農業・防災・環境素材――クルマづくりのシーズで社会課題解決に挑む。トヨタ車体が初の共創プログラムを始動する理由とは?
「アルファード」や「ノア」といったミニバン、「ハイエース」などの商用車、「ランドクルーザー」などのSUV、さらに福祉車両や特装車、超小型電気自動車「コムス」などを世に送り出してきたトヨタ車体。愛知県刈谷市に本社を構える完成車両メーカーとして、70年以上の歴史と実績を持つ企業だ。同社は今年度、オープンイノベーションプログラムを始動する。
本プログラムは、トヨタ車体のクルマづくりにおいて育まれてきた独自の技術を活用しながら、パートナー企業との共創で、社会課題を解決する新たな事業の創出を目指す。次の3つの募集テーマを掲げ、共創パートナーを募集する(エントリー締切:2022年12月16日)。
【テーマ①】クルマづくりを“変えてきた”生産技術で、農業をエコで効率的に“変える”
#農機メーカー #ビニールハウス #アグリテック #農業従事者 #一次産業 #食品 #インフラ
【テーマ②】避難時の要“防災倉庫”を進化させる 防災性と利便性を高めた 新たなハコの創出
#IoT #遠隔監視 #自動化 #通信 #5G #インフラ #地域情報 #メディア #移動式サービス #物流 #保険
【テーマ③】捨てない社会を目指して。間伐材から生み出した独自素材による エコなモノづくりの拡充
#ベビー用品 #子供用品 #ペット用品 #アウトドア用品 #家具 #グッズ #ファッション #雑貨 #美容(容器) #樹脂 #化学 #素材
プログラム開始にあたり、TOMORUBAでは事務局メンバーと各テーマの担当者にインタビューを実施。テーマ設定の背景や共創イメージ、目指したいゴールなどを詳しく聞いた。
“ハコブ”を通じて世界に貢献、トヨタ車体が初となるOIプログラムを始動
まずは、プログラムの事務局メンバーに目指す方向性やゴール、プログラムへの参加メリットについて聞いた。
――1945年にトヨタ自動車より独立し、誕生したトヨタ車体ですが、御社の今の事業領域について教えてください。
山口氏: トヨタ車体はミニバン・商用車・SUVなどの領域における完成車両を製造しているメーカーです。具体的な車名を挙げると、アルファード、ノア、ヴォクシー、ハイエース、ランドクルーザー、コムスなど。企画・設計から生産まで、すべて社内で一貫して実施しています。
――現在のマーケット状況については、どう捉えていますか。
山口氏: 自動車業界は今、100年に1度の大変革期を迎えています。CASE・MaaSと言われるように異業種の参入が増えていますし、親会社であるトヨタ自動車もソフトウェアに力を入れており、ハードよりもソフトを充実させていくという流れになっています。
ですから、我々としてもクルマづくりに注力すると同時に、周辺の付加価値を高めていくような取り組みも進めています。たとえば「車両を使った何か」や「弊社のアセット・シーズを使った何か」を新たに創出することで、より多くのお客さまに幸せを提供していきたい。こうした考えから、今回の取り組みを開始することになりました。
▲トヨタ車体株式会社 経営企画部 山口智史氏
――昨年、トヨタ車体では「ハコブ(HaCoB)を通じて世界に貢献」という新たなビジョンを策定されました。背景にある考えについてもお伺いしたいです。
山口氏: 「ハコブ」という言葉には2つの意味があります。ひとつは、弊社のクルマのラインナップを見ていただくと分かるように、後部座席が広くて四角い“ハコ”のような形状のクルマを得意としていること。もうひとつは、ハイエースのような物流に欠かせないクルマ、ランドクルーザーのような危険地帯でも活躍する堅牢で人の命を守るクルマを製造していること。
つまり、人や物を“ハコブ”クルマであることです。こうした我々のアイデンティティを認識しながら、より社会に貢献できるものを生み出していきたいとの考えが背景にあります。
▲トヨタ車体が掲げる「ビジョン2035」(出典:トヨタ車体HP「企業情報」より)
――今回、御社初となる「TOYOTA AUTO BODY Open Innovation Program」を開始されます。オープンイノベーションという手法を用いた理由は?
山口氏: 弊社の場合、どうしてもトヨタグループ内で閉じた開発になり、内向きになってしまいがちです。すると、限られたアイデアしか出てきません。今回、オープンイノベーションで事業創出に取り組もうと思った理由は、異業界の我々とは異なる視点も取り入れながら、新規事業の開発に取り組みたいと考えたからです。よりマーケットインに近い形で、お客さまのニーズを捉えながら進めていこうとした場合、オープンイノベーションが理想だと思いました。
自動車分野で培った技術や経験を糧に“一歩先”の価値提供へ
――続いて「TOYOTA AUTO BODY Open Innovation Program」の参加メリットについてお聞かせください。
山口氏: 弊社は愛知県と三重県に合計5つの工場・拠点を保有しています。また、トヨタ車体グループの持つアセットも活用可能です。トヨタ車体グループには、自動車部品メーカーのほか、冷凍・保冷車を顧客ニーズにあわせて設計できる技術を持った会社もあります。こうしたアセットや実証フィールドを提供できます。
――どのような活用の仕方が考えられるのでしょうか。
山口氏: 生産ラインを使うことはなかなか難しいのですが、事業アイデアが固まり、何らかの試作品を制作する段階に入れば、試作部門・デザイン部門など各工程のメンバーの協力を得ながら、形にしていくこともできます。
モノづくりに長けた人たちが豊富ですし、従業員数はグループ連結で1万8000人以上。何か実証実験を行いたいときに、一般ユーザーとして参加してもらうこともできるでしょう。加えて、広い敷地を使って何らかのモビリティを動かすことも可能です。
▲本社である富士松工場(愛知県刈谷市)。その他、いなべ工場(三重県いなべ市)、吉原工場(愛知県豊田市)、刈谷工場(愛知県刈谷市)、寿 新規開発センター(愛知県豊田市)という拠点を有している。(出典:トヨタ車体HP「企業情報」より)
――プログラム事務局の推進体制はどうですか。
山口氏: 今回の共創プログラムは、トヨタ車体全社横断の特別なプロジェクトという位置づけです。経営層承認の下で特別チームを組んでいるため、迅速な意思決定を行うことができます。事務局メンバーのバックボーンも多様で、有志を募った結果、経営企画部、車両生技部、品質管理部、経理部、商品・事業企画部など、さまざまな組織からメンバーが集まってくれました。
――多角的な視点から事業の立ち上げをサポートしてもらえそうですね。最後に、事務局の皆さんから一言ずつ、プログラムのアピールポイントや応募検討企業へのメッセージをいただければと思います。
本多氏: 私は経理部に所属していますが、中期の利益を見ながら先を見通すなかで、新たな事業の柱を生み出すことが必要だと実感しています。ですから、将来を見越して新しい領域に進出していこうとする本プログラムには期待していますし、何らかの形でお手伝いできればと思っています。
▲トヨタ車体株式会社 経理部 本多貴裕氏
市川氏: トヨタ車体は70年以上にわたり、クルマづくりを続けてきた企業。クルマづくりにおいては、高い技術を持っていると自負しています。たとえば、弊社の技術者のなかには、他社が開催するものづくり選手権に参加して、優秀な成績を収めるような人も大勢います。
そうした技術者の皆さんが、本プログラムを通じて活躍できると嬉しいですし、従来のように人や物を運ぶだけではなく、その一歩先で価値提供ができればと思っています。お互いのシーズ・アイデアを活用して、新しい価値を生み出していきましょう。
▲トヨタ車体株式会社 商品・事業企画部 市川拓也氏
西口氏: 弊社は海外にも進出しています。私自身も約3年間、オーストラリアに駐在していました。ですから、グローバルな視点でも検討できたらと考えています。また個人的には今、品質管理部門に所属しているため、品質管理の知見を提供することも可能です。こうした幅の広さにご期待ください。
▲トヨタ車体株式会社 いなべ工場品質管理部 西口博氏
土屋氏: 堅実にコツコツとクルマづくりを行ってきた弊社にとって、外部と組んで新しい領域を開拓するという取り組みは初めての挑戦です。これまで外の世界を見てこなかったのですが、外に出たいという気持ちは我々のなかで高まっています。ですから、よい仲間をつくりながら、外へと事業を広げていきたい。そんな想いで活動しているので、よろしくお願いします。
▲トヨタ車体株式会社 車両生技部 土屋英行氏
山口氏: パートナーに我々の枠組みを押しつけるのではなく、パートナーの持つシーズ・アセットも活用しながら、新しい事業を一緒に創り上げていきたいと思っています。本プログラムに興味をお持ちいただけましたら、ぜひご応募ください。
【テーマ①:農業】クルマづくりを“変えてきた”生産技術で、農業をエコで効率的に“変える”
続いて、各テーマの担当者にインタビューを実施。1つ目のテーマを立案したのは、車両生技部に所属し、カーボンニュートラルの実現に向け、CO2削減方法を見出す役割を担う宮崎氏だ。テーマ設定の背景にある想いや共創イメージ、活用できるアセット・シーズを聞いた。
――「クルマづくりを“変えてきた”生産技術で、農業をエコで効率的に“変える”」という募集テーマを設定されました。農業分野へ踏み込もうと考えた理由からお伺いしたいです。
宮崎氏: 3年程前、農業と自動車産業を合同で展示する展示会企画が頻繁に行われていた時期がありました。そのときに「農業の展示も見てみよう」と足を踏み入れたことがきっかけです。「技術的に近そうだが、参入は難しそうだ」というのが当時の感想。しかし昨今、大規模な施設農業やスマート農業が注目されるようになり、自動車関連企業も参入しはじめています。そこで今回、改めて我々の事業と農業を結びつけたいと考え、このテーマを設定しました。
▲トヨタ車体株式会社 車両生技部 宮崎修平氏
――自動車関連の技術を農業へと転用することで、どのような世界を実現したいのでしょうか。
宮崎氏: 当時から展示会では高齢化がひとつのキーワードになっていました。農業従事者は65歳以上が70%を占める状況。私の叔父もみかん農園を経営していますが75歳です。こうした背景から、展示会では高齢者の作業を軽減するアイテムが数多く展示されていました。ただ、それでは次の担い手となる若手を呼び込むことはできません。
――たしかに、高齢の農業従事者の作業を軽減するだけでは、若手の参入を促すことはできませんね。
宮崎氏: はい。一方で一部の若い担い手が農業を徹底的に効率化し、六次産業化なども進めながら収益化を図っている例もあります。高齢化と若者化の二極化が顕著になってきているのです。
こうした状況を踏まえ、今回の取り組みを通じて実現したいことは、次の担い手になるであろうZ世代の方たちが、理想とするライフスタイルを維持しながら、農業に参入できる環境を整えること。我々が何らかのガジェットを提供し、農業の効率を高め利益を生み出せるようにして、若い人たちが働きやすい環境を整えていきたいと考えています。
――共創パートナーとして、どのような企業をイメージされていますか。
宮崎氏: 現場の声を聞きながら新しい製品を生み出したいと考えています。エンドユーザーである農業の担い手の皆さんの声が、直接届いているような企業さんと一緒に取り組みたいです。たとえば、農業向けにデバイスを提供しているメーカーさんなど。このほかにも、農業の担い手と接点を持ちながら、事業を展開されている企業の皆さんとお会いしたいです。
――共創するにあたって、御社のどのような技術・リソースを活用できそうですか。
宮崎氏: 1つ目が、効率を高めるためのオートメーション(自動化)技術です。フードロスがテレビでもよく取り上げられていますが、フードロスの根源には”つくりすぎ”という問題もあります。商品にならないため、出荷前に捨てられる規格外の食材が約25%あるのです。
そういったものを、我々が得意とするオートメーション技術を使って極限まで減らす。自動車の生産現場で実践されているムリ・ムラ・ムダを削減する“からくり”を見てもらい、活用していただくことができます。“からくり”といってもピンと来ないかもしれませんが、端的に言うと最小のエネルギーで物を動かす技術です。
――自動車生産現場の効率化ノウハウを、農業に転用していくということですね。
宮崎氏: そうです。2つ目が省エネ技術。農業のオートメーション化が今、盛んに言われていますが、電気製品やモーターを用いることが一般的です。我々の工場でも相当量の電気を使って工場内の物流を動かしてきましたが、省エネ技術も培ってきました。この技術をうまく使えば、農業のスマート化に役立てることができると思います。
3つ目が、将来的な話にはなりますが、水素や燃料電池といった新しいエネルギーです。ピーマンは夏野菜で、秋・冬は取れないはずですが、店頭では1年中並んでいます。なぜかというと、寒い時期には重油を使ってビニールハウス内を温めているからです。実は、冬のピーマンの経費の内約40%は暖房費と言われており、同様の野菜がたくさんあります。そうしたものに対して、燃料電池の技術を応用した新たな熱源を生み出し、エコなものとして提供できないかと考えています。
――御社のオートメーション技術や省エネ・再エネ関連技術を用いれば、農業が劇的に変わりそうですね。最後に、応募を検討している企業に向けて、一言メッセージをお願いします。
宮崎氏: 大型施設栽培やプラント農業でしか採用できなかったオートメーションやスマート機器を、共創パートナーさんと一緒に形にして世の中に提供していきたいと思っています。新たなニーズを掘り起こすことができれば、エネルギーや光熱費といった大きな課題にも、次世代の技術を活用しながら挑戦していきたい。ともに安定した農業環境やライフスタイルを実現し、若手が参入したくなるような世界をつくりましょう。
【テーマ②:防災】避難時の要“防災倉庫”を進化させる、防災性と利便性を高めた新たなハコの創出
2つ目のテーマを立案したのは、商品・事業企画部に所属し、将来に向けた製品ラインナップの企画・検討を担う近澤氏だ。テーマ設定の背景にある想いや共創イメージ、活用できるアセット・シーズを聞いた。
――「避難時の要“防災倉庫”を進化させる、防災性と利便性を高めた新たなハコの創出」という募集テーマを設定されました。背景にある課題感からお聞きしたいです。
近澤氏: 近年、局所的な洪水や大型化した台風など自然災害が増加しています。避難所に避難しているご高齢者があるインタビューで「70年生きてきて初めて」と話しておられることから考えても、こうした災害は間違いなく増えているのでしょう。また、私の実家は、海から近い三角州のなかにありましたが、大雨で学校帰りに腰まで水に浸かることもありました。こうした幼少期の経験や、昨今の自然災害の増加を踏まえて、「何かできないだろうか」と考えたことがきっかけです。
ただ、当社は創業以来、モノづくり一筋の会社。たとえば、津波や台風の予想や災害後の復旧などは、専門家や土木・行政の皆さんにお任せしたほうがいい。「どういう形で関われるのか」と考えたときに、近所を歩いていてたまたま目についたのが、防災倉庫でした。
当社は今でこそ、ミニバンや商用車をつくっていますが、終戦直後は学校の机やバスタブ、自転車など、当時のお客さまのニーズに寄り添ったものをつくってきました。今でも小型冷凍トラックの荷箱を製造しています。こうしたハコの技術を用いて防災倉庫をつくりたいと考え、本テーマを設定しました。
▲トヨタ車体株式会社 商品・事業企画部 近澤慶史氏
――既にある防災倉庫を、どうアップデートしていくイメージですか。
近澤氏: 既存の一般的な防災倉庫は、海上コンテナに窓をつけたものが多いです。それに対してたとえば、我々のハコの技術を用いて小型化し、緊急の災害時には融通しあう。隣接する地域が被害を受けていて、自分たちの地域が問題なければ、小型化した防災倉庫をトラックに載せて運び、被害のあった地域に役立てる。そういったことができると思います。
――“据え置き型”から“持ち運び型”に変えていくと。
近澤氏: そうです。また、防災倉庫には平時から食料や飲料がたくさん収納されています。現状、防災倉庫に何がいくつ入っているのかは、自治体や自治会、企業などがアナログで管理していることが多いと思います。それに対して、防災倉庫をIoT化することで、中身の情報をつなげる。そして災害発生時に、それぞれの防災倉庫の位置と中身を確認して、優先順位を考えたり、物資を融通しあうような仕組みが構築できるのではないかと考えています。
さらに、防災倉庫は小学校の校区毎に必ずありますし、規模の大きな企業にもあります。この特徴を活かして、通信やエネルギーの拠点として活用することもできるのではないでしょうか。
――各所に散在する防災倉庫の情報を、一括してオンライン上で確認できるようになれば、利便性が高まりそうです。共創パートナーとしては、どのような企業を想定されていますか。
近澤氏: 弊社はハコ型自動車の開発・製造をメインに手がけてきたため、IoTでつなげる技術やセンシング技術などは強くありません。そうした技術をお持ちの企業と一緒に取り組みたいです。
また、防災領域に明るい企業、あるいは地域や行政と防災に取り組んでいる企業、それに各地の行政機関などを想定しています。ハコは当社で要望に沿って製造できますが、それ以外のところで共創パートナーを求めていますね。
――ハコの製造は、御社の得意分野とのことですが、防災倉庫を共創するにあたり、どのような技術・リソースを活用できそうですか。
近澤氏: ひとつは冷凍車の技術。業界トップ水準の断熱性能を誇る技術を持っています。また、トラックに載せられるサイズへの小型化も当社なら容易に可能。
あとは、ミニバンの電動スライドドアや長年の福祉車両開発で培ったノウハウ(リフトで持ち上げたりシートが回転したりと)を活用した動くモノの開発が得意です。防災倉庫に置き換えると、倉庫内の重量物を持ち上げたり、一部の物資だけを瞬時に取り出したりするようなギミックを開発することができます。
▲低温冷凍車/中温冷凍車/保冷車「DYNAシリーズ」(出典:トヨタ車体HP「製品紹介」より)
――次世代型の防災倉庫が生まれそうだと、期待が膨らみました。最後に、応募を検討している企業に向けて、一言メッセージをお願いします。
近澤氏: 防災倉庫は必要になったときに初めて活用するものなので、詳しくご存知ない方も大勢いらっしゃると思います。ただ、この災害の多い日本に生活拠点を持っていれば、誰しもいつかは災害に見舞われる可能性があります。共創パートナーの皆さんとは、防災を身近に感じながら、どうすればいいのかを一緒に考え、悩みながら進めていきたいです。たくさんのご応募をお待ちしています。
【テーマ③:環境素材】捨てない社会を目指して―間伐材から生み出した独自素材による、エコなモノづくりの拡充
3つ目のテーマは、橋本氏と西村氏の2名が担当。橋本氏は、新規事業開発部の部長と、超小型電気自動車「コムス」の製品企画を担当する部署(ZEM)のチーフエンジニアを兼務する。西村氏は植物の専門家で、植物を工業製品として活用するための研究開発を担う。お二人よりテーマの詳細な内容を聞いた。
――「捨てない社会を目指して―間伐材から生み出した独自素材による、エコなモノづくりの拡充」という募集テーマを設定されました。背景にある考えをお聞かせください。
橋本氏: シーズとニーズの両面からお話します。まずニーズ側からですが、カーボンニュートラルの実現が大きな社会課題だと捉えています。ただ、それ自体は直接ビジネスにはなりません。「CO2を減らしたので、お金を払ってください」と言っても払ってもらえないからです。カーボンニュートラルにつながるとともに、お客さまがダイレクトに嬉しいと感じてもらえるようなサービスが必要だろうと、常々考えてきました。
そこで着目したのが、リサイクルです。ベビー用品や子ども用品など一定期間使用した後、捨てるものがありますよね。捨てようとした際、費用が必要だったり、粗大ゴミの回収手続きが必要だったりします。その手間を解決しつつ焼却せずに回収して、CO2の排出を減らすような社会がつくれたらと考えたことが、きっかけのひとつです。
シーズ側については、弊社が開発したTABWD®(タブウッド)という材料があります。これは杉の間伐材30~50%程度と、熱可塑性樹脂(※)の樹脂を混ぜた射出成型用の材料で、何度も繰り返しリサイクルできることが特徴です。杉の間伐材を使っているためCO2の削減効果はもちろんのこと森林の育成にも繋がります。この環境材料をもっと世の中に普及させたい、普及させるために何か新しい嬉しさを創出していきたいと考えてきました。そこで今回の募集テーマを設定することにしたのです。
※熱可塑性樹脂とは、適当な温度に加熱すると軟化し、冷却すると固化する変形しやすい性質の樹脂のこと。
▲スギ間伐材の木質繊維と熱可塑性樹脂を混錬した射出材料 TABWD®(出典:TABWD®/タブウッド パンフレットより)
▲トヨタ車体株式会社 新規事業開発部 橋本圭二氏
――TABWD®は現在、どのような製品として活用されているのでしょうか。
橋本氏: 自動車部品として使用しています。TABWD®はプラスチックに繊維状の木粉を混ぜることで、強度や耐熱性を高めることができるという特徴を持っているので、軽量で高剛性、高耐熱性が求められる部位に使っています。たとえば、フォグランプを支えるブラケットやエンジンルーム内のワイヤーハーネスプロテクターなどに採用していますね。
――共創を通じて、どのようなアイデアを実現したいとお考えですか。
橋本氏: 壊れたり、使い終わったら捨ててしまう様々な商品を、TABWD®で作り替えて使用後に返却していただく。それを我々でリサイクルして、新しい商品をつくる。こういったビジネスを考えています。例えば、ECサイト上に、TABWD®の専用ページを設けて、TABWD®の製品を一覧化して販売し、製品を使い終わったら確実に回収をするスキームをつくりたい。これにより、環境に貢献していくことを目指しています。
――TABWD®をもとに新たにつくる商品として、具体的にどのようなものを想定されていますか。
橋本氏: フィットしやすいものとしては、期間限定で使用して捨ててしまうもの。なおかつ、捨てるときに困るものでしょう。たとえば、ベビーベッドといった子ども用の家具などは、一定期間使用後に捨てますし、捨てる際に手間がかかるため、TABWD®で製品化して回収を楽にすれば、お客さまにとって嬉しさが増すだろうと思っています。ただ、我々だけでは、発想があまり豊かではないので、さまざまなアイデアをいただけると嬉しいです。また、TABWD®は木粉を原料とすることで木 本来の質感や触感、香りなど独特の風合いを表現することも可能です。高い意匠性の求められる商品にもフィットできると思っていますので、木質製品の代わり、樹脂製品の代わりに幅広くお使いいただけたらと思っています。
▲TABWD®を用いた試作品(木本来の触感や独特な風合いを表現可能)
――共創パートナーとして、どのような企業をイメージされていますか。
橋本氏: 我々はTABWD®を自動車部品でしか使ったことがないため、TABWD®を使って一緒に家具やグッズを開発してもらえるメーカーさんを求めています。
――TABWD®という環境に優しい材料が、社会のなかで製品として循環していく未来が見えました。最後に、応募を検討している企業に向けて、一言メッセージをお願いします。
西村氏: TABWD®のコンセプトは、ものとしてリサイクルを行い循環させていく側面もありますが、プラスで原料である杉の森の循環も考えています。伐採したら植林し、ものの循環と森の循環を結びつけていくような活動にしたい。ですから、この想いに賛同してもらえる企業と組みたいですね。森から出てきた工業材料を、もっと世の中に広め、その結果として地球環境がよりよくなればと思っています。
▲トヨタ車体株式会社 新規事業開発部 西村拓也氏
橋本氏: トヨタ車体は三河地域の一企業で、こうした新規事業に取り組もうとしても、この材料を誰が使ってくれるのか発想が広がりませんし、コネクションもありません。参入しようとする領域の常識も分からないので、本取り組みを通じて視野と世界を広げ、新しい領域に次々と進出していきたい。そのきっかけにできればと、非常に期待をしています。
取材後記
クルマづくりで培ってきた技術などを転用し、オープンイノベーションによって新たな事業の創造を目指すTOYOTA AUTO BODY Open Innovation Program。オートメーションや省エネ技術、燃料電池を主とした再エネ関連技術、それにハコの製造技術や「TABWD®」という環境材料 etc.――トヨタ車体グループの有する強みを、自動車分野とは異なる分野に活用することで、どのようなサービスやソリューションが生まれるのか。今後の動向にも注目していきたい。
※本プログラムの詳細は以下よりご覧ください。エントリー締切は、2022年12月16日(金)となります。
(編集・取材:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)