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100万ドルの投資は誰の手に? 北欧テックイベント「TechBBQ 2022」注目ピッチの行方【後編】

100万ドルの投資は誰の手に? 北欧テックイベント「TechBBQ 2022」注目ピッチの行方【後編】

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2022年9月14日、15日に、デンマーク・コペンハーゲンで恒例のスタートアップイベント「TechBBQ 2022」が開催された。現地とオンラインのハイブリッド開催となった2021年に続き、2022年も同様のスタイルとなり、オンラインも含め約6,500名が参加した。2021年のレポートはこちらから。

世界の企業が取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第32弾では、「TechBBQ 2022」のレポート後編として、ハードウェアコンペの優勝企業「ARIS Robotics」のビジネスモデル、及びTechBBQで初開催となったピッチコンペティション「Meet The Drapers Pitching Competition」の様子をお届けしたい。シリコンバレーを拠点に世界中の企業に投資する投資会社 Draper Associatesが主催する同コンペでは、デンマークの成功しているスタートアップ4社が、5万ドル(約700万円)の賞金と100万ドル(1億5,000万円)の投資を賭けて競い合った。

※関連記事:「TechBBQ 2022」レポート前編 

※サムネイル写真提供:TechBBQ  

ハードウェアで優勝!廃棄物分別テクノロジー「ARIS Robotics」


▲デンマークではすでに新型コロナの規制が撤廃されており、マスク姿の参加者はほぼいない

TechBBQ 2022では、メインのピッチコンペティション「North Star Pitch Competition Finale」の他に、アーリーステージのハードウェア・スタートアップが75,000クローネ(約150万円)の賞金を競う「Final 6 Pitch - Playground for Hardware Startups」も開催された。

同コンペでは、出場した6社のうち、廃棄物を分別するテクノロジーを開発したARIS Roboticsが優勝を勝ち取った。同社が解決する課題は、リサイクルが可能にもかかわらず、分別しきれずに埋め立てられる廃棄物を削減すること。

その手法は、廃棄物分別の責任を“人”から“機械”に置き換えること。カメラで廃棄物を映し、先進的なディープラーニングがそれらを分別、その後、機械がピックアップする。


▲ARIS Roboticsのプレゼンテーションより

EUでは、2035年までに埋立予定の都市ゴミの量を、すべての都市ゴミ発生量の10%以下に抑えることを義務付けている。ARIS Roboticsでは、この達成を支援するソリューションとして廃棄物分別テクノロジーが役立つとアピール。同社では、ソリューションを特定の場所に設置、またはライセンスすることで利益を得ようとしているようだ。

グローバルの投資会社主催コンペが初開催!出場4社を紹介

TechBBQ 2022で特に注目されたのが、シリコンバレーを拠点に世界中の企業に投資する投資会社 Draper Associatesが主催したピッチコンペティション「Meet The Drapers Pitching Competition」だった。参加者はデンマークで成功している4社のスタートアップで、優勝すると5万ドルの賞金に加え、Draper社から100万ドルの投資が受けられる。

同ピッチの様子はDraper社のテレビプログラムで全世界に放送されたようで、出場者の気合が伝わってきた。本記事では出場した4社のビジネスモデルを紹介したい。

最大200kgを運べる産業用ドローン「AirFlight」


▲AirFlightのホームページより

2019年に創業したAirFlightは、最大重量200kgの荷物を運べるフライングクレーン(産業用ドローン)を開発している。最新製品のAF200は、電気モーターを使用しているため排気ガスが発生せず、最大高度2000mで、最長15分間の飛行ができるパワフルさを備える。バッテリーはテスラに搭載されているモデルと同様だ。

AirFlightのプレゼンテーションによれば、フライングクレーンの利用が期待されるのは、風力発電産業におけるメンテナンスだという。現状は、風力タービンをメンテナンスする際、時間とコストがかかり、CO2排出量が多い機械が主に使用されている。そこでフライングクレーンを活用することにより、1台あたり年間1000人の労働時間、最大180万ドル(約2億6,000万円)、1800トン以上のCO2排出量を削減できるという。


▲デンマークでは、いたるところで風力タービンを目にする(筆者撮影)

同社のビジネスモデルは、フライングクレーンの販売とサービス契約だ。モデルやオプションによって異なるが、1台40〜50万ドル(約6,000〜7,000万)で販売し、年間サービス契約も提供する。クライアントの手間がないよう、機材のメンテナンスも含めて請け負うようだ。現在は販売契約を締結していないが、業界との確固たるパイプラインはあると主張した。

風力発電は、中国、アメリカをはじめ、ヨーロッパでも広く導入されている。そのメンテナンスにおける市場規模は、302億ドル(約4兆3,700億円、2021年)にのぼり、2025年には527億ドル(約7兆6,300億円)に拡大する見込みだという。


▲ピッチに登壇したオーナー、兼チーフ セールス オフィサーのTravis James Mathers氏

風力発電産業をターゲットにしている理由は、フライングクレーンによって解決できるニーズが市場に存在し、規制の範囲内であるためだ。その他の産業でも、承認が得られれば進出を図るとTravis James Mathers氏は意気込みを話した。

バイアスを取り除くライティングソフトウェア「Develop Diverse」

2017年に創業したDevelop Diverseは、包括的なコミュニケーションを通じてチームの多様性を高めるためのライティングソフトウェアを提供する。


▲Develop Diverseのホームページより

主な機能は、文章中に隠れたバイアスのある言葉を検出し、包括的な代案を提案することだ。検出した言葉が、どんなグループの人たちに、どのような悪影響を与えるかを示すことで、どんな言葉に置き換えるべきかの指標になるという。同社のバイアス検出は、社会学や心理言語学の社内研究、及び科学論文に基づいている。

このツールには、機械学習と自然言語処理のテクノロジーが活用されている。ツールを使用することで、多様な人々を引きつける文章を作成することができ、採用などに役立つという。同時に、使用者が自らのバイアスに気づき、意識を改める教育的な役割もあるという。


▲ピッチに登壇した創業者、兼CEOのJenifer Clausell-Tormos 氏

2019年12月からサービスの提供を開始しており、現在、35ヵ国を超える国で750人以上のユーザーを持つ。デンマーク最大の銀行であるダンスケ銀行も同社のクライアントだ。サービス提供価格は公表されていないが、同社のプレゼンテーションによれば、70万ドル(約1億円)の年間経常収益があるという。

複数のモビリティシェアを1つのアプリで管理「Cogo」


▲Cogoの公式ホームページより

2020年にデンマークで創業したCogoは、複数のモビリティサービスを同時に管理できるアプリ「Cogo」を提供する。日本よりモビリティシェアが進むヨーロッパには、電動スクーター、電動キックボード、自転車、自動車を扱う複数のモビリティシェア企業が存在する。


▲筆者もフィンランド在住時に電動キックボードを利用していたが、各社のアプリをそれぞれダウンロードするのは手間だった(筆者撮影)

通常、ユーザーはそれぞれの企業のアプリをダウンロードする必要があるが、Cogoを使えば、世界中の250以上の事業者の価格を比較し、最適な車両を数秒で見つけられるという。ビジネスモデルはシンプルで、Cogoを通じた乗車に対して、各社は10〜20%のコミッションを支払う。

2022年2月には、中央ヨーロッパで類似事業を展開していたeScootを買収。これによりドイツ、フランス、イギリスなどの主要なヨーロッパ市場への拡大が進み、現在は700都市でサービスを提供している。2022年は60万人近いユーザーがCogoを利用する見込みで、そのうち58%がリピーターだと想定されている。


▲ピッチに登壇した創業者、兼CEOのRobin Eriksson氏

同社のプレゼンテーションによれば、ヨーロッパのシェアモビリティ市場は2022年現在700億ドル(約10兆円)で、2030年には2000億ドル(約29兆円)に達すると予測されている。世界の市場規模で見ると、2030年までに5,000億ドル(約72兆円)に達するとマッキンゼーが予測している。

自動車の損傷を自動検出するソフトウェア「FocalX」

2021年に創業したFocalXは、機械学習とAIを活用して、車の外部損傷を特定、分類、評価できるソフトウェアを開発する。


▲FocalXのプレゼンテーションスライドより

クライアントとなるのは、カーリースやレンタカー会社、自動車保険会社、自動車ディーラーなど。車の引き渡しにおいて、人の目でチェックしている自動車の損傷検査を自動化し、すべての支店や担当者で標準化されたサービスを提供するのに役立つという。自動車処理のプロセスを透明、かつ効率的に行えるというわけだ。

FocalXのソフトウェアを利用する際は、任意のデバイスを用いて、車体を360度キャプチャする。アップロードされた画像は最先端のアルゴリズムによって解析され、3分以内に車体や内装の損傷が文章で示される仕組みだ。前回の検査では検出しなかった新たな損傷が発見された場合は、強調して表示される。


▲FocalXのホームページより

例えば、レンタカー会社が利用する場合は、レンタル前後に同ソフトウェアを使用することで、簡単にレンタル中の損傷を発見できる。中古車販売店が利用する場合は、購入者に客観的な状態評価を示すことができる。

現在、FocalXのサービスはパイロット版が稼働しており、すでに利用を開始したいクライアントがいるという。2022年は10社のクライアントを獲得できる見込みで、デンマーク市場だけで推定の年間経常収益は10万ドル(約1,400万円)に達するそうだ。2023年にはフィンランドでもサービスを展開する予定だ。

優勝は、産業用ドローンの「AirFlight」

主催したDraper社のメンバーは、「どの企業もユニークなビジネスモデルで、登壇者は優秀な起業家だ」と褒め称えたうえで、産業用ドローンのAirFlightを優勝者に選んだ。

Draper社の創業者であり、世界的に知られる投資家のひとりであるTim Draper氏は、次のようにコメントした。

「AirFlightのソリューションは非常にクールであり、多くの用途があると思います。風力タービンのメンテナンスだけでは市場規模が小さすぎるのではないかと少し心配ですが、規制があるということで、まずは承認を得ることが先決です。市場ができた後は、競合が追いかけてくるので、どう差別化するかも重要です」


▲プレゼンテーションの合間に、ダンスや掛け声で会場を沸かせたTim Draper氏

AirFlightは、規制が厳しいなかで新たな市場を切り開こうとする野心が強く、風力発電業界での活躍にとどまらない将来の可能性が評価されたようだ。

初開催となった「Meet The Drapers Pitching Competition」は、グローバルの投資会社が選んだだけあり、4社とも見応えのあるプレゼンテーションだった。個人的には、来年以降のTechBBQでもぜひ開催してほしい。

写真提供:TechBBQ 

編集後記

優勝したAirFlightのような巨大ドローン産業を調べてみると、ノルウェーやアメリカなど複数企業が開発していた。サンフランシスコ拠点の「Elroy Air」は、空における貨物輸送に特化した垂直離着陸型ハイブリッドドローン「Chaparral」を開発中で、なんと重量230kgの荷物を運搬できるという。規制が厳しく、かつ空輸においては先行がいるなか、風力発電産業をいち早く狙った戦略が吉と出るのか。今後の動きが気になるところだ。

(取材・文:小林香織) 

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