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宮崎から生まれる「探究学習を用いた新たな価値創出」――県庁・ホスト企業・スタートアップの三者が語る、デジタルを活用した新事業の未来とは?

宮崎から生まれる「探究学習を用いた新たな価値創出」――県庁・ホスト企業・スタートアップの三者が語る、デジタルを活用した新事業の未来とは?

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宮崎県内の企業の事業課題の解決、全国のスタートアップとの共創による地域課題の解決を、“デジタル”の力を活用して実現するべく、今年度から宮崎県庁が推進する『デジタル・イノベーションフィールド構築事業』。そのデモデイ(成果発表会)が、2022年3月11日に開催された。

同事業内で実施された「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」(以下、ビジネスビルド)は、宮崎県内に根差した企業と全国のスタートアップをマッチングさせ、ビジネス創出を目指す宮崎県主催のプログラム。宮崎県内の4社(テレビ宮崎/浅野水産/マルイチ/マキタ運輸)がホスト企業として参画し、自社の課題をテーマに共創案を募った。プログラムの応募は2021年10月に開始。昨年12月に実施された2日間のビジネスビルドでは6社・5プロジェクトを採択し、約3ヶ月間に渡る共創が推進された。

また、並行して実施された「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS MATCHING」(以下、ビジネスマッチング)は、ホスト企業が抱えている事業課題について、その課題解決を実現できるサービス・技術を事務局がマッチングを実施。こちらはホスト企業としてサニー・シーリングが参画し、1社が採択されている。

そして、今回のデモデイでは、各プロジェクトの代表者たちが共創の成果を披露。観客の投票で選出される「オーディエンス賞」には、株式会社テレビ宮崎(以下、テレビ宮崎)と株式会社Study Valley(以下、Study Valley)による「地域に根差した探究学習を用いた新しい地域価値創造」が選ばれた。(※関連記事:「探究学習」がオーディエンス賞を受賞!――宮崎発・デジタルを活用した6つの共創プランを紐解く。地域ビジネスを革新していくデモデイを徹底レポート!

――今回、TOMORUBAでは、『デジタル・イノベーションフィールド構築事業』を牽引した宮崎県庁の川野優太氏、ホスト企業を務めたテレビ宮崎の谷之木志章氏、採択企業であるStudy Valleyの田中悠樹にインタビュー取材を実施。プログラムを通じての感想や共創の過程、今後の展望などについて聞いた。

日本のひなた・宮崎県は、全国のスタートアップと交流するなかで、どのような変化を遂げたか。その現場で奮闘した人々のリアルな声に迫った。

※本記事では、行政組織としての宮崎県を「宮崎県庁」、行政区域としての宮崎県を「宮崎県」と表記する。

【宮崎県庁】 県内外からの注目度の高さを実感。「デジタル化の土壌」の創出に向け、来年度以降のプログラムにも注力

――2022年3月11日に『デジタル・イノベーションフィールド構築事業』のデモデイが実施され、共創プロジェクトの成果発表が行われました。プログラム初年度を通じての感想はいかがでしょうか。

宮崎県庁・川野氏 : 最も印象的だったのは、共創の速度です。事前の想定に比べて、圧倒的なスピード感でした。正直なところ、昨年12月の採択時には「3ヶ月で本当に実現できるのだろうか」という感想を持っていたのですが、ホスト企業、採択企業ともに週に何度もミーティングを重ね、またたく間に共創案を具体化していきました。

また、共創案に社会課題解決を目指すものが多かったのも特徴的でした。当初は、ホスト企業の個別の課題を解決する共創案を想定していたのですが、実際には、多くの企業が社会課題解決を掲げていました。


▲宮崎県 商工観光労働部 企業振興課 川野 優太 氏

――ビジネスビルドには全国から38社の応募がありました。プログラムへの注目の高さを感じることはありましたか。

宮崎県庁・川野氏 : はい。まず、38社からご応募いただけたこと自体が注目度の証です。説明会やプレスリリースを積極的、効果的に実施した効果だと考えています。プログラムの概要についての問い合わせも何件かいただいており、県内外に広く認知されているのを感じます。

さらに、県庁内でもプログラムへの関心は高いです。宮崎県では、令和3年度を「みやざきデジタル化元年」と位置付けており、県全体でデジタル化を推進している最中です。そのため、県庁内でもデジタル化に対する熱は高く、デモデイには、プログラムの関連部署以外からも職員が多数駆けつけました。

――プログラムのなかで、最も印象的なエピソードは何でしょうか。

宮崎県庁・川野氏 : やはり、昨年12月のBUSINESS BUILDでの採択企業選出の2日間でしょうか(※)。熱気に圧倒されました。高い熱量で事業創出に向き合う方々と接して、個人的にも触発されるものがありました。本年度が初めての開催のため、比較は難しいですが、良質なプログラムを開催できたのではないかと思っています。

※関連記事:宮崎発で、全国の「地域課題」解決へ!メディア・水産・小売・物流の地場企業4社が採択した新規事業アイデアとは?

――ホスト企業や応募企業と接するなかで、川野さん自身の仕事やマインドに変化はありましたか。

宮崎県庁・川野氏 : Slack等のコミュニケーションツールやストレージなど、業務のなかでデジタルツールを頻繁に利用するようになったのは大きな変化だと思います。県内企業のデジタル化を推進する立場として、日常的な情報収集は欠かさないようにしていましたが、実際にデジタルツールを利用する機会はこれまで非常に少なかったのです。しかし、ホスト企業や採択企業の皆様とコミュニケーションを取るなかで、デジタルツールの活用が定着しました。今後、県内企業のデジタル化を推進するうえでも、今回の経験は大いに役立つはずです。

――来年度以降の『デジタル・イノベーションフィールド構築事業』の展望についてお聞かせください。

宮崎県庁・川野氏 : まずは、本年度のホスト企業と採択企業の継続支援です。県内企業とスタートアップの共創が、デジタル化のモデル事例となれるよう、今後も支援を続けていきます。

来年度の『デジタル・イノベーションフィールド構築事業』でも幅広い業界の参画を目標にしています。本事業の目的は、県内企業のデジタル化の土壌を築くことです。様々な業種・業界でのDX実現を支援し、それらの成果を広く周知することで、県全体でのDXを推進していきたいです。

――川野さんご自身が参画を期待する業界はありますか。

宮崎県庁・川野氏 : 個人的には、より多くの製造業の皆様に参画いただきたいです。例えば、宮崎県内には、溶接技術の全国大会で優秀な成績を修める企業が多数存在しています。こうした高度な技術力を生かせるビジネスの創出に期待しています。

――最後に、現在、共創を進めている採択企業7社・6プロジェクトの皆様にメッセージをお願いいたします。

宮崎県庁・川野氏 : まずは事業に参画いただいたことに御礼を申し上げます。さらなる実証等を通して、事業のブラッシュアップを行いながら、新たなサービスとして世の中へ送り出していただきたいです。そのためにも、今回の取組を様々な面で引き続き支援していきます。

【テレビ宮崎×Study Valley】 実証実験を経て、この事業モデルをさらに広めていきたい

――オーディエンス賞の受賞おめでとうございます。観客から最も支持された理由をどのようにお考えですか。

テレビ宮崎・谷之木氏 : 他の共創プロジェクトに比べて「事業の実現性」で一歩先にいけたように思います。ピッチを通じて、単なる実証実験の報告だけではなく、事業化に向けた具体的なイメージを訴求できたのが、観客の皆様からご支持をいただけた理由ではないでしょうか。


▲株式会社テレビ宮崎 新規事業開発部 兼 コンテンツ開発部 谷之木 志章氏

――今回、「探究学習」(※)をテーマとするStudy Valleyとの共創を決めた理由をお聞かせください。

テレビ宮崎・谷之木氏 : もともと、弊社の新規事業開発の方針として、教育分野へのアプローチは検討されていました。昨今、他局や新聞社など、メディア企業の教育分野への進出が続いています。そのため、弊社も教育分野との接点を探っていたのですが、どの領域に、どのような関わり方をするかについては、定まっていませんでした。

そうしたなかで、探究学習は非常に魅力的でした。2022年4月から全国の高校で必修化されるというタイミングもさることながら、教育現場に課題が山積しているという点にも、事業として取り組む意義を感じました。「この事業は多くの人の課題を解決できるはずだ」という確信がありました。

※探究学習:生徒が自ら課題を設定し、課題解決に向けた情報収集や分析を行うことで、思考力や判断力の育成を図る学習科目

――2021年12月に、探究学習EdTechプラットフォーム「TimeTact」を展開するStudy Valleyを採択し、約3ヶ月間の共創を実施されました。共創の過程で特に注力したことは何でしょうか。

テレビ宮崎・谷之木氏 : Study Valleyさんとの相互理解には、先ずは多くの時間を割くようにしました。お互いがどのような強みを持っているのか、どのようなリソースを保有しているか、そのリソースはどのくらい活用可能なのかといった点を深く理解し合うことで、スムースに共創が前に進んでいきました。

例えば、企画書の作成です。実は、3ヶ月間の共創期間中に企画書を5、6回書き直しています。当初は、Study Valleyさんがご用意された企画書を利用していたのですが、私自身の理解も十分ではなく、社内も県内企業の皆さんにも具体的なイメージをお伝えできていないと感じていました。

宮崎の企業ならではの課題やニーズ、予算感などをヒアリングし、StudyValleyさんとディスカッションする中で、企画書の内容も県内企業の皆さんに合わせてカスタマイズする必要がありました。結果的に、その過程で相互の強みやノウハウを深く理解し、融合させることができたと感じています。

――Study Valleyの代表、田中さんにもお聞きします。今回の共創は約3ヶ月という短いスケジュールの中で進められましたが、どのような壁がありましたか?またそれをどのように乗り越えたのでしょうか。

Study Valley・田中氏 : 今回の共創プロジェクトは関係者が多く、テレビ宮崎、宮崎県庁企業振興課、宮崎県教育庁、各高等学校、宮崎県内企業と多岐にわたります。このステークホルダー全員が納得する形で事業を進める必要があり、その調整が非常に難しかったです。

ホスト企業であるテレビ宮崎さんや宮崎県庁企業振興課については、当初より非常にご協力いただき、進めやすかった一方で、すでに期中でもあったことから宮崎県教育庁のご担当者の方には急なお願い、共有となるケースが非常に多く、大変ご迷惑おかけした部分が多分にありました。そうした中で、本プロジェクトでは、各ステークホルダーに丁寧に説明を重ね、本プロジェクトの意義や目的をご理解いただけるよう努めました。

結果的には、全てのステークホルダーの方々のご理解が得られ、なおかつ高校、企業においても導入契約まで漕ぎ着けられたのはテレビ宮崎さんと弊社で、良い意味で周りを巻き込むことができたためと考えています。


▲株式会社 Study Valley 代表取締役 田中悠樹氏

――3月5日には、県内高校7校と県内企業9社が参加して、探究学習の成果を発表する実証実験が開催されました。その結果、全参加者の平均NPS(満足度)は10段階中8.55と高いスコアが得られています。実証実験の手応えはいかがだったでしょうか。

テレビ宮崎・谷之木氏 : 開催する以前から、学校や企業の皆様にはきっと喜んでいただける機会になると想像していました。結果も、ある程度は予想通りで、本プロジェクトへの期待の大きさを実感できました。ただ、イベントの内容にはまだまだ改善の余地があるので、今後は学校や企業のメリットをさらに大きくしていけるようブラッシュアップを重ねていくつもりです。例えば、今後は、県内企業さんの実際の課題をイベントに盛り込むスキームを確立したいと考えています。

――共創の今後についてお聞かせください。

テレビ宮崎・谷之木氏 : まずは、高校、県内企業ともに、より多くの方々に参画いただきたいと考えています。高校についてはすでに10校以上の導入が決定していますし、県内企業の皆さんの反応からも可能性を感じます。弊社は、グループ企業も含めれば、数千社のクライアントリソースを保有していますので、そうしたリソースを十二分に活用しながら、県内の探究学習を通じた高校生の学びをサポートしていきたいです。

また、今回の共創は他のビジネスチャンスを探索する、良い機会でもあります。県内企業への提案時には、必ず相手方の課題を整理・抽出するので、その課題を解決するビジネスも可能になります。共創を進めるなかで、弊社の事業全体の幅を広げることもできるのではないかと期待しています。

Study Valley・田中氏 : 2023年内には県内全ての高校でご利用いただけるよう、「TimeTact」の製品開発に注力していくとともに、テレビ宮崎さんと共にご協力いただける宮崎県内企業へのご案内を順次進めていく所存です。また、このビジネスモデルは全国でも珍しいため、さらに他地域に広げられるよう設計していく予定です。

――ビジネスビルドを終了しての感想をお聞かせください。

テレビ宮崎・谷之木氏 : ホスト企業として共創に取り組むことで、新規事業開発への向き合い方や体制の作り方を学べました。実際に、共創のためにグループ内の部署やリソースを洗い直すなかで、既存の体制では連携していなかった部署間、会社間の業務上のコラボレーションがいくつも生まれました。今後、グループ内のリソースを組み合わせ、新たな事業を生み出していくうえで、今回の経験は必ず役に立つはずです。

――Study Valleyさんはビジネスビルドに参加して、どのようなメリットを感じているでしょうか?

Study Valley・田中氏 : テレビ宮崎さんと弊社が有しているリソースの掛け算、ということは言うまでもなく、それ以上に「面白さ」の共有にあると思います。東京と宮崎という、距離はもとより、商習慣や文化、背景も異なる中で、同じプロジェクトに取り組む際の共通言語はもはや「面白さ」しかなく、我々としても「なるほど、宮崎県ではここが違うのか」という差分が明確化されたことも、我々が会社としての視座を上げる上で非常にメリットに感じました。


▲3月11日に宮崎市内で実施されたデモデイ。両者のプレゼンテーションは多くのオーディエンスの心を掴んだ。

――最後に、来季以降のビジネスビルドに参加を検討している企業にメッセージをお願いいたします。

テレビ宮崎・谷之木氏 : 新たな取り組みにチャレンジするとき、1社では様々な壁にぶつかりますし、場合によっては挫折もあり得ます。だからこそ、複数の企業で一斉に共創にのぞむ、ビジネスビルドのようなプログラムに価値があるのだと思います。新たなことにチャレンジしている、しようと考えられている県内企業は、この機会を逃すことなく、ぜひプログラムに参加してほしいです。

特に、今回、強く実感したのは県内企業の「チーム力」です。宮崎は大都市圏に比べて、企業数が少ない分、結束力が高いのではないでしょうか。実際に、今回のプログラムを通じて、他のホスト企業との繋がりを得ることもできましたし、その繋がりは間違いなく、共創の推進力になっています。県内企業とともに新規事業を創出したいという企業にもぜひ参加をお勧めしたいですね。

――Study Valleyさんからも、デジタル技術の活用や地域とのオープンイノベーションを検討している方々に向けて、メッセージをお願いします。

Study Valley・田中氏 : 地域課題の解決を行うのに最も重要なのは、「その地域課題を地域の人が考えて解く」ということに尽きると思っています。よそがうまくいっているからうちも、は大体失敗するパターンのため、地域課題解決のために地域の企業と解決策をもつスタートアップの協業は素晴らしいと思います。

一方で、なんでもテクノロジーを使えばうまくいくものでもなく、その課題解決の中心はその地域に住む方々だと思います。デジタル技術はあくまでも手段の一つでしかなく、当事者意識をもって自分ごと化するのが最も重要なポイントだと思います。

そういった観点では、大人自身も探究し続け、探究学習で重要な「知る」と「創る」のサイクルを回し続けることが最も重要だと思います。探究学習は高校だけでなく、生涯学習においても、地域課題解決においても重要なものですので、ぜひ「TimeTact」を地域課題解決のために大人もご利用いただけると嬉しいですね(笑)。

取材後記

ビジネスビルドで採択された共創案は実にバラエティ豊かだ。その内容も「探究学習を用いた新しい地域価値創造」「水産業のニュースタンダード」「オンラインバーチャル県人会」など、新規性が高く、人々の目を引くアイデアに満ちている。初の開催で、こうした共創案を生み出し、実現に向けたスタートが切られたのは、プログラムの大きな成果といえるだろう。

そして、来年度以降も宮崎県庁によって本事業の継続・発展が予定されている。宮崎の地に、次はどのようなビジネスの種が芽吹くのだろうか。今まさに、イノベーションを育む土壌が、宮崎の地で築き上げられようとしている。

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太)

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