
オープンイノベーションプログラム 『OKINAWA Co-Creation Lab.2024』 成果発表会をレポート! ―― 沖縄県内企業×全国のパートナー企業が挑む10の共創プロジェクトとは? ――
沖縄県は2024年度から、県内企業と全国の最先端技術・サービスを持つ企業が連携し、新たなビジネス創出を支援するオープンイノベーションプログラム『OKINAWA Co-Creation Lab.』を開始した。今年度は、10のプロジェクトがビジネス創出に取り組んでおり、その成果を発表するイベントが3月12日に沖縄県教職員共済会館八汐荘屋良ホール(那覇市)で開催された。
このプログラムには、「補助事業」と「協働・共創事業」の2つの事業があり、県内企業を含む2社がチームを組んで新規事業創出に挑戦し、補助金を得ながら進めていく補助事業と県内企業が掲げたテーマをもとに全国からパートナーを募り、マッチング後に共創事業を構築する協働・共創事業となっている。
今年度は、2事業で各5プロジェクトが採択され、全10プロジェクトが共創事業の立ち上げに向けてスタートを切った。
3月12日の成果発表イベントでは、各プロジェクトの現時点での成果が発表された。この記事では、全10チームのピッチ内容や沖縄県内企業によるトークセッションの様子を写真とともに紹介する。

【開会の挨拶】 「イノベーションで新たな付加価値を生み出す成長の仕方が、沖縄には適している」(沖縄県庁・宮国氏)
プログラムの冒頭では、主催者である沖縄県庁の宮国氏が登壇し、開会の挨拶を行った。
宮国氏は、沖縄は市場規模が小さく、既存事業の延長線上の改善だけでは大手企業との競争が難しいと指摘。
こうした環境にある沖縄では「イノベーションで新たな付加価値を生み出すような成長の仕方が適している」との考えを示した。
そして、今回のオープンイノベーションプログラムでは、「どんな形で成果が生まれているのか、楽しく聞かせていただきたい」と述べ、続く10プロジェクトのピッチに期待を寄せた。

▲沖縄県 商工労働部 ITイノベーション推進課 課長 宮国順英 氏
【CO-CREATION PITCH(補助事業)】
タッグを組んで応募し、資金を得て社会実装に挑戦した5チームが登壇!
――CO-CREATION PITCHの前半では、「補助事業」に採択された5チームが登壇し、プログラムの成果を来場者に向けて発表した。各チームが取り組む新規事業について、ピッチ順に紹介していく。
●株式会社Tsumoru × MOTTAINAI BATON株式会社
発表タイトル:多国籍児童への食を通じた体験型コンテンツの創造

Tsumoruは多国籍の子どもたちに教育プログラムを提供し、MOTTAINAI BATONはフードロスを減らすアップサイクルカレーを手がけている。両社は2日間の子ども向け体験型プログラム『KIDS CURRY STAND』を開催し、多国籍の子どもたちに食品ロス、農業、パッケージデザイン、販売を実践的に学べる機会を提供した。
プログラム1日目は、フードロスや生産者の思いを学んだ後、カレーのパッケージを制作。2日目には「うるマルシェ」で集客や販売の体験を行った。これにより子どもたちの学習意欲が高まり、地域とのつながりも深まった。保護者からも好意的な声が寄せられ、子どもたちや家族、地域のつながりが深まる機会となったそうだ。
今後は、県内の企業とのコラボやプログラムコンテンツとしての導入などを視野に入れながら、ビジネスモデルを確立していく予定だ。
●NO MARK株式会社 × 琉球朝日放送株式会社
発表タイトル:人々の心を動かして、社会課題を解決する―ミッション型 地域探究 動画学習

学校教育では「社会とつながる学び」の重要性が高まっているが、教員の多忙や社会との接点不足により、十分に取り組めていないのが現状だ。一方、デジタル学習市場は成長を続け、デジタル教材への需要が高まっている。こうした背景のもと、NO MARKが開発したのが、動画学習プラットフォーム『MY HERO』だ。
『MY HERO』は、学生が理想の大人像を見つけ、それに向かって行動を起こすきっかけを提供することを目指している。プログラム期間中には、琉球朝日放送と協力し、「首里城の復興」をテーマにした学習動画を制作。人に焦点を当てたストーリー仕立ての動画で、探究学習を深められるよう、学びのポイントをまとめたワークノートも用意した。今後は学校への導入を進め、事業化を目指していく。
●株式会社宮古自動車学校 × 株式会社TENT
発表タイトル:宮古島観光客向けレンタル事業―サステナブルツーリズムの実現に向けて

古島市で自動車学校を運営する宮古自動車学校と、シェアリングサービスを手がけるTENTは、観光客向けのレンタル事業を立ち上げた。このサービスでは、観光客が事前にWebで予約したアイテムを現地で受け取り、使用後に返却するシンプルな仕組みを採用している。メインのターゲットは10代~40代の女性。ピクニックセットや美容家電、カメラなど、旅行をより楽しめるアイテムをラインナップした。
SNSを活用したマーケティングを進めており、近日中にサービスをリリース予定。将来的には、観光客だけでなく、移住者や地元住民向けの展開も視野に入れている。さらに、宮古島にとどまらず、沖縄本島などへの拡大も検討。島内企業の商品を観光客に試してもらう機会としても活用していきたい考えだ。
●やえやま環境開発株式会社 × 株式会社JOYCLE
発表タイトル:ごみをデータとAIの力で「運ばず、燃やさず、資源化する」―分散・可搬型IoTアップサイクル実証事業

※本チームはオンラインでのピッチとなった。
人口減少に伴い、ごみ焼却炉の維持が難しくなり、閉鎖が増えている。焼却炉がなくなると、ごみを遠方へ運ぶ必要があるが、運搬コストの高さが課題だ。こうした問題に取り組むのが、石垣島で自動車リサイクルや産業廃棄物処理事業を展開しているやえやま環境開発と「運ばず、燃やさず、資源化」を実現する小型リサイクル装置を開発するJOYCLE。
今回は両社で、大規模な焼却施設で燃やす場合と、JOYCLEの小型装置で燃やす場合のESG効果を、九州大学の協力のもとで調査した。その結果、小型装置のほうが、大幅にESG効果が高いことが分かった。現在、やえやま環境開発に小型装置の導入を進めており、近日中に本格稼働予定だ。この装置は、液体・金属を除く燃えるごみを処理し、灰や炭に変えられる点が特徴。今後、病院や海外リゾートへの導入も狙っていく計画だ。
●琉球放送株式会社 × 株式会社JCクリエイティヴ
発表タイトル:"南北連携"で低利用の県産魚を全国区の「商品」へ

沖縄の放送局である琉球放送は、北海道の通販大手JCクリエイティヴと連携し、沖縄特産品の販路拡大に取り組んだ。今回のプログラムで注目したのは、沖縄県産魚で低利用の「トビイカ」だ。この県産魚の評価をJCクリエイティヴに依頼したところ、独特の渋みが課題として浮かび上がった。そこで、老舗の干物屋の力を借りて、渋みを抑える加工を施した。
完成した「トビイカ」は、全国に300万人の会員を持つJCクリエイティヴの通販サイトでテスト販売を行った。Webサイトや動画を活用し、全国向けにプロモーションを展開。その結果、売れ行きは順調で、「美味しい」との評価も得られたそうだ。今後は購入者のフィードバックをもとに、さらなる改良を進めていく方針だ。
【CO-CREATION PITCH(協働・共創事業)】
県内企業5社がテーマを発信し、応募企業と共に新たな事業創出へ!
――CO-CREATION PITCHの後半では、「協働・共創事業」に採択された5チームが登壇し、プログラム期間中に進めた構想や実行したプロジェクトの内容を紹介する。
●株式会社沖縄タイムス社 × 株式会社ファミワン
発表タイトル:メディアの発信力を生かし、女性が安心して働ける環境づくりの共同推進

沖縄タイムス社が2022年に実施したアンケートによると、「生理トラブルがあっても我慢する」という回答が最も多く、多くの女性が職場での理解不足を感じていることが明らかになった。そこで、女性の健康サポートを軸にさまざまなサービスを展開するファミワンとともに、女性活躍推進の企業文化醸成に向けた共創を開始した。
沖縄タイムス社は、メディア発信やイベント企画、コミュニティ形成など、自社の強みを活かした取り組みを進める。一方、ファミワンは、オンライン相談窓口やセミナーなどのサービスを提供できる。プログラム期間中には、沖縄県内の企業を中心に、全国の働く男女に対して、女性の健康課題に関するアンケートを実施。その結果、83%が職場で女性特有の健康課題に悩んだ経験があると回答した。また、女性の健康課題に対して企業などが対策をとらなかった場合の経済損失が沖縄は335億円にのぼるとの試算も示し、女性が働きやすい環境整備の必要性を指摘した。これらの課題を踏まえ、今後は企業向けのセミナーやサービスを展開していく予定だ。
●株式会社SOONESS × ユカイ工学株式会社
発表タイトル:ロボットを活用した遠隔コンシェルジュで、沖縄県から世界をユカイに

障がい者の就労支援を行うSOONESSと、コミュニケーションロボットを開発するユカイ工学は、高齢者の孤独・孤立を解消するサービスを考案した。日本では高齢化が進み、孤独死が増加傾向にある。プログラム期間中のインタビューでは、「県営住宅でも孤独死が発生している」「リスク回避のため高齢者の入居審査が厳しくなっている」といった現状が明らかになった。また、デイサービス関係者からは「夕食時に寂しさを感じる高齢者が多い」という声も聞かれた。
そこで提案するのが、コミュニケーションロボットと障がい者による遠隔コンシェルジュサービスだ。高齢者の自宅にロボットを置き、SOONESSのスタッフ(障がい者等)がそのロボットを通じて日々のあいさつをしたり、一人の夕食時に高齢者どうしがロボットを通じて雑談できるようにつなぐサービスなどを検討している。この仕組みの提供を通じ、高齢者には困りごとの解決、障がい者には働く機会の創出といった価値を届けていきたいとした。
●株式会社トータルライフサポート研究所 × 株式会社Rehab for JAPAN
発表タイトル:オンライン・AIを活用した新たな「フレイル予防インフラ」の実現

沖縄県で介護付き有料老人ホームを中心とした総合介護事業を展開するトータルライフサポート研究所はRehab for JAPANの「オンラインリハビリシステム」を活用し、タブレットを使った双方向の運動教室を開催した。健康寿命と平均寿命の差、つまり日常生活に制限のある「不健康な期間」が、全国平均で男性8年6カ月、女性11年6カ月に上ることに着目したこのチームは、高齢者の健康維持の重要性を指摘。沖縄県は顕著に高齢者の人口比率の増加が見込まれ、先進的に新フレイル予防に取り組む重要性を表明した。特に離島などの過疎地域では専門職が不足していることが問題となっている。
プログラム期間中には、公民館の大型スクリーンを活用した集団教室や、自宅で参加できる個別教室が実施され、参加者からは「意欲的に取り組めた」という声が寄せられた。オンラインの活用により、専門職が少ない地域でも運動教室を開設できることが確認された。今後は、実証実験を重ねることで、人材不足やコンテンツの質の維持向上などの課題解決と、運動に加え、食事や趣味も含めた総合的な健康支援を行い、デジタル社会に沿ったフレイルの予防に取り組んでいく考えだ。
●株式会社福地組 × FUN SPIRITS株式会社
発表タイトル:NAHA Mystery WORLD

創業72年のゼネコンである福地組と、エンターテイメントや街おこしをテーマに活動するFUN SPIRITSは、沖縄を舞台にした街歩き型の謎解きコンテンツを企画した。プレイヤーは観光スポットや商店街、歴史的建造物を巡りながら謎を解き、地域の人々と交流しながら沖縄の魅力を体験する。ゴールでは、地域の特産品がプレゼントされる仕組みも取り入れる。
この「謎解き」は2025年5月からスタート予定で、年間2,000組の参加を目標にしている。また、クーポン配布を通じた経済効果の検証も行う予定だ。本企画を、単発のイベントで終わらせることなく、街づくりコンテンツとして定着させ、ゲームを通じたエリアのブランディングという新しい地域開発モデルを創出していきたいと展望を述べた。
●琉球朝日放送株式会社 × SUSHI TOP MARKETING株式会社
発表タイトル:沖縄をNFTアイランドへ―QAB 30周年記念NFTをテレビで配布

琉球朝日放送(QAB)とSUSHI TOP MARKETINGは、NFTを活用した新たなテレビビジネスの可能性を探った。QABの開局30周年を記念し、テレビとリアル(展示会場)の双方でNFTを配布する取り組みを行った。テレビでは情報番組内で展示会を紹介し、QRコードを通じてNFTを配布。展示会場でも来場者向けにNFTを提供し、さらに、テレビで取得したNFTが、会場で2つ目を入手することで変化する仕掛けも設けた。
その結果、テレビ経由で約180名、展示会場では約2,000名がNFTを取得。52名がNFTの変化を体験し、テレビから実店舗への送客を可視化できることが確認された。今後は、この手法を活用し、NFTを通じた新たなテレビ広告の形を模索するとともに、全国の系列局への展開を視野に入れている。
【SPECIAL TALK SESSION】 沖縄県内企業が語る 新規事業創出のリアル
このセッションでは、沖縄県内で新規事業に挑戦する4名が登壇。なぜ挑戦し、何を感じたのか、地域の原動力となる新規事業がどのように生まれるのかを、それぞれの実体験をもとに語った。

<登壇者>
・仲田佳史 氏(株式会社沖縄タイムス社 総務局 企画経理部)※協働・共創事業
・福地一仁 氏(株式会社福地組 代表取締役社長)※協働・共創事業
・赤嶺謙一郎 氏(NO MARK株式会社 代表)※補助事業
・潮平菜津美 氏(株式会社Tsumoru 代表取締役)※補助事業
●異業種との出会いが生んだ新たな視点
福地組の福地氏は、このプログラムで得た学びについて尋ねられ、「謎解きクリエイターの人たちと新規事業に取り組むことになるとは、想像もしていなかった」と語る。「この出会い自体が大きな財産となった」と振り返り、「全く異なる分野で、考え方や共通言語、文化も異なる。(そうした人たちから見て)私たちのビジネスが、こうした見方をされるのかという新たな気づきがあった」と続けた。
●教育事業のマネタイズの難しさと新たな可能性
教育事業におけるマネタイズの難しさについて尋ねられたTsumoruの潮平氏は、外国籍の子どもを対象とした日本語教室で収益化に成功していたが、日本人の子どもとの交流の重要性を感じていたという。しかし、日本人の保護者は「オールイングリッシュ」のイベントを希望しており、ミスマッチが生じていた。
今回のプログラムでは、言語習得ではなく「フードロスや商品企画、販売といった体験」に焦点を当てたことで、さまざまな国籍の子どもたちが交流しながら学べる機会が生まれた。結果、保護者の満足度も高まり、企業からのスポンサー収益の可能性も見えてきたことを明かした。
●他社との連携が生むプレッシャーとモチベーション
プログラムを終えてみての感想を尋ねられたNO MARKの赤嶺氏は、「こういう場を作っていただき、そこで良い出会いがあった」と感謝を述べ、「自分たちのやりたいことが、他社との連携を通じて形になっていく中で、良いプレッシャーとモチベーションが生まれた」と発言。そして、「一つのものを作り上げようという気持ちが高まり、スピード感が生まれた」と振り返った。
●1つのテーマから広がる多様な視点とアイデア
沖縄タイムス社の仲田氏は、「今回、『OKINAWA Co-Creation Lab.』に参加することで19社から提案をいただいたが、どれも面白い魅力的なものだった」と話す。「女性の健康課題というテーマを掲げたことで、さまざまな切り口の提案が集まり、それらに触れられる点が、この事業の大きな特徴だと思う」と語った。さらに、選ばれなかった提案の中にも面白いビジネスアイデアが多く、非常に良い経験になったと伝えた。
【コメンテーター講評】 「今後の進め方を話し合いながら、次のステップへ進んでほしい」
すべてのピッチとセッションが終了した後、コメンテーター4名による講評が行われた。岡氏は、「一過性のプロジェクトや沖縄県内で終わってしまうのは勿体ないので、その先のスケーラビリティや収益性、継続性を突き詰められるとよい」と述べ、さらに「来年度も楽しみにしている」と伝えた。

▲岡洋 氏(Spiral Innovation Partners株式会社 General Partner)
鈴木氏は、「成果発表会をゴールに走ってこられたと思うが、ここからは、お互いが見ているところの違いを再確認しながら進めていくことが必要だ」と述べ、「この先どこに進んでいくのかを話し合いながら、次のステップに進んでほしい」と語った。

▲鈴木圭三 氏(内閣府沖縄総合事務局 経済産業部 地域経済課 産業政策係長)
羽賀氏は、県内外からさまざまな企業の人たちが集まったことに触れ、「これから自分のキャリアをどうしようかと考えている学生たちに、今日のような場を見てもらうと、今後の進路を選ぶ際の参考になると思う。次回は学生をたくさん連れてきたい」と話した。

▲羽賀史浩 氏(琉球大学 研究推進機構共創拠点運営部門 副部門長 SDGs推進室(兼任)特命教授 博士)
最後に、村田氏は「皆さんが作り出す温かな空気が大好きなので、引き続き共に進んでいきたい。沖縄の未来を作るために、オープンイノベーションを一緒に広めていけることを嬉しく思う」と語り、成果発表会を締めくくった。

▲村田 宗一郎氏(株式会社eiicon 常務執行役員 CHRO 地域創生・イノベーション創出支援事業本部 管掌役員)
取材後記
初開催となった『OKINAWA Co-Creation Lab.』の成果発表イベントでは、沖縄県内企業の成長を目指した新たな取り組みが幅広く紹介された。観光だけでなく、教育、廃棄物処理、健康、高齢化といった多様な社会課題に対するソリューションが提案され、その内容は非常に注目に値するものだった。今後の展開から目が離せない。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)