【Startup Culture Lab. 2024年度 #6レポート】ナレッジワーク、ハコベル、SmartHRが登壇!注目のスタートアップが語る「成功するオンボーディングの秘訣」とは?
イノベーションを起こし急成長するスタートアップならではの、人材・組織開発に関する学びと知見を広くシェアする研究プロジェクト「Startup Culture Lab.」。2023年は12のテーマを設定し、毎月一回スタートアップの組織開発の経験者・有識者をゲストに招いてトークセッションを無料開催してきた。
2024年度も56社の研究対象スタートアップが決定し、全12回に渡るセッションとワークショップを通じ、急成長するスタートアップの組織支援を進めていく。第6回となる今回のセッションのテーマは「組織を強くする最適なオンボーディング」だ。スタートアップにおいて、新しくジョインしたメンバーがいち早く自走できるようにするためのオンボーディングは、事業の成長スピードに関わる重要な要素となる。
スタートアップの経営者や人事・採用の責任者が登壇し、成功事例やベストプラクティスについて語り合ったセッションの内容をレポートしていく。
【登壇者】
・井本 陽子 氏 / newmo株式会社 Business Operations(モデレーター)
・徳田 悠輔 氏 / 株式会社ナレッジワーク 執行役員 VP of HR
・狭間 健志 氏 / ハコベル株式会社 代表取締役社長CEO
・宮下 竜蔵 氏 / 株式会社SmartHR 執行役員 兼 人事統括本部長
ナレッジワーク、ハコベル、SmartHR、newmoら、注目のスタートアップ4社が登壇
セッションは各登壇者の自己紹介からはじまった。一番手のナレッジワーク徳田氏は同社でHR領域の執行役員VPを務めている。「新卒でDeNAに入社して営業や人事を経験した後に、2022年に25人目ぐらいのフェーズでナレッジワークに入社しました。ナレッジワークは仕事における人の成果や成長を支援するクラウドサービスを展開していますので、本日のテーマであるオンボーディングについても何かノウハウをご共有できればと思います」
▲徳田 悠輔 氏 / 株式会社ナレッジワーク 執行役員 VP of HR
続いてハコベルの代表取締役社長CEO狭間氏が自己紹介した。
「私は大学を出てコンサル会社に8年ほどいた後、ラクスルに入ってハコベル事業に携わり、2年前にセイノーホールディングスの過半の出資を受け分社化したのに伴い、現職に就いています。事業としては運送のマッチングプラットフォームと配車効率化のプロダクト販売を展開しています」
▲狭間 健志 氏 / ハコベル株式会社 代表取締役社長CEO
次に自己紹介したのはSmartHRの人事統括本部長である宮下氏だ。
「私のバックグラウンドは主に外資系製薬会社の人事です。前職では航空業界で人事責任者を経験し、昨年11月にSmartHRに入社し7月から現職です。毎月30人から多い時で50人くらい、中途での入社があって、まだまだ毎日カオスな状態です。そのような中でどのようにオンボーディングをやっているのかをお話できたらと思います」
▲宮下 竜蔵 氏 / 株式会社SmartHR 執行役員 兼 人事統括本部長
最後に自己紹介したのはセッションでモデレーターを務めるnewmoの井本氏。
「newmoでビジネスオペレーションの部署におります井本です。経歴としては経営企画、事業開発領域を担当してきました。newmoは今年の1月に創業したばかりのスタートアップで、『移動で地域をカラフルに』というミッションの下、新たな地域交通の実現を通じて、地域の潜在力を引き出していきたいと考えています」
▲井本 陽子 氏 / newmo株式会社 Business Operations
「採用オーナーに任せ切る」「エンゲージメント最優先」「CEO自ら説明」…各社オンボーディングの特色
注目のスタートアップ各社はどのようなオンボーディングを行っているのか。登壇者に問いかける前に井本氏は「採用した後、そのまますぐに現場に送り込むのではなく、オンボーディングを経ることでパフォーマンスやエンゲージメントが向上する役割を果たす」と、オンボーディングの重要性を再確認した。
続けて「皆さんの会社のオンボーディングの特色はどのようなものですか?」と質問した。
狭間氏はハコベルのユニークな制度を紹介しながら説明する。
「私たちもまだまだ発展途上ではありますが、ポイントは3つあると思ってます。一つ目は採用前の設計です。採用前の準備段階が重要で、弊社では全社の半年後の組織図を書くようにしています。どのポジションを採用するのか、どうやって採用するのかという骨格をある程度決めてから採用活動してオファーをかけています。そしてオファーを出すタイミングで半年後、1年後のミッションなどのプランを伝えるようにしています。
二つ目は、採用オーナーに任せ切ることです。一時期は合議制をとってたこともありますが、責任の所在があいまいになるという課題がありました。あえて1人の責任者を決めて誰がオンボーディングにコミットするのかを決めるのが大事だという振り返りがあります。組織の強化は一番大事な仕事のひとつであるというのを徹底的に社内で認知していて、その認識が揃ってる前提で採用オーナーに任せています。
三つ目はコミュニケーションの量を増やすこと。転職してきた瞬間ってやりづらいですから。入社後1週間から3週間は採用オーナーとずっと行動を共にしてもらうんです」
続いて徳田氏がナレッジワークのオンボーディングについて語った。
「オンボーディングはエンゲージメント(共感)、スタイル(姿勢)、スキル(能力)という3つのステップで設計しています。スキルを発揮するためには会社として求めているスタイルの理解が必要で、さらにそのスタイルを体現するためには会社へのエンゲージメントが必要と考えているからです。
この設計に基づいて、4月にオンボーディングプログラムをアップデートして、5日間のパッケージすべてのスライドを私自身で作りました。全社共通オンボーディングでエンゲージメントの醸成とスタイルの理解を深めてから現場に入ってもらう。そして現場ではスキル発揮のために1ヶ月程度のオンボーディングプログラムをやってもらっています。」
最後に、SmartHRのオンボーディングの特色について宮下氏は説明する。
「SmartHRでは今年1月にオンボーディングプログラムを変更しています。まず入社後4日は座学をするのですが、その1日目にはCEOの芹沢が会社の歴史であったり、バリューについて説明する時間をとっています。続いてワークショップや各部署の説明、評価制度や人事制度の考え方などの話が座学になります。その後は2ヶ月目にアンケートをとって、3ヶ月目に人事面談をやっています。これが全体像ですね。
ここからはなぜオンボーディングプログラムを変更したのかという話です。以前までは2週間オンボーディングに時間をかけていました。『オープン・フラット・遊び心』という弊社のカルチャーをふまえ、情報をオープンにしたいという思いで広く情報を伝えていたんです。ただアンケートをとってみると情報量が多すぎて消化不良になっているという意見が出てきました。そこで、プログラムを変更したという経緯があります」
オンボーディングを加速させる「社員が自らキャッチアップできる環境」とは
セッションは質問コーナーへ移り、井本氏が質問が多かったものをピックアップしていくことに。一つ目は「新入社員が自らキャッチアップできる環境づくりはあるか?」という質問だ。
徳田氏は「ナレッジワークはミッションとして『イネーブルメント(仕事における成果創出や能力の向上)』を掲げており、その中でセールスイネーブルメントクラウド「ナレッジワーク」を展開しています。「ナレッジワーク」では営業資料やノウハウの効果的な展開を実現しているので、自社でも自社プロダクトを使ってあらゆるナレッジが社内に格納されている環境を作っています」と説明する。
さらに付け加えて、「具体的には創業期以来の会社全体の方針の資料があったり、あらゆるナレッジが整理されているので、自分自身でいくらでもオンボーディングできる状態といっても過言ではないと思います。特に効果のあるものとして、顧客との商談動画は顧客情報・製品情報などあらゆるものが詰まっていて全社員で共有できているので、オンボーディングを加速させている手応えがあります。」と自信をのぞかせた。
続いて狭間氏が質問に答えた。
「入社したての時に重要なのはコミュニケーションの量なので、聞きたい時に聞ける環境が大事です。先ほども話したように採用オーナーが1週間ほど行動を共にするわけですが、別行動の時があったとしても電話をつないで困ってることがないか聞く、という体制になっています」
井本氏は関連した質問として「フルリモート社員のオンボーディング対応についてはどうしていますか」と狭間氏にたずねた。それに対して狭間氏は「フルリモートでの採用はコロナが終わった今はもうしていませんが、原則最初の2週間~1ヶ月は出社してもらうようにしています」と回答した。
宮下氏は、社員が自らキャッチアップできる環境作りについての課題として「社内システムに情報が溢れていて、どこから見ていいかわからない状況」を挙げる。井本氏は「素晴らしいことでは?」と聞き返すが、「情報の取捨選択に時間がかかりすぎてオンボードのキャッチアップに必要以上に時間を要するリスクがある」と危機感をにじませた。
「採用にミスはない」あらためて感じるオンボーディングの重要性
セッションの最後に、ふたたび話題はオンボーディングの重要性に及んだ。徳田氏は自社の採用の価値観として「採用にミスはない」という考え方を明かした。さらに「どんな人材も絶対に活躍してもらって素晴らしいキャリアを会社で歩んでいってもらいたいと考えています。そのためにオンボーディングにも注力しています。」と述べた。
そして最後に宮下氏はフィードバックの重要性について言及した。
「フィードバックはする方も受ける方も勇気が必要です。弊社もフィードバックカルチャーを醸成したいという課題を抱えていますが、ここを乗り越えないとリテンションの文脈でリスクが高まってしまいます。
最後に伝え忘れたので言いたいのですが、SmartHRではフィードバックカルチャーを作るための研修制度をCXOやVP含めた全社員共通で行っています。なぜかというと共通認識、共通言語、共通感情を生み出すためにはある程度の知識は必要だからです」
オンボーディングは入社時だけのものではなく、全社員がエンゲージ高く、パフォーマンスを発揮するために必要な根幹であることを訴え、セッションは幕を閉じた。
取材後記
今回のセッションでは、ナレッジワーク、ハコベル、SmartHR、newmoといった注目のスタートアップが、オンボーディングの重要性とその具体的な施策について議論した。各社が独自に取り組む方法が共有され、特に「採用オーナー制度」や「4日間の座学プログラム」など、エンゲージメント向上を重視した施策が共感を集めた。
さらにオンボーディングは新入社員が自ら成長し、組織の一員として活躍できる環境を整えるために重要であることが強調された。今回のセッションで示されたように、オンボーディングは単なる入社時の手続きではなく、継続的なフォローアップとフィードバックを通じて、社員のエンゲージメントとパフォーマンスを最大化するための基盤であることが再確認できた。
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(編集:眞田幸剛、文:久野太一)