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社外の視点でビジョンの解像度を高める――セコムが『2040年ビジョン』策定にアクセラレーションを活用した理由

社外の視点でビジョンの解像度を高める――セコムが『2040年ビジョン』策定にアクセラレーションを活用した理由

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2026年5月、セコムグループは長期ビジョンとして『セコムグループ2040年ビジョン(以下、『2040年ビジョン』)』を策定し、公開した。創業以来、「安心」を追求してきた同社が、次なる時代に向けて描いたのは、これまでの価値提供をさらに進化させる新たな安心の姿である。センシングとネットワークを強みに、リスクの兆候を捉えて未然に防ぐ「プロアクティブ(事前対応)」と「先回りの安心」を掲げ、その実現に向けた挑戦が始まっている。

そのビジョンを描くプロセスでは、アクセラレーションプログラム「SECOM Acceleration Program 2026」も活用された。社外のスタートアップや企業との対話を通じて、多様な視点やアイデアを取り込みながら、「プロアクティブ」・「先回りの安心」というテーマの可能性を探索。未来のビジョン策定に外部との共創活動を取り入れる、新たなアプローチだといえる。

その背景を探るべく、今回のインタビューでは『2040年ビジョン』策定を担うとともに、アクセラレーションプログラムも主導した、セコム株式会社 オープンイノベーション推進担当 兼 グループビジョンチーム リーダーの沙魚川氏に話を伺った。同プログラムの運営支援を行なう株式会社eiiconの米澤が聞き役となり、ビジョンに込めた思いや策定の背景、プログラム活用の狙い、そこから得られた気づきを紐解いていく。

【左】沙魚川久史氏 (セコム株式会社 オープンイノベーション推進担当 兼 グループビジョンチーム リーダー(Head of OpenInnovation and GroupVision)/東京理科大学 フェロー)

【右】米澤航太郎氏 (株式会社eiicon Consulting事業本部 マネージャー)

プロアクティブに「先回りの安心」を届ける――セコムグループが『2040年ビジョン』で再定義する、これからの安心の在り方

eiicon・米澤氏 : 『2040年ビジョン』のお話に入る前に、まずはセコムグループの事業の特徴や強みについてお聞かせいただけますか。

セコム・沙魚川氏 : セコムグループといえば「セキュリティの会社」というイメージを持たれる方が多いと思いますが、実際にはメディカルやサイバーセキュリティ、さらには国土のデータを計測しアーカイブする地理空間情報など、幅広い事業領域を持っています。そして、これらすべての事業に共通する軸となっているのが、実は「センシング」と「ネットワーク」の技術なんです。

私たちは、施設や身体の健康、サイバー空間、国土など多様な対象をセンシングし、ネットワークを通じて中央に集約。それらの情報を活用するというビジネスモデルで事業展開しています。センシングをベースに、何らかの異変や異常が発生した際に、いち早く察知・検知して復旧・対処できることが、セコムグループのオペレーションの要になっています。

eiicon・米澤氏 : 今年5月、セコムグループ『2040年ビジョン』を発表されました。そこでは、「あんしんプラットフォーム」構想のもと、プロアクティブに「先回りの安心」を届けることを掲げておられます。このビジョンを打ち出した背景や狙いについてお伺いできますか。

セコム・沙魚川氏 : これまでセコムグループは、「安心」を提供する会社を謳っており、「何かが起きても、セコムがいるから安心」というベネフィットを提供してきました。しかし、あえて自己否定的な視点で見つめ直すと、「安心とは、従来のような形だけで得られるものなのだろうか」という問いが浮かびます。本質的な安心を追求するならば、「何も起きないこと」も、「安心」の一つの形ではないか――そうした思考に行き着いたのです。

eiicon・米澤氏 : そうした発想から、プロアクティブ型の「先回りの安心」というビジョンが生まれたわけですね。

セコム・沙魚川氏 : はい。現在、セコムに限らずグローバルにおけるセキュリティの考え方は、センシング技術を使って「何かが起きても迅速に復旧・対処できる」というものが主流です。しかし、私たちはグローバルのセキュリティ・リーディングカンパニーとして、これを既存の枠組みにとらわれず再定義し、「そもそも何も起きないことも安心の一つだよね」と問い直しています。

つまり、これまでの「何かが起きても、セコムが駆けつけるから安心」という価値提供だけでなく、「兆候を事前に察知し、セコムが先回りで対応するから安心」という価値提供もできるグループへと進化しようとしているのです。従来の在り方を根本から変えていく、非常に野心的で志の高いビジョンだと考えています。

▲セコムグループ『2040年ビジョン』(画像出典:プレスリリース

eiicon・米澤氏 : 2017年に発表した『セコムグループ2030年ビジョン』では、センシングとネットワークを軸に安心のプラットフォームを構築する未来を描かれていました。今回の『2040年ビジョン』では、セキュリティを含む安心の次の在り方を提示していく――そうした内容になっているのでしょうか。

セコム・沙魚川氏 : そうですね。以前の『2030年ビジョン』は、「あんしんプラットフォーム」という総合的な基盤を構築しようというメッセージでした。セコムグループだけで閉じるのではなく、異業種も含めた多様なプレイヤーに参画してもらい、プラットフォームを相互利用できるようにする。だからこそオープンイノベーションという考え方が重要でした。

そして今回の『2040年ビジョン』は、『2030年ビジョン』のもとで取り組んできたプラットフォームが少しずつ形になってきたことから、いよいよそれを土台にして「本当の安心とは何か」を再定義するフェーズに入っていることを明示しています。

社外の視点を取り込み、次の未来を描く――『2040年ビジョン』策定にアクセラレーションプログラムを活用した理由

eiicon・米澤氏 : 今回の『2040年ビジョン』の策定にあたっては「SECOM Acceleration Program 2026」も活用されました。未来のビジョンを描くプロセスにアクセラレーションプログラムを取り入れた背景には、どのような意図があったのですか。

セコム・沙魚川氏 : 前提として、なぜ私たちイノベーション部門がビジョン策定に関わったのか、その背景からお話ししますね。どの会社の中にも、その会社の「過去・現在・未来」に関わる仕事があると思っています。例えば、先月や去年といった「過去」を整理してステークホルダーに伝えるのが広報部門。日々の事業活動という「現在」を推し進めるのが、開発や商品企画、営業などの事業部門です。

では「未来」はどの部門が扱うべきなのか。研究開発型の企業やテック企業であれば研究所なども該当しますが、基本的には私たちのようなイノベーション部門が中心となって担うべき領域でしょう。こうした考えのもと、経営企画部門など社内セクションと共に、イノベーション部門が『2040年ビジョン』を作り上げてきました。

eiicon・米澤氏 : 「過去・現在・未来」という時間軸での役割の整理、とてもしっくりきます。イノベーション部門がビジョンを担う必然性がよく分かります。

セコム・沙魚川氏 : それと、私自身、アカデミックでも活動をしていることもあり、常に「社内からの視点」と「社外からの視点」の半々で物事を捉えています。イノベーション部門には、そうした感覚を持つ人が多いのではないでしょうか。やはり、社外のステークホルダーや社内の多様な人たちの魂を揺さぶるには、この「内と外」両方の視点を持つことが重要だと思います。

eiicon・米澤氏 : まさにその「社外の視点」を取り入れて、10年・20年先の未来を形にする手段として活用されたのが、今回のアクセラレーションプログラムだったということでしょうか。

セコム・沙魚川氏 : そうですね。私たちの部門は、いわば「新価値創造部隊」です。本来は、既存事業にはない新しい価値を探索して挑戦的に実装していくことが役割です。そのため、社会と連携した探索プロセスとしては、自社開催の「セコムオープンラボ」など様々なアプローチによく馴染んでいます。今回は、ビジョンを構想するなかで検討していた「プロアクティブ」というテーマを掲げて、アクセラレーションプログラムを活用することにしました。

新規事業であれば、もはや社外のスタートアップとの共創は当たり前ですが、既存事業で広く外部と連携する機会は多くありません。だからこそ、プログラムを通じて広くスタートアップコミュニティに向けて公募を行い、社外の多様な声を集める手法が最適だと考えたのです。その中で、せっかく社外の皆さんと議論できる機会があるのならば、私たちの持つ新しい方向性を問うてみようと思いました。

▲セコム本社で開催された「SECOM Acceleration Program 2026」審査会の様子(画像出典:レポート記事

eiicon・米澤氏 : 外部から広くアイデアを求めたことで、得られたヒントはありましたか。

セコム・沙魚川氏 : ありました。「なるほど、そういう方向性もあるのか」と感じることも多かったですし、私たちが提示した「プロアクティブ」という概念は、想像以上に多様で、幅広く、深掘りしがいがあるテーマだということも再確認できました。一つの研究テーマになり得るほど、深い領域であることに気づけたことは、大きな意味があったと思います。

eiicon・米澤氏 : 「プロアクティブ」がビジョンとして掲げるに相応しい、スケールの大きなテーマだったということですね。

セコム・沙魚川氏 : そうです。不確実性の増す社会のなかで2040年に向けて野心的に取り組むテーマが、簡単に実現できることであれば、ビジョンとして掲げる意味はありません。グループ全体で今後およそ15年という歳月をかけて達成を目指すからには、そのぐらいに深掘りするべきものでなければならないでしょう。アクセラレーションプログラムを通じて、皆さんの提案を拝見しながら、覚悟を持って挑むに値する大きなテーマなのだと改めて実感できました。

手書きで絵を描くところから始まった――『2040年ビジョン』策定プロセスとデザインに込めた想い

eiicon・米澤氏 : 具体的にどのようなプロセスで、『2040年ビジョン』を策定されたのですか。

セコム・沙魚川氏 : 事前にサーベイした膨大な社会分析と議論をもとに、手書きでイメージスケッチを描きながら、叩き台になるコンセプトメッセージを提示し、関係者と議論する。この背景サーベイの一つに、アクセラレーションプログラムから得られたインサイトがある、という具合です。それで、一定の粒度に仕上がったら、全国のセコムグループに向けてそれぞれの未来観を確認し、フィードバックをもとに再度議論していくという流れで進めました。

eiicon・米澤氏 : テキストだけではなく、絵を描かれるんですね。

セコム・沙魚川氏 : 描きますね。なぜかというと、テキストだけだと想像の範囲が定まらず、解釈が散らかってしまうんですよ。それに、テキストから思い浮かべるイメージは人によって異なります。例えば、「人とテクノロジーの融合」と言っても、人によって思い描く姿はまったく違うと思うんです。

eiicon・米澤氏 : おっしゃる通りだと思います。絵といえば『2040年ビジョン』の資料でも、イラストが多く使われていました。また、セコムのコーポレートカラーとは異なるグラデーションカラーも目を引きました。このデザインには、どのようなメッセージが込められているのでしょうか。

▲沙魚川氏が手書きしたコンセプトアートの一部(左)。それをベースにして最終的にはクリエイターとも協働しながら『2040年ビジョン』のクリエイティブが作られていった。

セコム・沙魚川氏 : グラデーションカラーは、私たちが描く『2040年ビジョン』を象徴するデザインとして採用しています。アクセラレーションプログラムの募集をする際も、「いつも」と「もしも」という言葉を使いましたが、従来のセキュリティの概念は、平時と有事、日常と非日常のような「0か1か」でリスクを評価していたと思います。

しかし実際の日常では、ある異常のレベルが閾値を超えるかどうかという「0か1か」の世界ではなく、そのリスクは絶えず波のように揺らいでいると思うのです。この揺らいでいるリスクを、私たちはビジョンの中で「グラデーションに変化する日々のリスク」と呼んでいます。これも一つの再定義なんですね。そして、『2040年ビジョン』で掲げた「プロアクティブ」とは、変化し続けているグラデーションの状態を把握して、トラブルが起こる前に対処する――そんな世界観を描いています。

eiicon・米澤氏 : それは、具体的にどのようなイメージなのですか。

セコム・沙魚川氏 : 例えば、「裏庭の盛り土が少しずつ崩れ始めていますよ」とお知らせするだけで、将来の大規模な土砂崩れを防げるかもしれないですし、「同じ人が3日連続でインターホンを押していますよ」と変化をお伝えするだけでも、トラブルを未然に防げる可能性があります。そうした日常の「予兆」を把握して可視化し、気づきを提供するだけで回避できるリスクは、世の中にまだまだたくさんあると思っています。

社員一人ひとりを会社の未来に巻き込む――『2040年ビジョン』を自分ゴト化するビジョンサミット

eiicon・米澤氏 : 『2040年ビジョン』に込められたメッセージがよく理解できました。この新しいビジョンを社内に浸透させるために、工夫されていることはありますか。

セコム・沙魚川氏 : 幾つかあるのですが、一つは、全国各地で「セコムグループビジョンサミット」という取り組みを始めています。探索プログラム「セコムオープンラボ」で社外のみなさまと繰り広げているデザインシンキングのワークショップを社内で行うとともに、『2040年ビジョン』に込めた会社の想いを直接伝える場です。

主な対象は、2040年の未来にセコムグループを担う20代、30代の若手社員。地域やグループ会社の垣根を越えてメンバーを集め、北海道と沖縄の社員を博多に集めたり、東京と上信越の社員を高崎で交流させたりするなど、普段は接点のない組み合わせや場所で開催しています。

▲『2040年ビジョン』を浸透させる施策の一環として、Tシャツも数パターン作成。ビジョンサミット参加者に配布している。

eiicon・米澤氏 : それは、かなり盛り上がりそうですね。

セコム・沙魚川氏 : ええ、とても盛り上がりますよ。先週、中国・四国エリアで開催した際には、ある若手社員がこんなことを話してくれました。

「これまでは、自分の仕事は小さな範囲のものだし、会社の経営も予定調和で進んでいくものだと思っていた。でも今回、経営陣が決意を持って新しい挑戦をしていることを知り、自分もその大きな志の一員なのだと誇らしく感じた」と。こんな風に、若手社員の視座が上がっていくのは嬉しいですね。

eiicon・米澤氏 : ビジョンが、社員一人ひとりの「自分ゴト」になっていると感じます。

セコム・沙魚川氏 : そうですね。一人の人間として、このビジョンに込められたメッセージを愛してほしいと思ったのです。サミットを終えて家に帰った社員が、『うちの会社、めちゃくちゃすごいんだよ』と家族に胸を張って話したくなるぐらい、自分の会社や仕事に誇りを持ってほしい。魂が震えるような場にしたいと思いながら企画しています。社員一人ひとりを、会社の未来に巻き込んでいくことも、「未来」セクションを担う私たちの役割です。

eiicon・米澤氏 : 「未来に巻き込んでいく」――その言葉からも、『2040年ビジョン』の実現に向けた強い意志が伝わってきました。最後に、この対談の締めくくりとして、アクセラレーションプログラムの今後の展望をお聞かせください。

セコム・沙魚川氏 : 昨年度実施したアクセラレーションプログラムは、まずグループのなかでセキュリティ事業を対象とした取り組みとして進めました。今後は、グループ全体の事業フィールドも対象にしながら、社外の皆さんとともに「プロアクティブ」の可能性をさらに掘り下げ、新たな価値創出につなげていきたいです。

取材後記

「何かが起きた後に対応する安心」から、兆候を捉えて未然に防ぐ「先回りの安心」へ。セコムグループは『2040年ビジョン』を通じて、「安心」の在り方そのものを再定義し、新たな価値提供への転換を目指している。その未来像を描く過程で、アクセラレーションプログラムを活用し、社外の視点を取り入れながらビジョンの解像度を高めていった。外部との対話を通じて得た気づきをもとに未来像を磨き上げるアプローチは、これからのビジョン策定における一つの形を示しているのではないだろうか。

(編集:眞田幸剛、文:林綾、撮影:加藤武俊)

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