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北欧発の注目テックイベント「TechBBQ 2023」レポ! 激変する時代に求められるスキルセット、イノベーションとは

北欧発の注目テックイベント「TechBBQ 2023」レポ! 激変する時代に求められるスキルセット、イノベーションとは

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デンマーク発のスタートアップイベント「TechBBQ」が2023年9月13・14日に、コペンハーゲンで現地開催された。今年は約7,500名の参加が見込まれ、スピーカーの51.8%が女性、またはノンバイナリー(性自認を男性、女性のどちらかの枠組みにも当てはまらない人)と例年よりも多様性に富んだプログラムとなった。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第47弾では、「TechBBQ 2023」から注目セッションと2つのピッチコンペティションをレポートする。現地参加が叶わずオンライン参加となったが、画面越しでもその熱は感じられた。

なお、本連載企画では2021年、2022年の「TechBBQ」レポートも掲載しているので、気になる方は、そちらもぜひ目を通してみてほしい。

※2021年のレポートはこちらから。2022年のレポートはこちらから。

サムネイル写真提供:TechBBQ

【注目セッション①】現代のリーダーシップのあり方

変化の激しい現代で、リーダーには何が求められるのか。当セッションに登壇したのは、1990年生まれ、アイスランド史上最年少で高等教育・科学・イノベーション省の女性大臣に任命されたのÁslaug Arna Sigurbjörnsdóttir氏(写真右から2番目)、スウェーデンのビジネス界でダイバーシティ&インクルージョンの第一人者として知られるBlack Batman社のCEO Aaron Kroon氏(左から2番目)、国際的なフィンテック・ユニコーンPleoの共同創業者、兼CEOのJeppe Rindom氏(右)の3名だ。

リーダーシップに関する最も著名な研究によれば、成功するリーダーは次の6つの行動をしているという。

①ロールモデルとして行動する

②将来のビジョンを共有する

③個人をサポートする

④グループの目標を推進する

⑤知的な刺激を与える

⑥パフォーマンスへの高い期待値を設定する

上記を踏まえた問いに対する3名の回答を抜粋して紹介する。

ーーロールモデルとしてどのように振る舞うか?

<Aaron Kroon氏の答え>

本来の自分でいること。私は有色人種であり、ゲイのパーソナリティを持つリーダーだ。それを言い訳にしたことは一度もない。むしろそれを祝福してきた。自分の価値観に忠実でいることで、他の人々が私の後に続くことができると思う。

▲Aaron Kroon氏

<Áslaug Arna Sigurbjörnsdóttir氏の答え>

ロールモデルには「完璧でなければならない」といったイメージがあるが、私はそれに同意しない。「政治家や大臣はこうあるべき」といった枠にはまろうとせず、完璧な人間に見せることもしない。常に自分らしくいる必要がある。

▲Áslaug Arna Sigurbjörnsdóttir氏

ーーどのように個人をサポートするのか?

<Aaron Kroon氏の答え>

従業員や組織をよく知ることだ。私は毎朝キッチンに座って仕事をしながら、従業員と話をする。組織や個人の雰囲気や希望、不安を知るためだ。予算や販売目標、KPIについて話すだけでは不十分であり、彼らの人生そのものについて話し合える関係を作る必要がある。

また、リーダーシップはシーンに応じて柔軟に適応させるべきだ。そばにいて正しい方向に導くために詳細なフィードバックをする時もあれば、彼らに裁量を持たせて観察したり、応援したりする時もある。

ーー高い期待値の設定により、実際にパフォーマンスが向上するという研究がある。ただ、高すぎることによる悪影響がありえるか?

<Jeppe Rindom氏の答え>

私の考えでは、失敗やストレスの本質的な原因は、目標が野心的すぎることではないと思う。期待される目標に対して、予想するターゲットがいて利用可能なツールがおおよそあるかが重要だ。最善の方法で進めることができれば、結果が100%に満たなくてもストレスを感じづらい。ストレスを感じるのは、混乱により進むべき道や物事の感覚を見失った場合だと思う。

▲Jeppe Rindom氏

<Áslaug Arna Sigurbjörnsdóttir氏の答え>

たとえ目標どおりに進まなくとも、人生やすべてにおいて常に期待を高く持つのはいいことだと思う。失敗や過ちもまた必要であると受け止め、失敗を恐れず、勇気をもって失敗したほうがいい。

【注目セッション②】テクノロジーと進化による働き方の未来

続いてのテーマは、「急速なテクノロジーの進化を受けて、私たちの働き方がどう変わるのか」。登壇したのは、2社のIoTスタートアップを成功させた経験があるnCentの創業者、兼CEOのJim Hunter氏(写真右から2番目)、テクノロジーに重点を置き15年以上に渡ってビジネスの成長と組織開発に携わるHumaniのCEO Anders Mayntzhusen氏(右)、Copenhagen Institute for Futures Studies(コペンハーゲン未来研究所)のCEO Daria Krivonos氏(左から2番目)の3名だ。

ここでは、3名の回答を織り交ぜた総合的な見解を紹介したい。セッション内で強調されたのは、「将来、個人が競争力を持つために、どんなスキルを持つべきか」という問いへの答えだった。

それは物事を前に進めるためのコミュニケーション能力であり、人間性を磨くことに焦点を当てるべきだ。良いコミュニケーションは良いコラボレーションにつながる。かつ、精神的な柔軟性を持たなければならない。変化に対して恐怖心を抱くのではなく、好奇心を持って探求する必要がある。

▲「ビジネスのみならず、人生も良いコミュニケーションが物事を進めるカギとなる」とAnders Mayntzhusen氏は強調した(TechBBQ提供)

テクノロジーの進化が法律を追い越している今、開発者は倫理感と想像力を高めなければならない。サービスやプロダクトは最善の意図を念頭に置いて開発されるが、他の意図で利用する人がいるかもしれない。倫理を守る人だけではない前提で、安全対策が求められる。同時に、法律も進化に沿って柔軟に変わっていくべきだ。

未来に備えて競争力を高める必要はあるが、今をもっとも大事に考えることも重要だ。過去に生きれば後悔し、未来に生きれば不安や恐れを抱く。未来を心配するあまり、もっとも大事な今を見失わないでほしい。

目玉プログラム「ピッチコンペ」の優勝者は?

最後に、毎年恒例となっているスター発掘を目的としたピッチコンペティション「North Star Pitch Competition Finale」とハードウェアスタートアップのコンペティション「Playground for Hardware Startups」の結果に触れたい。TechBBQのHead of PR & Communicationsを務めるKeyvan Thomsen Bamdej氏は、TechBBQで複数のコンペを主催する意義をこう話した。

▲TechBBQ 2023でのプレゼンテーションの様子(TechBBQ提供)

「北欧、及びバルト三国の未来のスターである革新的な起業家たちを紹介するには、TechBBQのような大規模サミットで、彼らをセンターステージに上げ、聴衆に発言させることが重要です。私たちは、彼らが成功するために必要な注目を集めたい。ピッチコンテストやプログラム、ワークショップをより多く開催できれば、起業家にとって、ひいては社会にとって、より良い結果をもたらすことになる。起業家は、私たち全員にとってより良い明日を形作る上で大きな役割を担っています。毎年恒例のイベントとなったTechBBQの国際的なプラットフォームを通じて彼らを紹介することが、私たちの崇高な義務だと感じています」

ハードウェアスタートアップの優勝者は、次世代高速トランシーバを開発するPhanofi

6社が登壇した「Playground for Hardware Startups」の優勝者は、次世代高速トランシーバを提供するデンマーク発のPhanofiだ。トランシーバとは、データや信号の送受信機​を指す。

▲Phanofiのプレゼンテーションスライドより

Phanofiでは、シームレスなデータセンター内通信を実現するエネルギー効率の高い高速データセンター内インターコネクトを開発している。同社のアプローチはシステムを合理化し、高価なデジタル信号処理と高精度アナログ・デジタル変換器を不要にすることで、コヒーレント技術(※)を利用しやすくすることを中心に据えている。

※コヒーレント技術・・・光の強度だけでなく、波としての性質を利用することで、長距離・大容量伝送を効率的に実現すること(NECの公式ホームページより)

同社のプロダクトを活用することにより、消費電力の点で 40% 効率を高めることができるという。創立者の2名はデンマーク工科大学で博士研究員をしていた2020年に技術開発をスタート、その後、発明された技術は特許を取得している。製品の市場投入には道のりが長く、2026年に最初のクライアントとの大規模テストを開始予定だ。

ノーススターピッチの優勝者は、不発弾・地雷の検出を容易にするDropla Tech

▲満面の笑みで優勝を喜ぶDropla Techの創業者、兼CEOのV`yacheslav Shvaydak氏(TechBBQ提供)

北欧、及びバルト三国のスターを発掘する「North Star Pitch Competition Finale」では、10社が登壇し、ウクライナ発のDropla Techが優勝した。紛争地域でより効果的に地雷を除去できる新しいセンサー技術の開発を進めており、特に創業者の出身地であるウクライナに焦点を当てている。

▲Dropla Techのプレゼンテーションスライドより

同社が開発中のドローンは、磁力計、地中レーダー、ハイパースペクトルカメラを含むハイエンドのリモートセンサーを備え、センサー入力から不発弾と地雷の兆候を検出するために訓練されたAIと機械学習モデルによって、不発弾・地雷の検出を実現するとしている。現時点では、さらなる技術研究が必要であり、ピッチで得た資金は研究開発に当てられるそうだ。

編集後記

2021年からTechBBQを追いかけている筆者は、その進化や主催者の意図をひしひしと感じる。トークセッションの登壇者やテーマは年々多様になり、ピッチコンペでは時代を象徴するようなスタートアップが選ばれている。優勝企業は技術力が高く視点がユニーク、かつ社会貢献性が高い、まさに今やるべき事業ではないかと感じた。来年は現地参加しなければ、と強く思った。

(取材・文:小林香織


シリーズ

Global Innovation Seeds

世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。