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没入体験が変える「イマーシブ」マーケティング戦略。特徴や事例、導入のポイントを解説

没入体験が変える「イマーシブ」マーケティング戦略。特徴や事例、導入のポイントを解説

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新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーや、それらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。

今回は、マーケティングにおいて急速に存在感を高めている手法「イマーシブ」に焦点を当て、その定義から活用事例、今後の展望までを解説します。

イマーシブとはVRやARなど「没入感のある」手法

「イマーシブ(Immersive)」とは、英語で「没入感のある」「没頭させる」という意味を持ちます。マーケティングの文脈では、消費者がまるでその世界に入り込んだような体験を提供する施策を指します。

VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といったテクノロジーやメタバースを活用するケースが多く、仮想空間内でのイベントやショッピングなどもイマーシブ体験の一例です。ただし、必ずしもデジタル技術に限らず、空間演出や物語構成によっても没入体験は実現できます。イマーシブの本質は、「消費者が五感を使い、ブランドの世界観を深く体験する」ことにあります。

参照記事:市場規模1兆ドルも射程の『メタバース』で何が起こる?すでに始まっている仮想空間での経済活動とは - TOMORUBA (トモルバ) - 事業を活性化するメディア

短時間で強い印象を残す「イマーシブ」に注目が集まる

イマーシブ体験が注目を浴びている背景には、消費者行動の変化とテクノロジーの進化があります。スマートフォンやSNSの普及により、情報は瞬時に取得可能となりましたが、その分、消費者の注意を引くことが難しくなっています。こうした中で、没入感のある体験は、短時間で強い印象を残し、感情的なつながりを生みやすい手法として有効です。

また、5Gや空間コンピューティング、AI生成コンテンツなどの技術進歩により、よりリアルでパーソナライズされた体験の提供が可能になっています。加えて、ポストコロナ時代においてリアルとデジタルを融合した「フィジタル」な顧客体験のニーズが高まり、イマーシブマーケティングはその中核的手法となっています。

参照記事:リアルとオンラインを組み合わせた「フィジタル」とは?マーケティング手法としての特徴やインストアプロモーション、リテールメディアとの違いを解説 - TOMORUBA (トモルバ)

イマーシブマーケティングの特徴

イマーシブマーケティングは、その特徴として、映像や音響、触覚といった複数の感覚要素を組み合わせることで、消費者を日常から切り離された空間へと誘い込みます。ブランドの価値やメッセージは物語として体験に組み込まれ、参加者はまるで物語の登場人物になったかのような感覚を味わえます。

また、体験の中で消費者が能動的に関与できるインタラクティブな仕掛けを備えることが多く、双方向のコミュニケーションが可能です。さらに、こうした没入型体験はリアルイベントやデジタル配信、SNSなど複数のチャネルを通じて展開され、体験の広がりとブランドの接点強化を実現します。

市場規模と成長性

世界のイマーシブ体験市場は、エンターテインメント、観光、リテール、教育など多岐にわたる分野で急速に拡大しています。調査会社のGrand View Research, Inc.の最新レポートによると、世界のイマーシブテクノロジー市場規模は2030年までに1,698億8,000万米ドルに達し、2025年から2030年までのCAGRは27.9%で拡大すると予測されています。

特にエンターテインメント分野ではテーマパークや没入型アート展示、インタラクティブ演劇などが成長を牽引しています。また、地域別では北米とアジア太平洋地域が主要市場であり、中国、日本、韓国などの都市部での大型施設投資や観光資源の強化が市場拡大を後押ししています。さらに、教育や企業研修分野におけるVR/AR活用も加速しており、マーケティング領域での導入も増加中です。

参照ページ:イマーシブテクノロジー市場| 市場規模 シェア 動向分析 予測 2025~2030年まで

参照ページ:没入型エンターテインメント市場規模・シェア分析 - 産業調査レポート - 成長動向

イマーシブの活用事例

・IKEAのARアプリ「IKEA Place」

IKEAはARを活用し、家具を自宅の空間に配置してシミュレーションできるアプリを提供しています。消費者は購入前にサイズ感や色合いを確認でき、オンラインとオフラインの購買体験をシームレスに結びつけています。

参照ページ:Launch of new IKEA Place app

・Robloxの「イマーシブアド」

人気オンラインゲームプラットフォームのRobloxは、ゲーム空間内でブランドが没入型広告を展開できる「イマーシブアド」を導入しました。ユーザーはゲームプレイ中に自然な形でブランド体験に触れることができ、従来のバナー広告や動画広告よりも高いエンゲージメントを実現しています。特にZ世代やα世代にリーチする手段として、ブランドにとって有効なマーケティングチャネルとなっています。

参照ページ:Immersive Ads on Roblox

・日本のテーマパークでの活用

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや東京ディズニーリゾートでは、AR演出やプロジェクションマッピングを使った季節イベントを実施。来場者はキャラクターや物語の世界に没入し、SNS投稿による拡散効果も高まっています。

イマーシブ導入のポイントは世界観を損なわないことと参加者の能動性を引き出すこと

イマーシブマーケティングを成功させるためには、まずブランド体験の一貫性を確保することが重要です。リアルとデジタルの体験を行き来しても、ブランドの世界観が損なわれないように全体設計を行います。

また、参加者の能動性を引き出す仕掛けを組み込み、体験者自身が動き、選択し、物語の一部となれるように設計することで、深い記憶に残る体験を実現できます。さらに、SNSでの拡散を意識し、フォトスポットや共有しやすい要素を巧みに配置することで、体験がオンライン上でも波及し、長期的なブランドの価値向上につながります。

編集後記

イマーシブマーケティングは、単に「目立つ」ための手法ではなく、ブランドと顧客が感情的な絆を築くための有効なアプローチです。今後、AIや空間コンピューティング、メタバースといった技術の進展により、これまでにないレベルの没入体験が実現されるでしょう。企業はこの潮流を単発のイベントではなく、継続的なブランド体験としてどう設計するかが問われます。リアルとバーチャルの境界が薄れる時代において、イマーシブは「記憶に残るブランド」をつくる鍵となるはずです。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

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