業の根幹を担う部分での課題を提示した。堀場氏は「リアルでの体験の魅力を改めて認識してもらい、移動需要の喚起につなげたい」と語る。
マッチングDaysの成果を尋ねると、「健康・ヘルスケア領域のサービスを手がけるスタートアップとの出会いがあり、新たな可能性を広げられた。また、交通インフラを担っていることから、スタートアップからの期待の大きさも感じた。両者にとって最適なスキームを組み、事業創出を実現させたい」と熱く語る。マッチングイベントについては、「短時間で多くのスタートアップと出会うことができたのが良かった。今後はリアルで会い、ディスカッションを進めたい」と次のステップに向けて意気込みを見せた。
【三菱電機】 数社とのディスカッションを継続して行っていく
<募集テーマ>「新たな価値を生み出す「未来の工場」の実現」
▲三菱電機株式会社 名古屋製作所 開発部 事業戦略グループ 岡根 正裕 氏
三菱電機グループは、重電システム、産業メカトロニクス、情報通信システム、電子デバイス、家庭電器などの製造・販売を行っている。AICHI MATCHINGには名古屋製作所がエントリーした。名古屋製作所はFA事業に強みを持ち、売上は順調に伸びているものの、FA事業だけではいずれ限界が来ることを予見。一方で、自社だけで新しい事業を作ろうとしても、どうしてもアイデアに広がりがでない。
そこで、「スタートアップから新しい提案を受け、共にアイデアを出し合い具現化に導きたい」との思いから、AICHI MATCHINGには参画を決めたと岡根氏は述べた。「愛知県は地元でコミュニケーションが取りやすい。その点も良かった」とのことだ。
テーマについては「自分たちなりに未来を想像して、その未来にとって必要なことを手がけたい」との思いから設定。岡根氏は「抽象度の高いテーマ設定であることは理解していたが、既存事業の延長ではなく、全く新しい視点で事業創出に取り組みたかった。事業部門と連携や実現のしやすさを考慮した上で設定したが、三菱電機らしからぬテーマとした。その分、さまざまなアイデアや可能性を探ることができる」と強調した。
マッチングDaysの成果を尋ねると、「非常に多くのアイデアを提案いただき、とてもありがたく、有意義で楽しい時間を過ごせた」と笑顔を見せる。「お互い初対面でかつオンラインだったにも関わらず、ディスカッションは盛り上がった。中には、応募テーマに沿ったプレゼン資料を用意しているスタートアップもあり、その丁寧な対応や熱意に感銘を受けた。現状は手探りの段階だが、考えが整理され、次のステップを見据えることができている」と熱く語る。現状、3社とのディスカッションを継続して行う予定とのこと。工場とエンタメの融合、異業種×AIで工場の新たな課題の発見など、共創のアイデアは広がる。岡根氏は「実際に事業創出につながりそう」と期待を寄せた。
取材後記
AICHI MATCHING参画にかける強い思いや、寄せられる期待の大きさが感じられた。ホスト企業は地元・愛知県のサポートを受けながら、スタートアップをはじめとする多彩な企業との出会い、斬新な提案やアイデアを受けることができる。参画企業はマッチングDaysを通じて、確かな手応えを得ていた様子だった。AICHI MATCHINGは2022年度で4回目となることから、十分なノウハウが蓄積されている。これまでに新たな事業やプロダクト、サービスを生み出した実績もある。今回は想像以上に速いペースで事業創出が実現されるのではないか。今後の展開から目が離せない。
(編集・取材:眞田幸剛、文:中谷藤士)