国交省が本腰入れる自動物流道路とは?物流の効率化や脱炭素にも寄与するとしてスイスやイギリスなどでもプロジェクトが進行中
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーや、それらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは「自動物流道路」です。自動物流道路は、物流専用の自動運転車両が走行するために設計された道路で、物流の効率化や安全性の向上を目指した次世代インフラとして注目されています。
労働力不足や輸送コストの高騰といった課題に対処するため、各国で自動運転技術を活用した物流システムが開発されており、国内でも導入に向けた実証実験が進行中です。本記事では、自動物流道路の概要や技術的なメリット、導入事例などについて詳しく解説します。
国土交通省が計画を進める自動物流道路
自動物流道路とは、物流専用の自動運転車両が効率的かつ安全に走行できるよう設計された道路のことです。労働力不足や輸送コストの上昇といった物流業界が直面する課題に対し、自動運転技術を活用した新たなインフラとして注目されています。自動運転車両専用の道路を整備することで、物流の効率化を図るだけでなく、移動中の交通事故リスクを減らし、全体の安全性向上にも寄与することが期待されています。
国土交通省では、自動物流道路に関する検討会が2024年から発足しており、7月に公表した「自動物流道路のあり方 中間とりまとめ」では、自動物流道路の実現に向けた指針や課題が示されています。
出典:「自動物流道路のあり方 中間とりまとめ」の公表について~「危機」を「転機」とする自動物流道路
具体的には、物流専用車両の運行を支えるためのインフラ整備や、既存の一般道路との接続における安全性の確保、法整備の必要性について言及されています。また、地域特性に応じた導入方法や、官民連携による効率的な運営体制の構築も重要なポイントとして挙げられています。
参照ページ:自動物流道路に関する検討会 - 国土交通省
参照ページ:「自動物流道路のあり方 中間とりまとめ」の公表について~「危機」を「転機」とする自動物流道路
既存インフラと先端技術を組み合わせて自動物流道路を実現へ
自動物流道路は、国土交通省が2050年までに実現するとしている「WISENET(ワイズネット)」と呼ばれるインフラネットワークの一部として実現を目指しています。WISENET(ワイズネット)は、「2050年に世界で最も賢く、安全で持続可能な基盤ネットワークシステム」として日本が目指すインフラ構想です。WISENETでは、複数の交通モードの連携や、道路インフラの多機能化などを通じて、新たな経済価値の創造と地域振興の推進を図ることが掲げられています。
自動物流道路もWISENETの重要な構成要素として位置づけられています。物流需要の増加やドライバー不足に対応し、環境負荷を低減するクリーンな物流インフラとして、効率的な自動物流システムの社会実装を目指しています。
この自動物流道路の構築に向けて、まずは新東名高速道路や東北自動車道といった主要な高速道路を含む実験フィールドが設定され、技術やオペレーションの検証が段階的に進められます。この実験線では、自動運転トラックや無人搬送車(AGV)などが用いられ、実際の物流ルートを活用した効率化の取り組みが行われます。
また、AIやIoT技術を活用し、リアルタイムで物流データを管理するスマートロジスティクスも積極的に導入される予定です。
さらに、社会実装のための具体的なエリアとして、東京〜大阪間の大動脈が想定されています。この区間には多くの物流拠点があり、効率的な自動搬送システムを実現することで、地域経済全体の発展にも寄与するとされています。
施工には、地上部では10kmあたり254億円、地下部では同じ距離で70億〜800億円の工費が見込まれており、既存インフラを活用しつつ民間資金の導入も進められています。
スイスやイギリスでも自動物流道路のプロジェクトが進行
スイスとイギリスでも自動物流道路の実現に向けたプロジェクトが進行中です。
スイスでは、Cargo Sous Terrain(CST)社が計画する地下物流システムが注目されています。このプロジェクトは、チューリッヒからジュネーブまで主要都市を結ぶ全長500キロメートルの地下トンネル網を構築し、貨物を自動輸送カートで24時間体制で輸送するというものです。
環境保護や交通量削減、貨物輸送の持続可能性を高めるため、スイス政府も法整備や制度支援を行っています。2031年に第一期区間の完成が予定されており、2045年までに全線が開通する見込みです。
イギリスでは、Magway社が西ロンドンで物流専用の自動輸送システムを開発中です。このプロジェクトは、既存の鉄道敷地を活用し、リニアモーターを動力とした自動輸送システムで、小売店や物流施設への商品輸送を効率化することを目指しています。
低コストかつ持続可能な物流手段として設計されており、道路交通の渋滞緩和や脱炭素化にも寄与することが期待されています。
編集後記
今回の記事では、自動物流道路の概要や社会実装の進展、さらに海外における取り組みについて取り上げました。物流業界は、労働力不足や輸送コストの増加、環境負荷の軽減といったさまざまな課題に直面しており、自動運転技術を活用した物流道路の導入はこれらの問題解決に向けた大きな一歩といえます。日本国内だけでなく、スイスやイギリスといった海外でも実用化に向けたプロジェクトが進行中で、国際的な物流インフラの変革が期待されています。
物流の自動化は、企業の生産性向上や地域経済の活性化に貢献するだけでなく、環境への配慮という点でも重要な役割を果たします。今後、自動物流道路が普及することで、私たちの生活や産業にも大きな影響を与えるでしょう。未来の物流インフラがどのように発展し、どのような新しい価値を生むのか、引き続き注目していきたい分野です。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
■連載一覧
第1回:なぜ価格が高騰し話題となったのか?5分でわかる「NFT」
第2回:話題の「ノーコード」はなぜ、スタートアップや新規事業担当者にとって有力な手段となるのか?
第3回:世界的なトレンドとなっている「ESG投資」が、スタートアップにとってチャンスである理由
第4回:課題山積のマイクロプラスチック。成功事例から読みとくスタートアップの勝ち筋は
第5回:電力自由化でいまだに新規参入が増えるのはなぜ?スタートアップにとってのチャンスとは
第6回:「46%削減」修正で話題の脱炭素。46%という目標が生まれた経緯と、潜むビジネスチャンスとは
第7回:小売大手がこぞって舵を切る店舗決済の省人化。「無人レジ」の社会実装はいつ来るか?
第8回:実は歴史の深い「地域通貨」が、挑戦と反省を経て花ひらこうとしているワケ
第9回:音声配信ビジネスが日本でもブレイクする予兆。世界の動向から見える耳の争奪戦
第10回:FIREブームはなぜ始まった?「利回り4%」「生活費の25倍の元本」など、出回るノウハウと実現可能性は
第11回:若年層は先進層と無関心層が二極化!エシカル消費・サステナブル消費のリアルとは
第12回:「ワーケーション」は全ての在宅勤務社員がターゲットに!5年で5倍に成長する急成長市場の実態
第13回:なぜいま「Z世代」が流行語に?Z世代の基礎知識とブレイクしたきっかけを分析
第14回:量子コンピュータの用途は?「スパコン超え報道」の読み解き方はなど基礎知識を解説
第15回:市場規模1兆ドルも射程の『メタバース』で何が起こる?すでに始まっている仮想空間での経済活動とは
第16回:『TikTok売れ』はなぜ起こった?ビジネスパーソンが知っておきたい国内のTikTok事情
第17回:パンデミックが追い風に。マルチハビテーションが新しいライフスタイルと地方の課題解決を実現できる理由
第18回:Web3(Web3.0)とは何なのか?Web1.0とWeb2.0の振り返り&話題が爆発したきっかけを解説
第19回:フェムテックで先行する欧米と追従する日本。市場が活気づいている背景とは?
第20回:withコロナに「リベンジ消費」は訪れるか?消費者の“意向”と実際の“動向”からわかること
第21回:子供が家族の介護をサポートする「ヤングケアラー」の実態と、その問題とは?
第22回:半導体不足はなぜ起きた?米中貿易摩擦、巣ごもり需要、台湾への依存などを解説
第23回:【ビジネストレンドまとめ】注目を集めた5つの事業ドメインとは?
第24回:長引くコロナ禍で顕著になる“K字経済”とは?格差が拡大する「ヒト」と「企業」
第25回:「パーパス」とはなぜ注目されるのか?誰のためのものか?5分でわかる基礎知識
第26回:NFT・メタバース・Web3はどう違う?注目を集める「新しいエコシステム」5選
第27回:サステナブルのさらに先いく「リジェネラティブ」とは?実践企業や背景を解説
第28回:16年で2倍に膨れ上がった『電子ゴミ』は何が問題なのか。唯一の解決策とは?
第29回:サウナビジネスはグローバルで健全な成長も、国内ではサウナユーザーは激減。サウナビジネスの最新事情
第30回:【ビジネストレンドまとめ】話題となった「社会課題」トレンド6選
第31回:Play to Earn(P2E)はなぜ注目を集めているのか?ビジネストレンドとしての基礎知識
第32回:脅威の市場ポテンシャルが期待されるクラウドゲーム。GAFAMやソニー、任天堂が参入するポイントを解説
第33回:FIRE、マルチハビテーションなど注目を集めるライフスタイルに関連するビジネストレンド4選
第34回:「ロボアドバイザー」はミレニアル・Z世代になぜ人気?コロナ禍で加速する新しい資産運用の形
第35回:加速する人への投資。岸田首相「5年で1兆円」の方針表明で注目集めるリスキリングとは?
第36回:画像生成AIはなぜ「世界を変える」のか?ビッグテックが拒む「一般公開」と「オープンソース」がもたらす影響力とは
第37回:クリエイターの6割が収益化!国内で広がる「クリエイターエコノミー」の実態と事例
第38回:ドローン分野でも特に熱い「空飛ぶクルマ」は加速度的な成長見込み!ユースケースやリードする国内企業とは
第39回:『ChatGPT』の何がすごい?Google一強時代をおびやかすポテンシャルとは
第40回:現実と同等の仮想空間を構築する『デジタルツイン』はなぜ製造業に効果的?東京都のデジタルツイン計画とは?
第41回:小売業に革命を起こす「ダークストア」、激化する大手とスタートアップの覇権争い
第42回:物流の2024年問題とは?人手不足とECの急成長で物流企業とトラックドライバーが受けるリスクとその対策
第43回:各社がこぞってトレンド予測する若者世代の「セルフケア」はなぜ今注目を集めているのか?
第44回:大手SNSが問題を抱えるなか台頭する「次世代SNS」の有望株とは
第45回:介護人材は間も無く32万人不足へ。台頭は必須の『介護ロボット』の現状と先行事例を紹介
第46回:存在感を強める「グローバルサウス」なぜ今注目を集めているのか?定義や背景、直面する課題などを解説
第47回:位置情報を活用する「ジオターゲティング」がマーケティングに新風を巻き起こしている理由とは?市場動向や活用事例を紹介
第48回:「GDPR」はEUだけでなく世界中に影響を与える。国内事業者への影響や改正された個人情報保護法との違いを解説
第49回:驚異的な成長が見込まれる『デジタルヒューマン』の有力なユースケースとは?チャットボットとどう違う?
第50回:Googleの研究で注目される「心理的安全性」とは?リーダー、マネジメント、人事担当者ができることを解説
第51回:ヴィーガン市場が拡大中!ヴィーガンの基礎知識から最新の市場動向、ビジネストレンドを解説
第52回:ビジネスにおける『レジリエンス』の重要性。VUCAの時代を生き抜く、組織と個人のレジリエンスのあるべき姿とは
第53回:『ナイトタイムエコノミー』が観光産業の起爆剤になる理由とは?夜間の観光を活性化させるナレッジと国内事例を紹介
第54回:『プライバシーテック』が注目される背景とは?高まる個人情報リスクと、GDPRなど各国の規制を解説
第55回:『モーダルシフト』が担う3つの重責。環境問題、人手不足、コスト削減をどうやって実現するのか?
第56回:性差をイノベーションに繋げる「ジェンダードイノベーション」に集まる期待と、科学・技術分野の構造が抱える問題
第57回:近年の半導体業界の動向は?台湾ファウンドリが一極集中、米中貿易摩擦によるリスク、日本企業の巻き返しなどを解説
第58回:「SDV」の普及で車両はアップデートする時代に。政府が本腰を入れてシェア3割を目指す「モビリティDX戦略」とは
第59回:小売業者が自らメディアとなって収入を得る「リテールメディア」。近い未来にテレビの広告収入を上回ると予想されるポテンシャルとは?
第60回:時間効率にお金を払うタイパ消費。Z世代が課金するグルメ、エンタメ、ECの特徴とは
第61回:フィッシング、マルウェアなどの脅威に立ち向かうサイバーセキュリティ。政府も予算を投じるディープフェイクの近年の状況などを解説
第62回:分岐点をむかえるアルツハイマー治療 これまでの治療とどう違うのか、新薬がなぜ期待されているのかを解説
第63回:伝統と科学が融合する「デトックス消費」 現代社会にあわせたアプローチで成長を続ける新たなデトックスビジネスとは
第64回:「α世代」の特徴はデジタルネイティブだけじゃない?この世代の基礎知識とマーケティング目線でのポイントを解説
第65回:2024年問題の解決策として期待される「共同配送」が担う役割とは?背景や事例などを紹介
第66回:導入企業が増える「週4日勤務」にはどのようなメリットが?導入事例から見える生産性、ワークライフバランスなどの変化を紹介
第67回:リアルとオンラインを組み合わせた「フィジタル」とは?マーケティング手法としての特徴やインストアプロモーション、リテールメディアとの違いを解説