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【OKI・大武氏インタビュー】 新組織立ち上げからわずか半年。OKIが驚異的な速さでイノベーション活動を推進できる理由とは?

【OKI・大武氏インタビュー】 新組織立ち上げからわずか半年。OKIが驚異的な速さでイノベーション活動を推進できる理由とは?

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2017年よりイノベーション創出に向けた取り組みを進めている沖電気工業(OKI)。2018年4月にはイノベーション推進部を発足。あわせてイノベーション創出活動「Yume Pro」(ユメプロ)もスタートさせた。国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)に掲げられた社会課題にフォーカスし、さまざまなスタートアップやパートナー企業とのオープンイノベーションを進めている。

驚くべきはそのスピード感であり、イノベーション推進部発足後のわずか2カ月後には、ZEROBILLBANK JAPAN(ZBB)のブロックチェーン技術とベネフィット・ワンのポイント交換プログラムを組み合わせた行動変容を加速するためのインセンティブ・ポイントプログラム「Yume Coin」を発表している。

OKIが日系の大手企業としては異例の速さで多彩なイノベーション活動/スタートアップとの共創を実現できている理由はどこにあるのか?――今回はOKI のイノベーション推進部長であり、入社以来、新規営業や特命プロジェクトなどOKIの新境地を切り開く数々の事業を手がけ、“OKIの坂本龍馬”とも称される大武元康氏に、同社のイノベーション組織の実情やスタートアップとの共創スタンス、今後の展望などについて、eiicon・田中みどりが詳しく話を伺った。

■沖電気工業株式会社 経営基盤本部 イノベーション推進部長 大武元康氏

1986年新卒入社。半導体の新規開拓営業や金融機関・官公庁向けの営業を担当した後に、コンサルティング事業の立ち上げを経験。中国・四国エリアの営業責任者を担当後、2016年よりIoTビジネス開発室 統括部長に就任し、2017年11月にはOKI史上初となるアイデアソンを実施。2018年4月より、イノベーション創出活動「Yume Pro」(ユメプロ)の始動に伴い発足されたイノベーション推進部の舵取り役として活躍。

1カ月間、徹底的にディスカッションを重ねることで組織のベクトル合わせを行う

eiicon・田中 : eiiconでは数回にわたってOKIさんのイノベーション活動をレポートさせていただきましたが、今回は2018年4月にスタートした「Yume Pro」の組織体制について、まずは改めてお聞きしたいと思います。

OKI・大武氏 : 4月の発足時点では8名のメンバーでスタートし、キャリア採用のメンバーを1名加えたことにより、現在は9名の組織となっています。今後も各テーマの進捗などを勘案しながら、必要なスキルセットを持った人材を探していく予定です。

eiicon・田中 : どのようなバックグラウンドを持った方々がいらっしゃるのですか?

OKI・大武氏 : 営業出身者が私を含む4名、研究開発出身者が1名、各事業部から3名、キャリア採用が1名というメンバー構成です。営業出身者に関しては社内のFA制度(社内公募制度)を使って自主的にジョインしてきたメンバーですが、事業部出身のメンバーに関しては事業本部の役員クラスに相談し、推薦していただいた方々に参加してもらっています。

▲OKI本社のイノベーションルーム「Yume St」(ユメスタ)にて、「Yume Pro」メンバーとのミーティングに臨む大武氏。

eiicon・田中 : メンバーの構成やバランスについて、とくに重視されたポイントはありますか?

OKI・大武氏 : 少数精鋭のメンバーがそのまま“ミニOKI”として機能するような構成を考えていました。あらゆるOKIの組織の縮図がここに揃っているという状態にすることで、最終的に新規事業がOKIの社内で展開されたときのイメージがつきやすいような組織にしたかったのです。

eiicon・田中 : 部署の立ち上げ当初、メンバーの皆さんのモチベーションや目線合わせはいかがでしたか? FA制度で参加された方はともかく、事業部出身の方々は突然異動となったわけですよね。

OKI・大武氏 : 当初はメンバー間に多少の温度差があったので、そのための底上げは意識しました。今ではイノベーションのためのスペース「Yume ST」(ユメスタ)を活動拠点にしていますが、5月の連休明けまで私たちに与えられたのは既存の会議室一室だけでした。その会議室で部署立ち上げから約1カ月間、メンバー同士で徹底的にディスカッションを重ねたのです。

私たちは今から何をしようとしているのか。どのような意思を持って行動するのか。目標をどこに定めるのか。部屋中のホワイトボードに図や文字を書きまくり、来る日も来る日もディスカッションを続けることでメンバーのベクトルを合わせることができましたし、モチベーションの差もなくなりました。

eiicon・田中 : 1カ月のディスカッションによってベクトル合わせができたことが、その後のスピーディーな展開や意思決定にも影響を与えていそうですね。

OKI・大武氏 : そのときのディスカッションで早いうちに「医療・介護」、「物流」、「生活・住宅」という注力分野を決めたのですが、「誰がどの分野を担当する」といった役割分担をあえてすぐに決めようとはしませんでした。「これからのディスカッションを通してやりたいことを決めよう」ということにして、4月のディスカッション期間が終わった5月の連休明けに、頭をリフレッシュさせた状態で各自がやりたいテーマに対して手を挙げるという方法で最終的な担当分野を決めました。

そのような「自分のやりたいテーマに立候補する」形でスタートしているので、各メンバーが自分の担当分野に関して“やらされ感”ではなく、“自分ゴト”でイノベーション活動に専念することができていると考えています。

権限を委譲してもらうまでは、前例のないことを前に進めにくい状況だった

eiicon・田中 : 早速5月31日にZBBさん、ベネフィット・ワンさんとの3社合同開発による「Yume Coin」を発表されましたね。スピード的に、この話は「Yume Pro」がスタートする4月以前から動いていたのでしょうか。

OKI・大武氏 : そんなことはありませんよ。ZBB代表の堀口さんとやろうと決めたのが4月の初旬なので、話が持ち上がってから約2カ月程度の期間で発表に至っています。

eiicon・田中 : そんなに速い期間で仕上げられたのですね!ZBBの堀口さんとは、どのようなきっかけで出会ったのですか?

OKI・大武氏 : 私はもともとイノベーション活動に取り組むにあたってのキーコンポーネントとしてブロックチェーンは外せないと考えていたのですが、メンバーのひとりから「イスラエルから帰ってきた、ちょっと変わった人がいるので会ってみますか?」と言われて、お会いしたのが堀口さんでした。

お会いしたその日にディスカッションをして、その日の夜には「お互いのYumeを語り合い、一緒にやろう」という話が決まりました。ブロックチェーンに関する技術的な話がバチッと噛み合ったこともあり、その後はトントン拍子で進んでいった感じですね。

eiicon・田中 : ZBBの堀口さんにもお話をお伺いしたことがあります。堀口さんは、まず大きなビジョンの話をして、それに共感しあえる大企業と共創したいと仰っていたのですが、大武さんと堀口さんもそういったお話をされたのでしょうか。

OKI・大武氏 : 私は彼と初めて会ったときに「大武さんは人生で何を成し遂げたいのですか?」と聞かれました。いきなりで驚きましたが(笑)、私は「イノベーション活動に着手し始めたときから、人々が健康な状態で天寿をまっとうできる世界を作りたいと思っている。それが自分の最終的なゴールだ」という、かなり壮大なビジョンをいろいろと語りました。最終的に堀口さんには、「やられた〜!そこまで目指してやられるんですかOKIさんは!」と彼独特の表現で共感してくれたのです(笑)。

eiicon・田中 : イメージがわきます(笑)。大武さんは堀口さん以外にも多くのスタートアップの方とお会いしていると思いますが、どのような基準で協業できるか、そうでないかを判断されているのでしょうか。

OKI・大武氏 : パートナーに関して条件や基準を明確に決めているわけではありません。ただし、やはり最後はパッションですね。その事業を進めていくにあたって「どれほどのパッションを持っているのか」という部分を最も重視しています。あとは一緒に走っていくベクトルの方向性が合っているかどうかということも大切しています。

eiicon・田中 : 「Yume Coin」に加え、7月に行われた「イスラエル デジタルヘルスケア イノベーション最前線」セミナーでは、ZBBさんに加え、株式会社no new folk studio(NNS)とも連携した光るシューズを利用した歩行データ分析(※)のデモも行われましたが、社内外の反応はいかがでしたか?

※歩行の仕方によって靴のソール部分が発色。歩き方などのデータが蓄積・分析され、人体に現れる諸症状の早期発見に貢献する。(下画像がセミナーの模様)

OKI・大武氏 : 「Yume Coin」の発表時点でも、社外の皆さんからはさまざまな形で反応がありましたが、社内の人たちはまだまだ静観しているといった感じでした。ところが、イスラエルのセミナーに関する記事が社内イントラにアップされると、私が「OKIらしくない格好をして光る靴を履いて歩いている」様子が拡散され、社内でも役員から呼び止められるぐらい注目されるようになりました(笑)。実現しようとしていることに興味を持ってもらえたり、共感してもらうことも増えてきた感じがしますね。

eiicon・田中 : 確かに光るシューズはかなり衝撃的でしたよね(笑)。繰り返し発信していくことで、社内も徐々に巻き込めてきていることは素晴らしいですね。次々と取り組みがオープンになっていますが、大武さんがこれまでにOKIで体験してきた仕事のスピードと現在のイノベーション推進部で進めている仕事のスピード感は、やはりかなり違うものなのでしょうか?

OKI・大武氏 : 何倍も違うと思いますね。イノベーション関連では、通常業務では何カ月もかけて検討するような事案であっても、その場で即決して進めていますからね。ヒト・モノ・カネに関してかなりの部分で権限をいただいているからこそそれができるのです。

eiicon・田中 : 大武さんが権限を持って進められることでスピードが出ているのですね。

OKI・大武氏 : はい。ただ、最初から権限を持って進められていたわけではありません。昨年11月にOKIで史上初となるアイデアソン(※)を外部の方の斬新なアイデアを募りたくて開催したのですが、そのときは非常に苦労しました。前例のないことなので、誰に承認をもらって進めるのかというルールが社内になかったので、私が役員一人ひとりに企画を説明してまわって地道にOKをもらうしかなかった。これにとても時間がかかったのです。

※アイデアソンのレポートはeiicon labで配信中 https://eiicon.net/articles/366

eiicon・田中 : 大企業の方々が新規性の高い取り組みを進める際に苦労されている部分ですよね。

OKI・大武氏 : そうですね。実現したいこととそれがどんな良い影響を与え会社を変革するのか。1人1人に納得してもらうまで行脚しました。そんなことがあったので、イノベーション推進部や「Yume Pro」を作るときに「このぐらいのヒト・モノ・カネ、リソースが必要です」という計画書を作って社長に提出し、権限を委譲してもらいました。それによって、今はスタートアップの方と何を進めるにしても、私がその場で決裁できるようになり、進められるスピードが格段に上がったと感じています。

短いタームで「届くか届かないか」という絶妙な目標を設定することが重要

eiicon・田中 : 「Yume Coin」と連動した歩行アプリと光るシューズをデバイスとしたソリューション、さらにはリビングラボ構想など、ヘルスケア領域を中心に多様な取り組みを進められていますが、直近で話が進んでいる新しい企画などがあったら教えてください。

OKI・大武氏 : 「Yume Coin」と連動した歩行アプリと光るシューズに関するソリューションに関しては、全国のさまざまな大学や医療センターの専門家の方々からご意見をいただいているところです。取得したデータに関する学術的な裏付けを行うことでソリューションとしてのレベルアップを図っており、10月以降には北海道の岩見沢市で実証実験を行うことも決まっています。

eiicon・田中 : なぜ岩見沢市なのでしょうか?

OKI・大武氏 : 岩見沢市は北海道大学COIと「食と健康の達人」拠点としての取り組みを進めており、高齢化対策や過疎化対策も含めて街としてのバリューを出すためのさまざまな活動を推進している自治体です。住民の方々の健康に関するデータを集めて健康長寿社会の創造を目指しているなど、国を挙げてデジタルヘルスケアの導入に取り組んでいるイスラエルと同様、私たちが進めようとしているイノベーションに対して非常に理解のあるエリアです。私は1年以上前から岩見沢市の方々とのお付き合いがあり、お互いにさまざまな状況も整ったということで、連携して実証実験を進めさせていただくことになりました。

eiicon・田中 : それは楽しみですね。ヘルスケア以外の注力分野である、物流や生活・住宅に関しての取り組みについてはいかがでしょうか。

OKI・大武氏 : 粛々と進めていますが、現状はメンバー各自がアイデアをブレイクスルーさせるために悩み続けているところです。テーマを問わず重要なことの1つに、プランニングの段階で、みんなで話していて「ワクワクできるかどうか」があると思っています。自分たちが心から必要だと思いワクワクできるような内容にするために、メンバー各自が磨きをかけているところであり、それがSDGsに基づく社会課題の解決につながっていることが大切です。

例えば、大学の理学療法士の方々と「Yume Coin」の話をすると、とてもうけるんですよ。リハビリは辛いことも多いので、楽しみながらご褒美が得られるインセンティブの仕組みが、患者さんたちのリハビリを頑張るエネルギーになるし、それがこれまでのアナログなものではなく、テクノロジーを活用しさらに良い仕組みになるということで。そうしたワクワク感や人々が前向きになれるものを、物流や生活・住宅分野でも生み出していきたいと思っています。あまり深刻に考え過ぎず、みんなが笑顔になれるようなものを提供する必要があると考えています。

eiicon・田中 : 大武さんは、今後はどのような企業やスタートアップと共創していきたいと考えていますか?

OKI・大武氏 : これまでのセミナーやイベントでもお伝えしているように、ヘルスケアの分野では生活習慣病や認知症の未病・予防にアプローチしていきたいと考えているので、同分野に関して興味・関心があり、パッションを持っている方々はどんどんアプローチいただきたいと思っています。また、物流や生活・住宅に関しても同様に進めていきます。イノベーション推進部に各分野の担当者がいますので、共創したい方とは積極的にディスカッションさせていただきますよ。

eiicon・田中 : 最後になりますが、「Yume Pro」をスタートしてから半年も経たないうちに、さまざまなイノベーション活動をスムーズに進められているという印象を受けています。これは他の大企業のイノベーション活動と比べても異例のスピードだと思うのですが、その点を踏まえ、これからオープンイノベーションに挑戦したいという大企業の担当者の方々に向けて、何かアドバイスできるようなことがあればお伺いしたいのですが。

OKI・大武氏 : 私たちも始めたばかりなので、アドバイスなんて言うとおこがましいのですが……、「やっておいてよかったな」と思うことはあります。1つは最初の1カ月間で徹底的にディスカッションを重ね、参加メンバーのベクトル合わせ、意思決定の判断軸を決めたこと。それに加え、短いタームでアウトプットの目標設定をし続けることも重要だと思います。

セミナーやイベントなど、成果を発表する機会とそのアウトプット目標をセットし、そこに向かってみんなで一気に走っていくイメージで進めています。もちろん、長期レンジでの目標設定も必要なのですが、それだけでなく2週間、あるいは1カ月以内のゴールを設定するように心がけてきました。

そのときに重要なのは、”少し高めの目標を設定すること”です。そのままではたどり着けないが、背伸びしたり、ジャンプしたりすれば何とか届くかもしれない…というレベルの目標を設定するんです。そうするとメンバーの熱量や仕事のギア、スピードが一段上がるんですよね。これはこの半年の間に何度も実体験として経験しています。

eiicon・田中 : そうした絶妙な目標設定ができる人ってなかなかいないですよね。すごく大事なことですが、すごく難しいことのような気がします。各メンバーの能力も十分に把握していないとできないですし。

OKI・大武氏 : ある程度は感覚や経験値でやっている部分もあるのですが、メンバーの能力を把握することに加え、共創いただくスタートアップの方々、プレイヤーの熱量みたいなものも同時に見ていますね。「メンバーの能力と共創者の方々の熱量・思考・スピードを掛け合わせたら、ここまではできるのではないか」という見極めが必要かもしれませんね。

取材後記

多くの大企業がオープンイノベーションに取り組んでいるが、社内事情やノウハウの足りなさからスムーズに共創を進められている企業はそれほど多くないというのが実情だ。そうした中、異例のスピードで成果を出し続けているOKIと大武氏のさまざまな取り組みに対する姿勢、考え方、経験談は、大企業で新規事業創出やオープンイノベーションに挑戦している方が参考にできる部分も多かったのではないだろうか。もちろん、最初からすべてが上手く行っていたわけではなく、大企業特有の承認プロセスの煩雑さに苦労された話もお聞かせいただいた。

ただ、大武氏はそこで諦めるのではなく、社内の意識やフローを改革し、メンバーのベクトルをひとつにした。さらには自らの強い信念を共創者に伝え、共にイノベーションを具現化しようとしている。大企業側であっても、スタートアップ側であっても、イノベーションの良き牽引者になるには、大武氏が語るようなビジョンとパッションが必要であり、その強い思いが多くの人々や巨大な組織を動かす原動力になるということを、改めて感じさせられる取材だった。

◆OKIのイノベーション創出活動「Yume Pro(ユメプロ)」についての詳しい情報は、以下をご覧ください。
http://www.oki.com/jp/yume_pro/

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:古林洋平)

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