【MODE・スカイファーム】次世代通信技術を活用したオープンイノベーションに挑む――東京都事業内でeiiconが実施する共創プログラム『Next 5G Social Innovation Program』、2社が求めるパートナー像とは
東京都は5Gをはじめとした次世代通信技術を活用し、新たなビジネスやイノベーションを創出するスタートアップを支援する『次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業 (Tokyo NEXT 5G Boosters Project)』を実施している。
同事業は、5Gをはじめとした次世代通信技術を活用し、新たなビジネスやイノベーションを創出するスタートアップを支援。都民のQOL(Quality of Life)向上に寄与する有益なサービスを創出するとともに、この事業に参画するスタートアップの企業価値向上を目指している。
『Tokyo NEXT 5G Boosters Project』において、スタートアップの挑戦を加速させる「開発プロモーター」の役割を担うのが、株式会社eiiconだ。同社は、東京都が本事業で掲げる目的を具体化するため、2025年度に新たな共創プログラム『Next 5G Social Innovation Program』をスタートした。
TOMORUBAでは、『Next 5G Social Innovation Program』において支援するスタートアップや関連イベントの模様を取材(※)。本記事ではプログラムに今年度新たに採択されたスタートアップ2社(MODE, Inc./スカイファーム株式会社)にインタビューを実施。事業概要や参画の目的、求めるパートナー像などを聞いた。
――各スタートアップは、独自の技術やアイデアを武器に、どのような事業を実現しようとしているのか。それぞれが描く未来像に迫った。
※『Next 5G Social Innovation Program』シリーズ記事は、こちらよりご覧ください。
【MODE】 IoTプラットフォーム「BizStack」で現場オペレーションを「可視化」から次のフェーズへ
――まずは御社の事業概要とプロダクト概要をお聞かせください。
MODE・三苫氏 : 私たちは今後、到来が予想されている「8がけ社会」の社会課題解決を目指すスタートアップです。8がけ社会とは、人口減少や少子高齢化の進展に伴い、2040年に労働人口が現在から約2割減少する現象を指します。現在の「8がけ」の労働力で、社会やインフラを維持しなければいけないため、AIやロボット、IoTのさらなる普及や実装が急務になっています。
しかし、そこで今新たな問題となっているのが、それらのツールが多すぎて起きる「サイロ化」です。すでに直接的な人手不足解消ツールは数多く提供されていますが、多様なツールが乱立した結果、さまざまな画面や通知、データが入り乱れ、情報が絡み合って現場の混乱を招いています。
その課題を解決するため、私たちは「BizStack」を提供しています。BizStackは、乱立したツールのデータを構造化して整理し、生成AIエージェントにより自由自在に活用できるIoTプラットフォームです。導入することで、サイロ化していた大量の情報が統合・構造化され、円滑な意思決定や既存業務の効率化が促進されます。
ちなみに、BizStackのAIアシスタントは、SlackやMicrosoft Teamsなどの画面上で運用できるため、新たなアプリを導入する必要がありません。近年、ツール導入による運用負荷が高まる現場も増えています。新たなツールが導入されるたびに、操作方法を一から覚えるのは現場にとって大きな負担となってしまいます。そうした現場の負担を増やさずに、AIアシスタントを利用できる点もBizStackの強みです。
▲MODE, Inc. Partner Business Director 三苫周平氏
――「乱立するデータを構造化」とは、具体的にどのような手法で行っているのでしょうか。
MODE・三苫氏 : オフィスにしろ工場にしろ、IoTセンサは特定の部門や部屋に紐付く形で設置されています。そうした属性を階層化して整理することで、データの構造化が可能です。
例えば、工場であれば、「プラント」「棟」「フロア」「設備」などのように、「場」の階層を上位から下位へと定義できます。この階層構造にBizStackへ集約した情報をプロットすることでデータを構造化して整理しています。これにより、「工場の1階のボイラーの圧力は?」といった自然言語のプロンプトへの回答が可能です。
自然言語で必要な情報を収集できるため、もちろん特別なITリテラシーはいりません。この点でも、現場の負担を増やさずに導入できるのが、BizStackの強みです。
▲AIアシスタント「BizStack Assistant」を通じて、自然言語でデータを呼び出したりすることができる。
――BizStackの導入実績をお聞かせください。
MODE・三苫氏 : 特に大きな成果を挙げたのが、低温物流を手がけるニチレイロジグループでの導入事例です。同社は、利用している冷凍機の種類やメーカーが拠点ごとに異なることに起因し、稼働状況や設備保全のデータを一元化できず、全社統一のKPIも設定できないといった課題を抱えていました。そこにBizStackを提供することで、従来はバラバラだった冷凍機のデータを統合し、クラウド上での設備監視の一元化やアラート対応の迅速化などを実現しました。
この事例のポイントは、閉域ネットワーク内のシステムにBizStack側からアクセスすることなく、データを統合・一元化していることです。機微な情報を扱う企業では、サイバー攻撃対策のために、基幹システムなどの重要なシステムと外部システムとの連携を禁止している例が少なくありません。
そうした厳密なセキュリティ体制が情報の統合や一元化を阻害している面があるのですが、BizStackは基幹システムなどから出力されたCSVデータを利用してデータ統合基盤を構築できるため、閉域ネットワーク内へのアクセスが不要です。この点で、BizStackはインフラや工場など、厳密なセキュリティを求められる企業や団体から厚い支持を受けています。
――今回、『Next 5G Social Innovation Program』に参画した動機と目的をお聞かせください。
MODE・三苫氏 : 時代が「可視化」から「タイムリーな情報取得」に移行しつつあると感じたのが、一番の動機です。DXブームの影響もあり、社会的な可視化の環境は整いつつあります。しかし、それが先ほど述べたサイロ化の温床になり、タイムリーな情報取得を次の課題として捉える企業や組織も多いように思います。
もちろん、タイムリーな情報取得を実現するには、優れた通信環境が必要です。私たちは既にStarlinkを活用したソリューションを提供していますが、本プログラムを通じて通信技術との融合をさらに前進させたいと思っています。
――本プログラムへの参画を通じて、具体的にどのような事業を実現したいですか。
MODE・三苫氏 : 近年、人手不足だけでなく、技術者の高齢化や自然災害の頻発化、インフラの老朽化など、多くの課題を抱える企業や団体が増えていると思います。そうした方々の負担を大きく減らして、社会の維持や発展に貢献できる事業を作り上げたいです。
――共創パートナーとして、どのような企業や団体を想定していますか。
MODE・三苫氏 : 真っ先に思い浮かぶのが、ダムや発電施設などのインフラ系の事業者です。気候変動やインフラの老朽化などの影響を強く受けているのは、大規模な施設を有するインフラ系の事業者だと思います。実際に、先日、私自身もある山間部のダムに足を運び、監査廊に入って点検の様子を見学したのですが、「エラーのアラートが発報するたびに担当者が現地に足を運ばなければいけない」「サイバー攻撃対策のためにネットワークを遮断していて設備の遠隔監視が難しい」などの生の課題を耳にしました。
先ほども述べたように、そうした課題を解決する機能がBizStackには備わっているため、私たちが力になれるのではないかと思っています。また、私たちはソフトバンクやKDDIなどの企業から出資を受けているため、例えば、KDDIスマートドローンが有するドローン技術と組み合わせたソリューション提供も想定しています。他社の技術や製品などとも融合させながら、社会課題解決に資する事業を実現したいです。
▲MODEはKDDIスマートドローンと提携。ドローンで得られる上空からの俯瞰的なデータを収集し、組み合わせて分析することが可能だ。
――最後に、連携したいパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。
MODE・三苫氏 : 私たちは「8がけ社会」の課題解決を目指していますが、それは言い換えると「何もかもが根本から変わるわけではない」という意味でもあります。労働力が減少するとはいえ、現在の8割は維持されるわけですから。そのため、私たちはあらゆる既存の業務をすべてデジタルに置き換えようとは思っていません。従来、役立ってきた人間の技術や知恵はこれからも必要なはずです。
ただし、残りの2割を補う仕組みやソリューションを構築するのには、少なくない時間を要します。だからこそ、ぜひ今のうちから、次世代の現場オペレーションを手がけるべきだと思います。そのパートナーとして、私たちを選んでいただけると何より嬉しいです。
【スカイファーム】 スポーツ・ライブ・イベント会場などの人が集まる空間の購買体験を、次世代通信とモバイルオーダーで変革する
【左】スカイファーム株式会社 代表取締役社長 CEO 木村拓也氏
【右】スカイファーム株式会社 営業部 Expansionチーム チームリード 大武和生氏
――まずは、御社の事業内容についてお聞かせください。
スカイファーム・大武氏 : スカイファーム株式会社は2015年に創業し、今年で11期目を迎えるスタートアップです。「Good Time, Good Place」をミッションに掲げ、商業施設やまちづくりを行うデベロッパー向けに、空間や施設の価値向上につながるシステム開発を行っています。
主力サービスは、モバイルオーダーシステム「NEW PORT」です。フードデリバリーやフードコートのテーブルオーダー、物販ECなど、施設ごとに最適な注文体験を実現できるプラットフォームを提供しています。
――「NEW PORT」の特徴や強みについても教えてください。
スカイファーム・大武氏 : モバイルオーダー市場には多くのサービスがありますが、当社の特徴は「施設」や「街」を単位として設計していることです。一般的なモバイルオーダーは店舗ごとに導入されるケースが多く、利用者は店舗ごとに異なるサービスや決済方法を利用しなければなりません。一方、「NEW PORT」では、施設全体を一つのプラットフォームとして運用できます。
例えばフードコートでは、利用者が席に座ったまま複数店舗の商品をまとめて注文できます。施設運営者はテナントごとの売上や注文状況を一元管理でき、利用者は店舗の違いを意識することなく買い物を楽しめます。
▲商業施設内のテナントなどの加盟店舗の売上、注文数やサービス提供状況などを一元的に確認できる「施設管理機能」が高い評価を得ている。
――現在どのようなプロジェクトが動いているのでしょうか。具体的な導入事例を教えてください。
スカイファーム・大武氏 : 直近では、JR東日本さんと「TAKANAWA GATEWAY CITY」でロボットデリバリーサービスを展開しています。利用者が「NEW PORT」で注文すると、自律配送ロボットが指定された場所まで商品を届ける仕組みです。商業施設やオフィス、レジデンスが混在する複合施設において、新しい購買体験の実現を目指しています。
現在、「NEW PORT」は全国101施設に導入されています(※2026年6月時点)。モバイルオーダー市場そのものへの理解も年々高まっており、以前は導入メリットの説明に時間を要していたサービスも、今では多くの事業者からお問い合わせをいただくようになりました。
▲2025年3月にまちびらきした「TAKANAWA GATEWAY CITY」に導入されている「NEW PORT」。自律配送ロボット「DeliRo」と連携したロボットデリバリーを実装している。(画像出典:プレスリリース)
――導入先からは、どのような反応がありますか。
スカイファーム・大武氏 : 施設運営者からは販促や売上管理の効率化、利用者からは待ち時間の削減や利便性向上について高い評価をいただいています。特にファミリー層やランチタイムのオフィスワーカーなど、限られた時間を有効活用したい利用者にとって、並ばずに注文できることは大きな価値になっています。
私たちが目指しているのは単なる注文システムではなく、「混雑をなくし、空間のストレスを取り除く仕組み」ですが、その価値を実感いただける場面が増えていると感じています。
――今回、『Next 5G Social Innovation Program』に参画した理由についてお聞かせください。
スカイファーム・大武氏 : これまで当社は、フードコートやオフィスビル、レジデンスなど比較的利用が分散する環境での導入実績を積み重ねてきました。一方で、スタジアムやアリーナといった数千人から数万人規模の来場者が集まる施設からも多くの相談をいただいています。
しかし、こうした施設では通信環境や店舗オペレーションがボトルネックとなり、モバイルオーダーの導入が進みにくいという課題があります。数千〜数万人が同時にアクセスする環境下では、通信の安定性やシステムの処理能力が求められます。また、店舗側も大量の注文に対応しなければならず、運営面のハードルも高くなります。
そこで、次世代通信技術を活用することにより、このような課題を解決し、スポーツ施設やライブ会場、音楽フェス、各種イベントなど多くの人が集まる空間の新たな購買体験を実現したいと考え、本プログラムへの参加を決めました。
――プログラムを通じて、具体的にどのような社会実装を目指していますか。
スカイファーム・大武氏 : 人が集まるさまざまな場所で、モバイルオーダーを当たり前の存在にしたいと考えています。現状ではレジ販売とモバイルオーダーを併用するケースが多いですが、将来的には店舗スタッフが本来集中すべき業務に専念できる環境を実現したい。来場者も列に並ぶことなく、イベントなどを楽しみながらスムーズに商品を購入できるようになります。
例えば、BリーグやJリーグでは、スポーツ観戦だけではなく、地域の人々が集う新しいスタジアムづくりが進んでいます。私たちもその流れに貢献し、施設全体の体験価値向上を支えていきたいと考えています。スポーツ施設、音楽フェスや大型イベントなど、人が集中するあらゆる空間で「NEW PORT」を活用できる仕組みへと発展させていきたいです。
――過去にそのような空間で取り組んだ事例はありますか。
スカイファーム・大武氏 : 過去には横浜FCさんと連携し、地域飲食店のグルメをスタジアムで販売する実証実験を行いました。スタジアムにいながら地域の飲食店の味を楽しめる仕組みを構築し、多くの来場者から好評をいただきました。特にアウェイサポーターの方々からは、「地域の魅力をスタジアムで体験できる」と高い評価をいただいています。
スタジアムグルメは観戦体験の重要な要素ですが、行列によって本来の観戦体験が阻害されてしまうケースも少なくありません。そうした不自由を解消し、施設が本来提供したい価値を最大限届けられる環境づくりにも取り組んでいきたいと考えています。
――本プログラムでは、どのようなパートナーとの連携を期待していますか。
スカイファーム・大武氏 : スタジアム運営事業者やスポーツチーム、イベント主催者、通信事業者など、来場者体験の向上を目指すパートナーとの共創を期待しています。スタジアムやイベント会場には、多くのステークホルダーが存在します。それぞれの立場や役割は異なりますが、「混雑やストレスを減らし、より良い体験を提供したい」という思いは共通しているはずです。
――最後に、今後の展望や、連携したいパートナー企業へのメッセージをお願いします。
スカイファーム・大武氏 : 私たちは「NEW PORT」を単なる注文システムではなく、人が集まる空間の価値を高めるインフラにしたいと考えています。スタジアムやアリーナ、商業施設、イベント会場など、人が集まる場所には必ず購買行動が生まれます。その際に発生する待ち時間や混雑といったストレスを取り除くことで、利用者は本来の体験により集中できるようになります。
そして、次世代通信技術の力も活用しながら、施設運営者、出店者、利用者の三者にとって価値のある購買体験を実現していきたい。ぜひ一緒に形にしていきましょう。
取材後記
本記事で紹介した2社が挑む領域は一見異なるが、どちらも「リアルな現場や空間に潜む課題を、次世代通信とテクノロジーの力で解消する」という共通の軸を持っている。
MODEが取り組むのは、人口減少社会におけるインフラや工場の維持だ。可視化の先にある「タイムリーな情報取得」によって、熟練技術者の不足や広大な現場の管理負担を劇的に減らそうとしている。一方でスカイファームは、人が集まる空間での「体験の隙間」にあるストレスの解消に挑む。数千〜数万人が集まる高密度な空間でも、分断のないスムーズな購買体験インフラの構築を目指している。
両社に共通して不可欠なピースが、安定かつ高速な次世代通信技術(5G)だ。これまで通信環境やセキュリティの壁に阻まれてデジタル化が難しかった大規模な施設や厳格な現場において、今まさに新たなイノベーションが現実のものになろうとしている。――『Next 5G Social Innovation Program』から生まれる共創は、私たちの生活をより豊かで持続可能なものへと変貌させていくに違いない。
●『Next 5G Social Innovation Program』の詳細は、こちらをご覧ください。
(編集:眞田幸剛、文:島袋龍太・入福愛子、撮影:加藤武俊)
■「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)』とは
東京都では、都内スタートアップ企業が、都心部から郊外・山間部、離島を持つ東京というフィールドを活かしながら、世界で通用する競争力を磨き、5Gをはじめとした次世代通信技術を活用した新たなビジネスやイノベーションを創出し、都民のQOL(Quality of life)向上に寄与する有益なサービスを創出するとともに、各スタートアップ企業の企業価値向上を目指しています。本事業は、東京都と協働して支援を行う事業者を開発プロモーターとして募集・選定し、スタートアップ企業に対し多角的な支援を行います。開発プロモーターは、3ヶ年度にわたり支援先スタートアップ企業等の開発・事業化を促進するため、連携事業者(通信事業者や実証フィールド提供者、研究機関、VC・金融機関等)と連携しながら、資金的、技術的な支援やマッチング支援等を行います。支援先スタートアップ企業は、開発プロモーター等の支援を受けながら、次世代通信技術等を活用した製品・サービスの開発及び事業上市を目指します。
▼詳細はこちらをご参照ください(本事業Webサイト):