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DNPモビリティ事業が共創の先に見据える世界とは――DNP流の生活者視点で「地方の移動課題」に挑む。

DNPモビリティ事業が共創の先に見据える世界とは――DNP流の生活者視点で「地方の移動課題」に挑む。

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大日本印刷株式会社(以下、DNP)が主導するオープンイノベーション「DNP INNOVATION PORT CO-CREATION#2020」が始動する。

創業から140年以上、出版事業から発展し、包装事業・マーケティング、電子デバイス製造や、高度な情報処理技術を必要とする医療分野など、印刷技術を核に広範な事業領域を有するDNPが、社会課題を本気で解決することを目的にスタートしたこの取り組み。過去1年間で、7テーマもの本格的な共創を進めている。

そしてこの度、新たに「子育て」「モビリティ」「環境」の3つのテーマで募集を開始。それぞれの領域において事業アイデアを募り、生活者視点の新たな価値創出を狙っている。



▲「DNP INNOVATION PORT CO-CREATION#2020」の詳細はコチラ


そこで今回、「モビリティ」に焦点を絞り、その取り組みを主導するキーパーソンにインタビューを実施。モビリティ事業部事業企画室室長の椎名隆之氏に、DNPがモビリティ事業に挑む動機や共創の目的、そしてその先に見据えるビジョンについて伺った。

MaaSやCASEといったメガトレンドのなかで、今まさに激動の時代を迎えているモビリティ業界。その渦中にDNPが放つソリューションとは一体何なのか。そして、オープンイノベーションによって、どのような価値を生み出そうとしているのか。その背景には、同社が見据える「あるべき社会」の姿があった。


■大日本印刷株式会社 モビリティ事業部 事業企画室 室長 椎名隆之氏

1996年、同社入社。食品パッケージの企画業務を経験した後、PETボトル無菌充填システムのプラント導入のプロジェクトに参加。国内外20カ所以上のプラントへの設備導入に携わる。その後、事業企画室に配属となり、事業戦略策定やM&A案件を担当し、2017年、モビリティ事業部の立ち上げとともに同部企画室室長に就任。

「生活者視点の課題解決」にフォーカス。マーケットイン・外部連携を軸にしたDNPのモビリティ事業 

――まず、モビリティ事業部の概要と設立背景を教えてください。

椎名氏 : モビリティ事業部は、自動車の内装に用いられるデザインフィルムや、サイドバイザーといった樹脂成型の外装部品、さらにモビリティ関連のICTサービスなど、自動車にまつわる様々な製品やサービスを開発・提供する事業部で、2017年に新設されました。

実は、DNPはそれ以前から、内装用の機能性フィルムやデザインフィルムの事業を展開していたのですが、2015年、雨除けに用いられるサイドバイザー分野でシェアNo.1の田村プラスチック製品株式会社(現・DNP田村プラスチック株式会社)を子会社化したのを契機に、事業領域を拡大。各事業部や部門に散らばっていた自動車関連の人材を集約し、モビリティ事業部として包括的なサービスや製品の提供を行う推進体制を構築しました。

そして、モビリティ事業部の特徴のひとつが、”ファブレス”であることです。「包装事業部」や「高機能マテリアル事業部」など、各事業部にプロダクト名が冠されていることに象徴的ですが、基本的にDNPのビジネスモデルは自社工場でのプロダクトの製造をベースとしています。しかし、モビリティ事業部が目的としているのは「市場への新たな価値提供」であるため、必ずしも自前でプロダクトを製造する必要はなく、マーケットインで商材がなくても外部企業との連携を念頭に置いています。そうした意味では、設立の時点からオープンイノベーションを見据えた組織だといえるかもしれません。

――現在、モビリティ事業部は、どのような事業を手掛けているのでしょうか。

椎名氏 : まずモビリティ事業部では、「Mobility for kind future, 行き先は、やさしい未来。」という、あくまでユーザー中心の考えでステートメントを掲げ、事業を立ち上げるうえで3つのクライテリア(判断基準)を設定しております。

①「MaaSを『人』と『もの』の移動に関わる課題解決と広義に解釈」

②「グリーンフィールドで、スモールスタートが可能な、ニッチ市場での事業化」

③「将来的に、自社ソリューションの活用〜データ活用ビジネスを目指す」

以上のクライテリアに基づいて現在展開していますが、以下のような2つの分野における事業を開発しています。

1)東南アジアにおける物流向けモビリティサービス事業開発

2)国内の地域モビリティ・サービス事業開発

海外事業では、東南アジアにおける物流の課題解決を目的に、物流マッチングサービスなどを提供しており、2020年には「MaaS & Innovative Business Model Award(MaaSアワード)」のビジネスモデル部門で優秀賞を受賞するなど、一定の成果を上げています。

一方で、今回の「DNP INNOVATION PORT CO-CREATION#2020」を通じて、取り組みを加速させていきたいのが国内事業です。国内事業では「狭域モビリティ・サービス事業」をコンセプトに、地方のモビリティ分野の課題解決を目指しています。

その事例のひとつが、2020年7月、株式会社アクアイグニスとの共同で開発され、三重県のリゾート施設で導入されている自動運転EV用配車システムです(※)。これはリゾート施設内を自動運転EVが完全無人で運行して、宿泊者を送迎するシステムとなります。

自動運転といっても最先端の技術は用いられておらず、運転の仕組みはゴルフカートと同様の電磁誘導式、配車システムも客室とフロントが専用端末で情報連携するだけの簡易的なものですが、「完全無人のEVが送迎する」という体験価値が高く評価されており、宿泊客からも好評を博しています。



※出典:大日本印刷の自動運転モビリティ運行管理システムが7月オープンのリゾート施設湯の山「素粋居(そすいきょ)」で採用! 

また、この他にも、静岡地区では高齢者向けのオンデマンドタクシーの配車予約システムに関する実証実験を進めています。私たちが得意とするNFC(近距離無線通信)対応のカードを使い、デジタルサイネージにそのカードをかざすだけでタクシーを呼ぶことができるという取り組みです。

しずおかMaaSが実施するAIオンデマンド交通サービスの実証実験に参画


これらのような国内事例に顕著ですが、モビリティ事業部の開発スタイルは、「いかに最先端の技術を追いかけるか」ではなく、「すでに存在する技術を用いて、いかに高い顧客体験価値を生むか」です。すでに数々のプラットフォーマーが存在するMaaS市場において、異業種かつ後発のDNPが新たな価値を提供するためには、身近な課題の解決にフォーカスした開発が必要です。技術競争ではなく、生活者のニーズに応える「DNPらしさ」を、モビリティ事業においても強みにしたいと考えています。



地方の「移動」を救う。「スーパーシティ」構想への参画で実証のフィールドを確保。

――今回、モビリティ事業部は共創のテーマに「地方の生活者や、地方を訪れる観光客が、自由に移動できるモビリティ社会の実現」を掲げています。まず、「地方」にテーマの焦点を当てた理由を教えてください。

椎名氏 : まずマクロ的な観点として、日本国内の人口が減少し、今後GDPの継続的な落ち込みも予測されるなかで、国内市場に伸び代を求めるとすれば、やはり地方に活路を見出すしかありません。それがまず地方にテーマを絞った理由のひとつです。

一方で、地方には課題が山積しているのも事実です。特に「移動」は、現在、地方が抱える主要な課題のひとつです。例えば、東京を中心とした都市圏を除けば、日本はいまだに圧倒的な「車社会」です。一世帯あたりの自家用車の所有台数は、最も高い福井県で約1.7台と、地方では車による移動が主流です (※)。

その反面、高齢化により、車を運転できない人の数は着実に増えています。しかし、彼ら彼女らのために公共交通機関を構築しようにも採算が取れませんし、むしろ地方のバスや鉄道の路線はどんどん廃線になっていっている。そして、その現状が人口流出を一層加速させ、地方経済の衰退を招いているわけです。そうした悪循環の構造を食い止めて、地方の発展や活性化に貢献したいという想いが、今回のテーマを設定する背景にありました。

※出典:一般財団法人自動車検査登録情報協会「自家用乗用車(登録車と軽自動車)の世帯当たり普及台数」

――そうした志の高い壮大なビジョンを、具体的にどのような方法で実現するのでしょうか。

椎名氏 : こうした取り組みは東京の会議室であれこれと議論していても仕方がありません。ビジョンの実現には、具体的な実証のフィールドを確保する必要があります。

そこで現在、モビリティ事業部では、「スーパーシティ」構想への参画を目指しています。「スーパーシティ」構想とは、政府主導で推進されている、AIやビッグデータなどのデジタル技術を駆使して社会課題を解決する都市計画のことです。

詳細は述べられませんが、私たちはすでに西日本のある候補地と連携しており、地元自治体と協力してスーパーシティ推進協議会を立ち上げるなど、申請の準備を進めているところです。この参画が実現すれば、実際の町を実証フィールドとして事業開発を推進できます。今回の共創テーマを実現するうえでも、強力な後押しになること間違いありません。


▲DNP社内で共創のハブとなっている「DNP INNOVATION PORT」のメンバーと情報交換をしながら広くアンテナを張り巡らし、社外との連携を図っている椎名氏。

実証の場を提供。先端技術提供ではなく、本当に役に立ち続けられる体験価値アイデアを一緒に考えていけるパートナー企業を求めている。

――今回の共創で、どのようなパートナーを求めているのでしょうか。

椎名氏 : もともと「スーパーシティ」構想は、「移動」に限られたものではなく、行政施策や医療、教育、エネルギーなど、様々な社会課題をテクノロジーとデータの力で解決し、より快適で住みよい都市を作るという取り組みです。そのため、「移動」のサービスを開発するとしても、その移動が病院に通院するためなのか、会社に通勤するためなのか、学校に通学するためなのか、といった目的ごとにサービスのあるべき姿は変わってくると思います。

なので、共創のパートナーには”先端的な技術”というよりも、課題を解決し、テクノロジーを実装するための”アイデア”を求めたいです。例えば、「このアイデアを使えば高齢者の移動需要に応えることができる」「こんなロジックを活用すれば車と人を効率的にマッチングできる」といったアプローチで共創案をご提案してくださるパートナーを募りたいですね。具体的なテーマとしては、特に以下のパートナー企業を募集しているところです。

●求める企業

経済合理性を実現させる自動運転技術を持つ企業

環境負荷を抑えたエネルギーマネジメントを実現できる企業

交通移動需給の最適化を実現できる企業

――では、モビリティ事業部から共創パートナーに提供できるメリットはどのようなものでしょうか。

椎名氏 : なにか個別具体的なメリットがあるというよりも、実際の町を実証のフィールドにできること自体をメリットと考えていただきたいです。

今回の「スーパーシティ」構想において、私たちは「アーキテクト」という役割を目指しています。アーキテクトとは自治体や住民、事業者などの中心に立って、取り組みを推進し、都市のあるべき姿を設計する役割のことですが、DNPの場合は加えて、決済や電子文書、スマートキーなどモビリティと相性の良いソリューションも持っていますし、ハード・ソフト双方のアプローチでサービス開発やアプリ開発・実装も可能です。そうしたアーキテクトをパートナーにして、町のインフラや行政施策などを利用ながら、事業を共創できるのは大きな魅力ではないでしょうか。

また、「スーパーシティ」構想では、その地域の住民の合意と議会の承認が得られれば、法による規制の緩和も可能になります。通常であれば、道交法をはじめとした法規により規制される実証実験も、「スーパーシティ」構想においては実現可能です。今後パートナーになる企業には、そうした稀有な機会を逃すことなく、ぜひ活用していただきたいと思っています。

共創の先に、都市と地方の格差がない「フラットな世界」を目指す。

――では、最後に、椎名さんが今回の共創の先に見据えている社会像について教えてください。

椎名氏 : 私たちが思い描いている社会像は非常にシンプルで、地方に住む人々が生き生きと暮らし、安心安全に生活を送る環境を創出することです。もちろん、地方の魅力を引き出し、観光客などに価値を提供するのも重要ですが、それ以上に、その地域に住む方々のQOLをいかに向上させるかということを重視したいです。

そして、ゆくゆくは「都市vs地方」という構図を一新し、地方に住んでいながらも、苦労することなく買い物ができたり、明るく活気あるコミュニティを形成できたり、地元で優秀な企業に就職して生涯を送ることができたりするような、そんな日本全国がフラットになる世界を実現していきたいと考えています。



取材後記

スーパーシティ。この言葉の響きに、どういったイメージを抱くだろうか。空飛ぶ自動車が街中を行き交い、全ての人の生活行動がデータ化され、この先の未来に起こる事象が全て予見される、そんなSF映画のような未来像が浮かぶ人も多いかもしれない。

しかし、そうしたイメージに反して、首相官邸が公開している「スーパーシティ」構想についてのHPの冒頭には、こんなメッセージが掲げられている。

「地域の『困った』を最先端のJ-Techが、世界に先駆けて解決する」。

こうしたメッセージにも明らかなように、「スーパーシティ」構想は決して浮世離れした政策ではない。むしろ、人々の「困った」という、非常に身近な課題へのソリューションを提供するために推進されるのだ。

そうした点で、生活者の視点を重視し、最先端の技術ではなく、既存の技術を活用して地方における「移動」の課題を解決しようとするモビリティ事業部の狙いは、「スーパーシティ」構想の意図を汲んだ、本質的な取り組みといえるだろう。

MaaSやCASEのプラットフォーマーが私たちに提示する、先進的でワクワクするような未来像はとても魅力的だ。しかし、その一方で、地に足のついた、身近な「移動」の課題解決も欠かすことはできない。その重責をモビリティ事業部は担おうとしている。


(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:齊木恵太)

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