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DNP×Trimが「子育て」領域の共創の先に描く未来とは――”豊かな生活体験を提供する空間づくり“に挑む。

DNP×Trimが「子育て」領域の共創の先に描く未来とは――”豊かな生活体験を提供する空間づくり“に挑む。

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2020年9月に厚生労働省が発表した人口動態調査によれば、2019年の出生数は86万5,234人で、同調査開始以来の最小を更新し、合計特殊出生数も1.36と下降の一途を辿っている(※)。私たちは未曾有の人口減少時代を迎えており、その解決は現在の日本社会における最大の課題といっても過言ではない。 ※出典:厚生労働省 令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況 

こうした問題の背景には、複雑な要因が絡み合っている。「出産・育児ができる環境整備の遅れ」、「子育てにおける負担感の増大」、「経済面における将来不安」など、解消しがたい課題が山積しているのが現状だ。この悩ましい問題にいかにして取り組み、解決への糸口を掴むべきだろうか。

大日本印刷株式会社(以下、DNP)が主導するオープンイノベーション「DNP INNOVATION PORT CO-CREATION#2020」では、「社会課題の解決」を目的に、さまざまな領域で共創パートナーを募集している。そのテーマの一つとして掲げられたのが「子育て世代が外出先で、安心してベビーケアできる社会の実現」だ。


▲「DNP INNOVATION PORT CO-CREATION#2020」の詳細はコチラ


実際に、DNPは現在、可動式のベビーケアルーム「mamaro®︎」を展開するTrim株式会社(以下、Trim)と資本業務提携を結び、共創プロジェクトを進行中。そのプロジェクトへの参加企業を募り、「子育て」の領域における社会課題に、ベビーケアルームを基点にして取り組む構えだ。

そこで今回、共創を推進するDNPビジネスデザイン本部の松嶋氏・大島氏とTrimのCEO長谷川裕介氏にインタビューを実施。DNPがどのような手法で、「子育て」、そして人口減少といった巨大な社会課題を解決しようとしているか伺った。



【写真中】 大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部 ビジネスデザイン本部 第1部マーケティンググループ リーダー 松嶋亮平氏

【写真右】 大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部 ビジネスデザイン本部 第1部マーケティンググループ 大島奈緒美氏

【写真左】 Trim株式会社 CEO 長谷川裕介氏 

mamaroのバリューチェーン全域にDNPのアセットを提供―資本業務提携による共創の推進を実現

――2020年6月、DNPとTrimは資本業務提携を発表しました。ここに至る経緯について教えてください。

DNP・松嶋氏 : 2018年10月に設立したビジネスデザイン本部では、スタートアップをはじめとした外部企業との共創による新規事業創出を目指し、様々な企業と接点を持ってきました。そうした活動のなかで出会ったのがTrimなのですが、当初に想定していた共創は、ビジネスデザイン本部がmamaroの拡販や製造をサポートするといった程度で、資本業務提携までは視野に入っていませんでした。

しかし、その後、両社でディスカッションを重ねていくうちに、mamaroのバリューチェーン全域にDNPのアセットを活かすことができるのではないかと考えるようになり、「拡販や製造以外にもどんなサポートができるか」という観点で共創を考えるようになってきました。

また、一方で、DNPの既存事業の領域においても、印刷物や什器以外の価値を小売店や商業施設に提供していこうという機運が高まっており、その点においても、集客やCX向上に貢献するmamaroは魅力的でした。そうした経緯から、より深いお付き合いをしていきたいと考え、今回の資本業務提携に至りました。


▲mamaroは、小さな子供と外出した際に、手軽に授乳や離乳食、オムツ替えなどのベビーケアに利用できる完全個室型の設備。

Trim・長谷川氏 : 資本業務提携は、Trimにとっても「渡りに船」だったと感じています。私たちのようなスタートアップは限られたリソースのなかで最大限の利益を出さなければいけない。しかし、mamaroの事業は製造業なので、ものづくりや物流などにかかるコストには課題がありましたし、もともとは、アプリ開発から始まった会社でものづくりへの知見も多くはなく……という中、そうした課題をソフトからハードまで網羅的かつ一気通貫に解決できるご提案をいただいたので、今回の資本業務提携には非常に期待を持ってのぞんでいます。

――今回の資本業務提携に、両社はどのような狙いを持っているのでしょうか。

DNP・松嶋氏 : まずはmamaroの拡販のサポートと、製造の請負による品質の安定化。その2つをスタート地点にして、状況を見定めながらサポートの領域を広げていき、ゆくゆくは、物流やキッティング、ラウンダー体制の構築、筐体内の広告配信事業といった事業全域をカバーしていきたいと考えています。そうした取り組みを通じて、両社の事業拡大と社会への新たな価値提供を実現しようというのが目標です。

Trim・長谷川氏 : DNPとの資本業務提携が、VCからの投資などと大きく異なるのは、すでに確立されたアセットを活用できる点だと思います。DNPの140年以上の歴史、グループ従業員約3万8000人の体制は、いくら資金があっても一朝一夕で構築できるものではありません。

例えば、今回の取り組みでも、DNPのものづくりにおける品質の高さや知財管理の厳密さには何度も驚かされました。そうした組織力を味方につけて、mamaroの普及をより加速させたいというのがTrimとしての狙いです。


DNPの「拡販力/ネットワーク力」がmamaroのポテンシャルを引き出し、社会インフラへの普及を促進する。

――長谷川さんにお伺いしますが、実際にDNPと共創を進めるなかで、メリットを感じた点は何でしょうか。

Trim・長谷川氏 : メリットは多岐に渡っていますが、一つ例を挙げるとすれば、Trimではなかなかお取引できない大企業と強固なパイプを有していることや、そうしたクライアントに、Trimとは異なる視点でmamaroをご提案していただける点です。

DNP・松嶋氏 : 同じ製品をご提案するにしても、TrimとDNPでは、クライアントから求められるものが異なります。例えば、DNPがご提案する場合、クライアントは「その提案が店内のマーケティング施策にどう連動するのか」といった点を重視します。

そのため、DNPとしても、mamaroに独自の意味や文脈を付加してご提案できます。これは拡販を進めるうえでのメリットかもしれません。


DNP・大島氏 : また、私自身、mamaroの拡販に携わるなかで、「子育ての当事者としての視点」も強みにできていると思っています。

実際、出産や育児を経験してみると、「こんなに大変なの?」と驚きの連続です。子育ては、日々「予測不可能」なことの連続で、それによる不便や悩みは、まだまだ社会的に共有されているとは言い難いです。当事者でなければ気づきにくい、些細かもしれないけれどリアルな視点を、これまで培ってきたクライアントへのご提案力とかけあわせることで、新しい価値創出に繋げられているのではないかと思います。

例えば、子どもとのお出かけにおいて、商業施設や駅といった「目的地」以外でも、ベビーケアが必要になるシーンは多々あります。それならば、人がただ通過するだけの、一見見過ごされがちな場所にもmamaroのニーズは眠っているはずです。そうした視点を既存のクライアントに紐づけていけば、これまで設置されなかった場所にもmamaroを広げていくことができるはずです。


▲商業施設の設置イメージ。mamaroは可動式なので、さまざまな場所に設置することが可能だ。

――DNPのお二人は、今後、どのように共創をスケールしていこうとお考えですか。

DNP・松嶋氏 : 資本業務提携を発表して以降、有難いことに、既存のクライアントからTrimやmamaroについてお問い合わせを受ける機会が増えました。

そうした際に、既存クライアントをいち設置先としてだけ捉えるのではなく、拡販のパートナーとしても検討していきたいと考えています。そのような拡販の仕組み作りができるは、広範なクライアント網を有するDNPならではの強みではないでしょうか。

DNP・大島氏 : 私は全国のDNPグループ社員の力が、共創の強力な後押しになると思っています。DNPは、クライアントの部署を横断して関係を構築しているため、企業の根本的な課題を把握していることが多いです。そのため、mamaroをクライアントの課題や戦略に絡めて、最も響く形でご提案できる。

また、地域の特色や動静に精通していることも強みです。DNPは日本全国にネットワークを広げているので、各地域の担当者が、その地域にいなければ知ることができない情報をキャッチしています。そうした情報網を生かして、全国各地にクライアントを開拓していけるのではないかと思っています。さらに、近年開催予定の各種国際イベントなど大きなカテゴリーごとに一気に展開していける力がある点も強みになってくると考えています。


mamaroという社会インフラへ。さらに、そのインフラに価値や魅力を付加してくれるパートナーを求める。

――今回、DNPでは子育て領域の共創テーマとして「子育て世代が外出先で、安心してベビーケアできる社会の実現」を掲げています。このテーマが目指す世界観についてお伺いします。

DNP・松嶋氏 : まずはmamaroを「世の中にあってあたりまえ」の社会インフラとして普及させるつもりです。ただ、その目標自体はTrimさんが掲げたもので、今回の共創では「その先」を目指しています。

つまり、mamaroという社会インフラを土台にして、さらに子育ての不便や悩みを解消していくサービスを、パートナー企業と共に創出したいというのが、このテーマの目指すところです。

DNP・大島氏 : 一口に「子育て」といっても多様な段階があることから、mamaroは今後ますます様々な切り口で社会に浸透していくはずです。

例えば、mamaroが「授乳室」ではなく「ベビーケアルーム」と称していることに象徴的ですが、授乳期が終わっても、「ベビーケア」は続きます。私の子供は3歳なのですが、今でも急に食べこぼしたり、水浸しになったりして、外出先で急に服を着替えさせなければいけない事態も起きます。mamaroは、そうした際に家族で利用できる更衣室にもなるのです。

また、一方で、妊娠中や出産後の女性をサポートすることも、広義での「ベビーケア」だと思います。2020年7月にDNPでは都内の事業所3カ所にmamaroを設置し、妊娠中や出産後の女性社員が急な体調不良時などに利用できるスペースとしているのですが、mamaroはこうした「女性の働きやすい職場環境作り」にも貢献します。

このようにmamaroには、子育て世代の課題を解決する、社会インフラとしてのポテンシャルが秘められています。そのため、それを土台として開発されるサービスにも、mamaroと同様に、社会的な広がりが期待できるのではないでしょうか。


▲mamaroは「ベビーケアルーム」として、さまざまな困りごとを解決できる空間となる。

Trim・長谷川氏 : 私は、この共創の先には、かなり具体的な成果が得られると見込んでいます。子育て世代の外出をサポートすれば、経済活動も流動化して、そこから得られる経済効果は少なくないですし、最終的には「出生率の向上」や「子育て中の幸福度の向上」といった指標にも影響を与え得ると考えています。

また、個人的には、これからの時代の事業は「ソーシャルインパクトをいかに出すか」が重要なポイントになると思っています。その点で、mamaroには十分に可能性があると自負していますし、パートナー企業の方にとっても、共創に取り組む価値がある製品ではないかなと思います。

<求める企業>

・リアルな空間・場所を持つ企業

・働きやすい職場環境づくりを推進する企業

・子育て世代向けの製品・サービスを保有している企業

――最後に、共創への応募を検討している企業へのメッセージをお聞かせください。

DNP・松嶋氏 : 長谷川さんもソーシャルインパクトの重要性について述べていますが、やはりmamaroに興味を持つのは「社会に対して価値を提供したい」「生活者に貢献したい」といった視点や思いを持つ方々です。mamaroのような製品に携わるうえでは、人がらやパーソナリティがフィットするかどうかは欠かせない要素だと思います。

さらに、それを踏まえて、「この場所をいかにより良い空間にするか」といった課題を抱える企業や団体にはぜひ手を挙げていただきたいですね。例えば、ディベロッパーや商業施設、住民の子育ての満足度を向上させたい自治体など、その場所におけるCXを高めたいというパートナーであれば、今回の共創にはフィットしやすいと考えています。

DNP・大島氏 : 私は、ユーザーが思わず「こんなところに?」と意外性を感じる設置先を生み出したいです。意外性といっても、単にイメージとかけ離れているという意味ではなくて、人が子育ての最中に感じるほんの些細な不便や悩みをすくい上げて、子育て世代がお出かけに前向きになれる、そんな意外な喜びが感じられる設置先をご提案してくれるパートナーに出会いたいです。

Trim・長谷川氏 : 鉄道に例えると、Trimでは今後、mamaroという「駅」を日本全国に設置して、それをIoTという「線路」で繋げ、製品としての価値を高めていくつもりです。

今回の共創では、その「駅」の周辺に価値を付加してくださるパートナーにお会いしたいです。実際の鉄道の駅にも、施設や店舗、イベント開催など、様々な施策で魅力付けがされるように、mamaroも様々なパートナーの知見や技術を用いて、より魅力的な製品にしていきたいと考えています。


取材後記

考えれば考えるほど答えが出ない。そんな複雑な問題が社会には存在している。人口減少や少子高齢化はその代名詞と言っていいかもしれない。

こうした問題を前にして、人はしばしば「見ないフリ」をする。手に負えない難題に思慮を巡らす虚しさに行き当たり、自然と考えることから逃避してしまうのだろう。しかし、本当に重要なのは、仮に成功が約束されていなくても、その問題に向けた「第一歩」を踏み出すことにある。

今回の共創は、その「第一歩」と呼ぶにふさわしい。mamaroという社会インフラの普及を通じて、あらゆる子育ての課題が解決するとは限らない。しかし、その普及の先に描かれる将来像は魅力的であり、未来への期待を抱かせるのには十分な取り組みだといえるだろう。共創の今後に注目したい。


▲「DNP INNOVATION PORT CO-CREATION#2020」の詳細はコチラ

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:古林洋平)

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