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企業のオープンイノベーションが「うまくいかない理由」を語ってもはじまらない。

企業のオープンイノベーションが「うまくいかない理由」を語ってもはじまらない。

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6月30日に、日本経済新聞 電子版にて「企業のオープンイノベーション なぜ空回り?」という記事が掲載された。同記事の導入部では、内閣府に設置された政府知的財産戦略本部が、大企業がベンチャー企業と組んで革新に挑む「オープンイノベーション(OI)」が苦戦している現状を報告書にまとめたと紹介。6月21日に政府知的財産戦略本部が発表した「ワタシから始めるオープンイノベーション」概要/報告書)を引用し、以下のような言及もされている。 


日本のOIが振るわない背景として、危機感先行でミッションが不明確なままOIに着手しがちだと分析。(1)担当者は上司の指示や他社の成功など外的要因で取り組む(2)経営者は担当者任せ(3)既存組織はOIに対して冷淡または反発――といった意識が目立つという。 

担当者は「なぜ私はOIをやるのか」という内発的動機が薄いまま、「どのようにやるのか」という方法論に走りがちだという。その結果、形を整えることにエネルギーを使い、大きな変革につながらない「エセOI」に陥ってしまう例が多いと報告書は指摘している。

「企業のオープンイノベーション なぜ空回り?」(日本経済新聞 電子版)より抜粋


同記事内では、OIがどうすれば成功に導くことができるのか具体的な解の提示がされないまま、文章が終えられている。一方で、実際の「ワタシから始めるオープンイノベーション」の報告書は以下のように、革新的な価値を創造する「実質的なOI」は以下【図1】のようにまとめられ、そのために求められるマインド・アクションも【図2】のように言及されている。

▼【図1】”実質的なOI”とは

▼【図2】実質的なOIに求められるマインド・アクション

さらに、「ワタシから始めるオープンイノベーション」の報告書には、OIに関する人と組織に対する診断項目が200以上設けられている(以下、【図3】【図4】参照)。これをチェックし、実践することで、OI実践の風土を醸成することに、ひと役買うことはできるだろう。

▼【図3】OIに関する人に対する診断項目(抄)

▼【図4】OIに関する組織に対する診断項目(抄)

「ワタシから始めるオープンイノベーション」の報告書内に記載されている“本質的な部分を取り違えた OI”=”エセOI”と揶揄されるような「やらされ型OI」は確かによくあるものだ。これを乗り越えるためには、ここに書かれていることを反意すればうまくいくのだろうか?

実際に反意してみよう。「具体的な目的を持ち、主体性をもって取り組みべし」――果たしてそれだけでOIはうまくいくのか?……そうは思えない。OIは方法論・手段であり、手段であるということは成功のポイントもしっかりとあるのだ。

■まずは「コンセプトメイク」に着手すべき

例えば、OIの最初の成否は、企業同士の「出会い方」にある。求める技術やアイデアを有した企業と出会うためにはどうすべきか。まずは、目的の具体化、すなわち「コンセプトメイク」だ。これはどのような領域に参入して、どこへ向かっていきたいのかを明確にすることことから始まる。

さらに、コンセプトメイクには、「①目的の明確化」「②参入領域の明確化」「③ターゲットの明確化」「④事実に基づく自己紹介」「⑤ビジョンを伝える自己紹介」の5つのステップがある。

「目的の明確化」「参入領域の明確化」という2つのプロセスを通して、なぜ、OIという手法を今回取り入れるべきなのか。その上で、どのような課題を解決するのか。その領域への進出して、OIで何を実現したいのか。課題と自社の戦略を照らし合わせて、どの領域を狙うのかを明らかにしていく。

そして次に取り組むのは「ターゲットの明確化」だ。これには、以下図の「フレームワークで考える参入領域の整理」を活用してほしい。たとえば、人材不足で配送の効率化が課題になっている運送会社の場合、新人ドライバーでも効率的に配送できるようにしたい。この場合は、「既存×既存」の領域だと整理できる。配送方法の改良・進化によって顧客へのベネフィットを向上させるという目的だ。

「配送方法の効率化」という観点から考えられる道筋のひとつは配送情報の整理と展開。ほかには、新たな配送手段の確立。前者であれば、AIやビッグデータに強みをもった会社とのOIが思いつく。そして、後者のように新しい配送のカタチを追求したいなら、ドローンやその他ロボティクスに強みをもった会社とのOIが想起される。

コンセプトメイクを実践する中で、「誰に共感してもらいたいか」を考えるのは大切だ。――次のステップは、「事実に基づく自己紹介」。自分が何者なのかが明確でなければ、相手企業にとって怪しまれてしまう。OIが普及すればするほど、企業の提供するアセットが本当に信頼できるのかを問われるようになってくる。「アセットを使えるつもりで会いに行ったのに、使えなかった」という現実があると共創は生まれないのだ。

■「真似ぶ」べき、2つの成功事例

また、成功事例から「真似ぶ」ことも、OIの実践するうえでの大きな後押しになるだろう。ここに、二つの事例を紹介したい。一つ目は、宮崎県で近海かつお一本釣り漁船「第五青龍丸」を操業する浅野水産と、東京のデータサイエンス・ベンチャービルダーFACTORIUM(ファクトリアム)の共創プロジェクトを取り上げる。

浅野水産が抱える課題は「高齢化」だ。今後、高齢化によって漁業従事者が減少し、事業に悪影響が出ることを見越して、水産業にイノベーションをおこそうとしている。

現在の水産業は、ベテラン漁師の長年の勘と経験に寄るところが大きい。このベテラン漁師の勘を、海水温データや潮流計、魚群探知機などさまざまなデータを解析してAI化できれば、水産業にイノベーションがおこせると考えたのだ。――その課題とビジョンに共感したのが、FACTORIUM。浅野水産の存在を知って水産業を調べたところ、同社のAI技術によって価値提供できる余地が大きいことに気づく。ベテラン漁師の勘と経験には、衛星やさまざまなセンサー情報という裏付けがあり、そのプロセスのAI化に乗り出した。

また、二つ目の事例として取り上げたいのは、富士通と画像認識AIスタートアップのアジラによるOIだ。富士通は、外出した認知症の高齢者が帰宅できずに困る「帰宅困難者」の課題解決に取り組んでいた。困っている人を助けたい――。そのビジョンに共感したのが、AI技術を使って高齢社会の課題を解決したいと考えていたアジラ。同じ課題を持っていたからこそ、自分たちの持つテクノロジーを活用したいと、すぐにプロジェクトがスタートした。そして東京都町田市をフィールドに、帰宅困難者を見守るサービスの実証実験も行われ、成果をあげている。

■OIが当たり前になる世の中に

企業同士のOIは、5つの手順に沿ってコンセプトメイクすること、そして数ある事例から「真似ぶ」ことによって、確実に「OIの空回り」を抑制することができるはずだ。「日本ではOIはうまくいかない」といった揶揄する声を払拭し、OIが当たり前になる世の中を作り出すためにも、本記事でお伝えした具体的なOI手法を参考にしてほしい。

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