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音声ビジネスの可能性 ー Voicyに込められた創業者の想い

音声ビジネスの可能性 ー Voicyに込められた創業者の想い

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スタートアップ起業家たちの“リアル”に迫るシリーズ企画「STARTUP STORY」。――今回登場していただくのは、音声メディア「Voicy」を展開する株式会社Voicyを創業した緒方憲太郎氏だ。

 公認会計士になるも、29歳の若さで日本を飛び出しニューヨークへ、そして日本に帰ってきてからベンチャー企業のアドバイザーを経て起業。Voicyを創業する前もいくつものビジネスに携わってきた緒方氏が、音声ビジネスに可能性を感じたのはなぜなのか。異色のキャリアを深堀りしながら、緒方氏が今のビジネスにかける想いをお届けする。

株式会社Voicy 代表取締役CEO 緒方憲太郎氏


「ためらっていたら何も始まらない」アメリカで身についた踏み込む勇気

――緒方さんは最初のキャリアとして公認会計士を選んでいますが、公認会計士を目指した理由について教えて下さい。

緒方:学生の時からビジネスに興味があったので、いろんな会社に転職したいと思っていました。しかし、実際に何度も転職するのは限度があると思ったので、公認会計士になれば大義名分を持って会社の裏側を知れると思ったのです。

もう一つの理由があって、29歳の時に会社を辞めて留学に行ったのですが、学生の時からいつか会社を辞めて好きなことをしたいと考えていました。海外に行くことまでは考えていませんでしたが、資格があれば会社を辞めてもまた仕事ができると思い、公認会計士を目指したのです。

――公認会計士の経験は経営にも活きていると思いますが、特に公認会計士の仕事が役立っていると思うことはなんですか。

緒方:様々な会社のリスクを見てきたので、経営リスクに対する感覚は研ぎ澄まされたと思いますね。公認会計士は不正が起きることを前提に、性悪説に立って仕事をしているので、楽観的にならず現実をシビアに見ながら経営できるのはメリットだと思いますね。

――公認会計士を辞めて留学に行ったきっかけについても教えて下さい。

緒方:公認会計士は3年続けると本試験を受けられて、試験に合格して一人前になれます。私もその試験に合格して一段落したタイミングだったので、次に何をしようか考えていたところでした。

海外に行こうと思ったのは、私が座右の銘にしている「道に迷えばおもろい方」という考えからです。もっと見たことのないものを見て、経験したことのないことを経験するために、どんな世界か分からない海外に行こうと思いました。

――留学中はどのようなことをしていたのでしょうか。

緒方:最初はオーストラリアの語学留学に1ヶ月通いました。オーストラリアはとても気に入ったのですが、1年間滞在している留学生がほとんど英語を話せていないのを見て、もっと学べる環境を求めてボストンに移りました。

ボストンではたくさんの友達ができて、世界中から来ている友達の家に遊びにヨーロッパなどにも行きましたね。勉強だけでなく、友人のオーケストラが単独公演をすると言うので、資金調達から運営まで先頭に立って行うなど、未経験のビジネスも経験させてもらいました。


――海外で積極的にコミュニケーションをとっていたんですね。アメリカでは英語もかなり上達したのですか。

緒方:いえ、英語はあまり話せませんでした(笑)。TOEICも450点でしたし。それでも人と関わらなければ何も始まらないので、頑張って話しかけていましたね。苦手な英語で話しかけるのはイヤなものでしたが、話しかけなければせっかく海外に来たのに楽しめません。

もともと物怖じする性格でもありませんでしたが、当時は腹を決めて話しかけていました。「ためらっていたら、何もできないで終わってしまう」ということを改めて気づくきっかけとなりましたね。

――起業にためらってしまう人にも同じことが言えますね。

緒方:起業にためらってしまうくらいなら、起業はしない方がいいと思いますね。欲しいものや叶えたい世界があって起業するのに、ためらってしまうのは欲しい気持ちがそこまで強くないということですから。ためらうこともないほど、強烈に欲しいものや叶えたい世界が出来た時に起業すればいいのではないでしょうか。

常識が違うベンチャー業界に驚きの連続

――アメリカでも公認会計士として働いていますね。日本とアメリカのビジネスシーンで違いを感じたことはありますか。

緒方:そもそも国が違うので全てが違いますが、強いて言うなら「アメリカのビジネスパーソンは常にクビになる覚悟で働いている」ということですね。会社に対してちゃんとバリューを出さなければクビになりますし、バリューを出せば結果が返ってくるのでサボるメリットがありません。

普通に考えれば当たり前のことですが、今の日本を見ているとバリューを出していないのに、会社に要求ばかりするビジネスマンもいて違和感を持ちます。

多少ドライな部分はありますが、アメリカのビジネスマンはたくさん稼ぐためにたくさん働きます。逆にハードな競争環境が好きでない人は、そこそこ働いてそこそこの生活に満足しています。全てが自己責任なので、自分の生き方についてみんなが真剣に考えているのが、日本とアメリカの差だと感じました。

――日本に帰ってきてからは、トーマツベンチャーサポート(以下、TVS)の立ち上げに携わっていますが、そのきっかけについても教えて下さい。

緒方:アメリカにいる時に、現在TVSの代表をしている斎藤祐馬とFacebookで繋がりました。お互いに面白いという印象を持ったので、日本に帰ったら会う約束をしたのです。最初は転職を考えていたわけではありませんでしたが、彼の話を聞いていて、ゼロから新しいものを作ることに興味を感じて惹かれて転職を決意しました。

――ベンチャーをサポートする仕事は、公認会計士の経験が活きる場面もあったのでしょうか。

緒方:似ている仕事だと思っていたのですが、始めてみると思ったほど似ていませんでしたね。得意なファイナンスに関しても、スタートアップは文脈が違うので思っていたよりも自分の経験が活きることはありませんでした。6ヶ月で社員数が倍になるのもザラで、最初のころは驚きの連続でしたね。

スタートアップ業界について勉強しようにも、学ぶための本も資料もないため、とにかく人に直接聞きまくるしかありません。当時は兎にも角にも経営者にアポをとって話を聴き、スタートアップに関連するイベントには全て出席して、スタートアップ業界についてキャッチアップしました。

――ベンチャーをサポートする立場から、自身で起業しようと思ったきっかけについて教えて下さい。

緒方:起業家と同じ視点を自分でも持ちたいと思ったからですね。ただし、いきなり起業したわけではなく、正社員を続けながら副業でビジネスのネタを探しては事業化のチャンスを伺っていました。

Voicyを作る前にもいくつかビジネスを考え、中にはビジコンで入賞するアイディアもありましたね。

ーー起業前からビジネスを作り始めていたのですね。

緒方:よく起業を決めてからビジネスのネタを探すかたもいますが、私は違うと思っています。「起業のために事業があるのではなく、事業を成功させるために起業する」わけですから。

事業のネタを探すのも、その時に始めたのではなく、ずっと前から考えるのがクセでやっていたことです。本気でやりたいと思えることが見つかるまでは、趣味のような感覚でしたね。


「農業型ビジネス」で国民が誇れる会社を作りたい

――いくつも事業のアイディアを作ってきて、Voicyで起業しようと思った理由はなんだったのでしょうか。

緒方:Voicyを作ってみて、副業で終わらせたくないと思ったからです。うまくいく確証はありませんでしたが、Voicyに関しては本気でやりきりたいと思うほど、ワクワクする未来を思い描けました。今は目から情報を入れるのが当たり前の社会ですが、もしも耳で情報を入れるのが当たり前の社会になったら、そんなコンセプトにとても惹かれたのです。

――サービスを作っていて苦労したことがあれば教えてください。

緒方:プロダクトの答えが全くないことですね。Voicyは誰かの困りごとを解決したり、ニーズを満たすためのビジネスではありません。そのため、こうしたら上手くいく、という方程式がまったく見えないのです。思いもよらない施策がビジネスを進めることも多く、いつも手探りの状態で答えを探しています。

「農業型ビジネス」の難しいところですね。

ーー農業型ビジネス?

緒方:ビジネスは大きく「漁業型」と「農業型」に分けられます。漁業というのは既に魚がいるところに網を投げて魚をとりますよね。つまり、ビジネスでいうなら既に市場があるとことにビジネスを作ることです。

現在、成功しているスタートアップもほとんどが漁業型です。課題が明確に見えているので、それを解決するための答えも見つけやすいですからね。

反対に農業は何もないところで土を耕して、種を植えて育てていきます。市場のないところにサービスを作って、自分たちで市場を作っていくわけです。社会に明確なニーズがあるわけでもなく、自分たちで「声の魅力を届ける」というビジョンを立てて、どうしたらいいか試行錯誤しています。何が正解か分からない中で模索するのは難しいですね。


▲ボイスメディア「Voicy」

――もし同じように農業型のビジネスで起業しようしている方がいたらどうアドバイスしますか。

緒方:「やめた方がいい」と伝えますね。今あるサービスのほとんどは、誰かの困りごとを解決したりニーズを満たすためのものなので、簡単とは言いませんが方程式がわかりやすいです。

一方で私達がやっていることは、方程式がわからないなかで、肌感で答えを探しているようなものです。ユーザーも明確なニーズがあるわけではないので、ユーザーアンケートをとっても、それがそのまま答えになるわけではありません。それくらい難しい農業型のビジネスを勧めることはできません。

ーーそんな難しい農業型ビジネスを進めていく上で、どんな人たちを仲間にしていけばいいのでしょうか。

緒方:一つは会社のビジョンを一緒に目指したいと思ってくれる方ですね。どんなに優秀でも自分のキャリアのために転職しようと思っている方は採用しません。

これを見分けるのは難しいのですが、私が注意して見ているのは「誰かのために頑張った経験があるか」です。例えば部活でも、自分がレギュラーになれなくてもチームが勝つために努力できるかどうかですね。

もう一つは想像力が豊かなこと。何度も言うように、私達のビジネスには正解がありません。私達が言ったことや、決められたことばかりしていてもビジネスが進むとは限らないのです。ですので、どうしたらうまくいくのか自分で想像して実行できる人がいいですね。 

――最後に緒方さんが農業型のビジネスにこだわっている理由について教えてください。

緒方:アメリカにいた時の話なのですが、AppleやGoogleの社員でもないのに、それらの会社が自分たちの国の会社であることを誇りに思っている人たちがたくさんいました。日本でいうとトヨタを誇りに思っているのと同じようなことでしょうか。

私も国民が誇りに思える会社を作りたいと想い、なぜそれらの会社が国民の誇りになっているか考えた時に、社会に付加価値を作ったからだという答えにたどり着いたのです。

漁業型のビジネスは誰かの負を解消する、いわばマイナスをゼロにするビジネスです。しかし、社会に新しい価値を生み出すには、人々のニーズを満たしているだけでは不十分で、新しい未来に導いていかなければなりません。私も日本の人々が誇りに思える会社を作りたいと思い、農業型のビジネスにこだわっているのです。

編集後記

答えのないビジネスに、難しさとやりがいを感じている緒方氏。もしビジネスとしての成功を求めるだけならば、もっといいアイディアもあったのかもしれない。それでも緒方氏がVoicyにこだわるのは、単なる事業の成功を超えたビジョンにワクワクしているからなのだろう。「お金以外に何も生み出さないビジネスは、貧しいビジネスだ」とは、ヘンリー・フォード の言葉だが、緒方氏がこれから何を生み出すのかが楽しみだ。

(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平)

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コロナ禍をはじめとする、社会の変容が激しい昨今。よりスタートアップの重要性は高まっている。そんなスタートアップ起業家たちの“リアル”を追い、これからの未来を紐解きます。