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Withコロナ時代 -eスポーツ×東京メトロ- 次世代エンタテイメントの共創

Withコロナ時代 -eスポーツ×東京メトロ- 次世代エンタテイメントの共創

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オープンイノベーションに取り組む際に、最も懸念される問題のひとつが事業の停滞だ。事業環境やカルチャーの異なる外部企業との共創においては、互いの「常識」をすり合わせ、足並み揃えながら前進しなければ、事業は停滞するおそれがある。さらに、昨今の新型コロナウイルス問題のように、事業環境が大きく変化した場合には、両社が協力して事業を加速させ、難局を乗り越えなければいけない。

東京地下鉄株式会社(以下、東京メトロ)は、2019年12月から約3ヶ月間にわたってアクセラレータープログラム「Tokyo Metro ACCELERATOR 2019」を開催した。130社の応募企業のなかから採択されたのは、eスポーツのトレーニングプラットフォーム事業などを展開するゲシピ株式会社(以下、ゲシピ)だ。この両社は3月の採択以来、「東京を世界一のeスポーツ都市へ!」を目標に、コロナ禍下においても継続的に共創に取り組んできた。

そして2020年7月、東京メトロとゲシピは、業務提携の準備に関する覚書(MOU)を締結 (※)。今後、東京メトロのアセットを活用した、eスポーツトレーニングジムの運営やeスポーツイベントの開催に向けて、共創を加速させると発表した。

※プレスリリース:「東京を世界一のeスポーツ都市へ!」ゲシピ × 東京メトロが業務提携の準備に関する覚書(MOU)を締結

今回、TOMORUBAではその舞台裏に迫るべく、両社のキーマンたちにインタビューを実施。コロナ禍の混乱の最中でも途絶えることがなかった、共創の取り組みや今後の展望が明らかになった。

〈東京メトロ〉

■東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当 森信治氏

2014年、東京メトロ入社。土木建築物の維持管理部門を経験後、2018年度のアクセラレータープログラムで応募企業のサポートを行うコーディネーターに抜擢。2019年4月より現職。

■東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当 和田孝介氏

大手IT企業グループにおいて財務・経理領域を経験した後、2019年に東京メトロ入社。企業価値創造部に配属され、新規事業企画担当として、2019年度のアクセラレータープログラムの事務局運営に従事。

■東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当 森井亮太氏

メーカー営業を経験した後、2013年に東京メトロ入社。駅員を経て、2019年に企業価値創造部に配属。2019年度のアクセラレータープログラムの事務局運営に携わる。

■東京地下鉄株式会社 鉄道本部 鉄道統括部 管理課 川尻明氏

2016年、東京メトロに新卒入社し、現在は鉄道統括部において鉄道事業のコスト削減業務を担当。2019年度のアクセラレータープログラムにおいて、ゲシピのコーディネーターを担当し、共に最終プレゼンにのぞんだ。

〈ゲシピ〉

■ゲシピ株式会社 代表取締役CEO 真鍋拓也氏

銀行子会社を経て、2007年、ヤフー株式会社に入社。新規事業開発などを担当した後、2018年にVC主催のアクセラレータープログラムに参加。事業案が採択されたことから、eスポーツのトレーニング事業を展開するゲシピを設立。

■ゲシピ株式会社 取締役CTO 松井謙氏

システムエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、2008年、ヤフー株式会社に入社。決済系サービスのシステム開発などに従事した後、2018年、ゲシピの設立に参加。ゲシピではCTOとして、サービス開発を主導している。

東京メトロの駅、路線を活用して「世界一のeスポーツ都市」を創出する 

――はじめに、ゲシピが採択された「Tokyo Metro ACCELERATOR」の概要とコンセプトについて教えてください。

東京メトロ・森氏 : 「Tokyo Metro ACCELERATOR」は、東京メトロがスタートアップ様をはじめとしたパートナー企業と協働して、新規事業を生み出すことを目的としたアクセラレータープログラムです。

これまで東京メトロは、鉄道事業を主軸に東京の都市機能を支える役割を担ってきましたが、今後予想される人口減少社会では、鉄道利用者の減少が見込まれているなど、新たな事業の確立が必要不可欠です。そこで、2016年から「Tokyo Metro ACCELERATOR」を開催し、東京の未来を支えるビジネスアイデアを募ってきました。

2019年度はコンセプトを「みんなが自分らしくつながる未来へ」としました。これは東京メトロのグループ理念である「東京を走らせる力」を念頭に、これからの東京を”走らせる”ためには、東京に生きる一人ひとりの方が自分らしくある状態を作るべきだと考え、設定したものです。

このコンセプトをもとに「つながり」「働き方」「健康」という3つの領域で共創案を募集し、130社の応募のなかから、ゲシピ様をはじめとした2社を採択しました。


▲2016年度から毎年開催している「Tokyo Metro ACCELERATOR」。

――ゲシピの共創案の内容を教えてください。

ゲシピ・真鍋氏 : 私たちが提案したのは「eスポーツのジム運営やイベント開催を通じた、東京の魅力・活力の創出」という共創案です。ゲシピはeスポーツのトレーニング領域で事業を展開するスタートアップで、これまでもeスポーツのオンラインプラットフォームの運営や、eスポーツジムのテスト展開などを行ってきました。

共創案では、ゲシピのeスポーツ領域における知見と、東京メトロさんのアセットを掛け合わせ、東京全域でeスポーツジムやイベントを展開し、東京を「世界一のeスポーツ都市」として世界に発信しようという提案をしました。

――現在、アクセラレータープログラムは多数の企業が主催しています。そのなかでも「Tokyo Metro ACCELERATOR」に応募したのには、なにか理由があるのでしょうか。

ゲシピ・真鍋氏 : 私たちはeスポーツの裾野を広げるにあたって、「草の根的」であることを重視しています。大規模イベントや巨大施設を展開するのではなく、それぞれの地域に根付いて、初心者からプロまで幅広いプレイヤーが、気軽にeスポーツを楽しめるような環境をつくるのが目標です。

なので、eスポーツのトレーニングジムを展開するにしても、例えば公文式の教室のような「どこの街にでもある存在」を目指しています。そうしたときに、東京メトロさんの東京全域に張り巡らされた路線や、地域に根付いた駅施設はとても魅力的でした。


▲「eスポーツをもっと身近に、もっと気軽に!」という事業ビジョンを掲げるゲシピ。(同社Webサイトより) 

――その逆に、東京メトロはゲシピの共創案のどこに惹かれたのでしょうか。

東京メトロ・森氏 : 明確な理念や共創のビジョンを持たれていることはもちろんですが、eスポーツとかけ離れたイメージの東京メトロが共創に取り組むことのインパクトの大きさに惹かれました。これまで自宅でゲームを楽しんでいた人々を外に連れ出すことにもつながるので、需要喚起・顧客獲得という意味でも、魅力的です。

eスポーツは現在、政府主導による市場発展の取り組みが推進されているなど、成長が見込まれるビジネスです。既存の枠組みを越えた新規事業創出をねらう東京メトロにとっては、非常に魅力的な領域といえます。

かといって、これから私たちがゼロからノウハウを蓄積して、市場に参入するのは現実的ではありません。その点、ゲシピ様の共創案ならば、東京メトロのアセットを生かしながら、新たな領域に踏み込むことができます。まさに両社の望みがマッチングする共創案だったと思います。

「壁を感じることは一切無かった」―大企業とスタートアップの垣根を取り払った共創体制

――共創の過程についてお伺いしたいのですが、プログラムの期間中に大企業とスタートアップの「壁」を感じるような出来事はあったでしょうか。

ゲシピ・真鍋氏 : 事前の想像に反して、全くと言っていいほどありませんでした。当初、事業開発におけるスピード感やインフラ面での齟齬は、ある程度は覚悟していました。

しかし、いざプログラムが始まってみると、東京メトロさんはZoomやSlackなどのITツールも積極的に活用されているし、急な打ち合わせにもフレキシブルに対応してくださるなど、スタートアップ側からのストレスはほぼありませんでしたね。

ゲシピ・松井氏 : むしろ、プログラムの最中には、川尻さん、和田さん、森井さんのお三方がゲシピ主催のイベントに参加して、積極的にeスポーツを体験してくださるなど、垣根のない関係で共創にコミットしていただきました。


▲「Tokyo Metro ACCELERATOR2019」審査会でプレゼンするゲシピ・真鍋氏(左)、松井氏(右)。

東京メトロ・森井氏 : 「Tokyo Metro ACCELERATOR」では、東京メトロの有志社員が、パートナー企業様のチームにコーディネーターとして加わります。コーディネーターは、チームの一員として共創案を練り上げるだけでなく、最終審査のプレゼンにも参加するため、パートナー企業様と一体感を持った、熱量の高いサポートができるのだと思います。

――では、そのほかに共創の過程で苦労した点はあるでしょうか。

ゲシピ・真鍋氏 : eスポーツ事業の社会的意義を、最終審査でいかに伝えるかという部分にはかなり力を注ぎました。世間一般的に、eスポーツを「ただのゲームでしょ?」と冷ややかな目で見る人は少なくありません。

そうした人々に対して、eスポーツが個人の成長を促したり、地域の魅力や活力を生み出したりすることを、アピールできるようなプレゼンにしたいと。この点については、コーディネーターの川尻さんを中心に議論を重ねて、資料をまとめていきました。

東京メトロ・川尻氏 : 東京メトロがeスポーツのジムを展開しようとすると、単に駅のテナントにご入居いただく「場所貸し」のビジネスに陥ってしまいがちです。しかし、それではeスポーツ事業の社会的意義をアピールすることはできません。

なので、eスポーツ市場の将来性や、eスポーツジムを東京メトロ沿線上に広げていくことで東京を「面」として活性化できることなどを資料に盛り込み、eスポーツ事業が地域創生やグローバルな都市づくりに貢献することを強調しました。

東京メトロは中期経営計画で「東京の魅力・活力の共創」を掲げていますし、その目標にゲシピ様との共創が寄与することをアピールできたのが、最終選考での評価に繋がったのではないかと思っています。


▲コーディネーター役を務める、東京メトロ・川尻氏。

コロナ禍でも諦めなかった―アクセラ後も着々と進む、共創の現在

――今年3月のプログラム採択後、新型コロナウイルスの感染が拡大し、緊急事態宣言が発令されるなど未曾有の事態に陥りました。コロナ禍により、共創への取り組みに影響は無かったのでしょうか。

東京メトロ・和田氏 : もちろん事業環境が大きく変化しているので、少なからず影響はあります。事業に直接関係はないのですが、ゲシピ様とのお祝いの打ち上げもまだ開催できていません(笑)。

しかし、我々としてはコロナ禍を言い訳にせずに可能な限り事前の計画通りに共創を進めていく予定です。

実際に、3月以降も週1回の打ち合わせをオンラインで継続していますし、共創は着々と進行しています。そうした取り組みを重ねるなかで、事業化のスキームが一定固まりつつあるので、7月に両社による「業務提携の準備に関する覚書(MOU)」をリリースしました。

ゲシピ・真鍋氏 : たしかに、コロナ禍の影響により、eスポーツのジム展開やイベント開催には多少のブレーキがかかっています。しかし、私たちは自社でeスポーツのオンラインプラットフォーム事業も展開しており、今後はオンラインの領域で培った知見を東京メトロさんとの共創に取り入れることも視野に入れています。ゲシピとしても、事業環境の変化に適応しながら、共創を前進させていくつもりですね。


▲「eスポーツジム」のイメージ(プレスリリースより) 

――「コロナ禍を言い訳にしない。」は非常に力強い言葉ですね。ゲシピの皆さんにお伺いしますが、今回のプログラムを振り返って、「Tokyo Metro ACCELERATOR」の魅力はどのようなところでしょうか。

ゲシピ・真鍋氏 : 単なる協業先探しとしてではなく、組織全体でアクセラレータープログラムに向き合ってらっしゃるところですね。コロナ禍においても共創に粘り強く取り組んでくださる点もそうですが、プログラム中も、私たちスタートアップをまるで「おもてなし」するように、真摯に対応してくださいました。

最終審査が終わった後に、審査員をされていた役員の方々が、一人ひとり私のところに名刺交換にいらっしゃったときには驚きました。そうした会社の根底に流れる誠実さを、今回のプログラムでは存分に感じることができ、私はすっかり「メトロファン」になりました。

――それでは最後に、両社の共創の展望について教えてください。

東京メトロ・川尻氏 : 現在の目標は、1店舗目のeスポーツジムのオープンです。まだまだ解決すべき課題は残っていますが、まずは1店舗目を開店して、収益化を実現し、東京全域への店舗展開の足掛かりにしたいと思っています。

そして、そうした取り組みを重ねるなかで、eスポーツを東京のカルチャーとして定着させたいです。MOUでは「東京を世界一のeスポーツ都市へ!」というキャッチコピーを掲げていますが、ゆくゆくはそれを実現し、eスポーツを機軸として東京の魅力や活力を創出し、世界に冠たるカルチャーとして発信していきたいですね。

取材後記

アクセラレータープログラムにおける採択は、オープンイノベーションの出発点。その後の事業開発には、様々な困難が待ち構えている。ましてや、今回の新型コロナウイルスの感染拡大のような、社会全体における環境の変化は、事業開発にとって強烈な逆風だ。そのなかで共創の歩みが止まってしまうのも致し方ないとすら思える。

しかし、そうした難局にあっても、オープンイノベーションを諦めないプレイヤーはたしかに存在している。東京メトロやゲシピはその一員だ。今回のインタビューのなかで口にされた「コロナ禍を言い訳にしない。」という言葉は、両社の不屈の姿勢を象徴するものといえるだろう。

「東京を世界一のeスポーツ都市へ!」―壮大な未来像に向かって、両社が着実に歩みを進めていることが強く感じ取られる取材となった。なお、東京メトロは2020年度もアクセラレータープログラムを実施する意向で、年内にも参加企業の募集をスタートさせる予定だ。東京メトロとの共創に挑戦したいと考える企業にとっては大きなチャンスになるだろう。

(編集:眞田 幸剛、取材・文:島袋龍太)



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