
音でブランドを表現するソニックブランディングとは?Netflixの「ダダーン」など、その効果やメリットを解説
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーや、それらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回取り上げるのは「ソニックブランディング(Sonic Branding)」です。視覚や言語だけでなく、“音”を使ってブランドの印象を強化するマーケティング手法として、グローバル企業を中心に導入が進んでいます。デジタル音声コンテンツの拡大や、AIスピーカーなどの普及を背景に、音によるブランディングの重要性は年々高まっています。
ソニックブランディングとはブランドのアイデンティティを「音」で表現する戦略
ソニックブランディングとは、ブランドのアイデンティティを「音」で表現する戦略のことです。具体的には、CMソングやジングル、アプリ起動音、店舗の環境音、AI音声アシスタントの発話音声などが該当します。視覚に頼らないコミュニケーション手段として、ブランド認知を高め、記憶に残る体験を提供することが目的です。
米国の調査によると、人間の感情や記憶は聴覚と強く結びついているとされ、視覚よりも早く脳に届く「音」は、潜在的な印象形成に大きく影響を与えるといわれています。ブランディングにおいても、音のトーンやリズム、言語選択、テンポによって、ブランドの性格や世界観を直感的に伝えることができます。
なぜ今、ソニックブランディングが注目されているのか
最大の要因は、音声コンテンツの急成長です。ポッドキャストや音声SNS、スマートスピーカーなど、視覚に頼らずに情報を受け取るシーンが急増しています。スクリーンレスな環境において、音が果たす役割はますます重要になっており、企業は音による印象設計を無視できなくなってきています。
また、広告スキップやバナー離れが進む中、短時間で認知されるサウンドロゴの価値が再評価されています。SpotifyやYouTubeなどの音声・動画プラットフォームでも、「耳に残る音」はブランド想起を助ける要素として重宝されています。
ソニックブランディングには、いくつかの大きなメリットがあります。まず、短い時間でも効果的にブランドを印象づけることができ、記憶に残りやすいという特性があります。また、視覚に頼らないため、画面を見ていない状態でも音を通じてブランド体験を届けることができます。さらに、テレビやラジオ、アプリ、IoTデバイスなど、さまざまなチャネルで展開しやすく、ブランドの一貫性を保ちながら多様な接点で活用できるのも強みです。
一方で、ソニックブランディングを取り入れる難しさもあります。まず、文化や地域差への配慮が必要です。音の印象は国や文化によって異なるため、グローバル展開しているブランドでは広い地域で受け入れられるものを作成しなければなりません。また、過度な使用による反感も考えられます。国内でも、同じコマーシャルが流れすぎたことで視聴者の反感を買い、内容が差し替えられた事例もあります。
ソニックブランディングの代表的な事例
・Netflix

ストリーミング再生前に流れる「ダダーン」という音は、短く印象的で、視聴者の期待感を高める効果があります。ブランドのアイデンティティを数秒で伝える代表的なサウンドロゴです。
・マクドナルド
マクドナルドのCMで流れるメロディーと「I'm lovin' it」というキャッチコピーの組み合わせは、世界中で統一されたブランド体験を届けています。音と言葉の融合がブランド認知に貢献しています。
・JRの発車メロディ
駅ごとに異なる発車メロディは、利用者の行動を促すと同時に、地域性や安心感といったブランドイメージを形成しています。音が環境設計の一部として機能しています。
・TBS、日テレ、フジテレビのドラマのブランドサウンド
各テレビ局のドラマでは、オープニングやアイキャッチに一貫した音楽や効果音が使われています。これにより、チャンネルをまたいでも番組ブランドを視聴者に想起させる効果が生まれています。
ソニックブランディング導入のポイント
ソニックブランディングを導入する際には、まず自社ブランドの性格や理念を深く理解し、それを音にどう落とし込むかを設計することが重要です。たとえば、親しみやすさを打ち出したいブランドであれば、明るく軽快な音を、信頼感や高級感を訴求したい場合は落ち着いたトーンや余韻のある音が求められます。
また、テレビCMやアプリ、Webサイト、店舗など、さまざまなチャネルで使用されることを想定し、一貫性のある音設計が求められます。音声UXとの統合も視野に入れ、AIスピーカーや音声ナビゲーションなど、対話型のサービスとの親和性も意識すべきでしょう。さらに、オリジナルの音を用いる場合は、著作権の管理や商標登録の手続きも忘れてはなりません。
編集後記
ソニックブランディングは、視覚優位の時代にあって、あえて「耳」に訴える戦略です。とくにデジタル化が進む中、五感を活用したブランド体験の設計は、企業の差別化戦略として重要性を増しています。
今後は、スマートデバイスや自動運転車など、画面を見ずに音声で操作する環境が増えることで、ソニックブランディングの活用領域もさらに広がるでしょう。ブランドは「音の設計図」を持つ時代へと進んでいるのです。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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