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『スタートアップ5か年計画』で投資額を10倍の10兆円に!野心的な政策の背景や目的、“3つの柱”について解説<前編>

『スタートアップ5か年計画』で投資額を10倍の10兆円に!野心的な政策の背景や目的、“3つの柱”について解説<前編>

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岸田文雄首相は経済政策として「新しい資本主義」を掲げています。これは小泉純一郎元首相から続いた「新自由主義的」を是正し新しい社会を作ることを目的にした大きな方針転換と言えます。

新しい資本主義は4つの柱からなっており、それぞれ「人への投資」「科学技術・イノベーションへの投資」「スタートアップへの投資」「GX及びDXへの投資」へ積極的な投資をするというものです。

特に大規模な投資への期待がかかっている「スタートアップへの投資」については、岸田首相は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付けて、同年11月から「スタートアップ育成5か年計画」を打ち出しています。

本記事ではこのスタートアップ育成5か年計画を前編・後編に分けて徹底解説していきます。前編ではスタートアップ育成5か年計画の概要をまとめ、後編ではオープンイノベーションにフォーカスしてより深堀した解説をしていきます。

スタートアップを社会課題の解決と成長戦略を両立させるエンジンに

最初に、スタートアップ育成5か年計画の基本的な考え方をおさらいしておきます。そもそも新しい資本主義とは、社会課題の解決をエンジンに持続的な経済成長をする枠組みを作ろうとするものですが、スタートアップはまさにその考え方を実践するものとして支援の対象になっている背景があります。しかし日本のスタートアップを取り巻く環境は思わしくなく、スタートアップの開業率やユニコーンの数は米国や欧州と比べて低い水準にあります。

一方で、旧来技術を持つ大企業がスタートアップをM&Aしたりコラボレーションしたりして新技術を導入することで、オープンイノベーションが生み出され、持続的な成長につながることがわかってきました。

このような背景から政府はスタートアップ育成5か年計画を通じて、スタートアップの起業と、大企業とのオープンイノベーションを加速させ、スタートアップを産み育てるエコシステムの構築を目指しているのです。

具体的には、スタートアップへの投資額を2021年度の8200億円から、2027年度に10兆円規模まで増やすことを目標にしています。実に5年で10倍という野心的な目標と言えるでしょう。また将来的には国内からスタートアップを10万社、ユニコーンを100社創出し日本をアジア最大のスタートアップハブに育てることを見据えています。

出典:「スタートアップ育成5か年計画ロードマップ」

スタートアップ起業数を加速し、出口戦略・投資の呼び込みを多様化する方向性

スタートアップ育成5か年計画では起業数を加速させる方向性ですが、その計画が正しいと思わせる興味深いデータがあります。各国の開業率は、米国 9.2%、英国 11.9%と比べ、日本は5.1%に留まっていますが、一方で廃業率はそれぞれ米国8.5%、英国10.5%、日本3.3%となっています。

一見、廃業率が低い日本は優秀なように見えますが、企業の参入率・退出率の平均(創造的破壊の指標)が高い国ほど、一人当たり経済成長率が高いことがわかっています。つまりスタートアップは、米国や英国のように多産多死であるほど経済成長するのです。

また、直近の米国のスタートアップ開業率は9%ですが、1980年代は12%と今よりも高かったのです。しかし、起業自体は減少傾向であるものの、ベンチャーキャピタルの投資額は増加傾向にあります(2008年300億ドル→2015年600億ドル)。すなわち、有望なスタートアップに支援が集まっていることがわかります。

このことから、国内でもスタートアップへの資金供給の拡大を目指します。国内のベンチャーキャピタルの育成に加え、海外投資家・ベンチャーキャピタルの呼び込みを図るとのことです。

さらに、スタートアップの出口戦略も多様化することを目指します。これは、日本の事業会社によるスタートアップへの投資額が先進国と比べて極めて低い水準であること、加えてM&Aの件数も欧米に比べて少ないことを考慮しています。

スタートアップ育成5か年計画の「3つの柱」

前述したように、基本的な方針はスタートアップ起業を加速し、出口戦略を多様化し、投資を喚起することです。これらを具体的に実行するためにスタートアップ育成5か年計画では、大きな「3本柱」の取り組みを促進していきます。

1.スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築

2.スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化

3.オープンイノベーションの推進

それぞれの柱について解説します。

1つ目の柱:スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築

1つ目の柱では、前述した先進国と比較した国内における「開廃業率の低さ」を解決することをテーマにしています。スタートアップを対象にした調査では、日本で起業家を増やすには「意識・風土・風潮」の改善が必要との解答が60%を占めることがわかっています。そのため、企業を目指す若い世代の育成に注力する必要があります。

具体的には大学におけるスタートアップ創出支援、また「インキュベーター」「メンター」「アクセラレーター」といったネットワーク構築を支援する取り組みを政策として促進していきます。

スタートアップ育成5か年計画では以下の具体的な12の取り組みを提示しています。

1.メンターによる支援事業の拡大・横展開

2.海外における起業家育成の拠点の創設(「出島」事業)

3.米国大学の日本向け起業家育成プログラムの創設などを含む、アントレプレナー教育の強化

4.1大学1エグジット運動

5.大学・小中高生でのスタートアップ創出に向けた支援

6.高等専門学校における起業家教育の強化

7.グローバルスタートアップキャンパス構想

8.スタートアップ・大学における知的財産戦略

9.研究分野の担い手の拡大

10.海外起業家・投資家の誘致拡大

11.再チャレンジを支援する環境の整備

12.国内の起業家コミュニティの形成促進

2つ目の柱:スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化

2つ目の柱では、スタートアップへの投資と出口戦略のオプションを増やすことを狙っています。ここでも米国のスタートアップエコシステムと比較して、国内ではステージに応じた資金調達の手段が限られていることを課題としています。

ベンチャーキャピタルから投資を受けた企業とそうでない企業を比較すると、前者の方が雇用の拡大やイノベーションに積極的であることが確認されています。当然といえば当然ですが、このことから、ベンチャーキャピタルと協調した政府によるスタートアップへの支援の拡大等を進めることを柱として据えています。具体的な28の取り組みは以下の通り。

1.中小企業基盤整備機構のベンチャーキャピタルへの出資機能の強化

2.産業革新投資機構の出資機能の強化

3.官民ファンド等の出資機能の強化

4.新エネルギー・産業技術総合開発機構による研究開発型スタートアップへの支援策の強化

5.日本医療研究開発機構による創薬ベンチャーへの支援強化

6.海外先進エコシステムとの接続強化

7.スタートアップへの投資を促すための措置

8.個人からベンチャーキャピタルへの投資促進

9.ストックオプションの環境整備

10.RSU (Restricted Stock Unit:事後交付型譲渡制限付株式)の活用に向けた環境整備

11.株式投資型クラウドファンディングの活用に向けた環境整備

12.SBIR(Small Business Innovation Research)制度の抜本見直しと公 共調達の促進

13.経営者の個人保証を不要にする制度の見直し

14.IPO プロセスの整備

15.SPAC(特別買収目的会社)の検討

16.未上場株のセカンダリーマーケットの整備

17.特定投資家私募制度の見直し

18.海外進出を促すための出国税等に関する税制上の措置

19.Web3.0 に関する環境整備

20.事業成長担保権の創設

21.個人金融資産及び GPIF等の長期運用資金のベンチャー投資への循環

22.銀行等によるスタートアップへの融資促進

23.社会的起業のエコシステムの整備とインパクト投資の推進

24.海外スタートアップの呼び込み、国内スタートアップ海外展開の強化

25.海外の投資家やベンチャーキャピタルを呼び込むための環境整備

26.地方におけるスタートアップ創出の強化

27.福島でのスタートアップ創出の支援

28.2025 年大阪・関西万博でのスタートアップの活用

3つ目の柱:オープンイノベーションの推進

3つ目の柱はオープンイノベーションの推進です。これはスタートアップだけでなく、旧来技術を持つ企業の成長戦略にもつながってきます。というのも、旧来技術を用いてきた企業でもスタートアップと連携して新技術の導入を図った場合、持続的に存続可能であることが最近の研究で確認されているのです。

つまり、旧来技術を持つ企業(特に大企業)のオープンイノベーションを推進するには、スタートアップへの投資が不可欠となります。具体的には下記の9つの取り組みを実施していきます。

1.オープンイノベーションを促すための税制措置等の在り方

2.公募増資ルールの見直し

3.事業再構築のための私的整理法制の整備

4.スタートアップへの円滑な労働移動

5.組織再編の更なる加速に向けた検討

6.M&Aを促進するための国際会計基準(IFRS)の任意適用の拡大

7.スタートアップ・エコシステムの全体像把握のためのデータの収集・整理

8.公共サービスやインフラに関するデータのオープン化の推進

9.大企業とスタートアップのネットワーク強化

3つ目の柱については後編にて詳しく解説していきます。

参照ページ:スタートアップ育成5か年計画(案)

編集後記

実にスタートアップへの投資額を5年で10倍の10兆円まで拡大するというチャレンジングな目標を打ち立てているスタートアップ育成5か年計画。2022年度補正後予算の国の一般会計歳出が110.3兆円であることを考えると、この投資額の大きさがわかります。

スタートアップへ大規模な資金が流れるのは良いことですが、ヒト・モノ・カネのバランスが崩れてバブルのような状態にならないかは少し心配です。

また、政府が本腰を入れてオープンイノベーションに挑む姿勢を掲げているのは心強いことです。TOMORUBAの読者はオープンイノベーションに関心を寄せているビジネスパーソンが多いでしょうから、ここについては後日公開する後編でしっかりと解説します。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

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