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約3年でイノベーション活動を大きく推進してきたOKIが、次の一手に込めた狙いとは?

約3年でイノベーション活動を大きく推進してきたOKIが、次の一手に込めた狙いとは?

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社会課題の解決を目指し、独自の技術を活かした新規事業を次々と発表している沖電気工業株式会社(以下「OKI」)――。昨年の「CEATEC 2019」では、人手不足を解消するためのサービスロボット「AIエッジロボット」を出展し、注目を集めた。

同社は2017年より、新たな事業の柱をつくるべくイノベーション活動に取り組んでいる。2018年4月にはイノベーション推進部を立ち上げ、取り組みを本格化してきた。そして2020年4月、イノベーション推進部に研究開発の中枢である研究開発センターを統合。こうして誕生したのが、140名体制にまで拡大した新組織「イノベーション推進センター」だ。センター長は、イノベーション活動の仕掛人であり、旗振り役でもある藤原雄彦氏が務める。

TOMORUBA編集部では藤原氏にインタビューを実施。研究開発センターを統合した狙いや、新組織発足からおよそ6カ月を経ての変化、大企業からイノベーションを興すための秘訣について伺った。本記事では、OKIイノベーション活動の変遷を辿りながら、同社が次の一手に込めた狙いについて紹介する。


■沖電気工業株式会社 イノベーション推進センター センター長 藤原雄彦氏

1987年入社。交換機の開発に従事し、局用交換機サブシステムのプロダクトマネジャーとしてアトランタに駐在。帰国後はモバイルルータの商品企画、マーケティング部長、共通技術センタ、情報通信事業本部 IoTアプリケーション推進部 部門長を歴任。イノベーション推進には準備期間から携わり、2019年より現職。

5名の組織からスタート。イノベーションを興すための「独自の仕組み」を構築。

――まずは改めて、御社がイノベーション活動に注力することになった背景からお伺いしたいです。

藤原氏 : OKIのイノベーション活動は2017年にスタートしました。背景にあるのは、既存事業だけでは今後、右肩上がりが期待できないことです。というのも、近年のOKIは、複合機とATMで収益を上げてきましたが、いずれも扱うものが紙や紙幣。「デジタルシフトしていかねばならない」との考えがありました。しかし、どのようにイノベーション創出に取り組むべきなのかが分かりません。模索する中で出会ったのが、JIN(Japan Innovation Network ※1)だったのです。

JINから「マネジメントシステムでシステマティックにイノベーションは興せる」という話を聞き、経営陣も含めて「これだ」という感触を得ました。さらに、JINの「社会課題を起点にイノベーションを興そう」という考え方も、当社の方針と合致していました。そこで早期にその仕組みを取り入れたいと考え、動き始めたのが2017年の下期です。当初はイノベーション・プロジェクト・チーム(通称:IPT)と呼ばれるわずか9名のチームで、私もそのチームの一員でした。

※1: 一般社団法人Japan Innovation Network (JIN)は、大企業・中堅企業のイノベーションを支援する加速支援者(アクセラレーター)。国連開発計画(UNDP)との共同運営にて、世界の課題をビジネスで解決するオープンイノベーションのプラットフォーム「SHIP(SDGs Holistic Innovation Platform)」を運営する。

――そのプロジェクトチームでは、どのようなことを?

藤原氏 : IPTのミッションは、「2カ月でイノベーションを興す仕組みを構築すること」でした。チームは社長直下に組成され、週に1回の頻度で社長とディスカッションをしながら、プロセスを練り上げました。そして、2018年4月に、イノベーション推進センターの前身であるイノベーション推進部をコーポレート内に立ち上げたのです。

――当初から、鎌上社長のイノベーション創出に対する強いコミットがあったわけですね。

藤原氏 : はい。社長や会長の強いコミットがありました。先ほどお話した通り、主力事業の単調な右肩上がりが困難な状況の中、次世代のOKIを担っていく新規事業が必要です。経営陣もそうした危機感を持っていました。毎年11月に開催しているOKIプレミアムフェアにおいても、社長みずから「社会課題を解決するために、イノベーションを興していく」と宣言し、社外に対しても当社のイノベーションに対する姿勢を発信しました。


イノベーション創出に不可欠な「3つの要素」

――2018年に発足した「イノベーション推進部」では取り組みの活動を「Yume Pro」と名付け、「Yume Proチャレンジ」や「イノベーション塾」といった制度を導入しています。約2年の活動から得られたノウハウや秘訣があれば、教えてください。

藤原氏 : イノベーションを興し続ける組織にするために、私が重点を置いて取り組んでいることが3つあります。1つ目は、新規事業を興すための「活動」です。

当社では年に1回、社内アイデアコンテスト「Yume Proチャレンジ」を開催しています。プロセスに基づいて起案されたビジネスアイデアを競うもので、コンテストに優勝すれば最大1億円の予算が与えられ、アイデアを実現するための仮説検証を行うことができます。昨年のCEATECで脚光を浴びた「AIエッジロボット」は、ここから生まれました。

2つ目は、新規事業を興すための「教育」です。OKIでは全社員を対象に「イノベーション塾」を開講しています。そこでは、新規事業を興すためのプロセスを学びます。社会課題を起点にビジネスアイデアを考え、ビジネスモデルキャンバス(BMC)というフレームワークを使ってアイデアを磨きあげるワークショップです。役員や部門長からスタートし、年間1000名以上が受講し、今では約2500名以上の社員が受講しました。イノベーションの創出を、一部だけではなく全社に広げ、文化につなげていくことが狙いです。


▲「イノベーション塾」で活用されているビジネスモデルキャンバス

3つ目が、「プロモーション活動」です。私は故スティーブ・ジョブズ氏の「いくら素晴らしいものをつくっても伝えなければ、ないのと同じ」という言葉が好きで、まさにその通りだと感じています。従来は1社で完結させることが当たり前でしたが、これからはパートナーを探して共に社会課題を解決する時代。つまり、発信をしなければ仲間集めはできません。ですから、プロモーションの必要性を強く感じています。

この3つが揃わなければ、イノベーションの創出は難しいとの信念を持って、これまでの活動に取り組んできました。

「研究開発センター」を統合した狙いは、「Why OKI」につながるキーリソース活用。

――2年の活動を経て今年の4月、従来の「イノベーション推進部」と「研究開発センター」を統合し、社長直轄の新組織「イノベーション推進センター」に再編されました。研究開発部門と合流した狙いは?

藤原氏 : 2年間活動してみて、ひとつの気づきがありました。ビジネスアイデアを仮説立てて、お客様に提案をするのですが、提案先で「そういうの、あったらいいですね。でも、なぜOKIさんがそれをやるんですか?」と聞かれるのです。つまり、「Why OKI (なぜ、OKIがそれに取り組むのか)」が問われるんですね。言い換えると、「Why OKI」がなければ他社との差別化が難しい。

そこで「Why OKI」につながる当社のキーリソースを考え、行き着いたのが研究開発センターでした。当社の研究開発センターでは、シーズ段階の研究開発等に取り組んでいます。研究開発の技術があったからこそ、これまで新しい製品を世の中に出すことができました。この技術力が私たちの大きな強みです。

であれば、「イノベーション推進部」と「研究開発」を統合して、イノベーションの探索段階から一緒に議論をするほうがいいだろう、と考えました。それが今回の統合の狙いです。

こうすることで、ビジネスモデルキャンバスにおけるキーリソースに強みができますし、「Why OKI」にもなります。もし、そこにOKIでは賄えないものがあれば、パートナーを呼んで付け足せばいい。何かしら当社独自の強みがないと、他社と同じになってしまいます。OKIが長年培ってきた技術は、絶対にこれからも活用できるでしょうし、キーリソースになるはずです。そう考えて、今回の再編に至りました。


▲藤原氏率いる「イノベーション推進センター」のメンバー。各拠点のメンバーを合わせると総勢140名体制となる。

――新体制になって約半年ですが、研究開発センターと合流したことで、変化はありましたか。

藤原氏 : 昨年のCEATECで展示した「AIエッジロボット」の開発プロジェクトが好事例ですね。昨年から研究開発のメンバーとイノベーション推進部のメンバーが連携して、プロジェクトを推進してきました。今年の4月に組織が合体したことで、今では同じ組織の中で議論をしながら、お客様のもとへ提案に行っています。

研究者がお客様のところへと行く機会が増えたことで、当社の成長戦略でもある社会課題の解決につながる研究に集中できるようになりました。研究者がお客様から直接、お困りごとや実現したいことを聞くため、研究者自身がどのような研究開発を行うべきなのか、取捨選択できるようになりつつあります。これは大きな変化です。

――研究者のマインドが変わってきたと。

藤原氏 : 変わってきましたね。研究者は基礎研究や論文、技術にばかり目がいきがちです。しかし、当社における研究開発の目的は、社会課題を解決すること。社会課題の解決につながらない研究は、辞めてしまってもいい。研究開発を、OKIの成長戦略に沿った要素技術やキーリソースを開発する組織へと変えていく必要があると考えています。


▲2019年のCEATECで展示された「AIエッジロボット」。

「離れ小島」から「組織全体」へと拡大するために、独自の巻き込みプロセス構築が重要。

――新組織は140名体制だと聞きました。御社はトップのコミットメントのもと、「組織全体」でイノベーション創出に取り組まれています。5名のプロジェクトチームから始まり、他部署を巻き込みながら、会社全体の取り組みへと発展させるに至った秘訣や要因があれば、お聞ききしたいです。

藤原氏 : 大きな要因のひとつは、新規事業だけに取り組む専門部隊を組成したことだと思います。しかし、これだけではうまく機能しません。当社の場合もそうでした。2018年4月にイノベーション推進部が発足した際、チームメンバーは10名でした。まずは他部署の協力を得ずに自分たちだけで新規事業の創出に挑戦しようと考え、特定の領域に絞って活動していました。

そうすると、やはり会社の中で「離れ小島」のようになってしまうんですね。周りからは、「あのチームは、新規事業のような柔らかい部分だけやれていいよね」「(本社に新設した)イノベーションルームは、推進部のメンバーしか使えない場所でしょう」という風に言われてしまうのです。世の中では、エコシステムの中からイノベーションは興すものだと言われています。当社においても、自分たちのチーム内だけで興せるものではないと考え、他部署も巻き込む仕組みに変えました。

――具体的に、どのように巻き込む仕組みにしたのですか。

藤原氏 : まずは営業部です。営業とは絶対に一緒に行動しようと考えました。なぜなら、営業が一番よくお客様のことを把握しているからです。お客様のもとへヒアリングや提案にいく際は、営業と行くようにしました。

それから、事業部です。私たちのチームで生まれたビジネスアイデアは、事業のシナリオがある程度整った段階で、事業部に引き継ぐプロセスにしました。ただし、事業部が「筋がよい」と判断した場合だけです。「筋が悪い」と判断した場合は、跳ねてもらって構わないと事業部のトップに伝え、合意を得ました。

――それを聞いて、事業部の反応はどうでしたか。

藤原氏 : 事業部のトップからは、「筋がよくなかったら、突き返すよ。でも、筋がよいものは自分たちが引き取って、事業に育てるよ」と言ってもらいましたね。こうしたプロセスにすることで、私たちが「離れ小島」になることなく、営業部や事業部と連携して一緒に動けるようになりました。

――大企業からイノベーションを興し続けるには、プロセスの構築が大事だということですね。

藤原氏 : そうだと思います。当社の場合は、イノベーション・マネジメントシステムに関する国際規格(ISO 56000シリーズ)に則った独自のイノベーション・マネジメントシステムを持っています。これが、イノベーションを創出する大きな推進力となっています。そこから、AIエッジロボットといった新たな事業も生まれつつありますね。

取材後記

組織全体でイノベーションを創出するプロセスが構築されているOKI。取材からは、トップのコミットメントのもと、会社全体を巻き込んでイノベーション創出に取り組む様子がうかがえた。今年度からは研究開発がイノベーション専門チームと合流し、「社会課題を解決する」というビジョンの実現に向けて、より一層連携を強化する。会社全体がまさに一枚岩となって、社会の抱える大きな課題に挑んでいる。

同社からどのようなソリューションが生まれ、社会実装されているのか。後日掲載する藤原氏インタビューの続編では、Yume Proから生まれ、今年のCEATECで展示される2つのプロダクト(「AIエッジロボット」と「レーザー振動計」)に焦点をあてて紹介する。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:古林洋平)

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