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活気づく越境EC市場。急成長の背景や日本の圧倒的な購入先とは?事例を交えて解説
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーや、それらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは「越境EC」です。国境を越えたオンラインショッピングの利用が急速に拡大する中、越境ECは小売業界における新たな成長分野として注目を集めています。消費者にとっては、海外の商品を簡単に手に入れる手段となり、企業にとっては国内市場に限らない販路拡大のチャンスをもたらします。本記事では、越境ECの概要や成長背景、成功事例を解説し、グローバルビジネスとしての可能性を探ります。
越境ECの概要と急成長の背景
越境ECとは、国境を越えた電子商取引を指し、国内企業が海外市場へ商品を販売したり、消費者が海外ECサイトから商品を購入したりする形態を含みます。このビジネスモデルは、グローバル化が進展する中で、小売業やサービス業に新たな成長機会をもたらしています。その急成長の背景には、以下の要因が挙げられます。
デジタルインフラの進化
インターネットの普及率が高まる中、多くの国でスマートフォンや高速通信環境が整備され、消費者は簡単に海外の商品やサービスにアクセスできるようになりました。また、ECプラットフォームの多言語対応や決済システムの進化も、越境ECの利用を容易にしています。特に、アジアや中東、南米といった新興市場では、モバイルファーストの消費者が多く、モバイルショッピングアプリが越境ECの利用を促進しています。
物流ネットワークの拡充
国際物流サービスの進化も、越境ECを支える重要な要素です。配送業者や倉庫サービス企業が提供する国際配送オプションの多様化により、配送時間が短縮され、コストも抑えられるようになりました。また、倉庫ネットワークのグローバル展開により、企業は消費地に近い拠点で在庫を管理することが可能になり、スムーズな配送体制が整備されています。例えば、配送追跡システムの普及は消費者の不安を軽減し、越境ECの信頼性を高めています。
消費者ニーズの多様化
越境ECの成長は、消費者の多様化するニーズにも支えられています。消費者は国内市場で入手困難な商品や、ユニークで希少性の高い商品を求める傾向があります。また、特定の国や地域のブランドに対する信頼感や、独自性を求める動機が購入を後押ししています。例えば、日本の化粧品や食品は海外市場で高い評価を得ており、品質や安全性を求める消費者層に人気があります。
企業の販路拡大と市場多様化
国内市場の成熟や少子高齢化により、国内需要が鈍化する中、企業は海外市場に販路を広げることで新たな成長機会を模索しています。特に、アジア市場は人口増加や経済発展に伴い、購買力が向上しているため、日本企業にとって魅力的なターゲットとなっています。さらに、越境ECは初期投資が比較的少なくて済み、物理的な店舗を構える必要がないため、中小企業やスタートアップにとっても参入しやすいモデルといえます。
越境ECの市場規模
越境ECは、グローバルな電子商取引市場で急成長を遂げている分野です。2023年の世界の越境EC市場規模は推計で1兆ドルを超えると見込まれています。特に、中国、アメリカ、日本の三か国間の越境EC市場は大きなシェアを占めており、経産省の公開している資料によると、日本からの越境BtoC-EC取引は4,208億円に達しています。この中で、アメリカ経由の取引が3,768億円、中国経由が440億円と、アメリカのシェアが圧倒的です。
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出典:令和5年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました
地域別の越境EC市場規模を見ると、中国とアメリカが大きなシェアを占めており、世界市場を牽引しているのが特徴です。
中国は越境EC市場の最大のプレイヤーで、世界全体のEC小売市場規模で約50%のシェアを占めています。同国の越境ECは、SHEINやTemuなどのプラットフォームを通じて急速に拡大しており、低価格な商品提供と効率的な物流を強みとしています。一方、アメリカは2位のシェアを持ち、Amazonを中心に多様な商品ラインナップを提供しています。特に、送料無料や解約の柔軟性といったサービスが消費者に支持されています。
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出典:拡大するEC市場(世界) | 分断と協調-岐路に立つ国際ビジネス - 特集 - 地域・分析レポート
欧州ではイギリスが主導的な役割を果たし、越境ECの需要が高まっています。イギリスのEC化率は29.6%と高く、ドイツやフランスも安定した市場規模を維持しています。
アジア太平洋地域では、日本が注目される市場の一つで、成長率は12.7%と堅調です。ただし、EC化率が13.7%と世界平均を下回っており、成長の余地が残されています。その他、韓国やインドネシアも新興市場として台頭しています。
越境ECの国内事例
【インアゴーラ×スギ薬局】日本と中国を結ぶ越境ECプラットフォーム
インアゴーラは、越境ECアプリ「豌豆公主(ワンドウ)」を通じ、日本の消費者向け商品を中国市場に展開しています。同社は総額53億円の資金調達を実施し、SBIホールディングスやスギ薬局といった国内外の大手企業との業務提携を進めています。この連携により、スギ薬局の商品を中国消費者向けに販売するだけでなく、中国SNSやKOL(キーオピニオンリーダー)を活用したプロモーションが可能となっています。さらに、物流や販売に関する現地企業との協力を拡大し、中国国内でのマーケティング活動を強化しています。
参照ページ:越境ECのインアゴーラが総額53億円の資金調達、スギ薬局・信金控股と業務提携 - TOMORUBA (トモルバ) - 事業を活性化するメディア
【トレンドExpress(現・NOVARCA)×日本郵政】データ分析を活用した中国市場進出支援
トレンドExpressは、中国を中心とした消費者ビッグデータを活用したマーケティングサービスと越境EC事業を展開しています。2019年には日本郵政グループとの事業連携のもと、7億円の資金調達を完了しました。中国市場向けのプロモーションサービスを提供し、日本企業の現地進出を支援すると同時に、越境ECサービス「越境EC X(クロス)」を運営。日本の商品を中国市場に流通させる取り組みを通じ、OMO(Online Merged Offline)の形態にも参入しています。同社は、データに基づくインサイトを活用し、日本商品の認知拡大を図っています。
参照ページ:越境ECの「トレンドExpress」 | 7億円の資金調達を発表、日本郵政グループと事業連携 - TOMORUBA (トモルバ)
編集後記
越境ECは、グローバル化が進む現代において、企業にとって新たな成長機会を提供する重要なビジネスモデルです。越境EC市場は近年活況で、インターネットや物流インフラの発展に伴い、急速に拡大しています。特に、中国やアメリカなどの主要市場を中心に大きな成長が見られ、アジア太平洋地域ではさらなるポテンシャルが期待されています。
越境ECは、単なる商取引を超えたグローバルなビジネスネットワークの構築に寄与しています。一方で、物流や規制、文化的なギャップなどの課題も依然として存在します。こうした課題を乗り越えながら、日本企業が越境ECを活用して新たな市場を切り拓く取り組みは、今後ますます注目されるでしょう。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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