専属インフルエンサーが“選んで売る”韓国発ファッションECサイト「nugu」がZ世代にヒット。人気の理由は?
今や企業にとって欠かせない戦略となったインフルエンサーマーケティング。近年、インフルエンサーと新たな協業関係を構築して、事業成長につなげている事例を見かけるようになっている。
世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第54弾では、海外発の新たなインフルエンサーマーケティング事例にフォーカスする。
Z世代に大人気の韓国発のファッションECサイト「nugu」、現在ベータ版が公開中のカナダ発グローバル旅行プラットフォーム「Plannin」は、いずれも自社サービスにマッチしたインフルエンサーと専属契約を結び、プラットフォーム内に各インフルエンサーのショップや紹介ページを開設。インフルエンサーが選んだファッションアイテムやホテルを販売している。2社のビジネスモデルと反響を紹介したい。
サムネイル写真提供:medicarelabs(nugu)
日本で大ヒット、実店舗も持つ韓国発ファッションEC「nugu」
2020年10月に日本でリリースされた、韓国発のファッションECサイト「nugu(ヌグ)」。厳選されたインフルエンサーがnugu内に自身のショップを開設し、自身が選んだアイテムを販売するプラットフォームだ。「旬なトレンドアイテムがそろうECサイト」としてZ世代に絶大な人気を得ている。
▲若年層のファッションインフルエンサーが自身のショップをnugu上に開設し、洋服を売る仕組み(nuguの公式ホームページより)
インフルエンサーとの協業スタイルは、従来のインフルエンサーマーケティングとは、やや異なっている。各インフルエンサーは、まず市場の画像などから「自身の好みのイメージ」を集める。そして、そのイメージに沿ったアイテムをnuguが韓国の東大門(トンデムン)市場などファッションアイテムの卸売市場やファッションブランドから調達するという。
アイテムの調達や発送処理、顧客管理、カスタマーサポートなど事務的なタスクはnuguが請け負い、インフルエンサーはアイテム(イメージ)の選定とコンテンツ制作、及び発信を手掛ける。インフルエンサーは「ブランドディレクター」のような役割を担い、それぞれが自身の“色”を出しながらアイテムを選定し、nugu上で売っていく。
▲洋服がきれいに見えるライティングなどよりも、ライフスタイルが見えるシチュエーションが重視されている(nuguの公式ホームページより)
コンテンツ制作において一定の基準はあるはずだが、写真のクオリティ云々より、インフルエンサーのライフスタイルやトータルコーディネートを見せる点に重点が置かれているように感じられる。ECサイトというより、インフルエンサーのSNSを見ているような感覚だ。
レベニューシェアのビジネスモデルで、自身が選定・PRした商品が売れると売上金額の一部がインフルエンサーにシェアされる。インフルエンサーにとっては初期費用や手間をかけずに得意分野のビジネスを始められるメリットがあり、nuguにとってはアイテムの選定やコンテンツマーケティングといった売り上げに直結する部分をインフルエンサーに頼れるメリットがある。
nuguのメインユーザーは20~24歳が45%、25~29歳が25%で、Z世代に支持されている。男女比は約2:8でメインは女性ユーザーだ。
▲2号店として2024年3月にルクア大阪にオープンした実店舗。行列ができる人気ぶりだ(medicarelabs提供)
2023年の取引総額は50億円に到達し、2022年の25億円から2倍に成長している。さらに、実店舗も展開しており、2023年9月には「ルミネエスト新宿」に1号店を、2024年3月に「ルクア大阪」に2号店をオープンした。いずれも長い列ができる反響だという。
2024年5月からは渋谷PARCO、及び韓国の「ヒュンダイ百貨店」と手を組み、韓国で若年層に人気を集めているファッションブランドを紹介するポップアップイベントを渋谷PARCOで実施中だ(7月28日まで開催)。
▲nuguの創業者である韓国出身のパク・ハミン氏
nuguを創業したのは、1987年生まれの起業家パク・ハミン氏で、現在はnuguの運営を担うmediquitous社のCOOを務めている。ファッションEC業界の企業に勤務した後、独立してnuguを立ち上げたハミン氏は、韓国のインフルエンサーマーケティングの成功事例を日本で展開して事業を拡大させている。
まだリリースから3年余りだが、ファッションEC市場で存在感を示しているnugu。次々と新しいニュースがリリースされており、勢いよく成長している様子がうかがえる。
期待の新サービス、カナダ発グローバル旅行プラットフォーム「Plannin」
2024年5月に発表されたばかりのグローバル旅行予約プラットフォーム「Plannin」も、nugu同様にインフルエンサーとの協業を核としたビジネスモデルとなる。
プラットフォーム上では、Planninが契約したクリエイター(インフルエンサー)がおすすめするホテルが紹介されており、ユーザーはクリエイターによる評価を踏まえてホテルの予約ができる仕組みだ。
▲クリエイターのおすすめを参照しながら、ホテル予約ができるグローバル旅行プラットフォーム「Plannin」(Planninの公式ホームページより)
PlanninのHPには、「適切な人からの1つの推薦は、匿名のレビュー1000件よりも価値がある」とある。多くの旅行者はホテルを予約する際、公式ホームページだけでなく旅行者の口コミを参考にするが、膨大なレビューに目を通すのは骨が折れる。そこで、信頼できるクリエイターの紹介を通じて、効率的に満足な旅行体験を提供しようというわけだ。
「クリエイターがどのように選ばれているのか」という問いに対して、Planninは「承認プロセスを通じて慎重に選んでいる。信頼できる正直な推奨事項を提供するために、信頼できる旅行コンテンツを作成するクリエイターを探している」と答えている。
▲トップ画面の印象として、ホテルそのものより「クリエイターを紹介したい」意図を感じる(Planninの公式ホームページより)
ホテルそのものを押し出して紹介するのではなく、クリエイターを全面に立たせて「クリエイターのお墨付きホテル」として紹介することで、予約数を向上させたい考えだ。クリエイターをフォローすると、好みに合わせてパーソナライズされた旅行提案を提供し、旅行にまつわる選択が簡素化されるとしている。
クリエイター側は、自身のSNSでアフィリエイトリンクを共有することで、収益化につなげられる。自身の紹介によりPlanninに登録したユーザーがホテルを予約をすると、予約に対して5%の報酬を永久に獲得できる。また、他のクリエイターを紹介した場合、紹介した人物を経由しての予約に対して1%の報酬を永久に獲得できるという。
同社の説明によると、「平均的な旅行者は、ホテルや観光地に年間2,000ドル(約31万円)を費やしている。フォロワーが10,000人いてエンゲージメント率が3%であれば、年間コミッションとして最大30,000ドル(約472万円)を稼ぐことができる」そうだ。
▲クリエイターがおすすめするホテルは右上にマークが表示され、一目で識別できるようになっている(Planninの公式ホームページより)
同プラットフォームは、「Booking.com」など世界最大級の旅行プラットフォームを展開するブッキング・ホールディングスが運営するPricelineの元幹部、Andrew Loewen氏と Randy Schartner氏が手掛けたことでも注目されている。ブッキング・ホールディングスとのパートナーシップのうえで運営しているそうだ。
現在はまだベータ版で正式リリースの準備中としているが、今後「レストラン」や「アクティビティ」の紹介・予約機能を実装する予定だという。すると、クリエイターは目的地でのホテル、レストラン、体験をまとめた旅程を作成して、旅行体験を丸ごとユーザーに提案できるようになる。
TechCrunchの報道によれば、Planninは昨年、Golden Ventures、N49P、ブッキングホールディングス元CEO 兼会長のJeffery Boyd氏などから250万ドル(4億円弱)の資金を調達した。今夏、さらなるベンチャーキャピタルの調達を予定しているという。
編集後記
インフルエンサーマーケティング市場は非常に勢いがあり、SNSマーケティング事業を手掛けるサイバー・バズによれば、2023年の国内ソーシャルメディアマーケティング市場規模は1兆899億円で前年比117%に。2027年には2023年比で約1.8倍になると予測されている。nuguやPlanninのようなプラットフォームも、一層盛り上がっていくのかもしれない。
(取材・文:小林香織)