IRや大屋根リングなどのレガシー…「アフター万博」がもたらす大阪・関西万博閉幕後の計画と経済効果を解説
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーや、それらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは「アフター万博」です。2025年に開催された大阪・関西万博は、半年間の会期を終えて閉幕しました。世界中の国や企業が参加し、「未来社会の実験場」というコンセプトを掲げた本万博は、来場者に最先端の技術や社会課題への解決策を提示する場として大きな注目を集めました。
しかし、万博の価値は“開催期間中”だけにとどまりません。むしろ、閉幕後にどのようなレガシーが形成され、地域や産業にどのような新たな可能性をもたらすのかが問われています。本稿では、万博跡地である夢洲(ゆめしま)の再開発計画、経済効果、そして大阪・関西がこれから描く都市戦略を整理します。
万博跡地の「夢洲エリア」の再開発が本格化
アフター万博の最大の注目点のひとつは、夢洲の再開発です。夢洲は、大阪港に浮かぶ約390haの人工島で、万博ではその中央部「第2期区域」(約50ha)が会場として使用されました。閉幕後、このエリアは 「夢洲第2期区域マスタープラン」(大阪府・大阪市)に基づき、大規模な再開発へと進みます。
第2期区域のコンセプトは「万博の理念を継ぐ“未来都市区画”」
資料によると、第2期区域は万博の理念を継承したまちづくりを掲げています。中でも特徴的な3つの方針が以下です。
・エンターテイメントシティの創造:世界クラスのレジャー施設や大規模商業、劇場・アリーナなどを導入
・SDGs未来都市の実現:カーボンニュートラル、自然生態系の回復、水と緑あふれる都市空間
・最先端技術の実証・実装:万博で実験された次世代モビリティ、デジタルツイン、健康医療DX などを継続実装
これにより、万博で提示された“未来社会”を、恒常的に運用される都市として実体化していく狙いがあります。
4つの主要ゾーンで構成
マスタープランでは、跡地の土地利用が次の4ゾーンで明確化されています。
1. ゲートウェイゾーン:商業、宿泊、オフィス、交流施設が集合する玄関口
2. グローバルエンターテイメント・レクリエーションゾーン:
-スーパーアンカーゾーン … サーキット、ウォーターパーク、劇場、国際的ホテル
-交流ゾーン … アリーナ、展示・交流施設
3. IR連携ゾーン:第1期区域に建設中のIRと連携したホテル・MICE
4. 大阪ヘルスケアパビリオン跡地活用ゾーン:先端医療・国際医療の拠点
特に、万博の象徴となった「大阪ヘルスケアパビリオン」については、延べ約2,000㎡の一部を残置し、最先端医療・予防医療・研究交流の拠点として継続活用する提案が進んでいる点が特徴的です。
都市の骨格となる“2つの軸”
夢洲の都市計画では、歩行者空間の中心となる2本の動線が設定されています。
・うるおい軸:夢洲駅から大阪湾へ抜ける水と緑のメインストリート
・にぎわい軸:商業・レジャー施設が連なる回遊性の高い歩行者動線
これにより、夢洲全体を「歩いて楽しめる都市」として設計している点も、アフター万博ならではの視点といえます。
参照ページ:夢洲第2期区域マスタープラン Ver.2.0(案)|大阪府・大阪市
参照ページ:夢洲第2期区域マスタープラン Ver.1.0|大阪府・大阪市
IR事業の経済波及効果は年間1兆円超
万博関連の経済効果は、建設投資・会期中の消費に加え、閉幕後の都市開発による長期的な効果が大きいと見込まれています。特にIR事業は高い経済波及効果が出ると試算されていることに加えて、大屋根リングなどのいわゆる「万博レガシー」についても継承され、アフター万博の象徴となる計画です。
IR(統合型リゾート)との連動が巨大インパクト
夢洲第1期区域で整備中のIRは、
・初期投資額:約1兆2,700億円
・年間来訪者数:約2,000万人
・運営による経済波及効果:約1兆1,400億円/年
とされており、夢洲第2期区域の開発と連動することで、湾岸エリア全体が大阪の成長エンジンとして機能する可能性があります。
参照ページ:総合型リゾート大阪IR|大阪市
万博レガシーの継承
アフター万博の夢洲では、単なる跡地再開発ではなく、万博で提示された理念・体験・象徴物を都市計画に組み込む「レガシー継承」が明確に掲げられています。その中核となるのが、大屋根リング/静けさの森/大阪ヘルスケアパビリオン の3つのハードレガシーです。
これらは単なる建物の残置ではなく、万博の価値を長期的に社会へ接続する役割を担っており、以下のように再配置・再利用・再編集される予定です。
①大屋根リング:象徴的建築の「約200メートル」が保存され、都市の新たなモニュメントへ
万博会場のシンボルとして存在感を放った大屋根リング(外径675mの巨大木造建築)は、そのデザイン性と技術力から国内外で大きな注目を集めました。
伝統的な「貫(ぬき)構法」を現代技術で再解釈した構造は、万博の理念「多様でありながら、ひとつ」を象徴する建築物として位置づけられてきました。
現時点の計画では、この大屋根リングの 約200メートル区間を保存 し、跡地である夢洲第2期区域において モニュメントとして再生・活用する方針が固まっています。
これは、当初の複数案(全撤去・部材リユース・部分保存)から比較検討が行われた結果、「万博の象徴性を未来へ残す」という観点が重視された ものです。
参照ページ:大阪万博の大屋根リング200メートルを市営公園化 市が正式提案 - 日本経済新聞
②静けさの森:樹木は“残置”、活用方法は再構成へ
静けさの森は、万博の象徴として約1,500本の樹木を移植してつくられた2.3haの緑地です。最新のマスタープラン Ver.2 では、樹木はすべて残置しつつ、再配置や移設を行い“森を再構成する” 方針が明確になりました。森そのものを固定的に保存するのではなく、夢洲駅前から海側へ伸びる「うるおい軸」などの主要動線や、商業・レジャーゾーンと連続する緑地として再設計する形です。これにより静けさの森は、万博のテーマ「いのち・自然・静寂」を継承しながら、夢洲の未来都市におけるランドスケープの中心素材として活かされていく計画です。
参照ページ:静けさの森アートプロジェクト
③大阪ヘルスケアパビリオン:建物の一部を残置し、国際医療・予防医療の拠点へ
大阪ヘルスケアパビリオンは、万博で医療・健康の未来を提示した大阪府・大阪市の公式パビリオンです。マスタープラン Ver.2 では、延べ約2,000㎡の建物の一部を残置または敷地内で再構築し、恒常施設として活用する方針が示されています。用途としては、国際医療・健康増進・予防医療サービスなど、ヘルスケア分野の拠点機能を継承する方向で検討が進んでいます。さらに周辺にはホテルや商業施設が計画されており、観光・MICE と連動した「医療ツーリズム」「健康産業の集積」の核になる可能性があります。万博での発信を一過性にせず、夢洲の将来産業の柱として育てていく位置づけです。
以下に、「大阪のまちづくりグランドデザイン」を参照した“万博後の未来展望” 約500字セクションをまとめました。
万博後の未来展望:臨海部から始まる「世界で存在感を発揮する拠点」への進化
大阪・関西万博の閉幕後、夢洲は大阪の成長戦略の中核として位置づけられます。大阪府の打ち出すまちづくり戦略「大阪のまちづくりグランドデザイン」では、夢洲・咲洲エリアは“世界で存在感を発揮する拠点エリア”として明確に定義されており、国際観光・国際物流・国際交流・研究開発機能が集積する広域拠点へと進化させる構想が描かれています。
中でも、夢洲は万博とIRを両輪とした国際観光都市として成長が期待され、咲洲の研究機能、舞洲のスポーツ・レクリエーション、大阪港のクルーズ・港湾機能と連携し、臨海部全体を“多核的都市”として再編する方針が示されています。また、鉄道(中央線延伸・北ルート検討)、高速道路ネットワーク、水上交通などの多彩なアクセス強化により、都心部との結びつきが大幅に高まる点も特徴です。
さらに、夢洲はスーパーシティ構想の重点地区でもあり、デジタルツイン、次世代モビリティ、ゼロエミッション、健康データ活用といった先端サービスを社会実装する実験都市としての役割も担います。
万博は終わっても、そこで生まれたインフラ・技術・理念は臨海部全体の価値向上へと波及し、2030年代を視野に大阪を国際競争力のある都市へアップデートしていく基盤となります。
参照ページ:「大阪のまちづくりグランドデザイン」の策定|大阪府
編集後記
万博は単なる一過性のイベントではなく、大阪の都市戦略そのものを加速させる“起点”です。大屋根リングや静けさの森といった象徴的なレガシーの保存・再構成はもちろん、夢洲第2期区域が描く未来像には、技術・観光・医療・環境といった多様な領域が重層的に組み込まれています。とくに「大阪のまちづくりグランドデザイン」に示された臨海部の広域連携は、2030年代の大阪を大きく変える可能性を秘めています。大阪万博は盛況のうちに幕を閉じましたが、アフター万博の成果こそが、真の万博の価値であることを忘れてはいけません。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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