通信×スタートアップのオープンイノベーションで創出される新たな価値とは?――事業会社・スタートアップ・支援機関等をつなぐ「Next5G 事業共創マッチングフォーラム」レポート
東京都は、5Gをはじめとする次世代通信技術を活用し、新たなビジネスやイノベーションを創出するスタートアップを支援する事業「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)」を推進している。eiiconはその開発プロモーターとして令和7年度に採択され、『Next 5G Social Innovation Program』という共創プログラムを始動した。
その実践の場として、2026年3月3日に「Next5G 事業共創マッチングフォーラム」を開催した。イベントでは「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)」の前身事業である「5G技術活用型開発等促進事業(Tokyo 5G Boosters Project)」における過年度の取り組みを振り返るトークセッションやスタートアップピッチが行われ、通信を切り口に多様なプレーヤーが交わり合いながら、新たな事業創出につながる機会が生まれた。本記事では、その模様をレポートする。
オープニング――次世代通信で都民のQOLを高める
オープニングでは、司会のeiicon 地域イノベーション推進本部 園原惇史がイベントの説明を行った。『Next 5G Social Innovation Program』は、東京都の「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業」における開発プロモーターの取り組みの一環として、次世代通信技術×スタートアップのオープンイノベーションにより、東京都民のQOLを高め、持続可能な社会と豊かな生活を実現することを目指すプログラムだ。3カ年にわたるプロジェクト期間の中で、5社以上のスタートアップを支援し、新規サービス・プロダクトを上市させることを事業目標としている。
本プログラムでは、開発プロモーターであるeiiconが支援先スタートアップの選定・伴走支援、そして実証フィールドを保有する連携事業者との探索・マッチングなどを推進することで、社会実装に向けた事業開発を後押ししている。スタートアップにとっては新規プロダクトの上市による企業価値向上が見込まれ、連携事業者にとっては先端知見・技術の活用による自社課題の解決や、新規付加価値の創出につながる機会が提供される。
トークセッション「通信×スタートアップの挑戦による新たなソリューションの実装」
イベントはトークセッションからスタートした。セッションには、東京都の「5G技術活用型開発等促進事業(Tokyo 5G Boosters Project)」の開発プロモーター(令和3~5年度)を務めた株式会社ビットメディア 代表取締役社長 高野雅晴氏と、同事業の支援スタートアップとして参画したテレポート株式会社 代表取締役CEO 平野友康氏が登壇。
eiiconの松橋寛伸氏がモデレーターを務め、「事業を生み出す」「共創による事業推進」「継続し発展する取り組み」の3つのテーマで語り合った。
<登壇者>
●株式会社ビットメディア 代表取締役社長 高野雅晴氏
●テレポート株式会社 代表取締役CEO 平野友康氏
※モデレーター:株式会社eiicon 地域イノベーション推進本部 松橋寛伸氏
【事業を生み出す】 コミュニティから生まれた連携
ビットメディアが擁するインフォシティグループは、「Tokyo 5G Boosters Project」の令和3年度(2021年度)の開発プロモーターとして採択され、スタートアップ企業を支援してきた。そして、テレポートをはじめとするスタートアップや実証フィールド提供者と共に、「DX Yourself」をコンセプトとした都市用DXプラットフォーム開発に向けた実証実験を行ってきたという。テレポート社は、プロジェクト活動を支援するグループウエアの企画・開発・運営を担った。
まず両社の共創のきっかけについて、高野氏は本プロジェクト以前からのつながりであることを明かした。コロナ禍においてオンラインで同業者を中心としたコミュニティで交流をしていたところ、気付けば人が人を呼び、コミュニティは20~30人規模に発展したという。そこでそれぞれのやりたいことや強みなどを話す中で、「Tokyo 5G Boosters Project」での共創が決まった。
▲株式会社ビットメディア 代表取締役社長 高野雅晴氏
【共創による事業推進】 都市と地域のDX推進プロジェクト「DX Yourself」
2022年3月、開発プロモーターであるインフォシティグループ、そしてテレポート、MasterVisions、Connected Designといったスタートアップ、さらにはKDDI、東急の合計6社が連携し、二子玉川ライズにて都市DXプラットフォームの実証実験を実施した。
「スタートアップごとに個別の支援プロジェクトを立ち上げるのではなく、複数の支援先スタートアップが一つのプロジェクトで共創した点が特徴」と、高野氏は振り返る。平野氏も「文化祭のような雰囲気で、各社が自由に技術を持ち寄ったことで大きな価値創出ができた」と述べた。
▲テレポート株式会社 代表取締役CEO 平野友康氏
実証実験では、5G対応スマートフォンを活用した街のヒト・モノ・コトとの出会いと、自由視点映像によるヨガレッスンのリアル・リモート同時参加を実現した。さらに翌年は二子玉川の商店街にまでフィールドを広げ、取り組みを発展させた。
高野氏は開発プロモーターの責任として「スタートアップを型にはめずにコミュニケーションを取ることが仕事だった」と述べた。平野氏も「非常に自由な枠組みの中で動くことができた。高野さんはプロジェクト全体の方針を明確にしたうえで、具体的な進め方やプログラムの設計などは、我々スタートアップの意見も汲んで、一緒に作っていくことができた」と自由度の高さを評価した。
【継続し発展する取り組み】 実証の先にある継続的な関係構築
実証後の展開について、高野氏は「事業終了後も関係性が継続し、現在も開発プロモーターとして参加している」と語った。基地局スタートアップのフレアシステムズやデジタルコンテンツのSTUとの連携が続いており、3年間で目指した共同事業が今につながっているという。平野氏は、この経験をもとに糸島に移住してまちづくりのマスタープランを策定するなど、活動を継続。現在は東京に戻り、AIと街づくりの経験を踏まえてAIエージェントプラットフォームの開発に取り組んでいる。
セッション最後には、両氏から参加者へのメッセージが贈られた。高野氏は「1社だけでやることは狭く、なかなか成立しにくい世界。横串でつながると穴が埋まっていく。今は1週間で違う世界になるスピード感なので、そういう動きが生まれると面白い」と語った。
平野氏は「社会情勢やAIの爆速進化など、様々なものが総合的にかかってきている。シリアスな社会情勢の中の”文化祭”状態が今起ころうとしている。楽しく真面目にやっていただけると良い結果が出るはずだ」と締めくくった。
スタートアップピッチ――次世代通信を活用するスタートアップが語る事業構想
スタートアップピッチでは、『Tokyo 5G Boosters Project』におけるインフォシティグループの支援先1社と、『Next 5G Social Innovation Program』の支援先2社、通信を活用した事業開発に取り組む3社である計6社が登壇。それぞれが自社の事業概要と、通信技術との連携に向けた展望を語った。
『Tokyo 5G Boosters Project』におけるインフォシティグループの支援先
ビヨンドブロックチェーン株式会社 代表取締役 鳥澤周作氏
『VCでつなぐレジリエントなIoT/AIoT社会』
ビヨンドブロックチェーン株式会社は、インダストリアルユースにおけるブロックチェーン技術の応用に特化している。鳥澤氏が提起するのは、IoT/AIoT 社会が直面するセキュリティの死角だ。サイバーセキュリティで補えない領域として、IoTデバイスから取得される生データの真正性確保がある。特にスマートフォンに搭載されたAIチップが自動処理を行う現状では、オリジナルデータとAI生成データの区別が困難になっており、これが偽造データ問題に直結するという。
同社は独自のハッシュチェーン技術を用いることで、特定のパブリックブロックチェーンをアンカリング先と指定してデータ検証に活用する場合に生じる「実質的なガス代」(基本ネットワーク手数料+インセンティブ)や「認証局」などの問題を解決しながら、検証可能な資格証明(VC:Verifiable Credentials)を用いる独自システムをIoT/AIoT セキュリティに応用して提供している。
また、ロボットやドローンによる自動化が進む中、AI同士が指示を出し合う指示系統の不透明化というリスクも指摘。「省人化・効率化は進むが、リスクマネジメントをどうするかが問われる」と述べ、IoT/Physical AI 運用におけるリモート制御から監査・保険への対応を可能にするエビデンス確保が同社の事業化の方向性だと説明した。ERP、サプライチェーンマネジメント、デジタルプロダクトパスポート、製造DX、画像生成AI対応など、応用分野は幅広く広がっている。
【Next 5G Social Innovation Program支援先①】
Cellid株式会社 ビジネスディベロップメント/サブジェクトマターエキスパート 山本駿氏
『ARグラス向けレンズ開発で次世代ウェアラブルデバイスを切り拓く』
Cellid株式会社は2016年からXR・AR領域での事業を推進するスタートアップだ。主力事業はARグラス向けの半透明レンズの設計・製造・提供であり、近年は視力調整にも対応できるようになり、一般消費者向けのデバイス展開も視野に入ってきた。山本氏は市場動向として、Ray-Ban Metaの登場以降、ARグラス市場が急速に拡大していることを紹介した。
出荷台数が700万台規模に達し、AIソリューションの価値向上やAIエージェントとのインターフェースとして薄型・軽量デバイスへの注目が高まっているという。ARグラスは、人間の目・口・耳といった情報を一つのデバイスで取得できる点が、フィジカルAI時代において特に注目されている。
同社のビジネスモデルは自社ブランドでのARデバイス販売ではなく、OEMやホワイトラベルによるリファレンスデザインの提供だ。「プロダクトアウトではなくマーケットイン。市場の要望を受けながらリファレンスデザインを改善し、使えるものに落とし込んでいくことが強み」と山本氏は述べた。今後はカメラ映像・画像を外部に出力するAPIの開発を進め、産業用途のワーカーをターゲットにハンズフリーでのAI・アプリサポートによる生産性向上を目指す。
【Next 5G Social Innovation Program支援先②】
株式会社森未来 事業開発グループ長 井口光氏
『木材業界のデジタル基盤を整え、持続可能な木材利用を実現する』
「Sustainable Forest」を掲げ、業界データを集約した「SHIN-MIRAI DataBase」を核に事業を展開し、木材流通のDXと持続可能な森林づくりを推進している森未来。現在のメイン事業は「木材コーディネート事業」であり、設計者・デザイナーが使用する木材の調達から、加工、納品までを一貫サポートする。
井口氏が指摘したのは、木材産業が抱える情報の分断という構造課題だ。戦後に植えた木材がようやく利用時期を迎えているにもかかわらず、丸太の販売価格が低下しており、木材が循環型資源として機能しなくなっている。
この背景には、複雑な流通、DX化の遅れ(FAXなどのアナログな商習慣)、木材スペックの多様性から来るデータベース化の困難さがある。同社は森林・木材分野を専攻した大学出身の社員を中心にデータベース開発を担い、アナログなカタログをデジタル化するAIツールを独自開発することで、実用可能な情報基盤を構築してきた。
現在は「木材特化型AI」の開発を進めており、設計者がAIで作成したパースを投げかけると、適切なSQLを生成してデータベースから最適な木材商品情報と注意点を提案できる仕組みを構築している。
【通信を活用した事業開発に取り組むスタートアップ①】
スカイファーム株式会社 CCO 大久保瑛司氏
『街単位のオーダープラットフォームでスマートシティを支える』
スカイファームは、街単位で導入できるオーダープラットフォーム「NEW PORT」を開発・運営している。街の中に存在する多様な商売の注文・予約・決済を一つのプラットフォームで統一し、どの店で購入しても同じポイントを受け取れる仕組みや、テナント側が複数サービスの注文を一つの管理画面で運営できる環境を提供している。
大久保氏は、事例として高輪ゲートウェイ、横浜・相鉄ゆめが丘、たまプラーザテラス、渋谷、梅田などの導入実績を紹介した。高輪ゲートウェイでは、ニュウマン高輪の商品をモバイルオーダーでロボットデリバリーするサービスと、ローソンのロボットデリバリー注文プラットフォームを担当。相鉄ゆめが丘では、周辺住民が自宅から注文するとロボットが届けるサービスにおける注文決済と、異なるロボットプラットフォームとの連携も実現した。
2025年現在で約100施設に導入され、年間GMV(流通取引総額)は10億円を突破しているという。今後の方向性として「POSレス」を掲げ、「誰がいつ何と迷って何を買ったか」までをデータ化できる仕組みの構築を目指す。また、スタジアムや病院など多様な施設への展開も視野に、ラストワンマイルの連携や新サービスに関心のある事業者との対話を呼びかけた。
【通信を活用した事業開発に取り組むスタートアップ②】
MODE, Inc. Partner Strategy Division Director 三苫周平氏
『生成AI×IoTで現場の「八掛け社会」課題を解決する』
シリコンバレー発のスタートアップであるMODEは、生成AIとIoTを組み合わせた「生成IoTプラットフォーム」を提供し、労働人口が減少し続ける日本の「八掛け社会」をDXで解決することをミッションに掲げている。
三苫氏が指摘する課題は、DXツールが現場に普及しないという現実だ。多くの企業でツールは導入されているが、現場では使われていないケースが多い。
同社が提供するのは、既存のSlackやTeamsといったコミュニケーションツールの中でAIエージェントとして機能するサービスだ。既存のセンサーや映像データと連携し、自然言語での対話によって現場担当者が必要な情報をすぐに取り出せる環境を実現する。常に現場作業で忙しい方々にわざわざITツールを「学習させない」というポリシーのもと、現場の固有データをそのまま活用できる点が特徴だ。
具体的なユースケースとして、トンネルや各工事現場、鉄道などの交通インフラ、遠隔地での設備管理、ファシリティマネジメント、ダムや離島でのドローン活用といった分野での導入が進んでいる。将来の展望としては、ドローンやそのほかロボットが自律的に現場を確認し、問題発生時に自動で状況を把握しに行く世界観の実現を目指しており、ロボットや各種通信デバイスとの連携に積極的な姿勢を示した。
【通信を活用した事業開発に取り組むスタートアップ③】
Butlr Technologies Inc. APAC Regional Office ローラン 氏
『熱感センサーでプライバシーを守りながらモニタリング』
Butlr Technologiesは、「世の中で一番大きなOSは建物だ」という発想から出発し、MITの研究者が約7年前にアメリカで創業した。現在はシリコンバレーに拠点を構え、ウォルマート、マイクロソフト、セールスフォースといったグローバル企業に導入されている。国内でも、リコーやKDDIとの連携が進んでいるという。
同社が開発するのは「熱感センサー」だ(下写真)。従来はカメラが建物内センシングの主流だったが、プライバシーの問題が避けられない。同社のセンサーは温度情報のみを取得し、AI・機械学習によって人間の熱源と机上のPCやペットなどを区別することでプライバシーを完全に守りながら、人の動きを高精度に把握する。電池内蔵の無線センサーで、電池寿命は最大3〜5年と長く、設置・メンテナンス負担を大幅に軽減している。
ユースケースとして紹介されたのは、KDDIの高輪ゲートウェイオフィスでの社員食堂の混雑状況リアルタイム可視化だ。待ち時間の削減や食材仕入れの最適化、フードロスの削減につなげた。また、グローバル企業のオフィス増床の意思決定支援や、会議室の利用効率化なども展開している。
※ ※ ※ ※
スタートアップ6社によるピッチの後、ネットワーキングが行われた。各社の展示ブースも設置され、技術やプロダクトに関する質問、協業の可能性などについて活発な意見交換が行われた。参加者たちは今後の事業発展につながる感触を得ながら、「Next5G 事業共創マッチングフォーラム」は幕を閉じた。
取材後記
次世代通信という言葉は、しばしば「高速化」や「新技術」といったスペックの文脈で語られがちだ。しかし本イベントを通じて印象的だったのは、通信技術そのものよりも、それを起点に「誰と組むか」「どんな現場とつながるか」という共創のプロセスだった。トークセッションでは、コミュニティから生まれた連携が実証へと発展していった実例が語られ、スタートアップピッチでは、IoT、XR、林業DX、都市サービスなど多様な領域で通信技術の可能性が提示された。通信は単なるインフラではなく、新たな事業を生み出す“接点”でもある。スタートアップと企業、自治体が交差する場から、次の社会実装が生まれていくことを期待したい。
(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵、撮影:齊木恵太)
■「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)』とは
東京都では、都内スタートアップ企業が、都心部から郊外・山間部、離島を持つ東京というフィールドを活かしながら、世界で通用する競争力を磨き、5Gをはじめとした次世代通信技術を活用した新たなビジネスやイノベーションを創出し、都民のQOL(Quality of life)向上に寄与する有益なサービスを創出するとともに、各スタートアップ企業の企業価値向上を目指しています。
本事業は、東京都と協働して支援を行う事業者を開発プロモーターとして募集・選定し、スタートアップ企業に対し多角的な支援を行います。開発プロモーターは、3ヶ年度にわたり支援先スタートアップ企業等の開発・事業化を促進するため、連携事業者(通信事業者や実証フィールド提供者、研究機関、VC・金融機関等)と連携しながら、資金的、技術的な支援やマッチング支援等を行います。支援先スタートアップ企業は、開発プロモーター等の支援を受けながら、次世代通信技術等を活用した製品・サービスの開発及び事業上市を目指します。
▼詳細はこちらをご参照ください(本事業Webサイト):
https://next-5g-boosters.metro.tokyo.lg.jp/
■「5G技術活用型開発等促進事業(Tokyo 5G Boosters Project)」とは
東京都は、5G技術・サービス等を活用した持続可能な新しい社会の実現等を理念に掲げ、官民を挙げて社会課題の解決をする取り組みとして、令和2年度から令和6年度にかけて本事業を通じ、5Gを活用したスタートアップ企業等の開発・事業化の促進を支援してきました。
本事業では、東京都と協働して支援を行う民間事業者を開発プロモーターとして募集・選定し、多角的な支援を行いました。開発プロモーターは、他の開発プロモーターや通信事業者等と連携・協働を図りながら、最大3年間にわたりスタートアップ企業の開発・事業化を資金的・技術的支援、マッチング支援など多面的に伴走支援を行いました。
▼詳細はこちらをご参照ください(事業成果発信特設サイト):