北欧最大級のサスティナブルイベント「SDG tech awards 2021」優勝した13社とは【前編】
持続可能性の追求やSDGsの推進において評価が高い企業、団体、大学等を表彰する北欧最大のサスティナブルイベント「SDG tech awards 2021」が、11月10日にコペンハーゲンで開催された。
2019年から開催されている同イベントは、サスティナブルな社会構築を目指すデンマークのNPO団体「Sustainary」などが主催しており、今年で3回目。「循環経済」「持続可能な都市」「エネルギー」など13の部門において、600以上のエントリーの中から各部門の優勝者が発表され、その様子はオンラインでも中継された。
▲「SDG tech awards 2021」の会場の様子
世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第11弾では、優勝した13の企業やサービスのビジネスモデルを前後編のレポート記事としてお届けしたい。世界的に持続可能性の高さが評価されるデンマークで誕生したユニークな企業がランクインしており、今後の活躍が期待される。
「サーキュラー・エコノミー」部門「ege」
▲「ege」のHPより
デンマークの企業「ege」は、海洋プラスチックを使った独自のカーペットを販売している。公式HPには、あらゆる内装にマッチしそうなシンプルなものから、個性を演出するアンティークなテキスタイルまで、さまざまなカーペットが並ぶ。
革新的な製造技術により、使用済みペットボトルはまずプラスチックフレークに変換され、次にやわらかい繊維に変換されるという。そうして、できあがるのは特許取得済のフェルト製の裏地素材「Ecotrust(エコトラスト)」。同素材はやわらかすぎず、足元の快適な感触を作り出すそうだ。
エコトラストは、同社のすべてのカーペットに使用されており、2020年5月〜2021年4月までの間で、海洋プラスチックから作られた裏地は767トン、カーペットに使用されたペットボトルの数は4750万になる。
さらに同社では、破棄された漁網、使用済のカーペットといった産業廃棄物を用いて糸をつくり、それをカーペットに再利用する取り組みも。まさに受賞したカテゴリー「サーキュラー・エコノミー(循環経済)」の視点を取り入れたビジネスモデルといえる。
「持続可能な都市」部門「Aguardio」
▲「Aguardio」のHPより
デンマークの企業「Aguardio」は、シャワーを浴びる際に人々に節水の意識を促すソリューションを提供する。小型のデバイスをシャワーの近くに取り付け、タイマーを作動させてシャワーを浴びることにより、日々の使用水量がスマートフォンで把握できる。
このデバイスを導入した住宅やホテルの多くで、実際に節水につながっているという。イギリスのクランフィールド大学のキャンパスの居住者を対象とした調査では、時間を表示することにより使用時間が平均で約20〜30%短くなることがわかったそうだ。これは約2分の節約となる。
使用は非常に簡単で、浴室内にデバイスを取り付けるだけ。NB-IoT / LTE-Mワイヤレステクノロジーを使用しているため、Wi-Fiにつなげる必要はなく、デバイスに表示されるQRコードをスマートフォンで読み取ると水量のデータが表示される。カビが生える可能性があるときに知らせてくれる機能も。
また、トイレの水漏れを早期に検知するセンサーも発売する。同社のHPによれば、イギリスでは約5〜8%のトイレが水漏れを起こしており、水のムダや水道代の請求額の上昇につながっているという。トイレの給水口に取り付けると、水漏れを検知したときに、通知音が鳴る仕組みだ。
同社は、水道事業者、住宅組合、ホテルなどをターゲットにしたBtoBモデルで、一般販売はしていないようだ。
「食品とアグリテック」部門「HYDRACT」
▲「HYDRACT」のHPより
デンマークの企業「HYDRACT」は、米国、中国、日本、EUで特許取得済みの水圧アクチュエータ技術を用いたプロセスバルブを提供している。JIS(日本産業規格)の「バルブ用語」規格によると、バルブとは「流体を通したり、止めたり、制御したりするため、流路を開閉することができる可動機構をもつ機器の総称」とされている。
同社のプロセスバルブは、飲料の製造過程において設備や原材料をより有効に活用し、より安定した製品品質を実現するのが目的だ。完全にデジタル化された仕組みを持ち、プログラム可能なため、速度などのカスタマイズが可能とのこと。プロセスの機能性を高め、生産ラインで最大限の運用の柔軟性と拡張性を得ることで、製品の差別化や電力消費量の削減を実現するそうだ。
デンマークのビール製造メーカー・カールスバーグでは、過去10年間、HYDRACTのバルブ開発に密接に関わっている。カールスバーグは、2016年からデンマークのフレデリシアにある醸造所にHYDRACTのプロセスバルブを導入。
圧縮空気の代わりに水圧を動力源とするバルブ技術により、電力消費量を90%以上削減することに成功している。さらに廃棄物や水の使用量も減り、最大30%の化学薬品の使用や洗浄コストも削減するという。カールスバーグの醸造ディレクターは、「HYDRACTは、将来のビール生産の方法を根本的に変えるものだ」とコメントしている。
「エネルギー」部門「Wavepiston」
▲「Wavepiston」のHPより
デンマークの企業「Wavepiston」は、欧州連合から資金提供を受け、次世代の再生可能エネルギーとして期待される「波力エネルギー」を研究している。軽量で柔軟な設計のエネルギーコレクターのプロトタイプを用いた実証実験は2015年から2019年まで実施され、何度か開発を繰り返して、エネルギー生産量と耐久性を向上させているという。同社が目指すのは、2023年までに最初の商業プロジェクトを開始することだ。
波力エネルギーは、洗練された風のエネルギーであり、嵐が何日も海に影響を与えた場合、それは最大で1MW/mの波幅になるそうだ。同社では、「波力エネルギーは、現在の電力消費量の約50%をカバーできる」と見積もっている。また、同社の技術を用いることでエネルギー利用だけでなく、海水を飲料水に変えることもできるという。
上記の動画がわかりやすいが、複数のエネルギーコレクターが波の動きによって押したり引いたりするウェイブピストンシステムが、同社の技術の肝になるようだ。このシステムは特許を取得している。これを用いて陸上にある淡水化システムに海水が運ばれ、エネルギーと飲料水に変わるという。
動画内では、「一連のシステムは全世界どこにでも持ち運んで設置できる」ことにも言及されており、将来的にグローバルな展開が期待される。
「消費財」部門「LastObject」
▲「LastObject」のHPより
デンマークの企業「LastObject」は、「ごみをゼロにすること」を目標とするゼロ・ウェイストをビジョンに、繰り返し使える「綿棒」「コットン」「ティッシュ」などを販売する。
例えば綿棒は、専用のケースが付属して1本で11,25ユーロ(約1,500円)。使用後は石けん等を使って水洗いでき、約1000回再利用できるという。ケースはリサイクルされた海洋生物由来のプラスチックを使用している。
コットンは、プラスチックケースに7枚が収納され13,25ユーロ(約1,700円)で発売。1パックで1750回以上利用できる。ボックス型のティッシュは、18枚のティッシュと専用ボックスで44,25ユーロ(約5,700円)。1枚最大520回まで洗浄でき、1箱で 9,300枚の使い捨てティッシュと置き換えることができるそう。コットンとティッシュは洗濯機の利用も可能で、ティッシュボックスは食洗機でも洗える。
「使い捨てるもの」という商品の概念をくつがえすユニークな商品であり、ティッシュはクラウドファンディングKickstarterで約53万ドル(約6,050万円)の反響があったそうだ。公式サイトを通じて全世界で販売しており、日本で注目される可能性もありそうだ。
「デジタルソリューション」部門「Agroclimatica」
▲「Agroclimatica」のHPより
「Agroclimatica」は、デンマークの企業「Ingemann Data A/S」が開発した生物気候データプラットフォームだ。気候、土、作物、家畜、生産性の科学データに基づいて、リスクスコアを提供するという。
同社では、長期的に持続可能な金融包摂(きんゆうほうせつ)と気候変動に対応した農業をグローバルに推進することをミッションとしている。金融包摂とは、ファイナンシャル・インクルージョンとも呼ばれ、経済活動に必要な金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組みを指す。
同社のクライアントは、金融機関、中小企業、保険業界、政府、NGO、農産業など。農業気候リスクスコアとデータを活用した新商品の設計、気候変動対策の策定、収穫の予測、コスト削減などをサポートするという。
「Agroclimatic」のスコアは、コンサルタントによって現地で検証され、92%の認識精度を示しているそうだ。また、業界の専門家の91%は、「Agroclimaticを通じてより多くの情報を得ることで、自信を持って意思決定ができる」と評価している。現在、3大陸の8か国で事業を展開している。
「リサーチ」部門「NatuRem Bioscience」
▲「NatuRem Bioscience」のHPより
デンマークの企業「NatuRem Bioscience」は、優れた栄養価と品質を備えた、持続可能で手頃な価格の微細藻類ベースの食品を開発している。
海中などに生息する植物プランクトンである微細藻類は、豊富なタンパク質とオメガ3脂肪酸に加え、さまざまなビタミンやミネラルも含んでおり、タンパク質源として大豆やエンドウ豆よりもすぐれているという。
また、微細藻類をベースにした食品は最小限の炭素排出量で生産でき、実質的に農地を使用しない。水消費量も最小限であり、農薬も必要ないために、持続可能なたんぱく質源として期待されている。
現在、「NatuRem Bioscience」を中心に、コペンハーゲン大学など複数の機関や企業が参加するプロジェクトとして、開発が行われている。同プロジェクトは、デンマークの食品イノベーションから75万クローネ(約1,300万円)の助成金を受け、食品業界で利用しやすい粉末タイプの開発を見込んでいる。
「SDG tech awards 2021」後編では、残りの6部門の優勝者を発表する。
写真提供:Sustainary
編集後記
2021年のSDGs達成度ランキングでは、1位がフィンランド、2位がスウェーデン、3位がデンマークだった。上位3カ国は非常に僅差であり、どの国もSDGs推進への本気度が高い。現状はまだ規模が小さい「SDG tech awards」だが、将来的に日本での開催もありえるような気がする。個人的には波力エネルギーを開発する「Wavepiston」と使い捨てないティッシュやコットンを販売する「LastObject」が気になった。これを機に、使い捨てないティッシュを購入してみようかと思う。
(取材・文:小林香織)