
生成AIの次フェーズ、自律的に行動する「AIエージェント」とは?チャットボットとの違いや事例を解説
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーや、それらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回取り上げるのは「AIエージェント」です。生成AIの進化とともに登場し始めたAIエージェントは、業務効率化や顧客対応の質的向上だけでなく、ビジネスモデルの再構築を促す可能性を持っています。複数のタスクを自律的にこなす存在として、今後の企業活動における中心的な役割を果たすと注目されています。
複数のタスクをまたいで自律的に行動するAIエージェント
AIエージェントとは、人間の指示に従って自律的にタスクを実行し、必要に応じて外部のツールや情報を活用しながら問題を解決する人工知能システムのことです。OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiといった生成AIによるチャットボットが「質問に答える」「翻訳する」「画像を生成する」など、特定の処理を単独で行うのに対し、AIエージェントは目的達成のために一連のプロセスを自ら設計・実行できるのが特徴です。
たとえば、旅行の計画を立てるAIエージェントであれば、ユーザーの希望を聞き取り、宿泊施設や交通手段の情報を収集・比較し、最適なプランを提案し、さらに予約の手続きまで自動で進めることが可能です。このように、複数のタスクをまたいで自律的に行動する点で、ChatGPTのようなAIチャットボットとは異なります。
ChatGPTなどの対話型AIは、ユーザーの入力に応じて即座に返答する“対話”が主目的であり、あくまでユーザー主導で操作するのに対し、AIエージェントは「目標ベース」で動き、必要なアクションを自動的に判断・実行するという点でより“自律的”かつ“能動的”な存在といえます。
LLMの進化や人手不足により注目されるAIエージェント
AIエージェントが注目される背景には、技術進化と社会的ニーズの双方が関係しています。まず、生成AIや大規模言語モデル(LLM)の進化によって、AIが高度な自然言語処理だけでなく、タスクの分解や状況判断までもこなせるようになったことが大きな転機となりました。これにより、AIが単なる「ツール」から、特定の目的をもって行動する「エージェント」へと進化する基盤が整ったのです。
また、少子高齢化や人手不足といった社会課題の深刻化により、業務の効率化や自動化の必要性がこれまで以上に高まっています。特にルーティン業務や繰り返しの多い作業においては、人間が関与せずともAIが自律的に対応することで、生産性の向上やコスト削減が可能になります。
さらに、APIや外部ツールとの連携を前提としたAIエージェントの設計が進み、カスタマーサポート、マーケティング、開発支援など多様な業務分野への実装が現実的になってきました。こうした流れの中で、単なる応答型AIを超えた、実行型のAIエージェントが次世代の生産性革新の鍵として注目を集めているのです。
活用が進む領域とユースケース
すでに日本国内でもAIエージェントの活用が進み始めています。例えば、ダイキン工業と日立製作所による「設備故障診断AIエージェント」は、製造現場において設備の異常を検知した際に、その場でAIが原因と対策を提案するAIエージェントです。90%以上の精度で10秒以内に回答する能力を持ち、熟練技術者に匹敵する知見をナレッジグラフと生成AIを組み合わせて実現しています。工場の生産性向上や人手不足対策として期待が高まっています。
参照記事:ダイキン×日立、AIで“止まらない工場”へ――設備故障診断AIエージェントの試験運用を開始 - TOMORUBA (トモルバ) - 事業を活性化するメディア
また、AIエージェントを開発するスタートアップのエキュメノポリスは、企業の問い合わせ対応や業務支援を担う「会話AIエージェント」を開発し、4.5億円の資金調達を実施しました。実際に小売・流通業界で、問い合わせ対応、在庫確認、キャンペーン案内などを自動化する用途での導入が進んでいます。
参照記事:会話AIエージェント開発のエキュメノポリス、シードラウンドにて総額4.5億円の資金調達を実施 - TOMORUBA (トモルバ)
今後の展望と課題
今後、AIエージェントは単なる業務代行を超えて、経営判断の補佐や新規事業の立案といった戦略的領域にも進出していくと見られています。マルチエージェントの連携によって、より高度なプロジェクトの遂行や部門横断的な業務の効率化が期待されています。
一方で、課題も多く残されています。
・正確性の担保:AIの出力結果が必ずしも正しいとは限らず、ファクトチェック体制が不可欠です。
・責任の所在:AIエージェントが自律的に判断した結果に対する責任を誰が負うのかという法的・倫理的な問題があります。
・セキュリティとプライバシー:機密情報の取り扱いやアクセス権限の制御に細心の注意が必要です。
こうした課題を乗り越えるには、技術的進歩だけでなく、企業文化やガバナンスの整備も求められるでしょう。
編集後記
生成AIの進化とともに誕生したAIエージェントは、もはや単なる「賢いツール」ではありません。自ら考え、連携し、判断して行動するその姿は、人間のチームメイトに限りなく近づいてきています。一方で、その自律性がもたらすリスクや責任の問題にも、私たちは真剣に向き合う必要があります。今後、AIエージェントはビジネスのあらゆるシーンで「共創のパートナー」となる存在になっていくでしょう。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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