1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. 政府が本腰で取り組む「水素・アンモニア」の燃料としてのポテンシャルと、社会実装までの展望とは
政府が本腰で取り組む「水素・アンモニア」の燃料としてのポテンシャルと、社会実装までの展望とは

政府が本腰で取り組む「水素・アンモニア」の燃料としてのポテンシャルと、社会実装までの展望とは

  • 11669
  • 11647
  • 11636
10人がチェック!

パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回のテーマは「水素・アンモニア」です。近年、水素とアンモニアは燃焼時にCO2を排出しないクリーンな次世代エネルギーとして注目されています。また、政府は水素・アンモニアを次世代エネルギーとして台頭させるべく、注力する技術としてピックアップしていることからも注目度の高さがわかります。

本記事では、政府の水素・アンモニアにおけるロードマップや、注力されている理由、さらに、水素・アンモニアが燃料としてどのように優れているか、などを解説していきます。

「カーボンニュートラルに必要不可欠」な水素・アンモニアの燃料としてのメリット

水素とアンモニアを燃料として利用するメリットはどのようなものがあるのでしょうか。

まず、水素に関しては経産省の資料内で「カーボンニュートラルに必要不可欠」と記載されています。その理由として同資料では以下のようなポイントが挙げられます。

・水素は直接的に電力分野の脱炭素化に貢献するだけでなく、余剰電力を水素に変換し、貯蔵・利用することで、再エネ等のゼロエミ電源のポテンシャルを最大限活用することも可能とする。

・加えて、電化による脱炭素化が困難な産業部門(原料利用、熱需要)等の脱炭素化にも貢献。

・また、化石燃料をクリーンな形で有効活用することも可能とする。

・なお、水素から製造されるアンモニアや合成燃料等も、その特性に合わせた活用が見込まれる。

引用:水素・アンモニアを取り巻く現状と 今後の検討の方向性 資料3

出典:水素・アンモニアを取り巻く現状と 今後の検討の方向性 資料3

水素は燃料として燃焼してもCO2を排出しないのはもちろん、水素を作るために再エネを利用することができたり、既存の化石燃料をクリーンな燃料として有効活用することができたりするのです。

アンモニアについても、同資料で以下のような重要性が挙げられています。

・アンモニアは、天然ガスや再生可能エネルギー等から製造することが可能であり、燃焼してもCO₂を排出しない。

・アンモニアは、水素キャリアとしても活用できる。

・アンモニアは水素と比べ、既存インフラを活用することで、安価に製造・利用できる。

出典:水素・アンモニアを取り巻く現状と 今後の検討の方向性 資料3

このように、アンモニアは水素の製造にも活用できるだけでなく、燃料として利用する際も既存インフラを活用できることが大きなメリットとなっています。

2030年度までに水素・アンモニア由来の発電量を1%にする目標

2050年にカーボンニュートラルを達成するため、2021年6月に策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、水素・アンモニアは同戦略の14の重要分野のひとつに位置付けられました。

こうした動きを踏まえて、2021年10月に閣議決定された第6次「エネルギー基本計画」において、カーボンニュートラル達成までのマイルストーンとして水素・アンモニアは2030年度の電源構成比率のうち1%程度を賄うこととされました。

参照ページ:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました (METI/経済産業省)

そのほかにも、水素・アンモニアが担う2030年時点での目標は数多くあります。

・コスト :現在の100円/Nm3→2030年に30円/Nm3 、2050年に20円/Nm3以下に低減

・供給量:現在の約200万t/年→2030年に最大300万t/年、2050年に2,000万t/年に拡大

・ガス火力への30%水素混焼や水素専焼、石炭火力への20%アンモニア混焼の導入・普及と、そのための環境整備

出典:水素政策小委員会/アンモニア等脱炭素燃料 政策小委員会合同会議 中間整理(案)

出典:水素政策小委員会/アンモニア等脱炭素燃料 政策小委員会合同会議 中間整理(案)

GX基本方針で水素・アンモニアが注力する新技術に選定

今年の2月に政府が取りまとめた「GX実現に向けた基本方針(GX基本方針)」では、GX(グリーントランスフォーメーション)を通じて脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の3つを同時に実現するための基本方針が記されています。

GX基本方針の概要としては、「徹底した省エネの推進」「再エネの主力電源化」「原子力の活用」が軸となっていますが、それらに加えて、有望な新技術へは積極的に投資していくことを名言しています。

その有望な新技術として水素・アンモニアの導入促進が盛り込まれています。その理由として「自給率の向上や再生可能エネルギーの出力変動対応にも貢献することから安定供給にも資する、カーボンニュートラルの実現に向けた突破口となるエネルギーの一つである」と述べており、直近のマイルストーンとして2025 年の大阪・関西万博での実証等を進める計画となっています。

安全確保を大前提に規制の合理化・適正化を含めた水素保安戦略の策定、国際標準化を進めるとも記載されており、今後大胆に水素・アンモニアの社会実装が進んでいくものと予想されます。

参照記事:「GX基本方針」で示されたふたつの目標とは。「GX推進法」「GX推進戦略」との違いなど解説

編集後記

日本では早くからトヨタなどを中心に水素を次世代の燃料として活用する試みを続けてきました。本文でも述べたように、2021年のグリーン成長戦略やエネルギー基本計画、そして2今年のGX基本方針など、国内のカーボンニュートラル戦略の資料には常に水素・アンモニアが記載されていますし、世界に先駆けて成功事例を示すことができるポテンシャルを十分に秘めている分野と言えるでしょう。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標

第23回:内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

第24回:カーボンニュートラルの「知財」はなぜ重要か?日本が知財競争力1位となった4分野とは

第25回:再エネ資源の宝庫であるアフリカ。カーボンニュートラルの現状とポテンシャルは?

第26回:「ゼロ・エミッション火力プラント」の巨大なインパクト。圧倒的なCO2排出を占める火力発電をどうやって“ゼロ”にするのか?

第27回:消費者の行動変容を促す「カーボンフットプリント」は、なぜカーボンニュートラル達成のために重要なのか

第28回:脱炭素ドミノを目指す「地域脱炭素ロードマップ」と「脱炭素先行地域」の戦略とは?

第29回:次世代原発の『小型原子炉』はなぜ低コストで非常時の安全性が高いのか?

第30回:『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

第31回:日本は「海洋エネルギー」のポテンシャルが世界トップクラス。再エネの宝庫である海のパワーとは

第32回:80年代から途上国に輸出される『福岡方式』とは?温暖化防止にもつながる再現性の高いゴミ問題の解決策

第33回:カーボンニュートラル必達を掲げ『GI基金』に2兆円を造成。支援する分野や採択されたプロジェクトとは

第34回:排出されるCO2を捕捉して貯蔵する技術『CCS』はカーボンニュートラルの救世主となるか?

第35回:次世代送電網『スマートグリッド』は再エネの弱点を補う?カーボンニュートラルの観点から解説

第36回:間もなく普及が完了する次世代電力計『スマートメーター』が脱炭素に与える影響と、新たなビジネスチャンスとは

第37回:電力送電網とつながらない『オフグリッド』がカーボンニュートラルになぜ貢献するのか?一般家庭や事業者への導入事例を紹介

第38回:「GX基本方針」で示されたふたつの目標とは。「GX推進法」「GX推進戦略」との違いなど解説

第39回:「電力貯蔵技術」がなぜ脱化石燃料と再エネ活用の促進になるのか?脱炭素達成にはマストの重要な技術を解説

第40回:『脱炭素アプリ』でどうやって企業や自治体のカーボンニュートラルを実現するのか?仕組みと事例を解説

第41回:「米国インフレ抑制法(IRA)」がなぜカーボンニュートラルに貢献するのか?バイデン政権が3910億ドル投じる肝入りの政策を解説

第42回:GI基金も支援する水素サプライチェーン・プラットフォーム。化石燃料の代替として期待がかかる水素技術の未来とは

第43回:国土交通白書が掲げる「カーボンニュートラル貢献」と「生産性向上」の両輪を回す新技術とその事例とは

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント10件

  • 清水謙行

    清水謙行

    • ミラージュtokyo
    0いいね
    チェックしました
  • 根崎優樹

    根崎優樹

    • 株式会社nuage
    0いいね
    チェックしました
  • 後藤悟志

    後藤悟志

    • 株式会社太平エンジニアリング
    0いいね
    チェックしました
  • 木元貴章

    木元貴章

    • 有限会社Sorgfalt
    0いいね
    チェックしました
  • 増山邦夫

    増山邦夫

    • エンジニア管理者
    0いいね
    チェックしました
  • 田上 知美

    田上 知美

    • 株式会社eiicon
    0いいね
    チェックしました
  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

    • eiicon company
    0いいね
    チェックしました