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ただの“水”を“クールな缶”で売って売上190億円。米国発スタートアップ「Liquid Death」とは何者か

ただの“水”を“クールな缶”で売って売上190億円。米国発スタートアップ「Liquid Death」とは何者か

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米国発スタートアップ「Liquid Death」(リキッド・デス)が話題を呼んでいる。同社のビジネスモデルは、ごく一般的なミネラルウォーターや炭酸水をペットボトルではなく、ビール風の缶で売るというもの。

コンサート会場やバーを中心に「ダサくない水」と好評で、現在の評価額は7億ドル(約1000億円)、2022年は売上高1億3000万ドル(約190億円)に達する見込みだという。

自身を「a funny water company」(おもしろい飲料水の会社)と表現する彼らは、どんなビジョンを持ち、どんなマーケティングで事業拡大を図っているのか。ーー世界の企業が取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第34弾では、Liquid Deathにフォーカス。残念ながら直接のインタビューは実現しなかったが、同社のホームページや海外の報道記事を参照して、成功をつかんできた背景を探ってみたい。

※上写真:Liquid Deathの公式ホームページより

カッコいいうえに、脱プラも叶う水

カリフォルニア州に拠点を置く「Liquid Death」は、2019年に飲料事業をスタートさせた。アルプスから採水したミネラルウォーターと炭酸水の販売から始まり、現在はマンゴー、ライム、ベリーのフレーバーの炭酸水も扱う(全5種類)。


▲発売中のLiquid Deathの商品(2022年10月下旬現在、Liquid Deathの公式ホームページより)

特徴的なのは味ではなく、「缶のデザイン」。ビジュアルからは水とは想像し難く、ビールやエナジードリンクが入っていそうな雰囲気だ。ドクロのイラストや缶に書かれた「MURDER YOUR THIRST」(喉の渇きを殺す)のキャッチコピーは、なんともインパクトがある。

米国のスーパーやオンライン、コンサート会場などで同製品を発売したところ、「お酒を飲む場で飲んでもダサくない水」として話題に。全米2万9,000ヵ所以上で販売されるようになり、2019年は300万ドル(約4億円)だった売上高が、2021年には4500万ドル(約65億円)近くに達したという。

以前は自社ホームページ内でサブスクリプションを含むオンライン販売をしていたが、2022年7月にアマゾンに移行。理由は、飲料水の配送はアマゾンのほうが遥かに得意だから。その他、GoPuff、Uber Eats、DoorDashの食料品配送サービスでも購入できる。


▲現在のオンライン販売はアマゾンに移行(アマゾンより)

見た目がカッコいいことに加え、プラスチックよりリサイクルしやすいとされるアルミ缶を使っていることも、売上に貢献する要素だとか。同社では、自社サイトで「Death To Plastic」(プラスチックに死を)と銘打ったキャンペーンを展開しており、「プラスチックのリサイクルは神話だ」と批判している。


▲サイトで公開中の動画は、コミカルな演出で「プラスチックが地球を汚染している」と訴える内容

スチールやアルミニウム缶は「缶 to 缶」の水平リサイクルが容易だが、プラスチックは予算的に難しい。そのため回収されたプラスチックのほとんどは埋め立てられていると同社は訴えている。参考値として、日本ではメタルの水平リサイクル率が約67%に対し、ペットボトルは約13%にとどまっている(※)。

※東洋製罐グループホールディングスが運営するWebサイト「リサイクルの未来と今 | TOKYO PACK 2021」より

世界観を表現したグッズも多数展開

パンチの効いたキャッチコピーや演出で、独自の世界観を築いているLiquid Death。ホームページでは、缶に描かれているドクロやオリジナルキャラクターをあしらったファッションアイテムや雑貨を多数扱っている。


▲多数のオリジナルグッズを展開(2022年10月下旬現在、Liquid Deathの公式ホームページより)

飲料水メーカーでありながら、飲料水より圧倒的にグッズのラインナップが多い。同社の売上の多くが飲料水によるものなのか、グッズによるものなのかはわからないが、飲料水を切り口にLiquid Deathの世界観を売り物にしたいような意図が感じられる。

同社の共同設立者でCEOのMike Cessario氏は、Bloombergの記事で、以下のようにブランドロイヤリティの高さに言及している。

「お酒を飲みたくない人にとっては、こちら(Liquid Deathの商品)のほうがもっと楽しい。ブランドロイヤルティによって、ナショナル ビバレッジ社のLaCroixやペプシコ社のBublyといった競合に対する競争力を維持できると考えている」


▲LaCroixは、全米で人気のオールナチュラルスパークリングウォーター。グルテンフリー、ベジタリアン、コーシャ(ユダヤ教徒が食べられる食物)とヘルシー(LaCroixの公式ホームページより)


▲Bublyは、12種類のフレーバーがあるスパークリングウォーター。カロリーなし、甘味料なしも特徴だ(LaCroixの公式ホームページより)

独自のコミュニティ「THE LIQUID DEATH COUNTRY CLUB」(リキッド・デス カントリークラブ)や報酬プログラムの展開も、ブランドロイヤルティを高める施策かもしれない。

コミュニティ会員になるには、氏名とメールアドレスを入力して「SELL MY SOUL」(私の魂を売る)ボタンをクリックする、あるいは12万5,000ドル(約1,800万円)の現金を払う必要があり、いろいろとぶっとんでいる。

会員になると、クラブ限定商品への独占アクセス、一般公開前に限定グッズを購入可能、プライベートショーやイベントへの招待などの特典が受けられる。商品を購入してSNSでシェアする、レビューを書く、友人を紹介するといったアクションでポイント(Liquid Death Skulls )がもらえる報酬プログラムも用意されている。

インスタは130万、Tik Tokは290万フォロワー

こういったさまざまな戦略が功を奏したのか、Liquid DeathのSNSでは、同社が多くの人々の心をつかんでいることがうかがえる。インスタグラムは130万人、Tik Tokは290万人のフォロワーを持つ(2022年10月下旬現在)。

最近のインスタグラム投稿では、「私たちはハードな質問を恐れない」として、フォロワーにきわどい質問を投げかけたツイッター投稿を掲載。「どちらかといえば?」と質問し、選択肢は「あなたのSNSを削除する」、あるいは「あなたの子どもの一人を売る」。62%が前者を、38%が後者を選んだ。



日本では受け入れられない気がするが、少なくとも一部のアメリカ人にとっては許容範囲のようで、ギリギリ「funny」な路線を狙っているのかもしれない。「逸脱だ」と評価されたという動画CMは270万回再生され、930件ものコメントが付いている。「笑った」と滑稽さを評価する内容が目立つ。


好き嫌いの好みはハッキリ分かれそうだが、企業としてのアイデンティティは伝わりやすい。だからこそ、ブランドロイヤリティの高いファンが育つのかもしれない。

企業価値は1,000億円、売上高は190億円の見込み

2022年10月4日には、Liquid Deathが7,000万ドル(約102億円)の資金調達を実施したことを、Bloombergなどが報じている。この資金調達により、同社の評価額は7億ドル(約1000億円)となり、2022年は売上高が1億3000万ドル(約190億円)に達する見込みだ。

報道によれば、今回の資金調達は、新しい飲料カテゴリーへの進出とヨーロッパ市場への参入に充てられる予定だという。Cessario氏は「Liquid Deathの成功の一因は、飲料水の缶を "ビールやエナジードリンクのように楽しくて不健康 に見せている”ことにある」と語っている。


▲Liquid Deathの公式ホームページより

直近の資金調達を主導したScience Venturesの共同創業者 Peter Pham氏は、「BtoCの成功は時にマーケティングの才能にかかっている。Cessario氏にはその才能がある」と評価している。

今回の資金調達はLiquid Deathにとって2度目で、総資金調達額は1億9500万ドル(約285億円)となる。Cessario氏は、「最終的にはIPOを目指したいと考えており、今後2年のうちに模索している」と語っている。

「こんなものが売れるのか」と多くの人に驚きを与えたLiquid Death。これこそ、まさにイノベーションに他ならない。

編集後記

Liquid Deathを知ったのは10月4日のツイッター投稿で、日本語で書かれたツイートには4万件の「いいね」が付いていた。飲料水の「カッコよさ」にこれほどの潜在的ニーズがあったことに驚きつつ、「なるほど」と腑に落ちる感覚も覚えた。とはいえ、大手競合のオシャレでヘルシーなスパークリングウォーター缶と勝負するには、デザインや世界観のみならず、味の追求も求められるのではないだろうか。

(取材・文:小林香織)  

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コメント10件

  • Kei Inoue

    Kei Inoue

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  • 須原

    須原

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  • 米田あづみ

    米田あづみ

    • 有限会社tsuvetok
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  • 岡田芳弘

    岡田芳弘

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    これはすごいです。
    何事もアイデア次第ですね!
  • 川島大倫

    川島大倫

    • フリーランス
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世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。